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■「ミリタリア」と協力して面白いものを追求しよう
超重戦車マウスのレストア(復元)や中型爆撃機Do-17 Z-2の引き上げなど、第二次世界大戦で活躍した兵器の保存といった活動を広げるWargaming.net。PC版『World of Tanks』アップデート9.0で実装されたヒストリカル・バトルの導入意図や解説を踏まえた、国内各メディアへの説明会が5月初旬都内のウォーゲーミングジャパンオフィスにて行われました。解説は同社のミリタリーアドバイザー宮永忠将氏です。
初めに宮永氏は、この説明会のタイトルである「Wargaming and Militaria」について解説しました。「Militaria(ミリタリア)」という聞きなれない単語は、辞書など引いてみると「軍事好き」や「軍事品コレクター」などを意味します。同社はミリタリアを「ミリタリー好きでゲームなどに興味があり、そういう情報を発信してゲームをどんどん面白くする可能性を持った人々」と定義しています。後々この単語に関連した話が出てくるのでよく覚えておきましょう。スライドのタイトルが英語なのは、説明会の後ベラルーシにある本社へ報告書を提出するためとのことです。
■WW2で活躍した兵器のレストアや発掘など文化事業も広げるWargaming.net
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スライドを一枚めくると、Wargaming.netが復元に協力している超重戦車マウスについて書かれたものが現れました。このレストア事業は先月11日にWargaming.netが発表したものです。ドイツ軍のVIII号戦車マウス(『World of Tanks』ではTier 10に相当)は、第二次世界大戦中に開発された戦車の中では188トンと最も重く、重装甲な車両でした。試作車が2両開発されましたが、両方とも大戦末期にドイツ軍によって爆破解体されてしまいます。戦後、ソビエト連邦はその2両から損傷が少ない部位を運んで組み立て、現在はロシアの首都モスクワ郊外にあるクビンカ戦車博物館に展示されています。
このレストアプロジェクトの目標は、ただ戦車を綺麗にするだけでなく内装の再現と車両の自走化を目指すことです。マウスはガソリンエンジンで発電機を動かした電力で稼動します。当時と同じエンジンを載せられるかは今後検討が必要ですが、内装はマウスのブループリント(青写真、図面)から作り起こしての完全再現が進行中です。
VIII号戦車マウス復元プロジェクトを発表した直後は、本社への問い合わせが凄まじかったとのこと。アメリカとヨーロッパにいるミリタリーアドバイザーが、プロジェクトの対応に付きっ切りで連絡がつかない程の大きなプロジェクトのようです。このマウスの存在が西側で確認されたのはごく最近のことで、それは東西冷戦下の1980年代後半のことでした。ゴルバチョフ政権下のソビエト連邦に「どうやらモスクワに戦車博物館があるらしい」という情報が入ってきたのです。
その戦車博物館が存在することは分かりましたが、時代が冷戦なので東側の情報を確認することが困難でした。しかし、ゴルバチョフ時代のソビエト連邦では、ペレストロイカ(改革)の重要な一環として行われたグラスノスチ(情報公開)が始まります。それに伴い、フィンランドのマスコミがクビンカ戦車博物館の中に初めて入り、カメラが映した背景にマウスが少しだけ写ったことで瞬く間に有名となったそうです。
VIII号戦車マウスのレストア開始を告げる日本語字幕付きトレイラー
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先の車両のレストアといった軍事技術保存活動を、Wargaming.netは大きなプロジェクトとして進めています。昨年には1940年8月26日にイギリス空軍第264戦闘機中隊にドーバー海峡で撃墜された、ドイツの中型爆撃機Do-17 Z-2の発掘と修復に協力しました。このDo-17は唯一の現存機で、ロンドンにあるイギリス空軍博物館(通称、RAF博物館)に収館されています。
修復保存が進められているDo-17
他にも、現在まで形となってはいませんが2012年12月にミャンマーのヤンゴン周辺に埋設されたスピットファイア戦闘機の発掘作業の継続に協力しています。また、宮永氏は同社に入社してから「この事業に関して何かないか」と問われた際、大和型戦艦三番艦の船体を利用して航空母艦へと変貌遂げた「信濃」が和歌山県沖合に沈んだことを話したとのこと。ほぼそのままの形で沈没しているのではないかと噂されているので発見したら凄いことになりますが、「億単位の金がかかるので簡単には許可が出せない」と返答されたようです。しかし、今後リリースされる『World of Warships』などが大きくヒットすれば、計画が実現するかも知れないと話しました。
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同社は2014年から世界各国の軍事博物館や記念館、著名な軍事評論家、軍事物を発売している出版社などとの関係を強化します。これはミリタリーというジャンルを盛り上げていくことを会社の部署として立ち上げているので今後そういった話題があると話しました。
■ゲーム以外に事業を広げる目的は何か?
