なぜ2010年代前半にインディーホラーは台頭したのか?『Cry of Fear』『Amnesia』と、メジャーホラーが“恐怖”を見失った時代 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト

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なぜ2010年代前半にインディーホラーは台頭したのか?『Cry of Fear』『Amnesia』と、メジャーホラーが“恐怖”を見失った時代

2010年以降、新たに台頭してきたインディーホラーゲームの魅力と、『バイオ』『サイレントヒル』などのメジャータイトルの行方に迫る。

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なぜ2010年代前半にインディーホラーは台頭したのか?『Cry of Fear』『Amnesia』と、メジャーホラーが“恐怖”を見失った時代
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2010年代初頭、世界のホラーゲームシーンは歴史的な変革期のただ中にありました。それまでジャンルを牽引してきたメジャータイトルの商業化・アクション化が進む一方で、PCを中心としたインディーゲーム界隈から、全く新しい恐怖の形が次々と産声を上げていた時代です。

その象徴的な年にあたる2012年に産み落とされた伝説的な作品が、Half-LifeのMod(改造データ)として出発し、後にスタンドアロン化された傑作サバイバルホラー『Cry of Fear』です。

というわけで本稿では、『Cry of Fear』や『Amnesia』など、なぜ新たなインディーホラーが台頭してきたのか、『バイオ6』をはじめとするメジャータイトルが低迷していた要因を探り、2010年代前半のホラーゲームシーンの状況を考察していきます

◆インディーホラーの新たな勢力『Cry of Fear』、『Amnesia』の魅力

まずは『Cry of Fear』や『Amnesia』がどんなゲームなのか、その概要と魅力を見ていきましょう。

本作は、Psykskallarによって制作され、現在はSteamで無料配信されている一人称視点ホラーアクションゲームで、シングルプレイと最大4人でのマルチ協力プレイに対応しています。無料とは思えない圧倒的なクオリティと、心に重くのしかかるストーリーと恐怖演出から今なお多くのホラーゲームファンに愛されています。

なお、残念ながら日本語字幕には未対応ですが、有志による日本語化Modも存在するようです。導入にあたっては自己責任でお願いします。

物語の舞台は、陰鬱で不気味な雰囲気が漂うスウェーデンのストックホルムの街。主人公である19歳の青年「サイモン(Simon Henriksson)」は、ある夜、負傷した男性を助けようとして車に轢かれてしまいます。彼が意識を取り戻すと、そこは見たこともない見知らぬ路地で目覚めます。街にはおぞましい異形の怪物が徘徊しており、サイモンは自宅へ帰るために、悪夢のような世界を探索していくことになります。

『Cry of Fear』を語る上で欠かせないのが、プレイヤーの精神をじわじわと追い詰める徹底的に計算された「世界観」と、不自由さゆえに恐怖が倍増する「ゲームシステム」の絶妙な融合です。

主人公・サイモン

舞台となるのは、北欧スウェーデンの首都ストックホルムをモデルにした街並みで、そこには誰一人おらず、不気味な静寂と、凍りつくような冷たい空気だけが漂っています。見慣れたはずの都会の日常(アパート、下水道、地下鉄など)が、一歩足を踏み入れると引き返せない迷宮へと変貌していく絶望感が漂っています。

また、主人公サイモンの精神崩壊やうつ病などのメンタルヘルスの要素が色濃く描かれていることが最大の特徴で、とくにサイモンの内面世界を反映した異形のクリーチャーたちは、グロテスクかつ奇妙で非常に恐ろしい存在です。

四肢が鋭く変形した「Faster(別名ブレードレディ)」

たとえば、チャプター1のアパートで登場する「Faster」は、血の涙を流し四肢が尖ったモンスターで、その名の通り足音も立てず超高速で近づき刺してきます。その素早さと気持ちの悪い動きが半端なく怖い。

顔面が怖すぎる「SawRunner」

そしてこちらの「SawRunner」も滅茶苦茶恐ろしいモンスターです。喜劇で使われるような歪んだマスクがとても不気味で、チェーンソーを振り回しながら突進してくる姿は恐怖そのもの。

