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完成を見ることなく…今は亡き母に捧ぐインディー3DダンジョンRPG―日本に渡った若者の“ゼロからのゲーム制作”

3DダンジョンRPG『Shujinkou』制作者にお話を伺いました!

連載・特集 インタビュー
完成を見ることなく…今は亡き母に捧ぐインディー3DダンジョンRPG―日本に渡った若者の“ゼロからのゲーム制作”
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日本語字幕付き

2025年2月、新作3DダンジョンRPG『Shujinkou』がリリース予定です。本作はインディーデベロッパーのRice Gamesが手掛ける、「日本語を学びながらDRPGが楽しめる」という日本語学習の要素を含んだゲームです。

本稿ではRice Gamesの代表であり、『Shujinkou』を手がけたジュリアン・ライスさんへのインタビューをお届けします。ジュリアンさんは、台湾人の母親とアメリカ人の父親の間に生まれ、幼少期から“JRPG”に憧れてきたインディーゲーム開発者です。


『Shujinkou』デモ版は日本語に対応していませんが、2025年中には日本語サポートも考えているとのこと。今回のインタビューでは、開発期間中に経験した「母との死別」、そして本作の「学習ツールではなく“ゲーム”である」というシステムについて伺いました。

“日本語を学習する”という特徴から、日本人目線では「日本語話者が増えそう!」という認識で留まりそうな作品ですが、ゲームとしての面白さやジュリアンさんが直面した出来事など、少しでも内容が気になった方は、『Shujinkou』をチェックしてみてはどうでしょうか。

◆『Shujinkou』は語学学習ツールではなく“ゲーム”…『世界樹の迷宮』新作が出ないなら「じゃあ自分で作るわ!」

――まずは自己紹介をお願いします。ゲーム制作に関するご経験や、ジュリアン・ライスさんとの日本との関係性などをお聞かせください。

ジュリアン・ライスさん(以降、ジュリアン):はじめまして。ジュリアン・ライスと申します。年齢は26歳で、台湾とアメリカのハーフです。台北生まれですが、生まれてからすぐにアメリカへ渡りました。その後、家庭の都合で香港や台湾にも移り住みました。

日本語を勉強し始めたのは、台湾にいた高校生の時です。中学高校と台湾・高雄市にあるアメリカンスクールで授業を受けながら、日本語学習を始めました。まずは「あいうえお」とかひらがなを書いて練習して、そこから漢字の訓読みや音読みに困ったりしつつも学んでいきましたね。

高校卒業後は渡米して、カリフォルニアにある大学(UCLA)でコンピューターサイエンスと言語学を兼ね備えた「Linguistics & Computer Science」という分野を専攻して、さらにふたつ目の専攻として日本語を学びました。副専攻で企業、会社経営(Entrepreneurship)について学んでいたので、その時にRice Gamesの設立を決意しました。そもそも10歳くらいの頃からゲームを作りたかったんですよ。

もともと、3歳ぐらいの時にお父さんにドリームキャストのコントローラーを渡されて、何もわからないままレースゲームなどに没頭していた経験もあったりして、ゲームの世界に憧れていたのです。幼い頃から「絶対にゲームを作る!」と決意していました。

思い出のゲームは、ゲームキューブの『ペーパーマリオRPG』です。高校時代はアトラス作品にハマってしまって『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』や『真・女神転生IV』『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』、アトラス作品以外では『ルーンファクトリー4』などにどっぷり浸りました。全部ナンバリングの「4」で、 自分にとっての「BIG4」ですね!ここでJRPGの世界に魅了されて、自らの手でJRPGを作りたくなりました。

でも大学に入るまではコードをしっかり書いたことがなくて。高校時代はビデオを観て、 コードをコピペして数値をいじったりしていたんですが、大学時代は他の学生に追いつかなくてはいけないと考えて、凄く簡単でグラフィックが一切ないゲームを作ったりしました。

寮に住んでた友達に、マルチプレイで遊べる簡単な「じゃんけん風のギャンブル」を作って見せたら楽しんでもらえて、ゲームを作る楽しさを知りました。皆で酒やジュースを飲みながら「またジュリアンが作ったゲームをやろう」と語っているときに“ゲーム開発の世界に入った”と実感できましたね。