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次に、先ほどのスライドを補足する形で新たな画像が追加されたものが登場します。冒頭で書かれた「ミリタリア(Militaria)」という単語が再び登場しました。ミリタリーをテーマにしたゲームを開発するためには、当然膨大な軍事史料が必要になります。同社が『World of Tanks』を開発するために戦車の調査を行った際、新たに見つかった史料が多々あったとのこと。その他にも、軍事大好きなユーザーからの様々な意見が同社を通じてゲームに取り込まれ、再びユーザーに提供されるという、潜在的なユーザーと開発者のやり取りが非常に重要であると強調しました。
現在開発中である『World of Warships』に関しては、日本の艦艇史料を集めるためにロシアから日本語通訳を含め大量のスタッフが派遣されたとのこと。広島県呉市にある、1/10戦艦大和の模型などを展示されている海事歴史科学館「大和ミュージアム」に一週間篭り、地道に大量の史料を収集したようです。
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そういったミリタリアの方々を惹きつけるプロジェクトがようやくスタートしたのが、実際の第二次世界大戦で戦われた戦場を再現して「歴史へのチャレンジ」を可能にする“ヒストリカルバトル”です。アップデート9.0で実装されたこのモードには5月初旬現在、3つの戦場が実装されています。1943年7月の“クルスクの戦い”と、1944年12月~45年1月の“バルジの戦い”、そして1945年3月の“春の目覚め作戦”の3つです。ここで一旦ヒストリカルバトルの説明を終えた後質問に入りました。
質問の中に、「静岡県の浜名湖に沈んでいるとされる四式中戦車チトの発掘調査に関わっているのか?」という問いがありました。宮永氏は調査プロジェクトが本格始動した時に色々話を聞いており、ちゃんと存在が確認され本格的に引き上げが始まるのなら積極的に協力していきたいと返答しました。その他発掘や調査に関する質問がいくつか行われた後、ヒストリカルバトルの解説に入りました。
■ヒストリカルバトルの背景、第二次世界大戦の戦場
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図表『第二次世界大戦通史』原書房より
クルスクの戦いはスライドの説明にもあるように、スターリングラードの戦いから反撃を続けるソ連軍を食い止めた際発生した、突出している陣地を南北から挟撃して包囲殲滅してしまおうという作戦です。史実ではドイツ軍の戦車約2700両が参加して攻撃を行いました。この戦いで大戦車戦が行われたのはプロホロフカという土地で、『World of Tanks』ではかつて“プロクホロフカ”と言う名前で登場しています。
この地図の矢印は軍の攻勢を表したものです。Wargaming.netのロゴマークも矢印で表現されているのは、同社がこれをゲーム中で表現したかったことが反映されているものであると宮永氏は解説しました。
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図表『第二次世界大戦通史』原書房より
続いてベルギーの町バストーニュなどの戦いをひっくるめた、バルジの戦いの解説に入りました。この戦いはスライド解説にもあるように、米軍を主体とした連合軍と第5装甲軍による戦いです。”アルデンヌの戦い”とも呼ばれています。WW2をテーマにした映画『パットン大戦車軍団』や『バルジ大作戦』、米戦争ドラマ『バンド・オブ・ブラザーズ』などで度々舞台となりました。
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図表『第二次世界大戦通史』原書房より
次にスライドが映したのは、ヒストリカルバトルが再現する時代としてはWW2終盤の春の目覚め作戦です。この作戦は、バルジの戦いで磨耗した第6SS装甲軍の人員を再びかき集めて南のソ連軍に対して最後の大攻勢を行ったものです。最後の大攻勢ということで登場する戦車はパンターやティーガーIIなど派手なものが多いので、『World of Tanks』の戦場の枠組にとても適ったものになったとのこと。
■ヒストリカルバトルをより良く知る。第二次世界大戦のヨーロッパ
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現在実装されているヒストリカルバトルの戦場解説が終わったあと、続いて第二次世界大戦の主な戦場の解説に入りました。歴史的背景を簡単に知っていれば、後に実装される戦場を理解する助けになります。第二次世界大戦はドイツやイタリアが中心となって起こった戦争なので、その両者を中心に解説が進行しました。この地図で赤く塗りつぶされているのは枢軸国の勢力圏です。
