7月19日から21日にかけて、京都・みやこめっせにて「BitSummit Drift」が開催されました。本イベントには「墓場文庫」と「集英社ゲームズ」がタッグを組んで手がける『都市伝説解体センター』も出展されており、大勢のインディーゲームファンが試遊に並びました。
『都市伝説解体センター』はその名の通り、“都市伝説”をモチーフとし、噂話から起こる事件を追求して“解体”していくミステリーアドベンチャー。試遊での前評判やそのビジュアルから、強く注目されているタイトルです。
Game*Sparkは、本作の開発に携わる「墓場文庫」のハフハフ・おでーん氏とプロデューサーの集英社ゲームズ・林真理氏にインタビューを実施。「都市伝説を解体する」というストーリー構成や、「福来あざみ」「廻屋渉」といった魅力的なキャラクターがどのように生まれたか訊きました。
◆個性的なキャラクターはどうやって生まれたか……集英社ゲームズならではの「アドバイス」
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――まずは自己紹介をお願いします。
ハフハフ・おでーん氏(以降、「おでーん」):「墓場文庫」所属のハフハフ・おでーんです。開発ではグラフィックを担当しています。
林真理氏(以降、「林」):集英社ゲームズの林真理です。今回『都市伝説解体センター』のプロデューサーを担当しています。
――集英社ゲームズが担当するのはパブリッシング業務のみではないのですね。『都市伝説解体センター』においては、墓場文庫さんとタッグを組んで作っているという。
林:そうですね。企画の初期段階から開発にも関わっています。元々は墓場文庫さんが前作『和階堂真の事件簿』を作っていた際に、集英社ゲームズから賞をお渡しさせて頂いたことがきっかけです。その時に「ぜひ一緒に何かやりましょう!」と話し、企画の段階から一緒に動いて生まれたのが『都市伝説解体センター』です。
――『都市伝説解体センター』の活動はまさに「都市伝説を“解体”すること」ですが、この“解体”という行為が意味するところについてお聞かせください。
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おでーん:『都市伝説解体センター』では「都市伝説の正体はこれだ!」と“都市伝説を分析”するのではなくて、“都市伝説がもとになって起きた事件・困り事”を「都市伝説解体センター」の面々が調査・特定していきます。事件の謎をひとつずつ解体していって、一体どういうことが起きたのかを調べるまでが、一連の流れですね。
――センター長の「廻屋渉」が見つけてきた怪しい事件を、主人公である「福来あざみ」が調べて“どんな都市伝説か”特定していくわけですね。
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林:そうですね。プレイアブルの序盤で出てきたと思いますが、主人公のあざみちゃんが廻屋に巻き込まれる形で「都市伝説解体センター」で働くことになります。そして「都市伝説解体センター」のセンター長・廻屋のところに「調査してほしい」ときた案件を、車椅子の彼に変わってあざみちゃんが調べはじめる……そんな中で、都市伝説に関係ある事件をSNSや現場で調査するうちに、主人公たちや事件関係者の物語が展開していきます。あくまでも『都市伝説解体センター』のストーリーとなるので、「世間一般にある都市伝説の正体はこれだ!」と語るわけではありません。
――『都市伝説解体センター』では「廻屋渉」を始めとしたキャラクターたちが非常に魅力的ですが、彼らはどのように生まれたのでしょうか?
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おでーん:ミステリー作品には「安楽椅子探偵」というジャンルがあるんですよ。安楽椅子に座りながら事件を全部解決する、そういうジャンルを僕たちもやりたくて、「廻屋渉」のような車椅子に座った名探偵が出てくる話を作りたいと思っていました。
そこが起点ですが、今回は元ジャンプ編集部出身の集英社ゲームズ社員にも協力してもらい、キャラクターの作り方や見せ方、「ストーリーの中でそのキャラをどう見せていくのか」という点までもアドバイスをいただきながら作りあげていきました。
林:彼には開発途中のゲームをプレイしてもらい、アドバイスをお願いしたら「“漫画の第1話”に当たるのだったら、こういうところはもっと丁寧に説明した方がいいんじゃない?」といった助言をもらえましたね。
僕自身もゲーム畑の人間ですから、漫画編集者出身の方とは集英社ゲームズに来てから初めて会いました。ゲーム業界にはない知識やノウハウをお借りしながら、『都市伝説解体センター』の話やキャラクターを育てていきました。だから、「最初から今のキャラクターだった」というよりかは、徐々にキャラクターとして補強していく流れで現在の形に辿り着いたという感覚ですね。
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――都市伝説を題材にしたミステリーADVは過去にもありましたが、どちらかと言うとディープなゲーマー向けに感じました。しかし『都市伝説解体センター』で受けた印象は真逆で、今までミステリーADVを遊んでいなかった方にも刺さると感じます。ライトゲーマーに向けて、どのようなことを意識されていましたか?
