※注意:本記事には、『エルミナージュ』シリーズのネタバレが含まれます。それをご了承の上、閲覧をお願いします。
2024年5月24日にSteamで配信された日本語版『エルミナージュORIGINAL ~闇の巫女と神々の指輪~』。本項では同作がどんなゲームであったのかを振り返りつつ、同作が一部から「奇跡」とも称されるようになった、その理由を分析していきたいと思います。
そもそも『エルミナージュ』シリーズとは
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『エルミナージュ』シリーズは『ウィザードリィ』シリーズの日本産スピンオフ『ウィザードリィ エンパイア』の流れを汲む3DダンジョンRPGで、第1作はPS2で2008年3月にスターフィッシュ・エスディから発売されました。
同年12月にはニンテンドーDSに移植され、シリーズ2作目が発売されて以降は第1作は『エルミナージュORIGINAL』と名前を変え、2011年にPSPに移植、2016年にはPC/ニンテンドー3DSに移植されました。
先日(2024年5月24日)Steamで配信された『エルミナージュORIGINAL』の日本語版は、2016年にメビウスからPCパッケージ版として発売された同作をSteamに持ち込んだものとなります。
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本作の原点となるPS2版はロード時間や発売時期の悪さなどの問題などから大した話題にはならなかったのですが、ロード時間の問題が解決されたニンテンドーDS版から本作の魅力に気付いた人が激増し、その完成度の高さは各種掲示板などで奇跡的な作品であると称されることもあるほどでした。以下、その理由を筆者独自の見解を交えながら紹介していきたいと思います。
奇跡の原点その1:『ウィザードリィ』からの大幅な難易度の低下
1981年に発売された『ウィザードリィ』は多くのJRPGのクリエイターに影響を与え、そして日本で移植されたFC版や、日本独自のスピンオフ『外伝』シリーズなど、多種多様な作品が現れました。
が、そういった『ウィザードリィ』派生作の多くに共通していたのは「難易度の高さ」。近年でも『ウィザードリィ』第1作のリメイク版が配信されましたが、多数の難易度調整機能が付いたとはいえ、その難易度の高さは健在で、多くの配慮がなされたJRPGからするときわめてハードルの高い作品であったことは否めません。
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しかしながら、『エルミナージュ』はそこに大幅に手を入れました。チュートリアルとなる最初のダンジョンには危険な敵はほとんど出現せず得られる経験値も多め、少し頑張れば序盤でも買える強力な武器が最初から店に1個置いてある、万が一パーティに死人が出ても拠点の寺院での蘇生は費用も安く、ほぼ確実に成功する……と、今までの『ウィザードリィ』的なものに比べて圧倒的にユーザーフレンドリーでとっつきやすい設計になっているのです。
実のところ「序盤が親切丁寧」というコンセプトはスターフィッシュ・エスディから2003年にPS2で発売された、『エルミナージュ』シリーズの実質的な前身とも言える『ウィザードリィ エンパイア3 覇王の系譜』で既に現れていましたが『エルミナージュ』はさらにユーザーフレンドリーです。ダンジョンのマップは基本的には見放題。そのうえでミニマップを表示するアイテムもチュートリアル中に十分入手できるよう配慮され、ダンジョンでは周囲の様子を常時2D見下ろし的に確認しながら進むことができます。
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しかしながら、本作はただ簡単なだけではありません。最序盤のチュートリアルを終え、多数のダンジョンが解禁される段階になると、次の行き先をある程度自由に決められるようになります。その先の一部には初見殺しの内容や、その時点では非常に強力な敵も含まれており、ときには古いDRPGのような理不尽を感じることもあるでしょう。
とは言え、本作は全滅したりした際のリカバリーは比較的容易で、最初から高レベルダンジョンに潜れる点についてはハイリスクハイリターンな冒険が任意で楽しめるともいえます。本作では敵を眠らせるLv1魔術師呪文「ミサーマ」がかなり敵に効きやすい傾向がありますので、これをうまく駆使すれば格上の敵の撃破も充分に可能です。
奇跡の原点その2:「ハイマスター」による職業性能の特化、パーティ編成のバリエーションの増加
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本作には『ウィザードリィ』シリーズや、それらのフォロワー作品には見られない職業が用意されており、また他作品に登場するような職業でも違った味付けやその仕組みが用意されているのが特徴です。
例えば「盗賊」は戦闘後に現れることのある宝箱の罠を高確率で外すことができ、序盤のパーティに必須の職業……という点は『ウィザードリィ』と変わりませんが、本作では一定のレベルを超えると習得する「ハイマスタースキル」(基本職ではLv26、中級職ではLv32、上級職ではLv36)によって、キャラクターの性質が大きく変化します。
「盗賊」の場合はハイマスタースキルとして「装備解除」「盗む」「物理攻撃力UP」の3つのスキルを習得します。「装備解除」は敵の装備している武器・防具を強制的に外して敵の能力を下げ、「盗む」は文字通り敵の所持品を盗むというスキルです。これらのスキルの習得によって、盗賊には「敵の装備を剥ぎ取り、盗む」という新たな役割が与えられます。一部の敵の装備品には非常に強力な効果を持ったものもあり、「盗賊がハイマスターになるとゲームが一変する」と言われるほどです。本作における職業の詳細な特徴は、次ページに「付記1:独断と偏見だらけのエルミナージュ職業解説」を用意しましたのでそちらをご覧ください。
本作に登場する16職すべてに何らかの長所があり、その中から6人パーティを組み立てるには無数のバリエーションがあります。
