ゲーミングPCおよびその関連製品を対象にユーザーの満足度を調査する「ゲームPCアワード 2015」。今年は、デスクトップPC部門の最優秀賞に、Project White(ツクモ)の「G-GEAR」が選ばれました。G-GEARのデスクトップ部門受賞は、2012年から4年連続の快挙となります。G-GEARがPCゲーマーから長年支持される理由は何なのか。7月にはコンパクトながら高いパフォーマンスを発揮する新モデル「G-GEAR mini」を発売し、e-Sports分野でも精力的なサポートを行う同社の取り組みについて、G-GEAR開発責任者の森秀範氏と檀特教遵氏に詳しい話を聞きました。
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檀特教遵氏(左)と森秀範氏(右)
■生粋のゲーマーが生み出したブランド
――まずは、簡単に自己紹介をお願いできますか?
森秀範(以下 森): 製品企画部の森秀範です。G-GEARの製品開発の統括やマーケティングを担当しています。
檀特教遵(以下 檀特): 同じく製品企画部の檀特教遵です。技術の責任者として製品の動作検証・品質管理等を担当しています。
――「ゲームPCアワード 2015」デスクトップ部門最優秀賞おめでとうございます。これで4年連続の受賞となりました。振り返ってみていかがでしょうか。
森: ありがとうございます。まさか4年連続でいただけるとは思っていませんでした。G-GEARブランドを出すまで、ツクモでは「eX.computer」というブランドでゲーミングPCを出していたのですが、eX.computerの中にはゲーム向けではないPCも含まれていることからお客様はどれを買えばいいのか困ってしまうことも少なくありませんでした。そこで「ゲーミングPCはゲームブランドとして立ち上げるべき」ということを社内で主張したんです。根っからのPCゲーマーでしたし、『ファイナルファンタジーXI』などは人生の一部になるぐらいやっていましたから(笑)。すると「そんなにいうならお前がやれ」と弊社社長の鈴木に言われまして(笑)。すぐさまプロジェクトチームを作りG-GEARが立ち上がったというわけです。G-GEARは「ゲーミングギア」の略で、「PCゲームをするための装備(ギア)として皆さんに使ってもらいたい」という思いが込められています。ゲームPCは言うならば武士にとっての刀のようなものですから、プレイヤーの側にあって常に最高のパフォーマンスとエクスペリエンスを提供する必要があると思っています。
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――他社製品と比べて、特にどういった部分がユーザーに受け入れられていると考えていますか?
森: どこのメーカーも基本的には汎用部品を使っていますので、スペックだけでは弊社とそこまで差はないでしょう。しかし「実際のゲームプレイにおいて安心して快適に楽しめるかどうか」というのはスペックとはまた別の問題ですので、弊社がユーザー目線で地道に取り組んできた点をユーザーの皆さまから一定の評価をいただけたのかな、と考えています。
――取り組みの具体的な内容を教えていただけますか?
森: 「いち早く新製品のサンプルを海外のメーカーから入手して多角的な検証を行う」ことを主に檀特のチームが行っています。チームからは厳しい意見も出ますが、それを1つひとつ潰して、安心してお客様にお届けできる段階まで持っていっています。
檀特: たとえばビデオカードの「負荷時の動作音」や「温度の上がり方」ですね。気になる点をメーカーさんに相談し、対応いただくことで安定した製品を作れるよう努力しています。
――検証の手法としては? たとえば実際にゲームをプレイすることもあるのでしょうか。
檀特: ゲーム想定のベンチマーク等を含めた負荷テストを行い、パーツ個々の問題を見るようにしています。推奨PCを除きゲームプレイでの検証はあまりしないですね。特定のゲームでしか出ない問題だと、パーツメーカーさんも対応のしようがないですから。そのあたりは森に「このゲームだとどうなるの?」という話をしてみたりします。
森: そのときは製品サンプルで喜んでプレイさせていただいています(笑)。
――昨年のインタビューでも伺いましたが、森さんは「推奨認定となっているMMOの一次職業のレベルを全部カンストするぐらいやり込む根っからのゲーマー」だとか。ゲームプレイは主にご自宅ですよね?
森: もちろんです。さすがに会社で大手を振って「今からRaidだから会議は後回しにしてくれ」なんて言えませんし(笑)。ゲーム内では1プレイヤーとしてふつうにギルドなどに入り、他のプレイヤーさんと一緒にプレイしています。その中でユーザーの声を聞いたりすることもあります。「こういうところが今のPCで不満」とか。ただ「ゲームPCの開発者です」といったことは言わないですね。話がそもそもそういう方向に行かないですし、ゲームの中にリアルを持ち込むのはマナー違反だと思っています。
――ゲームプレイは仕事と趣味のどちらの面が強いのでしょうか?