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林:『都市伝説解体センター』を作り始めたときに、漫画連載だったり毎週放送のあるドラマみたいなイメージで、『都市伝説解体センター』という世界そのものを愛してもらったら面白いという話をしてたので、 シンプルに「次の話はどうなるんだろう!」と感じられる“敷居の低さ”を意識していました。
墓場文庫には“普段ゲームを遊ばない人にもプレイ”というスタンスがあるので、頑張れば誰でもエンディングまで行ける作り方をしていますし、「普段ゲームを遊ばない人」とか「もうゲームから離れちゃってる人」も、 アニメ・ドラマ・漫画を楽しむ流れで、ちょっと『都市伝説解体センター』も遊んでみようかなと軽い気持ちで手に取ってもらいたいと考えていますね。
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ハードなゲーマーというよりはミステリー好きとか、 ビジュアルが好きだとかそういう方がターゲットと言えます。ドット絵と言っても、スーファミの頃のドット絵というよりは、どちらかというと最近のミュージックビデオに出てくるようなものに近いアニメーションを狙って取り入れています。
――今現在での『都市伝説解体センター』の反響はどれくらいでしょうか。
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林:反響としては、まずSteamのウィッシュリストはかなりいい数字です。これはすごくいい反応かなと思っています。あと、SNSなどを見ていると、「廻屋渉」のファンアートがすごく盛り上がり始めているので、こういうところでもすごく嬉しい反応を頂いています。
近しいところでは、業界関係者に「『都市伝説解体センター』、いいね!」って言ってもらえるようになってきました。今回の「BitSummit Drift」でもそうですが「あれを手がけてるのは誰なの?」と聞かれて「俺がやってる!」と答えられるのが、ちょっとだけ鼻が高い! お客さんに限らず業界の人にも注目してもらえてるっていうのは今回、肌で感じましたね。
――『都市伝説解体センター』のキャラや、IP自体に愛着を感じるプレイヤーもたくさんいると思います。ADVなので難しいかもしれませんが、2周目での変化要素だったりとか、『都市伝説解体センター』の世界にもっと触れられる展開などは今のところ考えられてますか。
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林:残念ながら2周目でストーリーが変わるみたいなことはありませんが、個人的には墓場文庫さんとはこの先も一緒にやっていきたいなとすごく思っています。それが『都市伝説解体センター』続編になるかはわからないのですが、多くの人にキャラクターたちを愛してもらえるようになれば、横展開で色んなことが行える環境です。
もちろんゲームがヒットしてお客さんが喜んでくれるということが大前提にありますが、そうなればプロデューサーとして色んな展開を行っていきたいなと願っています。
◆広く深い「都市伝説」をテーマにしたストーリー、思わず目を奪われるグラフィックはどうやって生まれたか
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――『都市伝説解体センター』で取り扱う“都市伝説”というテーマは伝統的な知識と新しい知識、その両方が必要だと思われます。プレイ中にもテキストで柳田国男、折口信夫から南方熊楠といった名前まで出てきていましたが、都市伝説界隈などで影響を受けた、あるいは「知るにはこれがおすすめ」という方はいらっしゃいますか?
おでーん:そうですね……都市伝説界隈といいますか、僕は結構、今の怪談界隈が好きでして。 最近だと吉田悠軌さん(怪談師・オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長)などがすごく好きですね。最近の実話怪談界隈で言うと、お笑い芸人の松原タニシさんという方が「事故物件住みます芸人」として活躍されているというのが時流にもあって、そういうものが映画、書籍になったりとか、YouTubeだったりで“波及していく”というところがすごく面白いですね。
――最近って、また怪談が盛り上がってるような風潮を感じますよね。
おでーん:そうですね! そんな気がします。
林: もちろん、『都市伝説解体センター』は怪談ブームの流れではなくて、ミステリーの流れで作りました。「墓場文庫」はミステリーをとても好きな人たちが集まってるチームでもあるので、「ミステリーをやろう!」っていう考えがまずあって、そのジャンルを取り扱う中でも分かりやすいのは「刑事モノ」です。しかしその中で、「ここは普通じゃないモノで進めよう」と考え始めたときに、おでーんさんから“都市伝説”というアイディアが出てきました。
――本作にはSNSを調べるフェーズが登場しますが、SNS社会での都市伝説という要素について聞かせてください。
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おでーん:「都市伝説」っていうものを定義するときに、私は“人の噂話である”と考えました。噂はどこで生まれるのかというと現在ではSNSがメインで、やっぱりどう考えても切り離せない要素ですので「都市伝説の足取りを追うためにはまずSNSで調査していく」ことになります。SNSは現実と都市伝説を繋ぐための重要なファクターです。
――「都市伝説」という概念は幅広く、社会的な事象もその範疇ですが……そのあたりに関して、本作はどう取り扱っているのでしょうか。例えば、実在の出来事をモチーフにした都市伝説など。
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林:現在で何か活動されてる方たちに問題が出るようなことは、このゲームの中にはありません。なので、怪異寄りの都市伝説が主体となるでしょうね。
おでーん:都市伝説って、やっぱりジャンル自体が広すぎて、怪異に神話、UFOもあれば政治的陰謀論もある。僕は全部好きなんですけど、『都市伝説解体センター』のストーリーに落とし込むには落とし込みづらいモノも多く、「UMA(未確認動物)とか出したいけど出しづらいよね」という葛藤もありました。その中で出来る限りなるべくバラエティに富んだもの、そして海外の方でも分かるものを意識しました。「モケーレ・ムベンベ」とかも出したかったんですけどね!
