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2023年秋、『オーバーウォッチ』や『ディアブロ』シリーズで知られるクリエイターのマイケル・チュウ(Michael Chu)氏が日本の映像制作会社・SAFEHOUSEのスーパーバイザーに就任しました。
ハードコアゲーマーであればその名をご存知であろうマイケル・チュウ氏(以下、敬称略)は、かつてブリザード・エンターテインメントでビッグタイトルに関わってきた大御所で、先に挙げた2タイトル以外にも『ウォークラフト』やObsidian Entertainmentで開発している『Grounded』にも携わっているゲーム開発者です。
Game*Sparkは、そんなベテランクリエイターに独占インタビューを実施。開発者としての彼のキャリアやいちゲーマーとしての経緯、ゲーム制作における哲学までみっちりお話を訊いてきました。
――最初に、マイケルさんの「ゲームクリエイターとしてのキャリア」についてお聞かせください。
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マイケルゲーム業界でのキャリアは25年ほどです。最初ブリザード・エンターテインメントに『World of Warcraft』のテストプレイヤーとして参加し、そこから『ディアブロ II』のストーリーに関する制作やゲームメカニクスにも携わるようになりました。
シナリオライティングの担当経験もあり、Obsidian Entertainmentの『Neverwinter Nights 2』や『STAR WARS Knights of the Old Republic II: The Sith Lords』にも関わりました。そしてブリザード・エンターテインメントに戻って『ディアブロ III』や拡張コンテンツを担当し、『オーバーウォッチ』シリーズのストーリーテリングや世界観に関わるすべての制作に携わりました。
――現在はどのような活動をされているのでしょうか。
マイケル話せるものだと、『Grounded』の開発を引き続き進めています。本作についてはメインストーリーがまだ実装されていないので、私がチーム内でダイアログ(会話やセリフ)とメインキャラクターに関わるストーリー制作を進行してますね。本作においては、チームメンバーもObsidian Entertainment時代からの知り合いで構成されています。
――なるほど。日本でも『Diablo』や『オーバーウォッチ』といったタイトルを通して“マイケル・チュウ”という名前を知ったゲーマーは大勢いますが、具体的な活動内容まで把握している方は少ないかと思います。直近ではどのようなお仕事をされていますか?
マイケル2012年には「Studio Petit Four」というスタジオを立ち上げました。こちらのスタジオの目的は、小規模なゲームを制作していくことです。また、2023年秋には日本の映像制作企業の株式会社SAFEHOUSEのスーパーバイザーにも就任しました。こうしたコンサルティング業務では、ストーリーテリングの作り方や新規IPの立ち上げについての相談を請け負っています。
――いちゲーマーとして、子どもの頃に初めて遊んだゲームについてお聞かせください。どのような経緯でゲームカルチャーに興味を持ち、クリエイターとなっていったのでしょうか。
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マイケル初めて触ったのは、覚えている中だとApple IIのゲームですね。印象的なのはInfocomの『Zork I』というテキストアドベンチャーで、ストーリーや「読むこと」が楽しめるゲームでした。
『Zork I』の凄いところは、すべてをプレイヤーに委ねるシステムです。キーボードで“open door(ドアを開ける)”や“go east(東の方向へ進む)”とテキストを入力して、行動を決定していくんですよ。自分の発想でなんでもできて、どのようなことでも試せる感覚が大好きです。他には同じくInfocomの『Planetfall』でしょうか。漂着した惑星からの脱出を目指すSFアドベンチャーで、こちらもプレイヤーの想像力次第でなんでもできる興味深いゲームでした。
そして、ゲームクリエイターになるきっかけとなったタイトルとして『ファイナルファンタジーVI』も挙げられます。ストーリーとキャラクターの印象が強く、音楽も本当に素晴らしいと感じました。『FF6』の衝撃を受けて、ゲーム音楽の作家になってみたいと思った時期もありました。
――ゲーム以外ではどのような趣味をお持ちですか?“ラーメン”がお好きなようで、ご自身のWebサイトでも記載していましたよね。
マイケルテレビやドラマを観たり、漫画を読んだりといろいろですね。ゲームの世界設定を考えるため、見聞を広めるという意味で旅行も好きです。そしてラーメンも大好きです。私が育ったカリフォルニア州にもラーメン屋はいくつかありましたけど、やはり日本に来たらいろいろな味のラーメンを食べに行くようにしています。
――『ディアブロ』や『オーバーウォッチ』というIPでは、具体的にどのような形で制作に関わっていましたか。先ほどお話ししたように、各作品のトレイラー映像や情報公開を見て「“マイケル・チュウ”という名前はよく知っている」というゲーマーはたくさんいらっしゃると思いますが、どのようなポジションから作品に関与してきたのかは、想像しにくいと感じています。
マイケル『ディアブロ III』の拡張コンテンツでは、主にクエストデザインを担当しました。ストーリーとゲームキャラが組み合わさって物語を作っていくのかを考えたり、ですね。Diamond Gateという映像制作スタジオと協力してカットシーンも制作しました。
『オーバーウォッチ』ではたくさんのキャラを考案して、作品の世界設定を語るための制作を他のチームと共に進めてきました。アニメーショントレイラーやコミックなど、ストーリーに関わるコンテンツのすべてです。シネマティックのチームと一緒に制作することも多かったですね。
――なるほど。『オーバーウォッチ』アニメーションは日本でも大人気で、新たな映像が公開される度にクオリティーの高さが話題となっていました。
マイケルキャラクター制作の担当者とディレクターがアニメの大ファンなので、そこからいろいろな影響を受けてました。ストーリーの流れやシナリオもアニメ作品にインスピレーションを受けて、『オーバーウォッチ』にもそういったエッセンスを取り入れていました。
――これまで関わってきたゲーム開発活動の中で、マイケルさんが「一貫して大切にしていること」についてお聞かせください。
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マイケル大きく分けて、3つあります。ひとつは「ストーリーテリング」です。“このストーリーはゲームプレイと自然に結びつくのだろうか……?”といったように、常に考える必要があります。2つめは、「世界設定のリアリティー」です。特に『オーバーウォッチ』ではストーリーを語るシングルキャンペーンモードを実装していなかったけれど、その上で「世界設定の説得力」を感じさせる必要がありました。そして3つめは、「キャラクターとキャスティング」。これも重要視していて、新たなストーリーやキャラクターを生み出すための大切な要素でした。
――マイケルさんの視点から、日本のゲーマーにはどのような印象を持たれていますか?
マイケル日本のゲーマーは「ゲームに対して真剣」であるように感じています。アメリカのゲーマーのほとんどは「少しだけ遊ぶ」「時間をつぶすために遊ぶ」という方が多いイメージですけど、日本ではゲームを「アートフォーム(芸術の形式)のひとつ」として見ているような印象です。フロム・ソフトウェア作品や『DEATH STRANDING』など、日本産IPのゲームデザインには独特な力強さも感じますし、それを遊ぶオーディエンスとしてもゲームのことをとても大切に思っていますよね。
――最後に、マイケルさんから「日本でゲームクリエイターを目指す若者」に向けて背中を押すようなメッセージをいただけるでしょうか。
マイケル今の時代は、ゲーム開発も簡単です。「ゲームを作ってみたい」「ゲーム業界に入りたい」と思うなら、シンプルなゲームでもまずは作ってみるべき。開発だけでなく、その後にやるべきことも今なら簡単に着手できます。SNSなどで反応をリサーチしやすい時代ですし、ゲームを遊ぶオーディエンスもたくさんいる時代ですから、きっと誰かがあなたの作ったゲームを気に入ってくれるはずです。
――本日はありがとうございました。