TVアニメ『天穂のサクナヒメ』が、テレ東系列ほかにて2024年7月6日より放送中です。
2020年に発売された和風アクションRPGを原作とする本作では、豊穣神・サクナヒメを主人公に、とある事件を起こしたことで神々が住む「頂の世」から、人々が住む「麓の世」にある孤島・ヒノエ島へと追放された彼女が、“稲作”や“島の探索”、人々との共同生活を通して、さらには親友・ココロワヒメといった個性豊かなキャラクターたちを巻き込みながら成長していくといった物語が展開されます。
インディーゲームサークル「えーでるわいす」が5年8カ月をかけて開発した原作は、「令和の米騒動」と呼ばれるムーブメントを巻き起こし、累計出荷本数150万本突破の大ヒットを記録しました。TVアニメ版においても農林水産省とコラボを行うなど、キャッチコピーの「米は力だ!」の通り、稲作ひいては“食育”の大切さを広めることにも一役買っています。
そんな本作のキーキャラクターであるサクナヒメ、ココロワヒメへ命を吹き込むのは、原作からの続投となる大空直美さん、衣川里佳さんです。まさに陽と陰といった対照的なキャラクターを、一度原作ゲームで演じきったおふたりは、アニメ化に際してどう彼女らを演じ直したのでしょうか。舞台挨拶に合わせて実施したインタビューの様子をお届けしましょう。
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◆ゲームのアフレコから日が経つも…不思議と当時の役づくりを覚えていた
――まず、ゲーム『天穂のサクナヒメ』から引き継いで、それぞれサクナヒメ役・ココロワヒメ役を演じられることへの感想を教えてください。
大空直美:サクナヒメというキャラクターに対しても、『天穂のサクナヒメ』というゲームに対しても思い入れが深いので、声優として格別な想いがあります。ファンの皆さんのたくさんの声がなければ、アニメ化は実現できないことですし、久しぶりにサクナを演じられることがとっても幸せです。
衣川里佳:ゲームはフルボイスではないので、描かれていなかったシーンを演じられたことで「ココロワヒメってこんなキャラクターなんだ」という新たな発見ができたのが嬉しかったです。ゲームだけだと“陰キャ”な要素が印象的なイメージがありますが、アニメだと“天然”な一面も描かれているんです。
――アニメを通してキャラクターの新たな一面を発見できたとのことですが、改めてそれぞれサクナヒメ・ココロワヒメを、俯瞰で見てどんなキャラクターだと捉えていますか?
大空直美:サクナは“成長”がとても見られるキャラクターです。序盤のサクナはすごくワガママで、「爺、酒!」とお酒を持ってこさせたりと傍若無人なところが目立っていたんですが、それは彼女が苦労のいらない生活しか送ってこなかったからなんです。
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大空直美:そんななかで「頂の世」を追放され、とても大変な“稲作”と初めて向き合うことになって、他人との共同生活をすることにもなって、うまくみんなから助けを得られずにぶつかったりするなかで、豊穣神としてもサクナヒメという個としても成長していきました。
それと私の解釈として、サクナはどんどん“父性”と“母性”を獲得していくキャラクターだと思っています。例えば、育てている稲に対して「かわいいのう、かわいいのう」と声をかけたり、人々に対しても色んな失敗を許せるようになったり、みんなのことを守りたいという気持ちが芽生えていったり、演者としてもゲームのいちプレイヤーとしても彼女の成長をすごく嬉しく見ていました。
――おっしゃる通り、サクナヒメはすごく成長を遂げるキャラクターですよね。そのような彼女をアニメでいちから演じ直すうえで意識されたことはありますか?
大空直美:ゲームの発売日は 2020 年末だったんですが、音声収録はそれよりも前にしていまして、コラボなどを演じる機会を除けば数年ぶりに演じ直す形になるんですけど、サクナに関しては不思議と当時の役作りを鮮明に覚えていました。共演者の皆さんも同じ気持ちだったのか、キャラクターの掛け合いもすごくしっくりきました。なので、特に意識をせずにスムーズに演じ直すことができましたね。
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――では次に衣川さんへ、ココロワヒメというキャラクターをどう捉えているかを教えてください。
衣川里佳:ココロワはすごく“心の葛藤”を抱えているキャラクターです。サクナは「嫌なものは嫌!良いものは良い!」という純粋さがあると思うんですが、彼女は心の内では葛藤と戦っている……自分で自分の足を引っ張っているような娘なんです。
サクナと共依存のような関係だったのが離れることになってしまい、色んなことを経験することでやっと自分というものを見つけられたのかなと思います。彼女も成長を感じられるようなキャラクターですね。
彼女を演じ直すにあたっては、原作からブレてしまいたくないなという気持ちがあったので、改めてゲームをプレイし直したり、当時の音声を聞いたりして変わらないように努めました。
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――そんなサクナヒメとココロワヒメの関係性は、原作ファンにとって注目ポイントだと思います。アニメも二人のシーンから幕を開けましたが、その要素はパワーアップしているのでしょうか?