そうして、大学3年生ぐらいの時に『Shujinkou』のアイディアがやっと生まれました。

「日本の言語も文化も大好き」という日本語専攻と「ゲーム開発をしつつ、ゲームの会社も作りたい」という起業にまつわる副専攻もしていることを合わせたら、私の大好きなアトラスやスクウェア・エニックスのように、複雑な世界、キャラクター、音楽、グラフィックを組み合わせた作品が出来るんじゃないかと。

もちろんその時はお金もなく、スキルもなかった。夢を実現するためのスキルはほとんど持っておらず、「どうしようかな」と悩みました。今と違って日本語はあまり喋れなかったんです。日本人の友人たちとやりとりしていく中で色々と言語を学習していきながら、『Shujinkou』という夢を実現しようと動いていました。

中央が「Shu(主)」、左が「Jin(人)」、右が「Kou(公)」

『Shujinkou』という言葉は、漢字では「主」「人」「公」と分かれますよね。これらの漢字はそれぞれ意味を持っているから、キャラクターに当てはめながら「この3人の冒険譚を作れるんじゃないか?」と考えました(※『Shujinkou』では「主」「人」「公」という3人のキャラクターが登場する)。そうやって漢字の意味をインスピレーションの源にして、30人以上のメインキャラクターを生み出していきました。

――日本で生まれ育った身としては「主人公」という単語を一字ずつ分解するという発想が無かったので、インスピレーションとして新鮮に感じます。

ジュリアン:日本語圏で生まれ育つと気付きにくい点に目を向けられることも、本作のメリットだと思います。たぶん、主人公以外の単語でも似たようなことはあるんじゃないかな。英語で言えば「主人公」の「公」は「Ko」と書く人もいますが、学習者にとっては「u」がないといけない。「Shujinko」じゃなくて「Shujinkou」じゃないと、「公」という漢字を含めた正確な発音は掴めないでしょう。

――確かに、例えば「東京」は「TOKYO」ではなく、発音としては「TOUKYOU」が正しいですものね。日本語を学習している方にとっては不親切かもしれません。

ジュリアン:そういう部分は、もう漢字に関係なく覚えるしかないですよね。英語の表記を見て「東京(TOUKYOU)」じゃなくて「TOKYO」と表記するのだなと。

そのアイディアから2018年に『Shujinkou』の世界を作り始めて、2019年に東京ゲームショウに出展したのですが、今振り返ると2019年時の仕上がりは「赤ちゃんが作ったようなゲームだったな」と感じてしまいます。

――Steamストアページの公開から体験版公開まで非常に長かったのは、内容を拡充させるためだったのでしょうか?

ジュリアン:そうですね。もう、作り直しに近い感じです。当初出展したものは昔ながらの2Dアクションに近く、飛んだり走ったり攻撃したりするものでした。初心者向けのゲーム制作チュートリアル動画がYouTubeにたくさんあり、そこから真似したわけです。

例えばサウンド面では作曲家を雇って、自分のイメージを形にしてくれるようなアセットを制作してもらいました。しかしそれではやはり作りにくかったし、「個人的にはあんまりハマれないゲームになりそう」という気もしました。そこで原点に立ち返って、やはり一番好きな『世界樹の迷宮』みたいな作品にしようと考えたのです。

なにせ、全然アトラスが『世界樹の迷宮』のナンバリング新作を出してくれないから……。本当に困っていたので「じゃあ自分で作るわ!」という(笑)。

ドイツとアメリカで雇ったアーティストの方はゲーム好きだったのですが、『世界樹の迷宮』を遊んだ経験がなかったのです。そこでゲームを購入してあげて遊んでもらって「これをやりたいんだ! DRPGというジャンルのゲームを作りたいんだ!」と伝えました。もちろん安直な真似はしたくなかったので、4~5年間かけて全ての機能を一から考えて、言語学習要素やミニゲームなどをDRPGの中に組み込んでいきました。

『世界樹の迷宮』は一番好きなゲームですが、ターゲット層は結構なコアゲーマーなんですよね。初心者だと「急にクマに殺されたんだけどなんなの!?」という体験もあったり。なので『Shujinkou』は普段DRPGをプレイしない人でも楽しめるようにデザインしました。

誰でもプレイできるように、“簡単だけど複雑でもある作品”にしたいというのがテーマです。

――現在公開されている『Shujinkou』のデモ版だと、日本語は搭載されていませんよね。今後、日本語実装の予定はあるのでしょうか?

