2024年8月3日午前4時開催の「THQ Nordicデジタルショーケース2024」にて、新作アクションRPG『Titan Quest II』の最新情報が発表されます。今回は、ハック&スラッシュならではのゲーム体験を構築した前作『Titan Quest』の世界設定をギリシャ神話を参照しながら解説していきます。
『Titan Quest』とは
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『Titan Quest』は古代ギリシャと神話が交錯する世界を舞台に、斜め見下ろし視点で迫ってくる無数の敵を倒しつつ、武器やアイテムを拾ってキャラクターを強化していく、『ディアブロ』に準じたいわゆる「ハクスラ」を代表する作品のひとつです。
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物語が進むとエジプトや東方など、ギリシャ以外の地域も冒険することができます。オリジナルは2006年、拡張版ではさらに北方ヴァイキングの世界も加わります。スマートフォンアプリに移植されているほか、10周年記念版の「Anniversary Edition」では新たに3本のDLCが追加されました。2024年3月にはコントローラー対応のPS4版が国内で配信され、日本語に対応しています。また、通常版においてはPS Storeで60%オフ(1,584円)のセールも開催中なので、プレイするなら今が最適なタイミングでしょう。
ギリシャ神話の基礎知識「ティタン神族」と「オリュンポス十二神」
■ゼウス
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本作はギリシャ神話をベースにしているということで、まずは“最高神”として知られるゼウスについて見ていきましょう。名前を知っている方も多いであろうゼウスですが、天地創造の神ではありません。
世界の始まりに原初神カオスから生まれたのは大地の母神ガイア。ガイアと天空神ウラヌスの子孫達を「ティタン神族」と呼びます。狭義の場合はその中でも特定の12柱の神々を指します。
ガイアが産む原初の神々の中には、ヘカトンケイルやキュクロプスなどの異形の存在がおり、ウラヌスはそれらの「怪物」たちを地底の冥界「タルタロス」へと閉じ込めてしまいます。ガイアはウラヌスの行為に激怒し、ウラヌスを追放して息子クロノスに座を譲りますが、今度はクロノス自身も追放されることを恐れ、子供達を自らの腹に呑み込む暴挙に出ました。この場面を描いているのが、フランシスコ・デ・ゴヤ「我が子を喰らうサトゥルヌス」です(クロノスはローマ神話のサトゥルヌスと同一視される)。
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ゼウスもクロノスの子供でしたが、母レアによってクレタ島に逃がされていました。成長したゼウスはガイアの手助けを受けて、クロノスが呑み込んだ兄弟達を吐き出させることに成功、主神の座を我が物とします。そこからクロノスは預言を覆そうとして、ゼウスの兄弟達と10年にわたる争いが始まりました。天変地異を引き起こしたこの戦いを「ティタノマキナ」と言います。
ティタノマキナに勝利したゼウス達は独自の力を強めていきました。すると今度はガイアから脅威と見做され、ガイアが生み出した巨人族「ギガース(ギガンテス)」と再び戦いが始まります。こちらは「ギガントマキア」といい、ここに参加したのがゼウスと人間の間に生まれたヘラクレスです。
ギガースを以てしても勝てないガイアはタルタロス(場所でもあり神でもある)と交わり、火山のように火を噴く巨大な怪物テュポーンを産み出しました。ゼウス達は怪物を退け、2度の戦いに勝利するとオリュンポス山に拠点を構えました。こうしてギリシャ神話の主神となる「オリュンポス十二神」が定まり、人間に崇められるオリュンポス神族とティタン神族の敵対関係は決定的なものとなりました。
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「TITAN」とはゼウス達に封じられた古の神々で、主神の座を奪ったオリュンポスの神々から覇権を取り戻そうとしています。ゲームをプレイする上ではここだけ押さえておけば問題ありません。
