ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第13回は『SILENT HILL 2』を取り上げます。
本記事には『SILENT HILL 2』のネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
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PS2時代に発売され、今なお語り継がれる名作『SILENT HILL 2』。この度、23年の時を経て現世代機向けにフルリメイクされました。
視点の変更、操作感の向上、エンディングの追加やセリフの刷新など、多くの点で改良がなされたことで、現代のゲーマーでも問題なく遊べるようになっています。大胆かつ慎重で、本質を捉えた素敵なリメイクだと言えるでしょう。Bloober Team、ブラボー!
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物語は、ジェイムス・サンダーランドという男の下に、3年前に死んだはずの妻メアリーから手紙が届くところから始まります。手紙のなかで妻から、ふたりで訪れた思い出の地・サイレントヒルで待っていると告げられ、訝りながらもサイレントヒルにやってきたジェイムス。
不穏な霧に包まれたそこは、謎のクリーチャーが跋扈する異界となっていました。それでもジェイムスは妻を探してサイレントヒルを彷徨います。そして、最後に明かされる真実とは……。
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サイレントヒルを訪れたのはジェイムスだけではありません。ジェイムスと同じく異界に飲み込まれているアンジェラやエディーといった人物にも注目したいです。彼らもまた心に闇を抱え、この地に誘われてきました。彼らの持つトラウマはクリーチャーの形で具現化し、彼らを脅かします。
本作はほとんどゲームらしい説明台詞はなく、ちょっとした息遣いや表情、人間らしい心の叫びによってストーリーが進行していきます。道すがら、彼らとわずかに交わす会話の断片からも、充分に彼らの受けてきたトラウマがまざまざと見えてくるというのが、本作の脚本が優れている点だろうと思います。
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さて、物語というものは、主人公が視ている世界を通してしか語られないものです。つまり、裏を返せば、主人公が自分に嘘を吐いていればその嘘が現実となって作品内で語られることとなります。いわゆる「信頼できない語り手」という問題ですね。
ピラミッドシングもバブルヘッドナースも、ジェイムスが今まで背負ってきた問題や、自分を苛んでいる思いが具現化したクリーチャーだというのは、もはや周知の事実でしょうが、彼はそんな自らが生み出したクリーチャーたちを薙ぎ倒しながら、ひたすらに妻メアリーを追い求めます。ときには虫だらけの穴に手を突っ込んだり、汚物塗れのトイレを掻き混ぜたりもします。こんなとこにいるはずもないのに……。
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そんな彼の固すぎる決意の裏返しともいうべき存在が、彼を惑わすファム・ファタールであるマリアです。妖艶なプロポーションと衣装、蠱惑的な表情に煽情的なセリフと、わかりやすい罠として彼の前に現れる謎の女、マリア。こんな異界に相応しいとも相応しくないとも取れる彼女の言動に狂わされながらも、異常な世界の奥底へと進んでいきます。
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そんなジェイムスの物語は、予想した通り重苦しいエンディングを迎えます。マルチエンディングによって多少の差はあれど、どれもこれもヘビーで、かける言葉が見つからないようなものばかりです。
ジェイムスとメアリーが抱えていた問題は、あまりに卑近で、ゆえに我々の心を抉ります。ゲーム自体はエキセントリックな暴力表現でもってユーザーを楽しませてくれますが、それは彼らが心に溜めてしまっていたものが堰を切って溢れ出てきたものに過ぎず、実際に彼らを蝕んでいたのは病気やコンプレックスや性暴力といった日常に潜む痛みそのものなので、なんだか無邪気に楽しんでいたこちら側が悪いような感じすらしてきます。
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それらすべてを綺麗さっぱり解決することができないというのもまた、辛く厳しいものですが、こうしたシチュエーションを疑似的に体験することで、そんな境遇にいる人や、自分が似た状況に陥ったときに何かの助けになるのかもしれません。
世界に穿たれた孔を覗き込み、そこに飛び込んでいく……ジェイムスが作中で何度も行うあの行為は、自らの内面により深く潜っていくことだと捉えるのが丸い気がしますが、同時に、我々が何らかの作品を通じて、社会や個人のなかに潜む問題や悩みを深掘りしていくためのメタファーだとも捉えられるような気がしました。