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みなさんは『Fate』シリーズと聞いてなにを思い浮かべますか?シリーズ本家大元にあたるTYPE-MOONが手掛けた『Fate/stay night(SN)』は2024年で20周年を迎えますが、前日譚的な立ち位置の「Fate/Zero」をはじめ、これまでに多くのスピンオフ作品が各メディアで展開されています。
本記事では、その中でも2025年に初代のリメイク『Fate/EXTRA Record(EXTRA Record)』の発売が予定されている『Fate/EXTRA』シリーズのPlayStation Portable向けタイトル、『Fate/EXTRA(EXTRA)』&『Fate/EXTRA CCC(CCC)』をご紹介します。
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同シリーズに関して、本家『SN』と同じくシナリオを手掛けた奈須きのこ氏は「FateシリーズにおけるGガンダム」「FateであってFateでないEXTRA」と形容しており、本家とは共通する要素を持ちつつも、独自のストーリーに加え、舞台や設定に大きな差異があるなど、完全新規プレイヤーでも楽しめる作りになっています。
また、スマートフォン向け基本無料RPG『Fate/Grand Order(FGO)』で開催された『CCC』とのコラボイベント「深海電脳楽土 SE.RA.PH」や、ほぼコラボイベントな「奏章Ⅲ 新霊長後継戦 アーキタイプ・インセプション」から興味を持ったユーザーもいるかもしれません。
これから本シリーズに触れるには、『EXTRA Record』から始めるのがちょうどいい…と言いたいところですが、同作の企画・監督であり、リメイク前のプロデューサーでもあった新納一哉氏は一部イベントの変更について言及しているほか、後述する戦闘システムにも手が加わることが判明しており、奈須きのこ氏が携わったリメイク作で原作から大きくアレンジが加わった前例もあるため、リメイク前である『EXTRA』をあえて遊び、リメイク後との変化を楽しむのも一興でしょう。
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さらに『CCC』のリメイクがそもそもいつ出るのかという問題(※シリーズ10周年特番で新納氏は「こっちもリメイクしたい」と発言)もあるので、どうせなら2作セットで遊んで欲しい、そんな思いを込めて両作品の概要を紹介していきます。
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なお本記事では、完全新規プレイヤーも想定し、クリア後のオマケ要素などに触れますが、ストーリー部分は控えめに記述。『FGO』のイベント等では筆者の体感で『EXTRA』『CCC』の7~8割程度の内容がネタバレされており、同作プレイヤーは“誤魔化しているけどアレだろ!”と歯痒い思いをするかもしれませんが、ご容赦ください。
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記事に掲載しているスクリーンショットについては、PSP実機でのプレイをキャプチャーデバイスに通して録画したものを、プレイ時のセーブデータは筆者が過去にクリアした際のものを使っています。
舞台は月、電子の海で開催される聖杯戦争『Fate/EXTRA』
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『Fate/EXTRA』とは、2010年7月22日に今は亡きイメージエポックの開発の元、マーベラスエンターテイメントより発売された対戦型ダンジョンRPGです。
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舞台は西暦2030年の魔術が途絶えた世界、月の内部にある万能の演算装置「ムーンセル・オートマトン(ムーンセル)」に構築された仮想電脳空間「SE.RA.PH(セラフ)」。「聖杯」とも呼べる「ムーンセル」の使用権を巡り、魂をデータ化する霊子ハッカー「魔術師(ウィザード)」たちが、過去の英雄を再現した使い魔「サーヴァント」と共に、彼らの「マスター」としてトーナメント方式の殺し合い「聖杯戦争」を争います(※媒体によって2032年と2030年で表記の違いあり)。
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あらすじの時点で専門用語が渋滞していますが、本作の主人公は“なぜ自分がこの聖杯戦争に参加しているのかわからない”記憶喪失の少年/少女(※性別・名前は設定可能)という設定ゆえ、順を追って説明されるので、実際のプレイ時はもう少しゆったりとしたペースで用語が登場していきます。
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プレイヤーはこの主人公を操作しつつ、どこか『SN』の彼女と似た男装の少女「セイバー」、『SN』の…と呼ぶには少し複雑な事情がある「アーチャー」、コミカルな振る舞いが割烹着のあの人を彷彿させる半獣の女性「キャスター」から1騎を選択し、聖杯戦争を勝ち抜いていかなければいけません。
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ゲーム進行は7日単位でトーナメント戦が行われ、6日間の情報収集と7日目の相手マスターとの決戦を持って次のラウンドへ進む方式です。
