皆様は、「オールイン」という単語を使う機会があるでしょうか?
大半の人は「なんのこっちゃ」と思うでしょう。もしかしたら同名の韓国ドラマを思い出す人もいるかもしれませんが、それもある界隈の用語から来ています。
その界隈とは、「ギャンブル」業界。手持ちの資金を全て一点に注ぎ込むことを、「オールイン」と言います。その中でも最もこの「オールイン」という単語が使われるのが、「ポーカー」においてです。「オールイン」を宣言したプレイヤーは手持ちのチップを全て場に出してラウンドの最後まで戦いを見届け、勝てばテーブル上のチップを奪う事ができますが、負けてしまうと全てのチップを失って敗退、テーブルを追い出されてしまう、「敗北と隣り合わせの賭け」を意味する、緊張感の高いフレーズなのです。
そんな「オールイン」という単語をタイトルに冠したアドベンチャーゲームのデモ版が、2024年10月のSteam NEXTフェスに登場しました。その名も『オールインアビス イカサマサバキ』。『侍道』『オクトパストラベラー』『剣と魔法と学園モノ。』などの尖ったゲームを世に送り出してきたアクワイアと、異例の大ヒットとなった『NEEDY GIRL OVERDOSE』を産み出した敏腕ゲームプロデューサー・斉藤大地氏率いるWSS playgroundがタッグを組んで制作している完全新作アドベンチャーゲームです。
そしてこのゲームでは「ポーカー」を題材にしているということで、かつて存在したアーケードゲーム『ポーカースタジアム』の公式大会で優勝経験を持つ筆者がこのゲームに挑んでみました。
ギャンブル特区を支配する「魔女」のイカサマを打ち破れ
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5人の「魔女」と呼ばれる凄腕のギャンブラーたちが集う、ギャンブルがすべてを支配する「ギャンブル特区」が本作の舞台です。主人公「瀬名原アスハ」は、そのコロシアムに突如乱入した自称・凄腕ギャンブラー。彼女はいきなり「魔女」の1人である「甘味野ウル」に戦いを挑むのですが……アスハは、本作のポーカーのルールとして採用されている「テキサス・ホールデム」を知らないのでした。
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親切にも、アスハに「テキサス・ホールデム」のルールを懇切丁寧に教えてくれる魔女ウル。実際に「テキサス・ホールデム」を知らないプレイヤーにも理解できるような内容なので、初体験でも問題なく遊べます。
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しかし、魔女ウルに完全に翻弄されてしまい、圧倒的な負けを喫して無一文で放り出されてしまったアスハ。ここから、この街におけるアスハの戦いが始まります。
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今までの魔女ウルのポーカーでの戦績は300戦以上無敗とのこと。実際にテキサス・ホールデムのヘッズアップ(1対1での対決)を遊んだことがある人ならわかると思いますが、ヘッズアップを何百戦もして「無敗」であることは確率的にありえません。
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となると当然、何らかの「イカサマ」をしていることが疑われます。そのイカサマの種を暴くべく、アスハと彼女を助けた少女「野坂ミーナ」はギャンブル特区中を探索します。
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探索パートでは各地の様々な人と交流し、魔女のイカサマの手がかりを探していきます。このあたりは、『逆転裁判』などのアドベンチャーゲームの探索パートに近いものがあります。
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ギャンブルがすべてを支配する街であることもあり、探索中にポーカー勝負を挑まれることも。しかし彼らは「魔女」とは違い無敵ではないので、自称天才ギャンブラー・アスハの底力を見せつけましょう。なお、アスハ自身もイカサマを使うことができます。さすがは天才ギャンブラー。
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魔女のイカサマの証拠とそれを打ち破る手段を集めたら、再度魔女にリターンマッチです。
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魔女の後ろに魔法陣エフェクトが出ている間は、魔女のイカサマが有効で無敵状態です。ここぞというタイミングでアイテムを突きつけ、魔女のイカサマを打ち破りましょう。
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はたして自称天才ギャンブラー・アスハは、「魔女」に打ち勝つことができるのでしょうか。