ギリシャ神話の神々を「Immortal(死なぬ者)」、人間を「Mortal(死ぬ者)」と呼びますが、これはギリシャの神が強い力を備えているからと言って、無条件に素晴らしい存在ではなないということを表しています。神々であっても人間と同じように愛し、嫉妬し、怒り、時に残酷になって人間を滅ぼそうとする。ギリシャ人にとってはありがたくもあり迷惑でもあり、全幅の帰依で信仰するのではなく、お地蔵さんや神社にお参りするような感覚に近いものでした。神話のエピソードによって戦争の行く末を左右するほど、彼らにとって人間的な身近な存在だったと言えるでしょう。
■ケンタウルス
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上半身は人間、下半身は馬の姿をした、怪物と言うより種族のケンタウルス。粗野な気質で、一説には内陸部にいた頃のギリシャ人が騎馬民族を恐れたことに由来するとも言われています。弓が得意で、『Titan Quest』のみならず多くのファンタジー作品では主人公に協力する立場で登場します。
ケンタウルスの中にはクロノスの子として生まれた特別な存在「ケイロン」がいて、医術に通じた賢者だとされています。アスクレピオスやアキレスを指導するなど、若者を育てる役が多いですが、ヘラクレスと他のケンタウルスの乱闘に巻き込まれて、ヘラクレスの毒矢に当たってしまいました。苦しみが永遠に続くよりは……と願ったケイロンは不死の力を捨て、天上のケンタウルス座になりました。
■サテュロス
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ギリシャの世界観はあらゆる事象に精霊が宿る、いわゆる日本の「八百万の神」に近い考え方を持っていました。その中でも汎用的な精霊、解釈によっては最下級の神に分類されるのが、女性的な「ニンフ」と男性的な「サテュロス」です。ニンフは神々に侍っていたり、人間の男と恋をする役どころで神話に多く登場します。一方サテュロスは山羊または馬の半人半獣の姿で現れ、酒の神ディオニュソス(バッカスと同一視)の眷属など、人間を惑わし騒ぎを起こす厄介ないたずら精霊として多く描かれます。なかでも「シレノス」という老齢のサテュロスはディオニュソスの養父でもあり、黄金の手で知られるミダス王のエピソードにも登場します。
キリスト教が支配する時代になると、サテュロスの姿は人間を堕落させる「悪魔」に転換させられてしまいます。宗教の変わり目にこうしたことが起こるのは自然で、オリュンポス十二神の前のティタン神族も、かつての各地方の土着神や滅ぼされた国で信仰されていた神だったとも言われています。『Titan Quest』でも最初に相手にする最弱の敵になっていて、ちょっと気の毒にも思えてしまいますね。
■ハルピュイア
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ハルピュイアはタウマースとエレクトラの間に生まれた、女性と鳥の姿が混ざった怪物。本来なられっきとした神に連なる一族なのですが、容姿と行いの醜さから、ゼウスの手下として人間を襲う怪物として描かれます。常に集団で人間の物資を略奪にかかり、飛び立つときには汚物をまき散らすというなんとも厄介な性分。トラキアのピネウスは予言の力を使ったためにゼウスに目をつけられ、食事の度にハルピュイア達に食べ物を持ち去られるという地味な嫌がらせを受けました。
両親を同じくする虹の女神イリスはハルピュイアの姉にあたり、同様に羽を持つ女性でありながら、美しい姿の使者として神話の重要な場面に時折登場します。同じ親から生まれたにも関わらず、後者は美しい神として、前者は醜い怪物として扱われる。とはいえ、ティタン神族の例を見るように、異形の怪物も超常の神々も、本質的には同じ「不死のもの」なので、人間の都合による分類という面も多分にあるでしょう。
■セイレーン
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セイレーンは、ハーピーと同じく鳥と女性が混ざった姿の怪物。ですが親は別で、河川の神アケロオスと芸術の神ムーサ(のうちの誰か)の子。海の島や川の中の岩場から、不思議な唄で船乗りを惑わせます。声を聞いた人間は彼女らの元に誘い込まれ、無残にも餌食になる運命。これを上手く切り抜けたことで2人の英雄が名を残しました。