大空直美:すごくしていると思います!
衣川里佳:ですね(笑)
大空直美:私が「わ!」って思ったのは、第一話の冒頭でサクナヒメが夢から目覚める場面。彼女は稲穂の中に横たわりながら母親の声を聞いているんですが、パッと目覚めたらそれがココロワに切り替わるんです。もしかしたらサクナは、母親とココロワを重ねている部分があるのかなと思いました。
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大空直美:考えてみれば、同じ第一話でも追放されたときに「一緒に来てくれ!」って泣きついたり、自分の部屋に招いたりしているんですよね。ココロワに対しての心の開き方が、より丁寧に描かれている印象を受けました。
両親がいないサクナにとって、世話を焼いたり導いたりしてくれるタマ爺が“育ての親”なのですが、ココロワの“母性”にも頼っている関係性が見て取れると言いましょうか、「親友」と言っているものの、どこか母親と重ねているのではと私は解釈しています。
――それはすごく面白い解釈ですね!
衣川里佳:“母性”は強くなったのかなって、私も演じていて思いますね。例えば、サクナがヒノエ島へ追放されるまでのやり取りについても、原作では状況を見届けるだけだったのに、アニメでは往生際が悪い彼女に対して「本当にそれでいいのでしょうか?」と諭すのがお母さんみたいだなぁと(笑)
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衣川里佳:でも、親友なので心配はしているんです。サクナのことをどこか疎ましく思っているけど大事な存在に思っているのが第一話から描かれていましたね。
大空直美:そうそう。ふたりの関係性について、私たちの中でも解像度が高まるような演出が盛り込まれていましたよね。
衣川里佳:仲がいいからこそ仲たがいしてしまう。その感情移入がよりしやすくなったのかなと。
――確かにフルボイスになったり、細かなシーンも描写が追加されたりしたことで、それぞれの関係性も含めてキャラクターの解像度は高まっていそうですね。個人的には田右衛門があまりに不器用に描かれるので……(笑)
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大空直美&衣川里佳:(笑)
大空直美:肥料のシーンは、本当にひどかったですよね(笑)
◆大空さんらしさが詰まったサクナヒメの声、衣川さんの怪演・ココロワヒメの笑い方
――では趣向を変えまして、個人的にお訊きしたいことをそれぞれにお伺いします。サクナヒメのボイスは大空直美さん節が詰まっていますが、ネット検索のサジェストにもよく出てくる“声に関するファンからの反響”を、どう受け止めているのでしょうか?
大空直美:(笑)。思ったままに叫んでいるだけで、そんなつもりは無かったので私もビックリしています。確かに「嫌じゃー!」って駄々をこねるようなキャラクターを演じさせていただく機会が多いんですが、なかには「キレイな汚い声」と言われることもあって「それってどっち?」なんて思ったり(笑)
でも、すごく嬉しいです!私は自分の声が個性的でないと思いながらデビューしたので。
衣川里佳:えぇ!?そうなの?(笑)
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大空直美:あんまり自分の声の特徴が分かっていなくて。新人の頃のボイスサンプルも、どんな役に向いているのかが分からないから幼い子供から大人のお姉さんまで、マネージャーさんに相談しながら色んなサンプルを作っていたんです。お芝居自体は好きだったんですけどね。なので、私が知らなかった“大空直美の個性”をみんなが見つけてくれたようです。
普段、すごく個性的な声をもっていらっしゃる人たちが周りにいる業界にいるので、そのなかでキラリと光るものを感じていただけたことがすごく嬉しいです。どんどん言ってください!(笑)
――ちなみに、一般的な声優さんとは違う発声をされているようにも見えるのですが、喉への負担は大丈夫なのですか?
大空直美:実は超普通にやっています(笑)。「ここは喉を潰してやってやるぞ~!」というのも無くて、普通に演じているのにみんなが心配してくれるんです(笑)。確かにお腹を膨らませての発声というよりは、喉声に近いかもしれないですね。
だから共演者の方に「大丈夫?喉痛くない?」と声をかけてもらえるんですけど、全然無理をしている感覚がないので「あ、別に大丈夫です!」って答えています(笑)
――それは意外でしたね(笑)。サクナヒメの声の一方で、ココロワヒメの“笑い方”も非常に個性的で、ファンの間では大きな話題になりました。衣川さんはこの個性をどう演じられたのでしょうか?