ジュリアン:2025年中に、出来れば日本語だけでなく中国語とスペイン語も搭載したいと思っています。

――楽しみにしています!

ジュリアン:『Shujinkou』はストーリーが非常に長くて複雑で、80時間はプレイ可能です。サイドコンテンツなどのやり込みを含めたら余裕で150時間から200時間遊べちゃいます。文章量も150万単語以上ありますので、ローカライズするにはお金が必要ですね(笑)。

――いずれ日本のゲーマーも遊べるかもしれないとのことで、『Shujinkou』のゲーム内容についてお聞かせください。

ジュリアン:強調したいのですが、大前提として『Shujinkou』は“ゲーム”です。 今でも少しマーケティング的に苦労しているのですが、“日本語学習ツール”ではありません。

『FF』や『ドラクエ』のようにしっかりとしたストーリーやシステムがあり、裏切りや悪事といった展開はもちろん、誰かと仲良くしたり、はたまた恋愛関係に発展したり。そういったゲームとしての要素を、本作も全て持っています。

本作はビデオゲームでありながら、「日本語を学習できる要素」を備えているのです。もちろん日本語がわからない方やこれから勉強したいという方にはすごく役に立つと思いますが、 私は「自分が楽しめないゲーム」を作りたくないのです。

ですので、日本語が流暢な方や母語が日本語の方でも楽しめるように設計しています。前提としてRPGであって、付加価値のように日本語学習が出来るということをアピールしていきたいですね。

ゲームシステムとしてはRPGであり、スキルなどにひらがな、カタカナ、漢字が入っている玉を使用し、これで敵の名前を当てていくという独自のシステムを備えています。例えば「骨?(骨女)」という名前の敵がいたら、まず「骨女」という名前を当てて、「骨」という玉と「女」という玉を使って弱点に攻撃していくわけです。

もちろん炎とか水など、RPGらしい属性要素も備えています。これは“曜日”になぞらえていて「水」曜日に戦闘をすると「水属性が強くなる」といったシステムです。戦闘要素は、ゲームが進むにつれて複雑になっていきます。

――日本語は世界的に見ても、漢字・ひらがな・カタカナが混合の“難読文字”と聞いています。この点を踏まえてゲーム制作で難しかった点を教えてください。

ジュリアン:もう一度アピールさせてもらうと、私は日本語をゼロから勉強しています。そのため、実際に苦労した経験から「日本語のこういうところが難しい」と理解した上で設計しています。例えば「行きます」だけでも「行く」「行ける」「行かない」「行かれる」「行きましょう」など派生がたくさんあって……これは絶対、勉強しても覚えられない。もしかしたら、こういうことをバトルシステムに採用するのも良くないのではと感じてきました(笑)。

そのような経緯で、“日本語の概念を当てるミニゲーム”を作りました。 私は女性キャラと仲良くなりたいタイプのゲーマーなので、色んなキャラと仲良くなっていけるようにしました。もちろんイケメンもいるので、誰でも楽しめますよ!

