ゲームを含めた様々なコンテンツで“ストーリー”を深く楽しむユーザーが増え、メーカーやパブリッシャーもそれに応じるべく全力でゲームを開発している現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、真に優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。
第5回は『コーヒートーク エピソード2:ハイビスカス&バタフライ』を取り上げます。
※ゲーム本編のネタバレが含まれていますのでご注意ください。
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本作はToge Productionsが開発した『コーヒートーク』の続編で、ストーリーも直接前作から続いています。シアトルの街角で深夜だけひっそりと開くカフェ「コーヒートーク」の店主となり、社会に揉まれる多種多様な種族の男女を一杯のコーヒーでもてなすというちょっとファンタジックなアドベンチャーゲームです。
前作から引き続き、お客さん同士で展開していくお話を聞きながら、彼らが求めるコーヒーをそっと提供する遊びは変わりませんが、新しい登場人物や、持ち物を預かるというフィーチャーが追加されたことで、より物語世界に引き込まれるようになりました。
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『コーヒートーク エピソード2』では、前作以上に「多様性」について考えさせられるシーンが数多く登場しますが、それ以上に筆者は「個人」と「社会」の対立や、その境界があいまいになっているからこそ起きる問題について描いているのではないかと感じました。
それは、新キャラクターであるバンシーにしてオペラ歌手を目指す女性リオナと、インフルエンサーとしてすでに成功を収めている若きサテュロスの男性ルーカスが、物語を牽引しているからでしょう。彼女たちは一日目から登場し、早速このゲームのテーマを決定づけます。
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リオナは自身の歌唱をネットにアップしましたが、それを悲鳴と取られて炎上してしまった過去を持っています。強いショックを受けますが、それでもまだオペラ歌手への夢を捨てきれず、配達の仕事と並行してオーディションを受けている彼女の姿を見て、横で聞いていたルーカスは上から目線にも取れるようなアドバイスをしてしまいます。
業界の裏事情を知っているルーカスの言葉に、軽薄さを覚えてしまったリオナは彼を拒絶して、“抜け道”を通らずに自分の夢を叶える方法を探っていこうと考えます。
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このふたりの見ているものの違いは、面白いシナリオには必ずと言っていいほど盛り込まれているものだと思いました。
リオナはあくまで「自分の夢」や「願い」という個人的な事柄について語っているのに対し、それを解決するためと言いつつも、ルーカスは実際のところ「メディア」や「バズるためのストーリー」という社会的な事柄について喋っています。まあ、これではどんなに有意義な議論が交わされようと、双方が納得することはないでしょうね。
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この「個人」と「社会」の間で悩み苦しむ人々というプロットは、他のお客さんたちにも見られます。
長命な吸血鬼であるハイドは、モデルという仕事に疑問を持ち始めています。彼もまたリオナと似た感覚を持ち、20世紀の頃はひとつのファッションやデザインが長らく人々の注目を浴び、品としても思い出としても長いスパンで愛されていたけれど、SNSの流行で写真を一枚アップしたらものの数秒で次の服に着替えるのが当たり前になってしまったと嘆いています。
友達がSNSにアップしている豪華な結婚式を挙げている写真を見て、自分たちが挙げる結婚式もそうすべきではと思い悩むルアも、わかりやすくSNSの被害者ですね。
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と、そんな具合に「インターネットが諸悪の根源なのである。全人類今すぐスマホを叩き割って窓から投げ捨てましょう」という結論で本稿を〆てもいいのですが(そしてゲームメディアこそSNSに生かされているのではと思わなくもないですが)、流石に本作はそんな単純な話ではありません。
「レイチェル」というネコミミ族アイドルの女の子が登場したあたりで、このゲームはまた一段と面白くなってきます。彼女もまた生き馬の目を抜く業界で生きてきた人間なのですが、前作ですでに父親であるヘンドリーとの確執を解消しているためか、中立の立場からリオナとルーカスに素敵な助言をします。
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彼女のもたらす助言は示唆深く、どう切り取るかによって読み方は変わりますが、筆者が面白いと思ったのは、実際にどうしたら成功とみなされるのかという「経緯」について語っている点です。助言の内容を丸写しするのはネタバレが過ぎるので止めておきますが、自身のスタイルについて話していただけのリオナにとっては、ちょうどいいカンフル剤になったようです。
筆者としては、このリオナ・ルーカス・レイチェルという非常にシンプルな三角形の構図だけで、このゲームのシナリオは成功を収めているのでは? と思いました。
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『コーヒートーク エピソード2』は2023年が舞台であり、登場するキャラクターこそファンタジーですが、扱うテーマはとても現実的です。軽薄な表現は悪なのか、古く美しいものはもう残されていないのか、どの情報を信じて進めばいいのか、どうしてネットは悪意に満ちているのか……。雨宿りのために立ち寄ったカフェで交わされる話にこそ、人生や社会の本質が含まれているのかもしれません。