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『ライザのアトリエ』キーワードは「完全性」!改めて確認する錬金術の起源とその目的【ゲームで世界を観る#54】

全ての金属は黄金に向かって成長するのです。

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『ライザのアトリエ』キーワードは「完全性」!改めて確認する錬金術の起源とその目的【ゲームで世界を観る#54】
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夏と言えば『ライザのアトリエ』の季節です。聞こえてくる蝉の鳴き声や海辺の田舎町など、ファンタジー版「なつやすみ」と言ったところでしょうか。アニメ版も現在放映中で、今年の夏を締める一本としてシリーズをプレイしてみるのも良いですね。

ファンタジーの作品ではお馴染みの存在になった錬金術。様々な実験器具を使って有用な薬を作り出す技術は、それ自体が不思議な魔術的なイメージが付随しています。便利なものを作ってくれるのは有難いですが、果たしてその怪しい実験は何を目的としているのでしょうか?

錬金術の起こりは古代エジプトとされ、金属の精錬やガラス製造の高い技術の中から発生しました。「Alchemy」とはアラビア語由来の言葉で「Al」が定冠詞、「Chemy」がエジプトを著す語幹、つまり「エジプトのもの」が語源です。エジプトでは暦や測量などの技術はファラオを中心とする神に近い者が司る者であり、化学変化や熱変成もまた神の御技として信仰心と密接に関係する者でした。

エジプトで発展した錬金術はローマ帝国の勢力拡大に伴って衰退、中心地アレクサンドリアは異教として多くの文物が破壊、知識の一大拠点であった大図書館も焼失してしまいました。東ローマ帝国のコンスタンティノープルを経由して、7世紀頃に興ったイスラム勢力に伝来。実験器具の発展と共に現代化学の基礎となる研究が進んでいきました。

錬金術の目的は物質をより上位の存在に昇華させること、不完全なものを完全なものにすることです。現代に伝わる錬金術の考えによると、世界にある全ての物質は基本となる物質、第一資料(プリマ・マテリア)に4つの「性質」(湿乾熱冷)のうち2つが加わることで四大元素、すなわち火、水、土、空気(風)が成り立っていて、この「性質」の部分を書き換えることで物質の特性を変えられるというのです。

この四大元素の他に、天空の世界または宇宙全体を満たしている第五元素があり、力の働きや物質の反応のエネルギーになると考えられていました。ファンタジーではお馴染みの「エーテル」がこの第五元素です。蒸留を行うとこの第五元素を分離抽出できると考えられていて、錬金術の器具の中でも蒸留器が象徴的なアイテムになります。

錬金術の代表的な作業が、鉄や銅などの卑金属を金銀などの貴金属に変えること。錬金術が形作られるより前から、鉱山に関わる人々には「金属は成長して最終的に金になる」という信仰がありました。当時の主な7種類の金属、鉄、銅、鉛、錫、水銀、銀、金はそれぞれの成長段階にあるものだと考えられていました。そこから発展して、錬金術では実験によって不完全段階にある金属の成長を起こし、完全なる金に到達できるとしました。

金は数千年経ても輝きを失わない永遠不変の物質です。錆びたりくすんだりしない、金属における「死」を克服した状態と捉え、それ故に完全性の象徴になります。錬金術の全ての実験に通底するのが「不完全から完全に」、つまり理想的な状態に近づけるということです。金属の成長の技術を応用すればあらゆる物質、ひいては不完全な人間を不老不死、つまり「不変」の存在にまで高められる。これが錬金術の究極的な目標なのです。

この完全性をもたらすものとして、錬金術が作り出そうとしていたのが「エリクサー」と「賢者の石」です。どちらも使えばあらゆる物質を黄金へ、人間を不老不死に変え、理想上の硫黄と水銀から作るとされています。エリクサーはアラビア時代の錬金術で、乾いた粉か液体の霊薬を想定していました。それがヨーロッパに入ると固形の物体に変化し、「賢者の石」として伝説的なアイテムのイメージが完成します。

『ホグワーツ・レガシー』の回でも説明しましたが、錬金術の神秘主義的な要素として「小宇宙(ミクロコスモス)と大宇宙(マクロコスモス)」があります。実験で起きることは宇宙の理と同期し、天体の動きはフラスコの中へ作用する力があり、逆にフラスコの中から宇宙全体へ影響を与えられると考えられていました。そのため、物質の研究は天文学と密接にリンクし、数秘術的な要素も加えて、完全な宇宙の理を解き明かすことでもありました。

現代の科学とは全く違う古代の信仰にルーツを持つ錬金術ですが、その考え方は最先端の研究に通じるものがあります。あらゆる物質がより小さい大本の物質でできているというのは、原子が陽子と中性子、さらにその先の素粒子に繋がり、金属が成長するという考え方も、順番こそ異なるものの核融合による金属の生成に似ています。鉄が最も普遍的という点は正しく、通常の恒星内の核融合では鉄より重い金属は作られません。超新星爆発など星が潰れる強烈なエネルギーの中でのみ金や鉛などの重い金属が生成されるのです。人々の直感は真理を突いていたというのが面白いですね。

そして現在「金属の成長と退化」、つまり粒子をコントロールして別の元素に作り替える実験が行われ、実際に他の元素から金を生成する実験も成功しました。さらに新元素の研究も進み、日本では元素番号30番の亜鉛と83版のビスマスを合成して、113番の新元素「ニホニウム」の生成に成功しました。連勤は過去の怪しい術ではなく、形を変えながらも現代まで受け継がれる最前線の科学研究と言えるでしょう。


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