また、漢字の部首に関するミニゲームも用意しています。私にとって「これを勉強しないと日本語が上手くならないかな」と感じた概念をミニゲーム化して、ゲームのコア機能を邪魔しないようにしたのです。

おそらく“言語学習ゲーム”を作りたいと思ってる人は、全ての機能を同じシステムに突っ込もうとして複雑すぎるゲームを作ってしまうと思い、頓挫しやすいと思います。だけど『Shujinkou』では最も大事なところをゲームプレイのコアにして、他の大事なところはミニゲームとして補完する形にしました。

別に「日本語学習には興味がない」という人でも「このキャラが可愛いし、水着姿もいいな」「音楽がめっちゃ良いな」と感じながらプレイして、楽しめるゲームだと思います。

――ところで、ジュリアンさんは日本にお住まいなのでしょうか。

ジュリアン:現在は渋谷に住んでいます。実は本業も別に持っていまして、会社と同じ駅に住むようにしています。たまたま会社が渋谷にあったのですが、偶然にもとても好きな街だったので幸せでした。よく道玄坂を歩いたりしてふらりと飲んでいますね。

――日本国外での反響について、詳しくお聞かせください。

ジュリアン:6月に20人ぐらいのプレイヤーを選んで、クローズドベータテストを行いました。全員海外の方なんですが、その中でも日本語学習のモチベーションがあるプレイヤーは「ゲーム内の迷宮にある看板を見て、書き方や書き順をノートに取る」などしながら、着実に勉強を進めていました。

他にはゲームが大好きな方から「この作品は他のゲームと違って、現実世界で使えるスキルを実際に学習できるから、やる気に繋がる」というコメントをもらったこともあります。ありがたいことに、概ねポジティブなフィードバックを頂いていますね!

――気が早いですが、今後作りたいゲームやRice Gamesとしての展望などがあればお聞かせください。

ジュリアン:ありますね。この『Shujinkou』のビジョンは6年前からありましたし、今から6年後のビジョンも持っています。本作の舞台は日本と台湾の中間のような雰囲気で作ったのですが、30~40時間くらいプレイした頃のストーリーには衝撃的な展開が待っています。そこで2つ目の国に行くわけですが……その終わりに、3つ目の国を示唆します。

実は次回作の開発は、50%くらい完了しています。しかし開発に6年間もかけてしまってお金がないので、一旦ここで終わりです。ですので3つ目、4つ目の国に向かう『Shujinkou 2』を構想しています。

ストーリーはすでに500ページ以上書いているので、次の展開はほとんど準備出来ているし、 最初に登場するキャラクターでも5つ目、6つ目の国に関係してくるキャラクターもいます。最終的には前作データの引き継ぎ機能を実装しての、3部作構成を目指しています。

訪れる国ごとに個別のストーリーが描かれるので、ひとつのストーリーが終わる最後には「他の国に行く理由」が現れます。それも、一応全部繋がっているわけです。この一作目が上手くいけば、開発しようと考えています。

“亡き母との思い出”と『Shujinkou』にかける想い

――ジュリアンさんが『Shujinkou』にかける想いについてお聞かせください。

ジュリアン:『Shujinkou』にはプライベートなことも含め、強い想いが込められています。

私は白人の父と、台湾人の母の間に生まれました。そして愛する妹と弟の5人で台湾に住んでいましたが、高校卒業を機にひとりで渡米して、アメリカの大学に通い始めました。

そんなある日、父から電話があって、母に癌があると知らされました。最初は何を言っているか理解できず、信じられませんでした。しかも癌の中でも重いほうで、大腸癌のステージ3や4。もう手遅れという状況でした。しかも母はまだ46歳か47歳の頃で、若かったんです。大体は60歳以上で到達する段階と聞いたので、早すぎます。

絶望して、その日のシャワーが身に染みたことを覚えています。アメリカから台湾の実家に帰れないことも嫌でした。母が投薬治療を始めて、髪が抜けていく様子を電話の画面越しで見るのが辛かった。

そして母が亡くなる前に『Shujinkou』をリリースしたい、母のために成功した姿を見せたいと思いました。

台湾の文化では、“長男であること”はとても重要な意味を持つのです。もちろん子どもは全員大事にされますが、台湾人の母に長男として良いところを見せてあげたいと、2018年から2020年にかけて、とても頑張りました。