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林:今回使った都市伝説は、海外で広く知られている、本当に100年ぐらい前からあるようなものと、日本のネットミームから生まれた日本独自の都市伝説をチョイスして散りばめました。
――UMAが出しづらいというのは、遭遇したときに謎というより物理的な問題になってしまうからということですか?
おでーん:いえ、そういうことでもなくて……そもそもまず「日本でUMAを見る」っていう状況があんまりないんですよ。
――なるほど! 仰る通りです。
林:話の軸がやっぱり日本ですし、「都市伝説解体センター」という組織が「実際にあるんじゃないかな?」と感じてもらいたいと思いまして……。たとえば「雪男」って言われても、日本の山は夏になればだいたい雪が溶けてしまいますよね。富士山の上にちょっと残るかも、というぐらいで日本では現実味がない。
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ストーリーの中で、現実味を感じられるのが都市伝説の面白いポイントです。現実と地続きに感じてもらえるということで考えていたら、SNS調査などは皆の日常に近いところにある要素ですよね。
――『都市伝説解体センター』のボリュームはどれほどの分量になりますか。
林:前回、墓場文庫さんが作った『和階堂真の事件簿』は1話1時間ぐらいでした。スイッチ版だと4話入って、だいたい4~5時間ですね。そういう点で考えると、『都市伝説解体センター』は1話が2~3時間ぐらいで、トータル15時間ぐらいのボリュームになるでしょうか。もちろん、もしかすると15時間よりももうちょっと多くなるかもしれません。『和階堂真の事件簿』と比べると3倍強のボリュームですね。
そういう意味では、シナリオもすごく長く深くなってますし、ビジュアル表現も強くなりました。『和階堂真の事件簿』ではドット絵で顔の表情が見えなかったのが、『都市伝説解体センター』はキャラの表情が豊かに見えたりもします。
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ストーリーで変わっていく登場人物の人間関係も見どころです。「福来あざみ」と「ジャスミン」って初めはそんなに仲良くないのですけど、後半になってくるともっと変わってくるとか。集英社ゲームズと墓場文庫が組むことで、ボリューム面でも面白い話を作るためにタッグを組んで開発できました。
――ビジュアルについて詳しくお聞かせください。初出展のときから少ない色数でメリハリのある魅力を感じたのですが、この色使いなどはどうやって形作られたのでしょうか。
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おでーん:僕の哲学として、“ドット絵は色数を絞れば絞るほど強くなる”という考えがあります。また、実はドット絵の解像度も低ければ低いほど強い。そういう意味では「絞った色数で表現できる範囲と低解像度のラインぎりぎり」を狙って、特徴的なビジュアルにできました。
『都市伝説解体センター』ではその色数の少なさをもって、“パッと見れば推理のヒントがわかる”ことも目指しました。
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林:色数を絞ってドットを作ったことが、グラフィックデザイン的な面でも貢献していて、「多くの人が受け入れやすいカッコよさ」が作れたはずです。これも反響として、期待を持ってもらえている要因になってるんじゃないかな。
――色彩による視線誘導もすごく丁寧で、ADV特有の「どこを探せばいいんだろう」と迷うこともある点が「あ、ここを探せばいいんだ」と直感的に分かりました。青・赤をメインとしつつ、差し色として黄色の要素が取り入れられているところが特に印象的です。
林:普段ゲームをやらない人が「どこを探せばいいんだろう」と時間をかけてしまうことがないようにしました。もちろん、あそこが重要かなと探したら新たに見つけられる探索要素もあって、そこのバランスや緩急はうまく整理できましたね!
――最後に、読者へコメントをお願いします。
おでーん:もう開発も佳境になっていて、もうそろそろ皆さんにプレイしてもらえる状況になるかなと思っております。ぜひ一緒に『都市伝説解体センター』の主人公の「福来あざみ」と一緒に、都市伝説を解体してもらえれば嬉しいですね。
林:「都市伝説」や「ミステリー」という要素がちょっとでも気になった方は、ぜひ手に取ってみて、ゲームとしてもすごく面白いですし、同時に難しいゲームではなく“誰でも遊べる”ようにしているので、土日にでもちょっとプレイして「面白かった」って感じて貰えるようになればありがたいですね!
――今回は、ありがとうございました!
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『都市伝説解体センター』はニンテンドースイッチ/PC(Steam)にて発売予定です。