ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第16回は『Mouthwashing』を取り上げます。
本稿は『Mouthwashing』のネタバレとグロテスクな画像が含まれていますので、閲覧時にはご注意ください。
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近年のローポリ風アドベンチャーゲームの流れのなかで、またしても傑作が誕生しました。その名も『Mouthwashing』。開発はWrong Organ、販売は『Buckshot Roulette』などで知られるCRITICAL REFLEXが担当しています。
宇宙船に閉じ込められた5人の男女が主人公の短編サバイバルホラーですが、何度もプレイヤーを裏切ってくれる脚本で、たった2時間半のゲーム体験の割に、思いも寄らない地点へと誘ってくれました。
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舞台はタルパという宇宙貨物船の船内。のっけから小惑星と衝突し、孤立無援の状況になってしまいました。食糧や電力には限界があり、頼れる船長は事故の影響で大火傷を負っています。
彼があげる悲痛な呻き声を鎮痛剤で黙らせながら、船員たちはいかに一日でも長く生き延びるかを画策していきます。考えた末、輸送している貨物を開けてみようという結論に至りました。一年間もの航海において、彼らが運んでいたものは、なんと……。
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本作は一人称視点のサバイバルホラーであり、クローズドサークルに閉じ込められた5人の男女が少しずつ正気を失っていくタイプのゲームではありますが、その手のジャンルにしてはかなり独特なストーリーラインを辿っていきます。
背景にあるのは、彼らが所属する運送会社「ポニー運送」。船内にべたべた貼られているポスターを読む限りはなかなかのブラック企業ですが、こんな会社でも彼らの食い扶持であり、彼らなりにやり甲斐は感じているようです。
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頼れるリーダーにして船長のカーリー、地上にいた頃からカーリーと仲が良かった副操縦士のジミー、内気な性格の船医アーニャ、ぶっきらぼうだけど仕事ができるスウォンジー、若くて元気なだけが取柄のインターン君ダイスケ。
彼らの人間関係を、衝突前のパートをカーリーの視点で、衝突後のパートをジミーの視点で、カットバックしながら眺めていくことになります。
地獄のような状況に追い詰められた彼らが錯乱することで話を動かす……といったホラーあるあるの安易な手法は極力避けており、本作ではとにかくこのカーリーとジミーの関係性をねっとりと描きます。なんなら、SF設定も閉鎖された宇宙船も、ただの舞台装置に過ぎません。
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ゲーム画面は徹底して息苦しい宇宙船内に固定しておきながら、キャラクターたちの会話から、彼らが自分たちの仕事や人生とどう向き合っているかがジワジワと浮かび上がってきます。
特に、ジミーのカーリーに対する視線は暑苦しいくらいで、ゲームの半分くらいは彼の心象風景をなぞっている時間なのではないかと思うくらいです(そのパートもただの超現実的なカットシーンにしてしまうのではなく、鬼ごっこやFPSといった感じで、ビデオゲーム的な遊びを入れようとするところに、開発のサービス精神が感じられます)。
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彼はジミーに見つめられ、何を感じていたのでしょうか? 嫉妬、羨望、友情、殺意、親愛、連帯感……褒められたい、わかってもらいたい、横に並んでいたいという気持ちも含まれていそうです。
所詮カーリーにとっては手早く登り詰めただけの斜陽企業だったのかもしれませんが(それもあくまでジミーの見立てに過ぎませんが)ジミーたちにとっては最後の砦だったわけです。
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本作のモチーフは『Mouthwashing』。口に含んでうがいして、ペッと吐き出せばスッキリするあの定番商品です。そんな感じで今までのことをさっぱり吐き捨てられたら良いんですが、いかんせん今の状況はそうも言ってられず、アルコール代わりに呑んでないとやってられません。それが劇薬だとわかっていても。
キャラクターの言動や小道具においても過不足は一切なく、とてもタイトにまとまった秀逸なホラーアドベンチャーゲームでした。ただの感情のぶつけあいではなく、宇宙船のなかで起きたアクシデントを時系列をシャッフルしてうまく隠しているのも、純粋に脚本が上手いなと思わせるポイントです。
ローポリとは思えないほど美しい銀河の表現や、逆にローポリだからこそなんとか直視できるギリギリのグロテスク描写もバッチリ決まっています。特に終盤のあまりにも気持ち悪すぎる配“肉”管パズルは、GOTY(ゴア・オブ・ザ・イヤー)を取るべきだと思いますね!
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