森: プライベートで楽しむことが大切だと思っています。他のプレイヤーさんもそのゲームが好きで楽しんでいらっしゃる訳ですから、その視点を忘れてはいけません。あくまで一人のプレイヤーとして気付いたことや見聞きしたことをエッセンスとして製品にフィードバックしていきたい、と考えています。
■コンパクトで女性にも人気の高い「G-GEAR mini」
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――製品についてお伺いします。7月発売のコンパクトなゲーミングPC「G-GEAR mini」が話題になりましたが、小型のゲーミングPCを開発したのは何がきっかけだったのでしょうか?
森: 近年では各パーツの性能が全体的に上がってきたこともあり、大型ケースが必ずしも必要ではなくなってきたことと、本体は小さくモニタは大きいものを選びたいというユーザーの声が増えてきたのが開発のきっかけとなりました。
――製品のメインターゲットとしては?
森: G-GEAR mini自体は主にライトユーザーに向けた形で「コンソールゲームに慣れていた方もPCをプレイできるように」というコンセプトで作りました。最近はクロスプラットフォームのゲームも多いですよね。私もプレイするゲームコミュニティでは「コンソールから乗り換えたいけど、あんなに高価で大きいPCは家に置けないよ」という声も出ていました。サイズは言うまでもなく初期投資もコンソールゲーム機数台分に匹敵する金額でしょう。そういった、PCゲームを遊ぶ上での心理的なプレッシャーを解消させたかったのです。
――コンソールとPCの橋渡しというわけですね。
森: はい。とはいえ、PCゲームにはまりこんでいくうちに動作への要求水準が上がってきて、「スペックを高くしたいな」ということもあると思うんですよね。そんなときにPCの買い替えが必要だと大変でしょう。そこで、G-GEARにはパーツを交換してハイエンドな構成にもできるよう、拡張性も持たせています。G-GEAR miniの原点となったのはeX.computerのAeroMiniシリーズですが、あちらは本当に小型を追求していたため、物理的にも電力的にもグラフィックカードの増設などは難しかったのです。
――開発に際し苦労されたポイントは?
森: ゲームPCにとってグラフィックは重要なファクターのためフルサイズのグラフィックカードは必須要件にしましたがこれがまた大変でした。
檀特: デスクトップ向けのCPUやグラフィックカードに対しアダプター電源ではやはり電力が足りませんから、ATX電源をつける必要があったのです。しかしコンパクトなケースではどうしても電源等の配線が込み合ってしまうんですよね。冷却性を左右するだけに、パーツの裏にコードを回したり、電源ケーブルの長さを揃えたりして内部配線には細心の注意を払いました。
――PCを組み立てるというよりは、まるで新型ゲーム機を作っているみたいですね(笑)。
檀特: そうですね。まさにパズルを組み立てるかの如くでした(笑)。
――小型のハイスペックPCというと、やはり本体温度の上昇が気になります。長時間のプレイで本体が熱を帯びるようなことはないのでしょうか?
檀特: いろいろと検証しましたが熱による心配はないと考えています。小型のPCを作るというアイデアはグラフィックカードの成熟度が高まったことも背景にあるんですよ。昔はよくPCの上で、「目玉焼きが作れる」といったジョーク話も出ていましたが、現在は消費電力とパフォーマンスのバランスが非常によくなりましたから。
森: オールメッシュ構造を採用することで内部の熱を効率的に吐き出すようにするなど、ケース側でも放熱の面はフォローしています。一日中ゲームをプレイしていても安定して動作していますし、熱に対する心配はまったくないですね。
――「内部がチラッと見える」メッシュの黒ケースはとても印象的ですね。
森: これ、穴のサイズをどうするかでけっこう議論になったんですよ(笑)。エアフローを意識しすぎた試作品第一号は穴が大きすぎて、「こんなみすぼらしいの駄目だろ!」とボツにしました(笑)。
檀特: 議論を重ねた結果、内部が見えているところが逆に格好良くなるようにすることになりました。最終的には内部のディテールが薄ぼんやり見えるというふうに、うまくまとまったかなと思います。
――コンパクトで外見も柔らかい感じなのか、女性の購入者も多いようですね。
森: 男性にも女性にも違和感なくご利用いただけるよう、ケースの4隅が少し丸みを帯びたデザインにしました。カッコイイというイメージは重要ですが尖っていると刺々しい印象を与えてしまうので。でも、どちらかと言うと「手ごろなサイズのPCだから売れている」という印象です。大きなPCは設置が難しかったり、家族の目が気になる、というのもあるのかもしれません。実際、女性のお客様にも非常にコアなプレイヤーの方が多いんですよね。「白やピンクのカラーがあれば受けるのかな」と女性ユーザーに聞いてみたこともあるのですが、「馬鹿にしないでよ!」と怒られました(笑)。どうも無骨なデザインだから駄目ということは無いようで、実際に女性のお客様からも多数のご注文をいただいています。
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――発売から2ヶ月経ちますが、ユーザーの反響はいかがでしょうか?
