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新宿。昔からフィクションやドキュメンタリーで登場するとき、土着的な路上の現実や、反社会的勢力が蠢く殺伐とした場所として描かれることが多い場所です。
しかし近年は再開発が進んだ結果でしょうか……奇妙なことに、土着的とは言い難い、まるでビデオゲームのサイバーパンクみたいな都市へと(一部)変貌しているのです。生々しく、ざらついた現実を象徴するような街が、いったいなぜ、こんなゲームのように見える無菌的なイメージを採用してしまったんでしょうか?
というわけで春先に掲載した「長野県上諏訪市オープンワールド編」に続き、葛西祝がお送りする「ゲームみたいに錯覚する現実の場所」第2回、新宿編です。せっかくの年末です。ゲーマーが錯覚で頭がクラクラする特殊ガイドをお送りしましょう。
“現実”をゲームなどデジタル空間上にシミュレートしきったら、元の現実はどうなるの?
ビデオゲームではその進歩によって、フォトリアルなグラフィック表現ができるようになったことで、現実世界をそのまま再現するかのようなタイトルが数多く登場してきました。
そこで僕は1999年に『シェンムー 第一章 横須賀』が登場したあたりから「このままゲームが進歩したら、地球上の世界そのものをシミュレーションしたものも出てくるのかな。デジタル空間内で現実を丸ごと再現するくらいのことがあれば、その先の現実はどうなるんだろう」と考えるようになりました。
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「現実世界のあらゆるものをデジタル空間に再現できてしまったとき、その後の現実というものはどういう影響を受けるのだろうか」とまで考えていましたね。実際、今年『Microsoft Flight Simulator 2024』が登場し、地球上すべての風景がシミュレートされたフライトシミュレーターが実現。僕の妄想なんだか不安なんだか曖昧な考えは、現実になりました。
それ以前に、ゲームではないですがGoogleがとっくにストリートビューや3Dマップを実現したりしています。もっと細かく言えば、コミュニケーションもさまざまなSNSを経由して行っています。普段の生活もデジタルデバイス上にあるそうしたサービスを使ったりしているわけですから、すでに現実世界の日常は、デジタル空間上のものと融合している面があるでしょう。そしてビデオゲームとはそうした現実を、エンターテインメントとして象徴的に見せる手段でもあります。
生々しい現実感の象徴だったはずの街にて
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しかし……それにしても “現実世界の日常が、デジタル空間上のものと融合している”環境が普通になったとは言っても、現在の新宿の豹変はやりすぎでしょう。
東急歌舞伎町タワーがまるで映画「ブレードランナー」のタイレル社だとか、『サイバーパンク2077』のアラサカのように漂白された街を見下ろす風景は、かつてなかったものでした。サイバーパンクジャンルでは国家を企業が支配するという世界がよく見られましたが、その意味で現代の新宿は東急による企業支配が進んでいるとすら錯覚するほどです。
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東急歌舞伎町タワー内部に広がる “サイバーパンクらしい”空間の数々は、圧倒されるというよりも「どうしてこういう街になったんだろうな」と考え込ませるものでした。
まだ「龍が如く」シリーズが登場したころは、新宿の路上の現実感によって、初期には「ついにビデオゲームの世界でも生々しい路上のリアルを表現しようとしている」と評価されたものでした。
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初代『龍が如く』リリース前の当時は「日本版『GTA』になるのでは?」なんて期待されながら、実際には道端の人を無意味に殴ったりはできない全く違うゲームが出てきたことでいろいろと言われたりしましたが、まずはビデオゲームらしくはない、生々しい歌舞伎町の空気感を体験していくゲームだったということが先んじていたと思います。
『龍が如く』だけではなく『新宿の狼』や、古くは80年代の『探偵 神宮寺三郎』シリーズなどなど、ビデオゲームにおける新宿とは、むしろビデオゲーム的なもの、サイバーパンク的なものと真逆な、汚れた苦い現実感を味合わせる場所として登場してきました。ゲームがファンタジーやアニメ的な世界観を描きがちな流れに抵抗するかのように、現実を舞台としたゲームは華やかでもない街を丹念に再現してきたものでした。
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歌舞伎町の東にあるゴールデン街や、新宿西口の思い出横丁。それらはある種、わかりやすい新宿の風景のひとつでしょう。雑居ビル全体に詰め込まれた飲食店、路地に立ち並ぶバーや飲み屋。道を埋め尽くすかのように刺さる看板。『龍が如く』がリアルな街並みを作る目的は、こうした歓楽街の人間が息づく街の気配そのものだったことは間違いないでしょう。