だから東京ゲームショウ2019へ出展するために、人を雇うためのアルバイトなどに必死の想いで取り組んだのです。そしてやっとの思いで東京ゲームショウに出展して、中国、アメリカ、ヨーロッパ、そして日本にいる方と自分の持つビジョンを共有していきました。母のことは言わなかったのですけどね。スキルは足りなかったものの、母は満足してくれて、Facebookに「自分の息子がこんなことをしている!」と投稿してくれましたね。でも、だんだん体の調子は悪くなっていきました。

私が大学を卒業する頃までは元気でしたから、卒業式では写真をたくさん撮って送りました。「2つの専攻を学んで副専攻まで修めたから、2.5倍卒業したよ」と言ったら、母はとても喜んでくれました。

その後、2019年の末に父と兄弟が渡米しました。しかしアメリカは治療費が高いので母は残り、卒業したばかりの私が台湾に戻って、2人で5ヶ月の間一緒に暮らしました。とても貴重な時間でした。もちろんその間にも『Shujinkou』は制作していて、毎日午前3時までずっと作業していたんです。

母が亡くなる日までに間に合わせないといけない。でもデザインも進んでいないし、プログラミングもあるし「こんなに大ボリュームなゲームを作れるのか」と思いました。マネージメントもリモートで行って、20人くらいの給料を払っていたので、自分が貯めた資金で全部できるのか疑問を持って……でも諦めないで踏ん張っていました。

母のケアをして、2週間に1回病院に通いました。癌治療の医師とお話して、検査の結果を話し合ったりしていた病院でも、私は“迷宮の地図”を描き続けました。この道をこう通すとか、 ここにボスを配置するとか。もちろん紙に描いたものはデータ化しないといけないんですが、デザイン的にどうするかもずっと考えて、約50個のフロアを設計しましたね。

母から「また描いてるな」なんて言われながらも、2人で楽しく過ごしていました。夜は一緒にテレビを観て、母が寝たらまたオフィスに戻って、1人で地図を書き続ける。

そのうちに母の容体がさらに悪化して、アメリカでしか治療が出来なくなりました。国際引っ越しです。その頃の母は車椅子に乗っていたので、父がそのための飛行機や家の準備などを手早く行いました。そして、家族5人で頑張って生活しました。ただ、亡くなる1ヶ月半前の体調の悪化は著しいものでした。

とても悲しいことに「ゲームの完成」は間に合いませんでした。私たち「Rice Games」のTシャツは着てもらえたのですが、それが黒いカラーだったことから「縁起が悪い!」なんて冗談を言ってくれましたね。

亡くなった時は「有り得ない」と思いましたし、世の中は不平等、不公平だと感じました。父の嗚咽も、これまで聞いたことがない叫びだったのでずっと記憶に残っていますし、 白い布にお母さんが入って車に乗せられる様子も見ていました。

なぜか泣けなかったんですよ。亡くなってから今まで2回しか泣いてなくて、1回目はその日の夜。2回目はお父さんが昔の写真を出した時です。

大腸癌ステージの3~4の方は、平均6ヶ月で亡くなるんです。 母が2年、3年と頑張ってくれたことには尊敬しかありません。3回目に泣くときは、きっと『Shujinkou』が成功した後のシャワータイムだろうと思っています。でも、母はもういない。どこかから見てくれていることを期待するしかないですね。

日本への引っ越しは、その後です。引っ越してすぐは、とてもイライラしやすい時期が続きました。他人へ向けた怒りではないのですが、出社や退社の時に渋谷を歩いて、母が好きそうなジュエリーを見つけたり、パルコやヒカリエを見て回ったりと色んなことを経験しているのに「母に話せない」という状況は、すごく精神的な負担となりました。

台湾に2人で住んでいた時は一緒にそういう場所を歩いてよく会話していました。しかし、もう何もシェアできない。いろいろな楽しみを共有できないのです。しかし諦めず、私は本業と並行して『Shujinkou』を作りました。母に向けて「私は今、ゲーム制作をしているんですよ」とアピールすることは、今でもモチベーションになっています。

――本当に、簡単な言葉では説明できない想いが『Shujinkou』に込められているんですね。

ジュリアン:体験版でも表示されますが、最初の方には母へのメッセージを記していますし、クレジットにも別のメッセージが含まれています。これが許されるのは『Shujinkou』が外部からの投資を一切受けていないためです。

