英国レディング大学に所属する研究者は、ハイドロゲルというスライムのようなゼリー状の物質にゲーム『PONG』をプレイさせると時間とともに上達するという実験結果によって、非生物的物質が電気刺激によって物理的な記憶を形成し、状況に応じた反応ができると論文で発表しています。
実験で使用された『PONG』は1972年にATARI社が開発したテニスにのようなゲームで、プレイヤーは画面上のパドルを操作して互いにボールを打ち返します。
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スライムが『PONG』をプレイし、時間とともに上達
論文の要約によると、この実験はコンピュータと生物学的ニューロンを統合することで、記憶を利用して最適な行動を実現できるかを調べるためのものとのこと。研究チームは、非生物学的材料が『PONG』をプレイできるか調査するため以下のような実験を行っています。この研究で使用するスライム(ゼリー状物質)には荷電粒子であるイオンが含まれており、電気刺激を受けるとイオンと水分子が動くことで形状が変化するとのこと。イオン分布の変動は粒子の配列に影響を与えますが、形状が元に戻るまで時間がかかるため、研究チームはこれが物理的な記憶として機能するのではないかと考えたといいます。
研究チームは、スライムに電極を接続し『PONG』のボールが区分けされた画面のある位置を通過するたびに電気信号を送ることで、ハイドロゲル内のイオン分布が変化しパドルを動かす仕組みを構築。ゲームがプレイできるようにしています。
この実験の結果、最初はボールを50%の確率でしか打ち返せなかったスライムが、約24分経過後には命中率が60%に向上し、ラリーも長くなっていったとのこと。この結果はスライムが過去の刺激パターンによる記憶を形成し、プレイが上達していることを示唆しています。なお、意図的に誤った情報を与えたり刺激を与えない対照実験を行った場合はスライムのプレイ能力に改善は見られず、正確な情報が上達に不可欠であることがわかりました。
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生物でない物質にも疑似的な記憶を持たせることが実験で明らかになりましたが、やり方によっては、スライムがもっと複雑なゲームにも適応できるかもしれませんね。