1人目は吟遊詩人のオルフェウス。なんとセイレーンに真っ向から歌の勝負を挑み、セイレーンの声を打ち消して勝ってしまいました。負けたセイレーンは自ら身を投げたと言います。
もう一人のオデュッセウスは、船員全員に耳栓を配り、自らを船のマストにくくりつけると、誘惑に身悶えしながらもセイレーンの歌を堪能しました。オデュッセウスの策は芸術鑑賞のあり方においてよく引き合いに出されます。
■グリフォン
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グリフォンは、ライオンと大鷲が混ざった空を飛ぶ怪物。神の騎乗生物として多くの工芸絵画に描かれます。グリフォンの読みは後世のラテン系、ゲルマン系からで、大本のギリシャ語では「グリュプス」と呼びます。実はギリシャ神話本体ではほとんど記述がなく、「北方のリパイオン山脈に住み、アリマスポイ人から奪った黄金を隠し溜め込んでいる」くらいしかありません。表現の起源はメソポタミアにまで遡り、地中海から近東まで似たような生き物の像が見つかっています。そのイメージは欧州の紋章に連なり、現在いくつかの町のシンボルとして使われています。
■Ichthians
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この魚人は本作オリジナルの怪物で、実際のギリシャ神話には一切登場しないのでご注意。その元であるイクトゥス(魚)は古代ローマでキリスト教が迫害されたときに、隠れ信者同士のキリストを表す暗号として使われました。イエスの使徒も漁師が多く、ギリシャ語で「イエス/キリスト/神の/子/救世主」(ΙΗΣΟΥΣ ΧΡΙΣΤΟΣ ΘΕΟΥ ΥΙΟΣ ΣΩΤΗΡ)を略すとイクトゥス(ΙΧΘΥΣ)になるのです。
■ネメシス
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ネメシスは人間の驕りに対して罰を与える「憤りの神」。ただし、ネメシスが神話として形成されたのはかなり後の方になってからで、ギリシャ神話を扱う本でも掲載されていないことがよくあります。ゼウスの密通相手レダのポジションに置かれて、ヘレネの母にされている場合も。
ギリシャにおいて神に対する不遜な行為、驕りで傲慢になることを「ヒュブリス」と呼び、これが神の怒りを呼んで大変な目に遭うというのが、人間と神の関わるエピソードの定番です。例えば織物が上手いアラクネは女神アテネの不興を買い、蜘蛛に変えられてしまったというのも「ヒュブリス」によるものです。とはいえ、アラクネが大分煽った上での話なので宜なるかな。
ネメシスのエピソードで最も有名なのは「ナルシズム」の語源になったナルキッソスのエピソードでしょう。森の妖精エコーはナルキッソスの美貌に惚れて想いを寄せますが、彼自身は自分のことしか興味がなく、エコーのことを完全に無視し続けました。回向は悲しみで身をやつし、森の中に「こだま」する声だけの存在になってしまいます。これを知ったネメシスはナルキッソスを泉の畔へ呼び出しました。するとナルキッソスは水をのぞき込み、絶世の「美青年」を見いだしました。すると彼は「美青年」から全く目を離せなくなり、いつまでも泉を除き続けます。やがて彼はそのまま「水仙(ナルシス)」に姿を変え、水のそばで咲き続けるようになりました。
このように、ネメシスは道徳的教訓を表す神として信じられました。多くの作品でラスボス的存在として登場し、『Titan Quest II』でもメインヴィランとしてギリシャ世界への進出を試みます。それに至った人間はどんな「ヒュブリス」を犯したのか?というのも気になるところですね。
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『Titan Quest II』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売予定。リリースはまだ先になりますが、前述の『Titan Quest』スマートフォン版、現世代移植版もスタンダードなハクスラとしてしっかり遊べるので、続編のリリースまでに予習しておいても損はありません。古代ギリシャの世界で思う存分冒険しましょう!
『Titan Quest II』国内向け公式サイト