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いよいよ4月7日にユービーアイソフトから発売される、人気FPSシリーズの最新作『Far Cry Primal(ファークライ プライマル)』。中石器時代を舞台とする本作では、主人公がサーベルタイガーやケイブライオンなどの古代の野生動物を調教できる、「ビーストマスター」なる注目の要素が存在します。では、本当にそれらの動物を調教して手なずけることは可能だったのでしょうか? また、太古の動物は当時の人間にとってどのような存在だったのでしょうか。編集部ではそんな疑問を探るべく、動物研究家として知られる實吉達郎先生に実際にゲームを見てもらい、その可能性や動物たちの生態を解説してもらいました。
■物語の舞台は紀元前1万年のヨーロッパ!
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本題に入る前に、『ファークライ プライマル』の物語をチェックしてみましょう。舞台は紀元前1万年。ヴィンジャ族の一人であり、タカールと呼ばれる主人公は、過酷な旅の末に、ついに豊かな自然を持つオロスの地へとたどりつきます。ところが、その時に生き残っていたのはタカール1人のみ。野生動物を手なずける“ビーストマスター”の力を得た彼は、危険な猛獣や非道な敵対部族がひしめくオロスで、ウィンジャ族の仲間たちを集め、リーダーとして彼らとともに生き抜くことを決意する……というのがあらすじです。
舞台となるオロスの地には、マンモス、オオカミ、ケイブライオン、ヒグマ、フクロウ……とさまざまな動物が生きているようです。そんなゲーム中のシーンを実際に見てもらいながら、實吉先生にお話を訊きました。
■サーベルタイガーを手なずけるのは至難の業!?
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――本日はよろしくお願いします。まずは、紀元前1万年の世界でサーベルタイガーがどのように生きていたかをお聞かせください。手なずけることはできたのでしょうか?
實吉達郎氏(以下、實吉): まず、紀元前1万年は、ライオン、クマ、ヤギ……そういった多くの動物が洞窟の中に住んでいた時代でした。これは当然氷河期であるがゆえの寒さをしのぐためで、私は洞窟猛獣時代と呼んでいます。
――ゲーム中でも“ケイブライオン”と呼ばれる種が登場しますが、洞窟に住んでいるのはそうした理由からなのですね。
實吉: さて、サーベルタイガーですが、スミロドン族やホモテリウム族など、非常に種類が多いネコ科の食肉獣です。死体を食べる腐肉獣だったのではという説もありますが、死体だけを食べるならあのような牙は必要なかったでしょう。性質的には単独行動も多く、あまり群れをなさなかったと考えられています。そうした猛獣を手なずけるチャンスなんてものはあったのか、そもそもサーベルタイガーは人に慣れるのか……と考えると、実際に手なずけられるかは疑問が残ります。もちろんゲームの方は、それでいいと思いますけれど。こんな大スターを友達にできたら楽しいでしょうね。
■オオカミはイヌと同じく人に慣れる?
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實吉: この頃は、イヌとオオカミがすでに分かれている時代ですね。尻尾でいうなら、くるんとまわって上にあがっているのがイヌ、下がっているのがオオカミです。ただ、共通点も多く、オオカミもイヌと同様、人に慣れます。たき火の暖かさにつられてやってきたところに残り物をあげて手なずけたり、毛皮ほしさに親オオカミを殺したときに、残った仔に親だと思い込まれたり……そうしたきっかけで行動をともにするようになったこともあるかもしれません。
■マンモスは人間にとって常食といえる狩りの対象
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實吉: マンモスは当時の人間にとって狩りの対象でした。毛皮や住居を作るための材料にしたほか、食用にもなりました。ゾウは人間の常食と言ってもよかったくらいではないでしょうか。一番大きいマンモスである、インペリアルマンモスすら狩っていました。マンモスは体が大きく、厚い毛皮と脂肪を持ち防寒力にも優れていたので、それほど凶暴ではなかったし、凶暴である必要もなかったと思っています。
――ゲームでは、マンモスに騎乗することもできるようになっています。
實吉: ゾウにもさまざまな種類がありますから、中には人を背に乗せる温厚なもの種類もいた……かもしれませんね。ただ、まだ馬やロバに乗るという発想がない時代ですから、ゲームの主人公が、狩猟の対象たるマンモスに騎乗するという発想をどのように考え付いたのか? などと思いをはせるのもおもしろいかもしれません。
■フクロウに偵察させたり人を襲わせることはできるのか?
