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【コラム】TAS (Tool-Assisted Speedrun) と、その魅力とは?

TASというゲームの遊び方があります。TASとは、Tool-Assisted Speedrunの略。各種エミュレータにある機能やスクリプト(おもにLua)を駆使し、実機で理論上再現できる最速または最善のプレイをめざすという一種の芸術です。

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注意: ゲームハードとソフトのエミュレーションが法的にどのような立ち位置にあるかを踏まえた上でお読みください。

TASというゲームの遊び方があります。TASとは、Tool-Assisted Speedrunの略。各種エミュレータにある機能やスクリプト(おもにLua)を駆使し、実機で理論上再現できる最速または最善のプレイをめざすという一種の芸術です。人間の指と頭脳ではまず不可能なフレーム単位での操作を実現しているため、TAS動画は観るものを魅了し、ときには笑いを誘います。

誤解されがちですが、TASはいわゆる"チート"とは異なります。チートが特定のメモリを書き換える等するのに対し、TASにはそうした行為は絶対に許されません。あくまでも、ゲーム機に実装されている入出力(リセットボタンなども含む)のみで達成します。これが「実機で再現可能」の定義のひとつ。それゆえ、TASがRTA(リアルタイムアタックの略、人力でのSpeedrun)の参考にされることも多々あります。

ですがこの定義はじつは曖昧な部分があり、同じROMイメージでも使用するエミュレーターによって結果が異なることはままあります。そうした問題を解決するため海外のTAS情報サイトTASVideosにより、現在では推奨エミュレーターが指定されています。

また、TASVideosの審査を通過するということは、すなわち不正のない正規のものであることが少なからず保証されるということ。そのため、真剣にTASを製作するアーティストたちはおおむねTASVideosへ投稿することを前提に、レギュレーションを遵守しています。一方で、一発ネタ的な作品についてはTASVideosを通さず、YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトへ直接アップロードするにとどまるケースもしばしば。著名な製作者がそうした方針を採用することもあり、必ずしも優劣が存在するわけではありません。


一発ネタの極北。

いかにしてTASが創られるかは、いくつか公開されている制作風景などをご参照ください。前述のとおり、1フレーム単位での入力にくわえ、「どこでもセーブ」として認知度の高い追記機能(この回数が投入された手間を計測する指標の1つ)や、メモリの閲覧のほかに、最近ではLuaスクリプトが活用される傾向もあります。また、ゲームの仕様内であれば一般的にはバグと認識されるような動作も当然用いられるため、画面表示がまったく理解を超える、一目では何をしているのかわからない、いつのまにかエンディングが始まっていた、などはよくあること。

前振りが長くなりましたが、星の数ほどあるTASの中から、いくつか記者のオススメをピックアップします。お気に入りを全部挙げていては本当にきりがありませんので、5つだけと限定的であることをご容赦ください。



言わずと知れた世界的タイトルであるFC『スーパーマリオブラザーズ』。クリア時間は4分57秒31。TASVideosに提出されたのは2010年12月31日、前記録から1年半ぶり・1フレーム(約0.02秒)の更新です。更新ポイントは8-4。比較動画もありますが、おそらく目視では判別不能です。追記回数は9,739。


 

お馴染みメガマンもといFC『ロックマン2』。クリア時間は23分48秒51。TASVideosに提出されたのは2010年10月14日、ニコニコ動画にアップロードされた前記録からは約1週間ぶりの更新。ただしその前の更新は1年前です。『ロックマン2』はTAS界隈でも最もホットな研究対象の1つで、この作品も海外勢2名+日本人2名をはじめとする混成チームで生み出されました。とくに「ディレイスクロール」と呼ばれる画面スクロールバグを誘発させるロジックについては、人智を超え気味な解説もあります。追記回数は120,021。



虚弱体質の主人公に定評のあるFC『スペランカー』。なぜか死にません。クリア時間は4分28秒66。TASVideosに提出されたのは2013年2月7日とつい最近です。約2年ぶり、1082フレーム(約18秒)の更新。主に使用されているのは落下死を防ぐテクニックや、岩を乗り越えるバグ、永久スピードアップバグ、そしてゲーマーにはお馴染み「デスルーラ」です。追記回数は7,690。



GBA『キャッスルヴァニア 白夜の協奏曲』(日本語版)の隠しキャラ"マクシーム"を使った作品。クリア時間は20秒38。最新作が提出されたのは2011年10月13日、追記回数は2,654。

TASといえば真っ先にこれを思い出す人もいそうなくらいの強烈なインパクトを誇るほか、複数の製作者による壮絶な更新合戦が繰り広げられたことでもマニアの間では知られています。また、月下以降の『ドラキュラ』シリーズのTASはどれも視聴覚的刺激が強く、「ドゥエ」など複数の用語がファンの間で広がりました。ちなみに、XBLA/PSN向け『悪魔城ドラキュラ Harmony of Despair』ではネットワークプレイ対応かつハックアンドスラッシュ風の調整であるにもかかわらず、TASで使われるような挙動が発見されています。



記者が最も好きなTASがこれ。NES『Wizardry』、クリア時間は45秒82、追記回数は200,208。投稿されたのは2008年11月27日と、じつに4年以上前。完成度の高さがうかがいしれますが、恐るべきことにまだ改善可能性があり、数名の製作者の間で具体的な案が検討されている模様。なお、本作のアーティストTaoTao氏のサイトでは各種資料が公開されています。名作をわずか10工程ほどで片付けてしまうその様子から「ゲームとはいったい何なのか」を哲学的に考えることができる稀有な一作です。同氏の投稿した動画を眺めていると、ゲームソフトが娯楽ではなく被験者に見えてきます。


以上、珠玉のツールアシステッドスピードランでした。少しでもその魅力が伝わりましたでしょうか? TASに興味がわいた方は、これを機にTASVideosやニコニコ動画のタグ「TAS」を漁ってみてはいかがでしょう。あまりみだりに覗いてはいけないであろう深遠多々あります。
《Gokubuto.S》
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