『Shujinkou』はゼロから立ち上げて、必要な人材を雇ってマネージメントをして、開発資金を自ら稼いで作った作品です。完璧な作品でないことは認識していますし、実際にまだバグを直している段階ですけどね。

実は今、勤めている会社を辞めて、新しく会社を立ち上げるため動いており、数日以内に退職の意思を伝えようとしています(※記事掲載時点では、退職が決定されたとのこと)。来年にはRice Gamesのオフィスを日本で借りたいですし、日本人のメンバーも参加させたい。お金があれば、著名なクリエイターも加えたいですね。私の憧れている方の多くが日本のゲーム業界にいるので、これからがチャンスです。本当に、これからです。

――現在はどのような体制で『Shujinkou』を制作されているのですか?

ジュリアン:まず、作曲家が7名います。私も作曲が好きなので、そのひとりです。もちろんみんなと比べたら全然大したスキルじゃないですけどね。彼らには、私がイメージする楽曲を形にしてもらいました。シナリオを書いたのは私ですが、これは200ページぐらいの脚本みたいなものです。それを5名のライターに、台詞などの形にしてもらいました。イラストレーターは7名で、『Shujinkou』の世界を構築するコンセプトアートやキャラクターデザイン、イラストを描いてもらいました。QA(Quality Assurance)は4名います。彼らには2年弱、ゲームのチェックをお願いしています。今年だけで1,000近くのバグを見つけてくれました!

0:08頃からジュリアンさん作曲のBGM。

一時期はプログラマーのインターンにコードを書いてもらったりもしましたが、その頃はゲームの仕様も不明かつ不確定だったし、製品化できるレベルでないコードも多かったので、結局彼らが書いたほとんどを4年か5年ほどかけて、99.9%を自分で書き直しました。自分が全て書いたと言っていいかもしれませんね。

――チームメンバーは今はどの国で活動していますか。

ジュリアン:ドイツにアーティストが4名いて、イギリスにQAが1名います。高校生にコンピューターサイエンスを教えているMIT卒の方で、凄く賢いんですよ。 アメリカのミシガン州にはリードアーティストのRachel Liuが住んでいて、コロラド州にはリード作曲家のBrian LaGuardiaがいます。カリフォルニアやワシントン、テキサス、ハワイなど各州に住んでいる上に、さらにはオーストラリアにもメンバーがいます。みんなバラバラの場所で活動していますよ。

――まさに、現代のリモートワーク環境があってこそのチームなのですね。

ジュリアン:リモートワークの環境がなかったら実現出来なかったので、整えてくれた技術者に感謝しています。次の世代に、こういう手段もあるんだよと伝えていきたいですね。

もうひとつアピールしたいのは、チームメンバー全員がしっかりとしたゲームをリリースした経験がない点です。小規模なゲームなどを公開したことはあるのですが、ライター5名とも一切ゲーム業界の経験がない状況で。音楽家はアレンジメントの経験がありますが、『Shujinkou』規模のゲームで作曲したことは初めてです。

しかし私は、AAA級タイトルと戦える作品だと思っていますし、『Shujinkou』で挑戦したい。ゲーム業界の経験はありませんが、任天堂やソニーと単独で交渉して、開発用キットを貰って使い方を勉強して、『Shujinkou』をほぼすべてのコンソールでリリースするつもりです。ニンテンドースイッチ版は2025年後半になりそうですが、PC/PS4/PS5で同時発売します。すでにPS5では体験版が配信されていますね。全て一から勉強して審査してもらい、却下されても作り直して、また出して却下される。そういうことをずっとひとりでやっていました。成功するまでは諦めないつもりです。

――サウンドトラックには、サントリーのテレビCM「グリーンダカラちゃん」の曲を手掛けた野口亮さんを始めとした錚々たる面子が参加しています。どのようにアプローチをされたのでしょうか?