森: 特に壊れたとか、トラブルになったといった報告は出ていないですね。ただ、気になるのが「買ってみて予想以上によかった」と言われることでしょうか。うれしい反面、弊社としては複雑な気持ちです(笑)。
――微妙な言葉ですよね(笑)。逆に言うと「購入前はそこまでのPCだとは思われてなかった」のでしょうから。
檀特: G-GEAR miniの場合、筐体サイズを含め一般からは少し外れた製品になります。その点でお客様には不安に映るのかもしれません。先ほどの質問にもあった「熱は大丈夫なのか」などですね。そのあたりを我々が払拭できるかどうかが今後の課題でしょうか。製品に問題はありませんので、皆様に触れていただける機会をこれから増やしていきたいと思います。
――G-GEAR miniの各モデルの売れ行きは?
森: 比較的ハイスペックなモデルの人気が高いですね。具体的に言うとCPUならCore i5やCore i7で、グラフィックカードもGTXシリーズ搭載のものが売れている、といったところでしょうか。一方で当初の目的だった,
コンソールゲームから乗り換えたいユーザーの方にはまだまだ届いていない印象です。
――コンソールのゲーマーを取り込むためのアイデアとしては?
森: おそらくビジネスモデル自体を変えないといけないのでしょう。今PCを購入しようとすると、初期費用として約10万円かかってしまいます。その点はユーザーにとって大きなプレッシャーになるでしょう。かといって価格を下げようとすれば性能など犠牲にしないといけないものが出てきます。この問題を解決するには、PCの特徴を生かしつつ、ハードウェアを手に入れやすくする新しいビジネスモデルを、我々が作る必要があるように思っています。
――森さんはよく海外でも仕事をされていますが、日本と世界でゲーミングPCの傾向の違いはあるのでしょうか?
森: 希望する製品についてベンダーさんと話をするとき、「クレイジー」とよく言われますね。「なんでそんなこと考えるの!?」と(笑)。背景も含めて詳しく説明すると納得いただけるのですが、日本の市場は世界より一歩先を行っている印象があります。小型のゲーミングPCというのがまさにそれだと思うんですよ。海外圏では極端に言えば「大きくて、光ってて、それをかついでLANパーティーに行くのがいいんだ!」という考えが根強くあるようです。各部品のパフォーマンス向上と消費電力の低下で小型なものも作れるようになり、そこからだんだんと小型が良いという風潮になってきました。そのニーズがいち早く顕在化したのが日本だったようです。
■e-Sportsチーム支援について
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――『League of Legends』等のゲームで活躍するプロゲーミングチーム「DetonatioN」をスポンサードしていますが、その経緯や目的を教えていただけますか?
森: 2年前にイベントでDetonatioNのマネージャーとお会いする機会があり、そこで「PCスポンサーがいなければ協力したい」と言ったところ快諾いただいたのが始まりです。今後はe-Sportsが主流になってくるという話は2~3年前からありましたので、弊社としてもe-Sportsには注力したいと考えていました。
――8月13日には「DetonatioN優勝セール」が大きな話題となりました。まるで「巨人軍優勝セール」のようですね。
森: たしかに(笑)。本部でもその話はあったのですが、お店から「やりたい」という声が多かったんです。今回は「DetonatioN特別モデル」としてG-GEAR miniから129,800円(税別)のモデルを販売したのですが、約2日で完売してしまいました。『LoL』はそこまでスペックを要求されないゲームなので、ちょうどG-GEAR miniの構成がプレイヤーのニーズにマッチしていたのかもしれません。通常は特別モデルを出しても約1週間はかかるので、本当にあっという間でした。
■今後の展望について
――特に重視しているe-sportsのジャンルはありますか?
森: 『LOL』をはじめとしたMOBAゲームですね。直近ではスクウェア・エニックスさんの『LORD of VERMILION ARENA』がユーザー数も多くホットだと思います。
――ここ1~2年のゲームシーンについてはどう感じられていますか?
森: やはり、しっかりと作り込まれたゲームがユーザーに受けている印象です。最近だと『METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN』が非常に好調ですね。『ファイナルファンタジーXIV』も、発売から3年目になりましたがその勢いは相変わらずです。一方で次につながるタイトルが出てきていない点が少し気になりますね。その点ではカプコンさんの『ドラゴンズドグマ』に注目しています。最近ではコンソール版とPC版で発売時期の隔たりが少なくなってきたことで、よりリッチなゲーム体験ができるPC版をやりたいという方も増えてきたのではないかと思います。
――最後にG-GEARの製品を開発する上での信念があれば教えてください。
森: ゲーマーの目線から見て「自分も欲しい」と思えるものしか製品としてリリースしないようにしています。没になった企画は数え切れないほどありますが「こんなゲームPCが欲しかったんだ!」と思える製品でないと、お客様に納得いただくことはできませんから。
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――本日はどうもありがとうございました。
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