建築設備事業やプラント設備事業などを展開する総合エンジニアリング企業の三機工業は現在、全グループ社員が「つながる」組織への変革を目的とした「Be Connected with DX」というDXビジョンを掲げ、デジタル改革を本格的に推進しています。
その一環として、eスポーツ関連事業を行うGRITzのサポートのもと、社内研修プログラムにeスポーツを取り入れるという新しい試みにチャレンジ。全国から集まった20代から60代までの幅広い社員が、チームで対戦するアクションゲームを活用したチームビルディングプログラムを実施しました。
なぜeスポーツを研修プログラムとして採用したのか? そこにはどのような効果があったのか? 研修プログラムの運営を行ったコーポレート本部デジタル改革推進室企画開発部の徳田直也氏に話を聞きました。

<インタビュアー:GRITz 代表取締役 温 哥華、e-Sports Business.jp編集部 多賀秀明>
"社員が繋がる組織に" ―全社で推進するDXビジョン
――まず、徳田さんのご経歴を教えていただけますか。
徳田私は2009年に三機工業に入社し、現在16年目になります。入社後はファシリティシステム事業部に配属され、主に企業の移転に関わるプロジェクトマネジメントなどを担当。その後、タイでの1年間の海外研修を経て、大阪での勤務、海外赴任と、おおむね3年に1回のペースで異動を重ねてきました。2020年3月に海外赴任先から帰任し、海外事業関連の部署、経営企画部を経て、現在はデジタル改革推進室企画開発部に所属しています。
――三機工業の事業と、DX推進の取り組みについて教えてください。
徳田当社は1925年4月22日に旧三井物産株式会社の機械部を母体として創立され、2025年で創立100周年を迎えます。主力の建築設備事業では、空調、衛生設備、電気の工事を手がけています。当社の売上構成比では建設設備事業が8割を占め、それ以外にプラント設備事業として搬送機器の製造や上下水道施設、ごみ焼却場の設計・施工も行っています。
2023年に「Be Connected with DX」というビジョンを掲げ、デジタル改革を本格的に推進し始めました。特長的な取り組みとして、全社から募った有志の「デジタルインフルエンサー」と、各部門から選出された「DXマネージャー」という2つの異なるポジションを設けています。まだまだこの施策は緒に就いたばかりなのですが、デジタルインフルエンサーは現在約70名で20代から60代まで幅広い年齢層が参加しています。主にはデジタル活用を積極的に職場内に広めてもらいたいと考えています。DXマネージャーも同じく現在約70名で、部門のIT課題抽出や活用推進の役割を担っています。

――全社的にDXを推進する中で、今回のeスポーツを活用したチームビルディングプログラムについて、どのような経緯で実施することになったのでしょうか。
徳田デジタルインフルエンサーやDXマネージャーの方々は全国各地に散らばっていることもあり、オンラインでは繋がっているものの、対面での交流機会がありませんでした。より活発な交流を図るためにも、実際に会って話せる機会が必要だと考えました。また、デジタルインフルエンサーやDXマネージャーの方々には、率先して活躍してもらいたいので、スキルアップの場も必要でした。
そこでまずはじめに、デジタルインフルエンサーとDXマネージャーを対象にした「ビジネス×デジタルスキルアップ研修プログラム」を企画し、その一環として、チームビルディングプログラムを組み込みました。持ち場・立場は違えど、共通の目標や目的を持つ仲間としての意識形成と、忌憚なく意見交換しあえる関係性の構築が必須だと認識していたので、本研修プログラムでは知識・スキルを身に着けるのと同じくらい、チームビルディングが重要であると考えていました。
また、なぜeスポーツを選んだかというと、もっとも“デジタルらしい”コンテンツだから、というのが大きな理由です。他にも案がありましたが、チームビルディングをテーマとしたデジタル改革を推進する部門の研修プログラムとしては、やはりeスポーツが最適だと考えました。また、対戦協力系のゲームなら、少人数のチームで一緒に戦略を立て、状況に応じて臨機応変に対応していく柔軟な対応力も培われると思っていました。
研修プログラム自体の企画を通すのはそれほど大変ではありませんでした。目的が「デジタルインフルエンサーとDXマネージャーを繋げる」という点で明確だったからです。ただ、前例のない取り組みでしたので、「なぜeスポーツなのか」という点は丁寧に説明する必要がありました。
――徳田さんご自身はゲームやeスポーツとの関わりはありましたか。
徳田私はコンシューマーゲームをほとんどやりませんでしたが、学生時代にPCのオンラインゲームは結構やっていました。『ラグナロクオンライン』をはじめとしたMMORPGや、戦車の対戦ゲーム『World of Tanks』などです。人とのコミュニケーションが好きで、対戦や協力プレイ系のゲームを好んでいました。

