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東京ゲームショウ2024で展示されていた『Skate Story』ほど、内容を説明するのがあまりに簡単であると同時に、あまりに難しいタイトルもないでしょう。次のトレーラーをざっくりご覧いただきながら、レポートをお読みください。
見ました? まずスケートのゲームということはわかりますよね。これまでエレクトロニック・アーツの『Skate』から、インディーゲームの『オリオリワールド』など、ビデオゲームにはスケートボードを題材とした名作は数多く生まれてきました。
そうした名作が出来上がれば、後の世代は名作の構造を崩したものを作り、オリジナリティを出そうとするのが世の常なのですが、『Skate Story』は崩し過ぎたあまり異形の世界に突入しています。
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何しろ抽象化された世界で、主人公は金属のようなローポリゴンになっており、ここが現実なのか幻覚なのかもわからないのです。物語は「悪魔」、「月」、「人を導くウサギ」などなどのワードが飛び交い、少なくとも超現実的な場所へプレイヤーを導こうとしていることしかわかりません。
ただひとつ確かで信じられる現実はスケートボードたった一枚だけ。悪魔から命じられて(なんでか)スケートボードに乗り込むと、どこだかわからないこの場所で、初めて居場所を手にしたような気持ちになります。
スケートボードに乗っている間は、一転して抽象的な世界のなかで何が本当に信じるべき現実なのかを確認するかのようなゲームプレイが展開されています。過去に経験してきた『Skate』みたいなスケートボードのゲームに近い、しっかりした操作のおかげで、この寄る辺もない悪魔が支配するらしい世界でも生きていていいんだという気持ちになるといいますか。
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そう、ここまで奇怪な世界観なのに、スケートボードのゲームプレイとしては固く作り上げられているのです。
抽象的な世界ならではの変な操作などもなくって、スケートボードゲームをいくつかやってきた方ならお馴染みのオーリー(※スケートボードでジャンプすること)やトリックを決める操作が実装されており、ゲームの手ごたえはかなり良く出来ているといいますか。
ただ、ゲーム中に要求されるチャレンジは「道の脇に配置された膨大な赤い針を避けて進め」とか「プレイヤーを導くウサギを転ばないように追いかけろ」とか、やっぱり「ここはどこなんだ。私は誰だ。おまえは誰だ」と途方に暮れるものばかりなんですが……
いや、『Skate Story』が提供したいテーマとは、「世界のすべてがどんどん変容して複雑になってしまおうが、スケーターにとっては、スケートボードでトリックを決めるその瞬間こそが、なにより信じられる現実ってことだろ?」ってことかもしれません。
ゲームって、どれだけ世界観がぶっ壊れたものだろうが。なにを体験させるかが明確なゲームデザインでありさえすればプレイヤーはその世界を確かなものだと信じられる。そういう本質を意外な形で痛感させる一作でもあります。