衣川里佳:原作の収録時から、笑い声で最もリテイクしたんですよ(笑)
台本に「グフフ…」と書いてあったので最初は可愛い感じに演じてみたところ、「可愛さはいらないんです」「褒められ慣れていないからこそ、内から出てしまうキモさを出してください」というように、笑い声に対してのディレクションがすごくアツくて……(笑)
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――内から出てしまうキモさ、ですか(笑)
衣川里佳:そこは見返さなくても、自分自身の内なるキモさを出すだけで自然と演じられましたね。収録は毎回、テスト→本番の順番で録るんですけど、その度ごとに違うキモさを出せたんじゃないかな(笑)
大空直美:確かにバリエーションがありましたね(笑)
衣川里佳:本気で笑っちゃって、台詞が言えなくなってしまうようなこともあり、「あ、ゴメンナサイ!」ってなったこともあるんですけど。
大空直美:急なギャップが面白くて、私もちょっと笑っちゃったんです(笑)
衣川里佳:この笑い声で注目していただいたキャラクターでもありますし、お芝居の新たな扉を開いてくれたのが嬉しかったですね(笑)
――では、アニメでもココロワヒメの笑い声には乞うご期待という感じでしょうか?(笑)
衣川里佳:「お楽しみに!」という感じでしょうかね(笑)
大空直美:ビックリしちゃったのが第一話から出ちゃってたよね。
衣川里佳:そうそう(笑)。今後はどんな感じに出てくるのかはどうぞご期待ください。
――少し話は戻るのですが、アニメでは共演者も含めてスムーズにキャラクターを演じ直せたとおっしゃられていましたが、アフレコの雰囲気はいかがでしたか?
衣川里佳:和気あいあいとしていましたね。当時はコロナ禍だったこともあって、4~5人ずつの少人数に分かれての収録だったんですが、チェック待ちの時にずっとしゃべっていました。どんな話をしていたかまでは覚えていないんですが(笑)
大空直美:常に和やかでしたね~。
◆「これから母親になる」という分岐点のなかで臨んだアフレコ
――今回のアニメと以前の原作ゲームで、演技のポイントなど変化したものはありますか?
衣川里佳:私は先ほど、変えないようにしていたとお話ししていた通りなのですが、敢えて変えたこと……あったかなぁ?変えないようにしていたのがポイントですかね。
大空直美:私も変わっていないつもりなんですけど、ゲームのアフレコから数年の時が経ったことで取り巻く環境が変わりまして、私のお腹の中に赤ちゃんがいる状態でアニメのアフレコに臨んだんです。
サクナの成長のキーに“母性”や“父性”があるとお話ししましたが、私自身も「これから母親になるぞ」という分岐点に立っていたので、もしかしたら自分のそういう側面が何か演技に影響を与えているかもしれません。
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――ありがとうございます。それでは最後にゲームから『天穂のサクナヒメ』を応援しているファン、アニメから本作に触れる方々に向けてメッセージをお願いします。
大空直美:ここまで読んでくださってありがとうございます。原作をプレイした方は、アニメで稲作パートをどのように表現しているのか気になっている方も多いと思うんですが、制作を手掛けるP.A.WORKSさん(の代表・堀川憲司氏)が兼業農家ということもあって、本当に描写が丁寧なんですよ。鍬で耕した後の土のホカホカした感じとか、田のぬかるんだ感じとか、ゲームでも操作が難しかった田植えの描写とか、とてもリアリティのあるものになっているので、そこはご安心ください(笑)
私も完成した映像を見ましたが、田んぼの感触を感じるくらいの内容になっていましたので、きっとたくさんの方にその描写を楽しんでいただけるだろうと思いますし、作品を初めて触れる方にとってもストーリーがすごく面白いはずです。サクナやココロワだけではなくて、人々にも一癖も二癖もあるキャラクターが揃っているので、お互いにぶつかり合いながら成長していくみんなを見守っていただけたら嬉しいです。
衣川里佳:やっぱりアニメは表情が豊かなのが一番の見どころです。ゲームでは動きはたくさんあれど、表情はそこまで細かく描かれていないので、アニメでは「このキャラクターってこんなに大きく口を開けて笑うんだ」という発見が新たにあるかと思います。喜怒哀楽がハッキリしているので、とても見やすくなっているのかなと。
それに加えて、稲作の勉強にもなる作品なのでご家族などでのご視聴がオススメです。本当にストーリーも素晴らしいので、大人にもいいんですけど、子供にこの作品を通して学んでもらって、実際にやってみたいと思ったら「バケツ稲」にもチャレンジしてもらって。みんなで一緒に発展していきたいですね。
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大空直美:あ、一言言いたい!
衣川里佳:お、なんだなんだ?
大空直美:お米が美味しく食べられるようになります!
――一番大切なことですね(笑)。「米は力だ!」ということで!
衣川里佳:ひと粒ひと粒を残さなくなりますよね(笑)
大空直美:TVアニメ『天穂のサクナヒメ』を見て、ぜひ美味しくお米を食べてください!
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2024年7月6日より、テレ東系列ほかで放送中のTVアニメ『天穂のサクナヒメ』。豊穣を司るサクナヒメ、車輪と発明を司るココロワヒメといった神々をはじめ、個性豊かなキャラクターたちと織りなす成長譚をどうぞお見逃しなく。
公式サイト:https://sakuna-anime.com/
©えーでるわいす/「天穂のサクナヒメ」製作委員会
<取材・執筆:矢尾新之介/撮影:小原聡太>