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戦闘ではRPGでありつつも、「ATTACK」「GUARD」「BREAK」とジャンケンのような、三すくみの関係を持つコマンドを1ターン/6回分選択して戦うシステムが採用されており、基本的に相手のコマンドは一部しか表示されないため、わからない相手のコマンドをどう処理するかが戦闘の肝となっていきます。
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例えば、「サーヴァント」にはMPを消費することで攻撃性能があれば3コマンド全てに強く出られる「SKILL」が存在し、この「SKILL」でわからないコマンド分を埋めるという手や、1ターン/1回行えるマスターによるアイテム、様々な効果を持つ「コードキャスト」による支援で猶予を稼ぐ手も。また相手マスターとの決戦時には、6日間の情報収集の状況に応じて開示されるコマンド数が変化するため、シナリオ上で少しでも関連しそうなものがあれば、積極的に関わっていくことも重要です。
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なお、1ターン毎の相手のコマンドには「クセやパターン」があるようですが、筆者の体感では序盤を除けばパターンは膨大で実質的に推測しようがないということが多く、“わからない”という運ゲーを自身の手札を最大限に活用し、最悪の場合をできるだけ削っていくリスク管理の楽しさがあるともいえます。
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ちなみに、本家『SN』を彷彿させるキャラクターや要素が多く、必修ではないものの知っておくとニヤリとできるネタがあったり、同じTYPE-MOONの他シリーズ作からもゲストキャラが複数登場していたりする点にも注目です。
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情報収集における探り合いは『SN』を思わせるほか、実際に行動する舞台は狭いものの、対戦相手によって仕掛け方が変わるため、飽きにくいシナリオとなっています。
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あえて欠点を挙げるとすれば、自身が選んだ「サーヴァント」は性能が異なっており、だれを選んだかによってゲーム難易度が左右されるため、“RPGは苦手だが、どうしても初心者には厳しいキャラクター(特にキャスター)で遊びたい”というユーザー向けの救済措置が薄めな点や、戦闘中のモーションを高速化できないのでプレイ時間がかかったり、二周目の引継ぎ要素が少なく、ルート分岐こそありますが物語の大筋には影響しないので、再プレイを促す刺激が控え目だったりする点は気になるかもしれません。
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執筆時点でPSP/PS Vitaで遊べるDL版が800円で販売されているので、上述の戦闘システムに忌避感が無く、奈須きのこ氏による独特の文体やノリが受け入れられればオススメです。
あらゆる要素がパワーアップ! “溺れる夜が、始まる”新章『Fate/EXTRA CCC』
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『Fate/EXTRA CCC』は、2013年3月28日に満を持して発売された『EXTRA』の淫靡で妖艶なもう一つの物語を描く、「少女の情念」、そして「エロス」をテーマにした続編です。開発・発売元ならびにジャンル同じである一方、『EXTRA』でプロデューサーだった新納氏はキャラクター監修・ゲーム監修協力という立場で本作に関わっています(※エンドクレジットにて確認)。
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ストーリーは聖杯戦争中、セラフが突如書き換えられ月の裏側に閉じ込められた主人公たちが、脱出を目指してダンジョン「サクラ迷宮」を守る「センチネル」と対峙しながら探索していきます。
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本作では『EXTRA』でNPCの1人だった管理AI「間桐桜」がメインキャラクターに昇格しているほか、ストーリーのカギを握るサクラ迷宮を作り出した「BB」など、多数の新キャラクターも登場。前作では敵対していた続投キャラクターも、月の裏側からの脱出するという共通の目的を持ったことで新たな側面を見られるようになりました。
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また、主人公と共に戦う「サーヴァント」には前作からの3騎に加え、新たに『SN』でもお馴染みの「ギルガメッシュ」が追加されており、同作から更にキャラクターの掘り下げも行われています。
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ゲームシステム面では、「ATTACK」「GUARD」「BREAK」の三すくみを基礎とした戦闘部分は大きく変わらないものの、一般エネミー戦で逃げたり、倒されてもリトライできるようになったことに加え、開示されている敵コマンドに合わせてコマンドを自動選択する「AUTO」が追加されました。ゲームの進行も基本的にダンジョンを一定区間クリアするごとにシナリオが進むようになったため、好きなペースで経験値稼ぎなどを行えるようになっています。