チャプター2のボス「Mace」

一般的なモンスターもSAN値が上がりっぱなしになりますが、チャプターごとのボス戦もかなり緊張感のある戦闘が繰り広げられます。周辺環境の仕掛けを使えば弱点の電気ダメージを与えられるなど、戦略的な楽しさもあります。

こうした怪物たちは、その多くが、主人公サイモンの「トラウマ」「自殺願望」「恐怖や憎悪」といったドス黒い感情が具現化したものであり、非常に深い意味を持っているのです

本作のゲームシステムは、往年のサバイバルホラーと同様に、プレイヤーにあえて「不自由さ」を感じさせる作りになっており、ホラーとしての緊張感を極限まで高めていることが特徴です

たとえば、最も特徴的なのが、左右の手にそれぞれ異なるアイテムを持てる「両手持ち」システムです。 暗闇を進むためには左手に携帯電話(ライト)が必須ですが、敵を倒すには「右手に銃や近接武器」を持たなければなりません。

強力なショットガンやライフルなどの両手武器を構えるときは、ライトを持てないため、暗闇の中で敵の気配や声だけを頼りに戦う羽目になるなど、行動リスクが伴います。

また、持ち運べるアイテムが最大6つのスロットに制限されています。 武器、弾薬、回復アイテム(注射器)だけでなく、進行に必要な「鍵」や「ヒューズ」といったクエストアイテムもこの枠を圧迫していくため、プレイヤーに焦燥感を与えます。

「弾を多めに持つか、回復を優先するか、あるいはアイテムを拾うために武器を1つ捨てるか」という、常に死と隣り合わせの管理能力がより求められます

さらに、ホラーゲームにはやや珍しい「スタミナ」の概念があり、ダッシュやジャンプ、近接攻撃などアクションを起こすには、計画的な立ち回りが必要になってくるため、それも緊張感のあるプレイに繋がっています。

このように『Cry of Fear』は、ジャンプスケア(急な脅かし)だけでなく、ジワジワと精神を追い詰める「精神的恐怖」が融合した傑作です。グラフィック自体は少し古めかしいですが、それが逆にインディーズホラー特有の「薄汚れていて、生々しい質感」を引き立てており、間違いなく2010年代における傑作ホラーゲームのひとつです。

『Amnesia: The Dark Descent』(2010)

もうひとつは、Frictional Gamesが手がける一人称視点サバイバルホラーゲーム『Amnesia』シリーズで、現在までに4作品がリリースされています。

記念すべき第1作目である『Amnesia: The Dark Descent』は、無力な主人公が「暗闇」と「正気度」の恐怖に抗いながら、異形のうごめく古城を探索する一人称視点のサバイバルホラーゲームです。

プレイヤーは記憶喪失の主人公「ダニエル」となり、荒廃したプロイセンの古城(ブレネンバーグ城)で自身の失われた記憶と、城に潜む闇の秘密を解き明かすために探索を進めていきます。

プレイヤーは敵を倒すための銃や武器を一切持っておらず、城内を徘徊する恐ろしい怪物に遭遇した際、生き残る手段は「物陰に隠れる」「ランプを消してやり過ごす」「全力で逃げる」ことだけです。この「戦えない」という絶対的な無力感が、極限の緊張感を味わえるのが本シリーズの大きな魅力です。

また本作を象徴するシステムとして、暗闇に長く留まったり、怪物の姿を見たり、不気味な現象に直面すると、いわゆる「SAN値(正気度)」が低下します。そのSAN値が下がると視界が歪み、幻聴や幻覚に襲われるため、プレイヤーは常に灯り(ランタンやロウソク)を求めて行動することになります。しかし、灯りを持っていると敵に見つかりやすくなるというジレンマが、プレイヤーを精神的に追い詰めます。

本作は美麗なグラフィックスに加えて、環境音、音楽、視覚効果による「ホラーゲームとしての雰囲気作り」が非常に優れているため、プレイヤーは自身の想像力を最大限に刺激され、怪物に追われるリアルな恐怖を存分に味わえる、2010年代の傑作ホラーゲームです。

◆2010年代前半のホラーゲームシーン─新世代の台頭、メジャータイトルの行方

『BIOHAZARD 6』

一方、2000年代後半から2010年代初頭にかけて、ホラーゲーム市場では劇的な「主役の交代」が起こりました。『バイオハザード』や『サイレントヒル』といった、かつてジャンルを築き上げたメジャータイトルが一時的に本来の「恐怖」を見失ってしまった背景や、それと対比するようにインディーホラーが急速に台頭した原因について見ていき、2010年代前半のホラーゲームシーンを振り返ってみましょう

