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アメリカ大統領暗殺。これはアメリカ一国のみならず、世界中を揺るがす大事件です。
先日、前アメリカ大統領で今回の大統領選挙にも出馬するドナルド・トランプ氏が狙撃されるという大事件が発生しました。その際に注目されたのは、トランプ氏を護衛する「シークレットサービス」の存在です。トランプ氏は大統領経験者のため、シークレットサービスの護衛をつける資格があります。
このシークレットサービスは、まさに体を張って大統領を守るのが仕事。そのためなら、大統領を押し倒したり強制的に地面に伏せさせることもします。今回は事件から大きな話題になっているゲーム『Mr.President!』をプレイしながら、「護衛から見るアメリカ史」について解説していきたいと思います。
大統領選挙候補者を狙撃から守るゲーム
さて、本作は2016年配信の作品です。主人公は常人離れしたジャンプができたり、無茶苦茶なラグドールでぶっ飛ぶボディーガード。大統領選挙に出馬する「ランプ氏」を、狙撃手の魔の手から守り通すのが彼の任務です。
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銃弾がランプ氏の体に当たらないようにすればステージクリアとなります。そのためにはランプ氏を蹴飛ばしたり、体当たりしたり、吹っ飛ばしたりしても構わないというハチャメチャなルールです。これが非常にシビアでもあり、グニャグニャのゴム人間のボディーガードはどこに飛んでいくか分かりません。
そうしたこともあるため、このゲームはつい先日までは「バカゲー」と見なされてきました。
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しかし、大統領暗殺を阻止するためにシークレットサービスが大統領を押し倒してでも護衛するという点だけは、まさに現実だったのです。
警護中に命を落としたエージェントも
シークレットサービスが創設されたのは1865年。財務省傘下の国内諜報組織として、主に偽造通貨の捜査を担う役割が与えられていました。
この1865年は、エイブラハム・リンカーン大統領が暗殺された年。そうしたことを二度と起こさないためにシークレットサービスが創設された……というわけでは全くない点に注目です。シークレットサービスが大統領護衛職としての地位を確立したきっかけは、1901年のウィリアム・マッキンリー大統領暗殺事件でした。
そこから現代にかけて、アメリカでは大統領が暗殺もしくは暗殺されかける事件が何度か発生しています。最も有名な事件は1963年の「ダラス事件」で、これは当時のジョン・F・ケネディ大統領がオープンカーに乗っている最中に遠距離から狙撃されたというものですが、「シークレットサービスが文字通り命がけで大統領を守った」という点では1950年のハリー・S・トルーマン暗殺未遂事件を忘れてはいけません。
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ブレアハウス(大統領迎賓館)に滞在していたトルーマン大統領を守りつつ、致命傷を負いながらも犯人を射殺したレスリー・コッフェルトは「大統領の襲撃を阻止して死亡した現在唯一のエージェント」です。そしてこの事件の結末からも分かる通り、シークレットサービスは犯人に対する反撃が認められています。先日のトランプ氏暗殺未遂事件でも、シークレットサービスの狙撃犯が即座に応戦しました。
1981年発生のロナルド・レーガン大統領暗殺未遂事件は、その瞬間にシークレットサービスがどう動いたのか、明確な映像が残った事件でもあります。
エージェントがレーガン大統領を、容赦なく車の方向へ押し込んでいることが確認できます。なお、この時のレーガン大統領は胸を撃たれた状態で、銃弾は心臓をかすめていました。ホワイトハウス報道官のジェイムズ・ブレイディは頭部に被弾し、その後は車椅子生活を余儀なくされています。
このように、アメリカ大統領(現職・元職含む)とそれを護衛するシークレットサービスは、常に襲撃と隣り合わせの日々を送っています。
シークレットサービスは「過酷な職業」
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アメリカは、日本とは違って極めて簡単に銃が手に入る国。今回のトランプ氏暗殺未遂事件でも、数百m先の目標を撃ち抜ける自動小銃が使用されました。もちろん、拳銃を隠し持って大統領に接近し、十分な距離まで迫ったら乱射する……というケースも考慮しなければなりません。
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だからこそ、「厳格な銃規制を導入しよう」という意見もあります。上述のブレイディ報道官は、その後の人生を効果的な銃規制法案の成立に費やしました。1994年施行の銃規制法犯は「ブレイディ法」と名付けられています。ただし、このブレイディ法は現在は失効しています。
銃の国アメリカのエージェントは肉体的疲労が極めて激しいと言われていますが、背景を見ればそれも納得。まさに『Mr.President!』の主人公のような俊敏さと突進力、驚異的な身体能力を求められる仕事と言えます。