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――次はフクロウについてお聞かせください。ゲームでは手笛を吹いて使役し、偵察をさせたり、敵対部族を襲わせたりすることができます。
實吉: なるほど、偵察させているシーンはまるでドローンのようですね(笑)。ただ、実際のフクロウは、ここまでグライダーのようには長時間滑空はできません。人を襲わせるというお話ですが、フクロウは夜目が利きますし、「窓を開けたまま夜寝ていたら、大型のフクロウに赤子をさらわれた」なんていう伝承もあるでしょう? その程度には獰猛さもありますね。したがって、人を襲えるか襲えないかでいうと、赤子くらいは襲えるでしょう。
■アナグマは凶暴で獰猛! その他の野生動物も検証
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――ゲームに登場する、その他の野生動物についても教えてください。
實吉: アナグマは、なりは小さいけど、凶暴で獰猛です。自分より大きな動物に襲い掛かることもあるほどです。難しいとは思いますが、手なずけることはできるのではないでしょうか。
ヤクは、チベットなどにいる野生のウシです。寒冷地での労働力にするほか、その長い毛は装飾物にも使われていました。日本にはいませんでしたが、思いのほか日本にも縁がある動物です。たとえば、武田信玄のトレードマークとされる諏訪法性兜(すわほっしょうのかぶと)。あの印象的な白い毛もヤクのものですね。
バクは、必要以上に恐れる必要はありませんが、とにかく力が強いです。捕まえようとしてカヌーから投げ縄を投げたら、そのままカヌーごと陸の上まで引きずり上げられた、なんて話もあります。
ゲーム中で「TALL ELK」とあるのは、世界一大きく、そして見事なツノを持つオオツノジカのことですね。日本でも、かつて野尻湖にいたことで知られています。
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■野生動物を手なずける発想の有無が、当時の生死の明暗を分けた!
――紀元前1万年前の人間は、食物連鎖ではどのような位置にいたのでしょうか。
實吉: 人間は食物連鎖の頂点にはいませんでした。サーベルタイガーやヒョウといった猛獣たちとは、ライバルという感じだったのではないでしょうか。特に氷河期の頃は、どちらが洞窟で寒さをしのぐかをかけて争い、そしてどちらが生きていけるか、という時代ですから。
人には言語や武器の発達がありましたから、互角の存在だったのはせいぜい数千年~数万年程度の短い間だったのではないかと思います。ただ、ゲームの主人公たちの部族は極めて少数で他部族との争いもあるとのことですから、野生動物はとても脅威なのでしょう。
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そうした前提だと、部族のリーダーたる存在には生き抜くための賢さが求められます。それが何かというと「動物を狩猟の対象としてのみ見ていないかどうか」ということです。当時の人間にとって、賢いか、そうでない普通の人かの境界線はそこになるでしょう。
かつての人間が実際にイヌを手なずけたように、野生動物を手なずけなければ生き延びるのは難しい。そういう意味で、ゲームの主人公に「動物を手なずけられる不思議な力がある」というのは、大変妥当なものではないかと思います。さぞ、ヒロイックな物語が楽しめるのではないでしょうか。
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他の部族や獰猛な野生動物たちと命のやり取りをしながら、狂乱の石器時代を生きる『ファークライ プライマル』。これまでのシリーズ作と時代設定は大きく変われど、そこを生き抜くために主人公(=プレイヤー)にクレバーさが求められる、というコンセプトや楽しさは同様のものであるといえそうです。
『ファークライ プライマル』は日本国内で4月7日発売予定。対応ハードはPC/PS4/Xbox Oneとなっています。今回の實吉先生のお話が、みなさんが石器時代を生き抜くときの楽しさのひとつになれば幸いです。
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- 實吉達郎(さねよし たつお)プロフィール
1929年11月29日生まれ。動物研究家・作家。東京農業大学卒業後、野毛山動物園勤務を経て、労働者としてブラジルに滞在して動物を研究。帰国後は作家として活躍し、多くのテレビ番組に出演する。「UMA(Unidentified Mysterious Animal:未確認動物)」という言葉の提唱者としても知られる。主な著書は「UMA 謎の未確認動物」(スポーツニッポン新聞社出版局)、「アフリカ象とインド象」(光風者出版)、「三国志V 武将ファイル」(光栄)など多数。
・實吉達郎オフィシャルサイト