eスポーツで実現するチームビルディング
――実際の研修プログラムはどのような内容だったのでしょうか。
徳田1泊2日の研修プログラムで、1日目の午後からDXの基礎講座とワークショップを行い、その後懇親会を実施しました。2日目は午前中にデザインシンキングの講座を行い、午後1時から5時までの4時間を、eスポーツを活用したチームビルディングプログラムに充てました。
28名の参加者を4人×7チームに分け、各チーム3人がプレイヤー、1人が監督役を務める形でチーム対戦を4回行いました。チーム内でのフィードバックや役割分担は各チームに任せました。
参加者は北海道から山口まで全国から集まりました。ほとんどがゲーム未経験でしたので、事前に練習用のチュートリアルを案内し、リマインドも何度か送ったんです。すると「リマインドが来たけど、あのゲームやってみた?」と参加者同士で話題にしてくれて、少しずつ準備してくれる方が増えていきました。
実は、前日の懇親会も非常に重要だったんです。懇親会の場で「このあとみんなで練習しよう」と声をかけたことで、自然と練習会が始まりました。施設の使用時間である23時ギリギリまで、ほとんどの方が参加してくださいましたね。お酒の席の雰囲気が後押ししてくれたのもありますが(笑)。
特にゲームに馴染みのないベテランの方々に若手が教えたり、チームメイト同士で教え合ったりする様子が見られたのが印象に残っています。お酒を交えた交流を目的に参加された方も、周りがゲームをやっている姿を見て「ちょっとやってみようかな」と参加してくださいました。
――準備の段階から、良い雰囲気づくりができていたのですね。
徳田前日の懇親会のおかげで、当日も朝から既にチームの空気が温まっていましたね。その上で、司会・実況を担当したプロのキャスターさんが会場の雰囲気を一気に引き上げてくれました。私もプロのキャスターさんの隣で補助的な司会をさせていただいたのですが、実は台本なしのほぼアドリブでした。司会の方との掛け合いの中で、参加者の方々の普段の様子を交えながらプログラム進行を行えたのは良かったと思います。

――印象的なチームや参加者はいましたか。
徳田64歳の最年長の方がいらっしゃいましたが、その方のチームが特に印象的でした。結果的にそのチームは全敗してしまったのですが、最後まで前向きにチーム内で鼓舞しあいながら取り組んでくれました。一方で、若手の社員が「負ける気がしません」と試合前に宣言するなど、あえてヒール役になって場を盛り上げてくれる場面もありました。
社員同士だからこそできる掛け合いも面白かったですね。例えば広島から来たある社員は、普段から突拍子もないことを言い出したりする方で(笑)。私にとっては先輩なのですが、そういった普段の様子を絡めながら会場を和ませることができました。
参加者のユーザーネームも話題になりました。普段とは違う名前をつけられる方もいて、「この人、実はこんなニックネームだったんだ」といった発見があり、それも会話のきっかけになりました。
他チームの試合を観戦している時も、自然と応援の声が上がっていました。成績はホワイトボードに記載する形態をとっていたのですが、自主的に試合成績を記録する係を買って出てくれる方もいて、本当に全員参加型の雰囲気で。全敗しているチームに対しても、「次こそは!」と会場全体で声援が送られるような、温かい雰囲気でしたね。

――研修プログラム実施後、参加者からはどのような感想や評価の声が寄せられましたか。
徳田アンケートでは、「初めてeスポーツを体験しましたが、チーム内でコミュニケーションを取りながら、より良い戦略を立てて実行するというのがまさにPDCAでしたので良いツールだなと思いました。(30代男性)」「1日目が初対面の方もいる中で、ずいぶん打ち解けられたように思います。ゲームを通すと、それぞれの個性の開示が早かったように思います。(40代女性)」といった回答をいただきました。
変わりはじめた組織のコミュニケーション
――研修プログラムの効果は普段の業務にも表れましたか。
徳田最近、生成AI関連の社内説明会をオンラインで実施したのですが、興味深い変化が見られました。チャットでの質疑応答で、我々が答える前にデジタルインフルエンサーの方が回答してくれるような場面が何度もありました。自発的な情報共有が行われるようになったんです。
研修プログラム実施前は各自が個別に課題を抱えていた状態でしたが、今ではまだまだ一部分ではあるものの社員同士が繋がり、困ったことがあれば気軽に相談し合える関係性が築けてきました。これこそが、私たちが目指していた「Be Connected with DX」の形なのだと実感しています。
――今後の展開についてお聞かせください。
徳田来年度は5月と10月の2回実施を予定しています。今回は28名での開催でしたが、デジタルインフルエンサーとDXマネージャー含めたより多くの方々に参加いただきたいなと考えています。彼らをサポートして繋げていくことで、今度は自分たちでアイデアを生み出していってほしいなと。そういった流れが全社的に広まっていってほしいです。そのためにも、企画の際は目的をしっかり定め、しっかり準備していきたいです。
――今回の経験から、eスポーツにどのような可能性を感じましたか。
徳田eスポーツの可能性は本当に無限大だと感じています。今回はオフラインでの開催でしたが、将来的には全社での開催や、拠点間での対抗戦なども考えられます。私自身、学生時代にオンラインゲームで人と人との繋がりを経験してきました。当時はまだボイスチャットも一般的ではない時代でしたが、オンラインゲームを通じて人と繋がることができました。
VTuberなども含めて、バーチャル空間での活用方法にも大きな可能性を感じています。人と人が繋がるのは、リアル空間も大切ですが、バーチャルでもしっかりと繋がることができます。特にeスポーツは、文化の違いも超えられる良さがあります。例えば『マリオカート』のような、シンプルなルールの中で全員が対等に戦えるゲームは、まさにその典型です。私はここにeスポーツの大きな可能性があると考えています。
――最後に、三機工業の今後の展望をお聞かせください。
徳田2025年4月22日に当社は創立100周年を迎えます。それにあたり、100周年のスローガンとロゴ(下図)を策定しました。スローガンは「人に快適を。地球に最適を。」で、これは全グループ社員へのアンケートを通じて、社員が考える当社の強みや特長を反映させたものです。また、全社横断的な「創立100周年記念事業プロジェクト」を発足し、100周年を記念した様々な企画を検討しています。

当社は総合エンジニアリングを通じて快適な環境を提供する企業として、サステナビリティにも配慮しながら、次の100年も選ばれ続ける企業を目指していきます。そのために、今回のようなデジタル改革の取り組みも、より一層推進していきたいと考えています。
――ありがとうございました!