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『メタファー:リファンタジオ』の舞台であるユークロニア連合王国では、暗殺された王が仕掛ける魔法によって「次代の王を選ぶ民の信託」が行われます。主人公も候補者として名乗りを上げ、王国全土を巡る支持者集めの旅に出るのですが、その道中では候補者同士の駆け引きや妨害、時には武力行使に遭遇します。国民の信任を集めるので一応選挙らしい体裁にはなっていますが、決闘で殺すのは有りらしいという実質的にバトルロイヤルの様相を呈しているようです。
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一方我々の現実の方ではいよいよ明後日11月5日、第47代アメリカ大統領を決める選挙が行われます。ただし、11月第1火曜日の選挙は形式的には大統領を直接選ぶので無く、人口比に応じた州の代表者となる「選挙人」を決めるもので、12月の選挙人による投票、年明けの開票によってはじめて大統領が選出されるのです。ただし選挙人が予定と違う候補に入れることも州によっては可能であり、大勢には影響しなかったもののそうした「裏切り」があり得ることは確かです。
二度に及んだトランプ氏に対する暗殺未遂もあって、その行方に大きく注目が集まるところですが、米大統領選において欠かせないのが全国民に呼びかける演説です。出馬表明から就任時まで、彼らの公的なスピーチは一言一句逃さず全て記録され、どのような意図があるかを精査された上で米国政治史の1ページに編み込まれます。特に、勝利宣言や就任演説ではアメリカの時代を象徴するフレーズがいくつも生まれていて、現代の世界情勢を知る上で一度はしっかり見ておくべきものでもあります。
演説において特に注目されるのが聴衆に賛同させるためのレトリックです。話す内容とは別の、言葉のリズムやたとえ話を駆使して共感を引き出すテクニックですが、報道各社は各候補者のスピーチをレトリックからも解析し、どちらがよりよく訴えているかをチェックします。どういう論法を使っているか、特に訴えたいことは何か、ただ聞こえの良い言葉でしか無いのか、新聞などが演説を報じるときは政策だけで無くこうした部分に注釈を付けて、陣営がどんな戦略で挑んでいるかを分析しているのです。『メタファー』の物語の中でも演説する場面があるため、英語版ではそうした要素を翻訳に取り入れています。
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反復
My name... is Leon Strohl da Haliaetus!
My home and my family were taken from me!
I am the last of my house!
I am the last of my noble bloodline...
And in the name of my people,
I will strike you down where you stand!
Come! I will show you a world with hounor!
我が名はレオン・ストロール・ダ・ハリエイタス!
故郷も家族も既に無く、ストロール家唯一の生き残りだ!
我が民の名において、貴様をそこから叩き落としてやる!
来い! 誇りある世界を見せてやる!
同じ単語やフレーズを繰り返す「反復」は演説でも最も頻出するテクニックで、ストロールの覚醒場面で顕著です。ここではまず滅ぼされたハリアの町に言及して、失われた「My~」を列挙しています。スピーチにおいては、過去、現在、未来をバランス良く配置するのが良いとされ、過去の次に生き残った現在の“I am the last of”、ルイを倒すための戦いに加わる“I will”をそれぞれ2回繰り返し、短めながらも名乗りとしては良い感じにまとまっているのではないでしょうか。
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自問自答
How long before we’re overrun?
You can only blame your king’s weakness.
And thus who deserves his crown?
A man of proven strength!
Let your late king’s soul bear witness!
Let Louis Guiabern be named...
the true and rightful ruler of Eucronia!
我々が蹂躙されるまでどのくらいかかる?
貴様らは王の弱さを詰るしかできまい
ならば誰が王位に相応しいというのだ?
それは力を示した者だ!
亡き先王を見届け人とせよ!
このルイ・グイアベルンこそ…まことの正当なユークロニア統治者であると!
不安や疑問を抱えているとき、人は自ずと行動力が鈍るもの。演説はそうした民衆の不安に対して先行きの希望を与えることが目的の一つです。ルイが呼びかけるこの場面においては、「ニンゲン」の脅威をショッキング形で示し、現行の王政では対処できないのでは、と言う民衆の恐れに対して「力を持つ自分こそが王になるべき」と持論を突きつけているのです。
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A or B
Good peaple! Is Forden truly fit to be king!?
Or, shall you cast off the shakles of blind faith!?
Those who stand at my side, who oppose
the powers that be,my protection is yours!
Or refuse my hand and perish!
I will llead us over your corpses.
皆の衆! フォーデンは本当に王の座に相応しいのか?
さもなくば、盲信の枷を捨て去るか?
我が側につき、権力に逆らう者には我が庇護を授けよう!
あるいは我が手を拒み滅びるがいい!
我は貴様らの屍を踏み越えていくだけだ
先ほどのような強烈なビジョンを示した後、二者択一を迫ることで消極的な人間も動かそうとする、アジテーションとして強力なレトリックです。“Give me liberty, or give me death”“To be or not to be”などのフレーズにも観られるように、この形は信念や決意を感じさせ、訴えかけの決めの部分を担っていると言えるでしょう。
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こうしたレトリックはわかりやすさや未来への展望を示す一方で、世論の扇動にも効果的であることはヒトラーの例を見れば明らかでしょう。A or Bであれば、提示した二者択一以外の選択肢を潰してしまうというデメリットがあります。問題を煙に巻いたり話題そらしができるのもレトリックであり、それ故に行ったことだけでなく「言わなかったこと」 にも注意する必要があるでしょう。
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明日の投票で結果が出るとすぐに勝利演説が行われます。そのときにどんなレトリックが使われているか、生中継で読み取ってみてはいかがでしょうか。