ジュリアン:日本に来てからの制作の途中、「楽曲が足りない」という状況に陥りました。当然、日本人の作曲家を探そうと考えたのですが、どこを探せばいいかわからない。困った結果、作曲を教える学校に直接電話することにしました。

そこでゲームをアピールして、野口亮さんとオンラインミーティングさせていただく機会を得ました。さらに他の日本人アーティストも紹介してくれて、凄い曲を作ってくれましたね。後で「ジュリアンの情熱を信じた」と言ってもらえて、嬉しかったです。

『ポケモン』シリーズにも参加されたマスタリングの田中龍一さんのことも教えていただき、スタジオに連絡して実際に顔を合わせて、直に依頼できました。素晴らしい方たちが働いてくれていることに感謝しています。まだ、母のことは話していないですけどね。

――それではなぜ、今回のインタビューでお母様のことを聞かせていただけたのでしょうか。

ジュリアン:かつて私が経験したような苦労に、いま立ち向かっている方はこの世の中にたくさんいると思います。日本人に関わらず世界中で、辛い思いをしている方がいます。 私は自殺を考えたことはありませんでしたが「自殺を考える理由、動機」は理解してしまったんですよ。

「もう大好きな人はいないのだから、頑張る意味なんてない」という絶望的な視点は深く理解できます。 そしてこのインタビューを読んでいただいた方の中には、明日悲しいことに会う人がいるかもしれないし、10年前に似たような経験をした人がいるかもしれない。あるいは、癌で臥せっている人もいるかもしれない。

いま苦労してる方や、まだ直面していない方、いろいろな人にこのストーリーを知ってもらった方がいいかなと思いました。ネットは怖いところなので、いろいろな反応も予想されますが、自分は悪意がある人間ではないということは言っておきたいです。ジュリアン・ライスは、ただの26歳の夢がある男です。優しくしてください。

皆さんも、親が自分に優しくしてくれたら、ちゃんと優しさを返してあげてほしいと思います。良くない親なら大変ですが、自分の子供がいたらロールモデルになってあげて欲しい。もしも自分をちゃんとケアしてくれた親御さんがいて、まだご存命なら、電話をかけたり会いに帰ってみてください。「ジュリアンってやつが電話しろって言ってたんだけど」と理由にしてもらって全然いいですよ(笑)。

――『Shujinkou』は、日本語ネイティブのゲーマーにとっては不思議なゲームに受け取られるかもしれません。最後に、読者に向けてメッセージをいただけるでしょうか。

ジュリアン:まだ日本語に対応していないので、日本人のゲーマーに「買ってください」とは言いません。でもこのゲームを「面白そうだ」と思って、もし体験版を遊んでみて気に入っていただけたら、覚えていてください。もちろん、ファンアートは大歓迎です。可愛らしい二次創作はずっと待っています!

英語が出来る方は、ぜひ本作を遊んでみてください。後悔はさせません。Discordサーバーもあり、自分は毎日チェックしていますし、英語でも日本語でもどちらでも対応可能です。いつでも連絡をくれると幸いです!

――今回は、ありがとうございました!


3DダンジョンRPG『Shujinkou』は、2025年2月リリース予定。日本語ローカライズは2025年を予定しています。英語が出来る方もそうでない方も、DRPG好きはぜひチェックしてみてはどうでしょうか。


開発元Rice Gamesの公式サイトは下記のリンクから。問い合わせメールアドレスはcontact@ricegames.netで、本作が気になった企業や関係者からの連絡はいつでも歓迎しているとのことです。

Rice Games公式サイト
ライター:高村 響,編集:TAKAJO

ライター/ゲームライター(難易度カジュアル) 高村 響

最近、ゲームをしながら「なんか近頃ゲームしてないな」と思うようになってきた。文学研究で博士課程まで進んだものの諸事情(ゲームのしすぎなど)でドロップアウト。中島らもとか安部公房を調べていた。近頃は「かしこそうな記事書かせてください!」と知性ない発言をよくしている。しかしアホであることは賢いことの次に良い状態かもしれない……。

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編集/いつも腹ペコです TAKAJO

Game*Spark編集部員。好きな映画は「ダイ・ハード」、好きなアメコミヒーローは「ナイトウィング」です。

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