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第二次世界大戦は、ドイツが1939年9月ポーランドに宣戦布告したことによって始まりました。ドイツは南北から攻め込みます。ソ連とは約束が出来ており、ポーランドの東側から攻め込んでその半分ほどを占領します。またその際、ソ連はフィンランドにも攻め込みました。ドイツのポーランド侵攻に対して英仏連合軍はドイツへ宣戦布告しました。しかし、両国とも戦争の準備が整っていないのでドイツがポーランド戦に圧勝した後も、本格的な侵攻が発生せずにらみ合いが続きます。このため「奇妙な戦争(Funny War)」と呼ばれました。またこの時に使われた戦車は1号戦車や2号戦車、BT-5やBT-7など『World of Tanks』ではTier 1~2に相当する車両です。
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その後ドイツは独ソ戦が始まるまでにドイツ北方のデンマークとノルウェーを侵攻します。北方を攻めるのは、北側の安全とスウェーデンから輸入している鉄鉱石の安全を確保するためです。続いてベルギーからオランダ経由でフランスを攻め込み、その三国を敗北に追いやります。大航空戦のバトル・オブ・ブリテンでは負けに近い引き分けに終わり、イギリスへの上陸は果たせませんでした。ドイツの勝ち馬に乗っているイタリアはリビアからエジプトへ攻め込みましたが勝利は遠く、大敗して危うくリビアを失いかけます。しかしドイツがロンメル将軍の部隊を北アフリカへ派遣(いわゆるDAKこと、ドイツアフリカ軍団)してなんとか安定を図ることができました。
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そして、いよいよソ連へ侵攻するかと思えばイタリアがギリシャへ攻めるも失敗してしまい、ドイツの力をもって占領します。ついに1941年6月22日ドイツは、ソ連から約1700kmもある国境地帯を乗り越え首都であるモスクワを目指し侵攻を開始しました。この時期の各国は『World of Tanks』で言うとTier 2からTier 4(ソ連はTier 5)の戦車を保有しはじめます。このソ連侵攻も異常気象による大雪やソ連軍の果敢な抵抗など、様々な要因が重なってドイツ軍はモスクワへたどり着くことが出来ませんでした。そうして戦いは長期戦へ突入します。宮永氏はこの気象のぶれ幅が大きいことに触れ、去年サンクトペテルブルクへ出張したときは12月までまったく雪が降らなかったと語りました。
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雪や補給など多くの要因によってモスクワへの侵攻は滞ってしまいます。長期戦で有利になるため、ソ連の油田地帯があるコーカサスを占領するブラウ(青)作戦をドイツ軍は決行します。スターリングラードを押さえ、油田地帯を目指し緒戦は有利に展開できましたが、スターリングラードの占領にもたついている間に後ろを取られてしまい、包囲されて計画が破綻していきます。その間北アフリカではエル・アラメインの戦いが起こります。
この時期の戦車としてはTier 2相当の戦車は前線から姿を消し、後方でのパルチザン狩りなどに使われました。1942年から登場したティーガー戦車が伝説的な戦車の扱いをされているのは、その戦車が強いことは勿論、それ以外にも他の国の戦車のTierが低いからです。『World of Tanks』でティーガーにたどり着いてもカタログスペック的に突出した性能を持っていないのは、ゲーム上のバランスを考えて時間軸が調整されているからです。歴史的に見た場合、Tierが2つ分先取りしているのがティーガー戦車の強みなので、ヒストリカルバトルではそれを再現したいとのことです。
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ここで、ヒストリカルバトルで実装されたクルスクの戦いにたどり着きました。先のスターリングラード敗北から、戦線の南側は次々に押し返されてしまいます。ドイツのマンシュタイン将軍は、ソ連の攻勢限界に達したところで反撃して再度前線を押し戻しますが、その際に異様な突出部が形成されてしまいます。これがクルスクの戦いに発展します。この大突出部を南北から切り取り包囲殲滅すれば、再び戦いの主導権を獲得できるとドイツ軍は考えたわけです。様々な事情から攻勢作戦は延期を重ね3ヶ月も伸びてしまいました。ソ連側が防御陣地を構築する時間はあったため、結果この攻勢は失敗してしまいます。その少し後に米英はイタリアのシチリア島へ上陸しました。戦車としてはティーガー戦車を筆頭に、4号戦車H型、3号突撃砲G型やパンター戦車が登場します。またソ連側にはISやKV-1S、そしてレンドリースで供与されたチャーチル戦車もあったとのこと。