まず第一に、90年代後半に黄金期を迎えたメジャーなサバイバルホラー作品は、(どのジャンルにも言えることですが)、ハード性能の飛躍によるグラフィックの進化などに伴い、「ゲーム開発費の高騰」という大きな壁にぶつかりました。

ホラーという「人を選ぶ(ニッチな)ジャンル」のままでは開発費を回収できなくなったメーカーは、より幅広い層に売るために「誰でも爽快に遊べるアクションシューター」へと方向転換したのは明らかでした。

その結果、『バイオハザード5』(2009年)や『バイオハザード6』(2012年)は、恐怖演出よりも「銃撃戦」や「ハリウッド映画的な爆発」がメインとなり、初期のヒリついた恐怖を求めていたコアなファン層にとっては(筆者を含め)、正直に言って不満の残る内容でした。

『SILENTHILL:DOWNPOUR(サイレントヒル:ダウンプア)

対照的に、『バイオ』と双璧を成す『サイレントヒル』シリーズなどは、開発を海外の外部スタジオへと次々に委託(外注化)しました

しかし、オリジナルチーム(チームサイレント)が持っていた独特の「ジメジメとした日本的な心理恐怖」や「繊細なアートワーク」への理解が引き継がれず、特に『SILENT HILL4:THE ROOM』を境に、クオリティの低下やバグの頻発、売り上げの低迷を招き、シリーズそのものが長きにわたる沈黙(冬の時代)に入る原因となってしまいます

その反面まさにこの時期、PC市場(Steamなど)を中心にインディーホラーが爆発的な進化を遂げました。その理由は、メジャーが捨て去った要素を100%の純度で拾い上げたことにあります。

インディーホラーは、バグがあろうが、グラフィックが荒かろうが、「プレイヤーを本気で怖がらせる、絶望させる」という一点のみに狂気的な情熱を注ぐことができました。この「手加減のなさ」こそが、当時の停滞していたホラーゲームシーンに劇的なブレイクスルーをもたらしたのだと筆者は思います。

2012年前後という時代は、いわば「ホラーゲームの民主化」が起きた時代でした。

『バイオ』がアクションをより重視した大作へと舵を切り、『サイレントヒル』がその本質を見失っていく中、かつて確かに存在した「本物の恐怖」を求めるファンコミュニティに対し、意図的にせよ偶然にせよ、技術と情熱を持ったインディー開発者たちが直接、ダイレクトに応えてみせたとも言えるのです。

その中でも『Cry of Fear』や『Amnesia』などのインディーホラーは、大作偏重の時代の只中で、個人の内面にある「鬱」や「孤独」という生々しい痛みを、「恐怖の本質」として捉えて結実させたのは間違いありません。そしてこの時代に撒かれた種が、現在の豊潤なインディーホラー、そして近年の古典サバイバルホラー原点回帰の流れへと繋がっていると言えるのではないでしょうか

ライター:DOOMKID,編集:みお


ライター/心霊系雑食ゲーマー DOOMKID

1986年1月、広島県生まれ。「怖いもの」の原体験は小学生の時に見ていた「あなたの知らない世界」や当時盛んに放映されていた心霊系番組。小学生時に「バイオハザード」「Dの食卓」、中学生時に「サイレントヒル」でホラーゲームの洗礼を受け、以後このジャンルの虜となる。京都の某大学に入学後、坂口安吾や中島らもにどっぷり影響を受け、無頼派作家を志し退廃的生活(ゲーム三昧)を送る。その後紆余曲折を経て地元にて就職し、積みゲーを崩したり映像制作、ビートメイクなど様々な活動を展開中。HIPHOPとローポリをこよなく愛する。

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編集/Game*Spark共同編集長 みお

ゲーム文化と70年代の日本語の音楽大好き。人生ベストは『街 ~運命の交差点~』。2025年ベストは『Earthion』。 2021年3月からフリーライターを始め、2025年4月にGame*Spark編集部入り。2026年1月に共同編集長になりました。

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