「テキサス・ホールデム」のゲームとしては違和感アリアリ。演出は好き嫌いが分かれるか
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とまあここまでゲームのあらすじを紹介してみましたが、本作を「テキサス・ホールデム・ポーカー」のゲームとして見た場合、いちポーカープレイヤーとしてはかなりの違和感があります。
まずは「ベット・レイズのリミットの仕様」。本作ではベット・レイズを行うとそのチップ額に応じて得点倍率がアップし、ショウダウン・フォールドの時点でテーブル上にベットされたチップ量に得点倍率を掛けたチップ量を相手から失わせる……という、世界中のポーカーを見ても前例のないルールを採用しています。
おそらく、これはヘッズアップ勝負を長引かせないための本作ならではの工夫だとは思うのですが(オンラインポーカーでもトーナメント最後のヘッズアップは数十分、リアルだと数時間かかることも珍しくない)、個人的にこのルールのどうかと思う点として、「得点倍率がMAXになるとお互いにベット・レイズできず、チェック・フォールドしかできないこと」が挙げられます。こうなってしまうとチップのベットで相手を降ろすということができず、タイトルにもなっている「オールイン」も行えません。あくまで個人的な考えですが、得点倍率がMAX状態でもレイズ・オールインを行えてもゲームとしては問題ないのではと思います。
その他、下記に挙げるようなポイントはポーカー経験者として気になってしまうツッコミどころです。
「テキサス・ホールデム」のルールとしては最低レイズ額がおかしい(最低ベット額が1000の状態で3000をベットした場合、実際のポーカーでは最低レイズ額は前回のベット額3000-前々回のベット額or最低ベット額1000を足した5000を出さなければならないが、本作では最低ベット額を足しただけの4000でレイズができる)。
キャラクターの立ち絵でカードを手に2枚持っているのはテキサス・ホールデム経験者に見えない(テキサス・ホールデムでは手札の2枚は自分の前に伏せ、他のプレイヤーから見えないようにカードの角の部分をめくって確認するのが普通)。
「最弱の2のペアで勝負するなんて」というセリフがゲーム内にあるが、ヘッズアップにおいては手札の2のペアは大抵の他の2枚のカードの組み合わせに対して勝率50%を上回り、むしろ強い手札である(発言者がアスハなので、彼女がポーカー初心者であることを明確にするセリフとも言えますが)。
また、本作のプレイヤー側のイカサマを活用すると、テキサス・ホールデムを全く知らなくても「ほぼ確実に対戦相手に勝利できる方法」が存在します。
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まずはフロップ(最初の場札3枚)が開いてワンペアができるまで、チェック・コール・フォールドを繰り返しましょう。ワンペアができたら、主人公のイカサマ技「挑発(相手のフォールドを禁止する)」を放ち、思う存分レイズします。
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ターン(4枚目の場札)が開いたら、イカサマ技「天運」を使い、5枚目にスリーカードとなる手を積み込みます。これであとはひたすらレイズ(オールインでもOK)します。
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スリーカードでは不安?大丈夫、実際のテキサス・ホールデムのヘッズアップなんて大抵ワンペアで勝負が決まって、スリーカードはほぼ勝ち確ですから。この手順で、無敵状態の魔女以外にはほぼ確実に勝てます。
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また、本作の「魔女」とのポーカーバトルは設定上デスゲームになっており、「魔女」に勝利すると魔女への「サバキ」シーンを見ることができます。本デモ版で見ることのできる「サバキ」シーンは魔女ウルへの制裁の前半部のみなのですが……その内容がいわゆる「悪趣味」「鬼畜系」な内容となっています。この手の演出はデスゲーム系のADVではお馴染みのものかもしれませんが、苦手な人にとってはちょっと辛いかもしれません。幸い、「サバキ」シーンはスキップが可能なので、苦手な人は飛ばしていきましょう。
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何はともあれ、本作のデモ版を遊んだ限りでは「魔女」のイカサマを見破る推理モノのAVGとしての出来は悪くなく、キャラクターの個性も豊かで遊んでいて飽きませんでした。そして、「テキサス・ホールデム」の基本ルールの説明も丁寧で、「テキサス・ホールデム」の入り口に触れるゲームとしては本作は悪くないと思いました。本作をきっかけに「テキサス・ホールデム」に触れた推理AVGやデスゲームAVGの愛好家が、他のポーカーゲームに興味を持ってもらえると、筆者としては嬉しいです。