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生々しい街の風景を、バーチャルなゲームのなかで可能な限り実現するということ。ドラゴンエンジンで開発された『龍が如く6 命の詩。』以降は主観視点で歩き回れたり、カメラで撮影できる機能がついたりしたことで、 “主人公の桐生一馬や春日一番の物語と無関係な、シミュレーションされた歌舞伎町 ”の姿を生々しく体験できるようになっています。そこでは時に荒々しい暴力が野ざらしにされているのを、観てしまうこともあるでしょう。現実に路上で倒れている人や怒鳴り合う人を見てしまうのと同じように。
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『龍が如く』は当然フィクションの表現がほとんどですが、街の姿はリアリティを徹底しています。そこにはサイバーパンク的な、現実感を無くすような要素はなかったはずです。
ですが、実際にはゲーム以外の文化にて様々な影響が関係し、生々しい現実を象徴していたはずの新宿は、真逆のサイバーパンクとしてのイメージを付与していくようになるのです。
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新宿が影響を与えたサイバーパンクの原風景
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日本人からすると、新宿の風景と、そして歌舞伎町の街並みは生々しい現実を表す場所と感じることは多いです。しかしそれは国内に住んでいるから感じていることであって、欧米諸国から見るとそう捉えられていないことも少なくありません。
新宿歌舞伎町の風景や香港のネオンライトが溢れかえる街並みは、ヨーロッパ各国が都市開発する姿と大きく異なっています。ビルに店を詰め込み、電光看板が壁に張り巡らされ、夜の街を禍々しく照らす歓楽街の風景。それはサイバーパンクというジャンルの視覚表現を定義した、「ブレードランナー」に影響を与えた、と言われています。
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新宿歌舞伎町はしばしば「ブレードランナー」が見せた街並みのモデルだと言われています。しかし、日本在住のジャーナリストであるジョシュア・マイヤー氏のブログによれば、「ブレードランナー」がモデルにしたのは歌舞伎町だけではないと指摘しています。
マイヤー氏によれば、エドワード・ホッパーの代表的な絵画「ナイトホークス」やフリッツ・ラングの映画「メトロポリス」などをベースにしながら、アジア圏の香港や新宿のほかにも、メキシコシティやインドのコルカタに見られる街の密度を参照していたのではないか、と推察しています。つまり「ブレードランナー」でモデルとした都市はひとつではなく、歌舞伎町は街のビジョン作りを模索するためのひとつの要素に過ぎないのではないかと語っているのです。
実質的な『サイバーパンク2077』のアトラクション
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ともあれ、「ブレードランナー」のビジョンは劇場公開から40年以上が経過しても、未だに映画やアニメ、漫画、そしてビデオゲームに影響を与え続けています。そのビジョンの最新系が『サイバーパンク2077』なのは疑いようもないでしょう。
それにしても奇妙なのは、再開発後の新宿の各地にて、素朴に『サイバーパンク2077』的な意匠を施していることです。先のマイヤー氏の考察では“歌舞伎町は「ブレードランナー」の直接のモデルではない”と指摘しているわけですが、当の再開発後の新宿は、まるで「サイバーパンクのビジョンのオリジナルとはこの街だ」と言わんばかりの店舗がやけに見当たるのです。
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『サイバーパンク2077』にて代表的なガジェットに、人間の記憶を実際に体験できるブレインダンスがあります。どうも東急歌舞伎町タワー内の店舗はまるで『サイバーパンク2077』を実質的に再現するかのようなものが多く、VR体験ゾーンあたりはブレインダンスそのままだったりします。
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真夜中に明滅するクロス新宿ビジョンに映し出された猫もまた、サイバーパンク的な未来風景的と言えるでしょうか。周囲には海外の方の姿が数多く見当たり、イスラム教の女性がスマートフォンで画面の向こうにいる猫を撮影している姿が見られました。
新宿は渋谷や秋葉原と同じく、海外の観光客で溢れています。それにしてもですが、再開発後の新宿サイバーパンク化というのは、「(欧米諸国からすると)未来社会の風景のインスピレーションを与えたアジアの都市」という魅力を見せるためのインバウンド狙いもあるのでしょうか?