例えば古いタイプの『ウィザードリィ』では転職前提の踏み台に近かった戦士は最強の物理攻撃アタッカーという長所があり、クリア後でもその剛腕を存分に振るえますし、盗賊も装備解除・盗むの存在で独自のポジションを確立しています。
また、本作では「転職を1度も経験していないキャラクター」のみが装備できる、強力な通称「イノセント装備」があり、こういった装備もキャラクター育成プランに一役買っています。人によってまさに千差万別なパーティが組める、自由なパーティ編成システムを本作は実現しているといっても過言ではないでしょう。
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さらにパーティ構築の自由度を高めているのが、作成したキャラクターに自作の顔グラフィックを割り振れる「フェイスロード」機能です。
この機能により、今までは文字、あるいは既存の顔グラフィックや職業アイコンだけであった自作のキャラクターたちに、自分のイメージ通りの顔グラフィックを付けることが可能になりました。この機能は2011年発売のPSP版から実装されており、データ改造などに頼らずに独自の顔グラフィックを付けられる機能は当時のコンソール機では珍しく、本作のファンコミュニティでは大いに話題になりました。
この機能を利用して、自作キャラクターたちに自分で描いた顔グラフィックを付ける、または(あくまで自分のプレイ環境の中だけでの楽しみとして)さまざまなアニメやゲームのキャラクターたちの冒険をより細かに想像し、まさしく「自分だけの冒険を楽しむ」ことができるようになったのです。
ゲーム的に言えばまったく有利になる点はない「フェイスロード」ですが、この機能のおかげでユーザーの想像力の翼をより広げることになっている点は間違いないと思います。
奇跡の原点その3:「クリア後が本番」というミームを実践した、クリア後の広大な世界の広がり
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3DダンジョンRPGについては、「クリア後が本番」と言われることがあります。これはDRPGはクリア後のやり込みの比率が高いということを示す、DRPGファン間でよく使われるミームです。このミームに興味がある方は、次々ページの「付記2:「クリア後が本番」というDRPGを取り巻くミームについて」をご覧ください。
そして、『エルミナージュ』シリーズは、この「クリア後が本番」というミームに真面目に立ち向かっています。
※以降、本作のネタバレを含むのでご注意ください※
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クリア後のダンジョンでは、「ちょっと情報量多すぎない?」と思うほどの強敵や、壮大な設定が初めて開示され、いっそ「第二部」と言ってもいいほど。
そこでは本編ラスボスの「アイローク」ですら独自の権力争いを行っている強力な悪魔たちの一体に過ぎず、それ以上の文字通りに「格の違う」敵が数設定されています。
本作でクリアに必要となる「神々の指輪」の製作者として序盤から名前が出てくる六大神であっても例外でありません。クリア後の世界では単なるフレーバーなどではなく、実際に彼らの分身「神影」と対峙することが可能です。その際の彼らのレベルは圧巻の約1000~1500……!
一方で本作ではプレイヤー側もほぼ際限なくレベルを上げることができるので、レベル上げを繰り返せばプレイヤー側もやがては神の(分身の)領域にまでレベルを引き上げることができます。
レベルによって効果が上昇していく「ハイマスタースキル」と合わせ、最初は名もなき冒険者でしかなかったプレイヤーキャラクター側も、強大な悪魔や神と張り合う領域の戦いを繰り広げることになります。こうした壮大な背景設定と途方もないインフレ、すなわち冒険の広がりは、まさしく「クリア後が本番」と呼ぶにふさわしいです。
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今回筆者は改めて1からSteam版をプレイしたのですが、これらの背景設定については実は序盤から想像以上に伏線が張られていて、「ここまで手が込んでいたのか……」と驚かされました。Steam版『エルミナージュORIGINAL』で久しぶりにハルドラ・イールの大地を踏んでみようという方は、こうした伏線の散りばめられ方を探すのも1つの楽しみかと思います。
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かくして、
「既存のDRPGの常識に囚われない、大胆な難易度の引き下げ」
「パーティ編成や冒険の自由度の高さ」
「『クリア後が本番』と呼ぶにふさわしい、クリア後の壮大な冒険の広がり」
の3要素が見事なバランスで調和して、本作は「奇跡」と称されるゲームに仕上がった……というのが筆者の見解です。
もちろん、本作にはクリア前の時点でも膨大な数のダンジョンが用意されているほか、クリア後にはさまざまな強敵との戦闘、そしていわゆる「強くてニューゲーム」もありますし、遊びつくそうと思えばいくらでも時間を費やすことのできるゲームです。
後のシリーズ作品に比べるとレベル4桁のパーティでも苦戦するような超強敵がいない、エキストラスキルなどの要素がない……といった点もありますが、それでも本作はテキストにも癖がなく、遊びやすい1作です。『エルミナージュ』シリーズに足を踏み出す第1歩として、筆者は本作を充分にお勧めします。
スパくんのひとこと
プレイヤーに用意された高い自由度、はるかな高みまで作り込まれた世界観……やはり本作は今遊んでも「奇跡」スパ!
タイトル:エルミナージュORIGINAL ~闇の巫女と神々の指輪~
対応機種:PC(Steam/DMM/パッケージ版)
記事におけるプレイ機種:PC(Steam)
発売日:2024年5月24日
著者プレイ時間:85時間(DS版・PCパッケージ版含め)
サブスク配信有無:無
価格:1,980円(税込)
※製品情報は記事執筆時点のもの