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イタリアでは44年1月にアンツィオ攻防戦が繰り広げられた後に、連合軍が同年6月にノルマンディー上陸作戦を決行し、ついにフランスの土を踏むことになりました。ドイツ軍も反撃を加えてヴィレル・ボカージュの戦いなどパリへ続く激戦が繰り広げられました。映画『遠すぎた橋』で題材となった、空挺部隊と装甲部隊が協力してドイツへ続く橋を確保した後一気に国内へ攻め込む、マーケット・ガーデン作戦が展開されるも失敗してしまいます。
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そしてその流れはヒストリカルバトルで実装されているバルジの戦いへと続きます。この戦いで投入された戦車はティーガー2やパンター戦車G型など強力な車両が登場しています。その間にもソ連軍はドイツ国境近くまで接近し、第二次世界大戦は終わりを迎え始めます。
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この時期ドイツはTier 9や10相当の戦車を戦場に投入し始めます。連合軍ではそれぞれTier 10相当の戦車はまだ開発されていません。ドイツはライン川渡河作戦やベルリン攻防戦など、都市部での戦いを繰り広げます。そしてドイツは1945年5月8日にフランスで連合国の降伏文書に調印して、ヨーロッパの戦いが終わりを告げました。
この解説の後に宮永氏は、一個人としてヒストリカルバトルの現状課題を挙げました。史実での勝敗が戦闘結果に反映されていないため、敗者側がチャレンジする動機が薄いと感じているとの事。例えば特殊な勲章や、何かしら「歴史に挑戦したご褒美」が少ないためとしています。次に再現性に関して、史実では近接航空支援や対戦車砲の攻撃がありますがゲーム内にはないことです。しかし『World of Tanks』のマップスケールは小さいため必須ではないが、雰囲気を出すための演出として欲しいとのこと。雰囲気の再現では『World of Tanks Xbox 360 Edition』に気象が実装されたので、バルジの戦いでの大雪などを追々PC版でも実装されることが待たれています。そして参加条件が厳しいことと、非力な車両を選ぶメリットがないことです。本来の兵器の運用術が使いにくいことを挙げました。また、『World of Warships』なら第二次ソロモン海戦など、登場艦艇が決まっているため、より歴史的な出来事を体験できるものになると話ました。
最後に、歴史ファンやミリタリーファンがヒストリカルバトルで史実に近い戦車を運用を行ったらどうなるか?というゲーム上での歴史再現を楽しんで欲しいのと、そしてミリタリアの人々や従来のゲーマーからの積極的な関与と意見交換を通じて、もっと魅力的で楽しめるコンテンツを提供したいと話しました。
■ミリタリーアドバイザーと意見交換をしよう
Wargaming.netはミリタリーアドバイザーという部署を各地域に配置しています。ミリタリーアドバイザーは、ゲームとは違う角度から『World of Tanks』などに関するミリタリー関連情報を発信しています。その窓口はFacebookを足がかりに国内で近日開設予定です。
このミリタリーアドバイザーの窓口は「Phalanx(ファランクス)」という名前になります。これは外国人が宮永忠将という名前が非常に発音しにくいという理由に加えて、同氏が『World of Tanks』、『World of Warplanes』、『World of Warships』のほぼ全てを担当したいとの想いから、古代マケドニアの重装歩兵密集隊形を意味したこの名前に決定したということです。意見や要望があれば是非届けて欲しいと話して、説明会は終了しました。
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説明会終了後、宮永氏はWargaming.netが製作している珍しいグッズを紹介しました。同氏が持っている傘はWargaming SEAが製作したもので、骨が内側に深く曲がっているのは スコールに対応したものになっているからです(雨の勢いが強いので普通の傘だと厳しいとのこと)。
ウォーゲーミングジャパンは、ユーザーからも『World of Tanks』などに関連した面白いグッズやアパレルのアイデアを募集しているので、公式Twitterや公式Facebookに「こんな面白いグッズ考えた!」という発想を提供してはいかがでしょうか。もしかしたら考えたグッズがイベントで実際に登場するかもしれません。
UPDATE(2014/5/15 17:30): 記事初出時、「Do-17 Z-2の発掘と復元に」そして「復元が進められているDo-17」と記載していましたが、正しくは「Do-17 Z-2の発掘と修復に」と「修復保存が進められているDo-17」の誤りでした。訂正しお詫び申し上げます。4さん、コメントでのご指摘ありがとうございます。