新宿は土着的な部分があるからこそ、人が行きかって歓楽街から路地裏に並ぶ大量の店のような、密度の高い街の風景が生まれていたかと思います。しかしそんな密度の高さの魅力……街の情報量の高さの魅力と言い換えてもいいでしょう、それをサイバーパンクとして披露し、観光客向けに見せているというのは、なかなか奇妙なことではないでしょうか。
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『サイバーパンク2077』では室内にネオンライトのインテリアがあしらわれたお店が数多く営業しているのですが、再開発後の新宿はそれを倣うかのようにネオンが煌めく店がなぜか増加しています。
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新宿東口にある龍乃都飲食街もまた、上の写真のように膨大なネオンライトで彩られた看板で店内が装飾されています。2022年に開業したこの場所は、和食、韓国料理に香港料理、そしてタイ料理からイタリアンまで雑多な店が入り組んだ場所です。さしずめ「ブレードランナー」の街で多様な人間が行きかったのに合わせるかのように、サイバーパンクの意匠を入れています。
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他にもすべてが人口肉になった世界観として、ハンバーガーなどをヴィーガン食に変えたメニューを用意したり、ビニール袋に酒を入れたものを提供するバー・NEO新宿アツシや、2024年の2月に開業したばかりの中華料理店・天府火鍋巷子などがレトロな中国風サイバーパンクを見せています。
これらもまた再開発以降に登場した店舗であり、どうも新宿が実質的に『サイバーパンク2077』を部分的に再現したテーマパーク化しつつあるのです。もちろん、これ以前からロボットレストラン(現在は閉業)などがありましたが、現在のこれらはまったく毛並みが違います。
街を漂白して制御しようとする動き
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しかし、新宿のサイバーパンク化が単なる見た目だけではなく、冒頭で少し触れたような企業支配・公共の支配が進んでいるのが気にかかりますね。
代表的なのは新宿東宝ビル横、歌舞伎町シネシティ広場の閉鎖が行われたことです。東宝ビル周辺に集まる未成年たち「トー横界隈」から派生した「広場界隈」と呼ばれる層のたまり場であり、彼ら・彼女らは後に反社会的なテーマのフィクションやノンフィクションに使われるだけではなく、俗に“地雷系”と呼ばれるファッションはアニメやゲームにまで伝播するなど相当に文化的な影響を与えていました。
それが2023年末から、青い柵を広場全体に張り巡らせ、人が入れないように整備されたのです。東急歌舞伎町タワーの麓で行われたこの対応に、僕は「本当にいまの新宿は生々しい現実にあたるものを漂白させていっているんだ」などと思いました。もちろん少年少女たちはいなくなったわけではなく、近くのビルの壁に寄りかかりながら座っているのが見えました。
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トー横の未成年たちがずいぶんと減った場所で、代わりにシンガーソングライターの眉村ちあきさんがちょうどライブをやっているのを見かけました。
僕はあまり彼女のことを知りませんが、歌声を聞きながら「ビデオゲームみたいな意匠で街を変え、生々しい現実が削られていく先に何があるんだろうか」と、妄想なんだか不安なんだか曖昧なことを考えていましたね。
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現実世界とデジタル空間が融合した時代にて、映画からビデオゲームで発達したサイバーパンクのアートスタイルを使い、 “情報量に溢れた街”を海外観光客向けに演出しながらも、地肌にある生々しく、汚れもある現実というのが漂白されていく。
これが “現実世界をデジタル領域にてシミュレーションしきった後の現実ゆえに起きた事態”かどうかは判断を保留しますが、あの新宿がこうしたビデオゲームのような風景になる意味は縺縺九縺玖??縺輔繧峨繧九
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