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なお、本作の新要素には「シークレット・ガーデン(SG)」も登場。このSGは言わばキャラクターの“秘密”であり、シナリオ上ではこれを暴きつつ「センチネル」を突破していくことになりますが、見つけるほど「身長」や「フェチズム」などのボイス付きプロフィールも閲覧できるように(自身のサーヴァントのSGも存在)。
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さらに「センチネル」とのボス戦後にはおしおきモードに突入し、SGで得た情報を使った言葉攻めをすることになるなど、現代での年齢制限で実現できるかどうかわからない1枚絵も含め、本作のテーマを表した要素となっています。
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その他、言及しておきたい点として、主人公や「サーヴァント」の着せ替えができるようになったり、ストーリー外のボス戦の増加や2周目の引継ぎ要素が増えたりしたことに加え、選んだ「サーヴァント」ごとに専用エンドが用意されていたり、物語の展開に影響するルート分岐があったりと、周回プレイも捗りやすくなりました。
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ゲームとして全体的にパワーアップしているため、前作以上に人に勧めやすくなった…と言いたいところですが、筆者としては気になる点もいくつか存在します。
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まず、シナリオにおける奈須きのこ氏によるクセの強さもパワーアップしており、ギャグとシリアスの落差が激しくなったので好き嫌いの差が分かれそうなほか、『EXTRA』を大前提にした展開も多いため、本作を最大限に楽しむには同作のプレイは避けられないかもしれません。さらにゲーム面においては、依然として戦闘中のモーションを高速化できないことも、あと一歩痒いところに手が届かないように感じます。
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とはいえ、本作も執筆時点でPSP/PS Vitaで遊べるDL版がお手頃価格の800円で販売中。『EXTRA』をプレイして雰囲気が気に入ったり、シナリオに物足りなさを感じたりしたプレイヤーは、ぜひ『CCC』も遊んでみて欲しいです。
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これにて『Fate/EXTRA(EXTRA)』&『Fate/EXTRA CCC(CCC)』の紹介は以上となります。記事ボリュームの都合で省略した点も多めでしたが、本記事をきっかけに両作品に興味を持った方がいれば幸いです。
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どうしてもRPGは苦手、遊ぶためのハードが手に入らないといった方は、ボイスやゲームならではの演出は楽しめないものの、書籍「Fate/EXTRA MOON LOG」ならびに「Fate/EXTRA CCC VOID LOG」でシナリオを読むことができます。
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なお、『EXTRA』シリーズとしてはアクションゲーム『Fate/EXTELLA』『Fate/EXTELLA LINK』もありますが、『EXTRA』&『CCC』の設定が再定義されているため、続編でありつつ直接物語が繋がってはいない作品と言えるほか、アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」についても単なるアニメ化では無く、『EXTRA』を踏まえた新規ストーリーが展開。
執筆時点で『FGO』にて『EXTRA』が引用される際は、おおよそ『CCC』の内容が中心となっています。『FGO』で出た『EXTRA』本編ネタを把握するためだけなら、今回紹介した2作だけでも大体は網羅できるでしょう。
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ちなみに、他の関連作品としては『CCC』から派生したオリジナルストーリーを描く漫画「Fate/EXTRA CCC FoxTail」に加え、PS Vitaに移植された『Fate/stay night [Réalta Nua]』ならびに『Fate/hollow ataraxia』の購入特典である『とびたて! 超時空トラぶる花札大作戦』では、『EXTRA』のサーヴァント三人組が主役のシナリオも収録されています(※執筆時点で『とびたて! 超時空トラぶる花札大作戦』はVita向け『Fate/hollow ataraxia』DL版を購入すると入手可能)。
『Fate/hollow ataraxia』はPC/ニンテンドースイッチ向けにリマスター版の制作が決定していますが、執筆時点で上記作品の復刻が行われるかは不明なため、もしPS Vitaで『EXTRA』と『CCC』を遊ぶ際は、別作品の購入という手順が必要ですが、セットでプレイを検討してみるのもいいでしょう。