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『Stellaris』『Hearts of Iron IV』に続くParadox Interactiveの歴史ストラテジーゲーム『Imperator: Rome』のプレイレポートをお届けします。
今回はコンセプトを変えて、小国にすぎないローマが大国カルタゴと対決するまでを描いた物語風のプレイレポートとなります。ストラテジーゲームに詳しくない方にも読んでいただけるよう、システム面の説明は最小限にとどめています。また、ジャンルは異なりますが、同じく古代を舞台とする『アサシン クリード オリジンズ』『アサシン クリード オデッセイ』にも言及します。
ローマだけじゃない『Imperator: Rome』
物語に入る前に本作を簡単にご紹介します。2019年4月26日にリリースされた『Imperator: Rome』は、Paradox Interactiveの社内開発作品としては『Stellaris』『Hearts of Iron IV』(2016年)以来となるグランドストラテジーゲームです。
ゲームの舞台は、アレクサンドロス大王が世を去った後から、ローマが帝政に入るまでの、ヨーロッパ、北アフリカ、中東、インドです。残念ながら、日本や中国は含まれていません。タイトルにローマを冠していますが、ゲーム開始時のローマは大帝国ではなく、小国の一つにすぎません。世界では大小様々な国々が覇を競っており、プレイヤーはその中から好きな国を選んでプレイすることができます。
- 紀元前430年 『アサシン クリード オデッセイ』開始年
- 紀元前323年 アレクサンドロス大王、死去
- 紀元前304年 『Imperator: Rome』開始年
- 紀元前264年 第一次ポエニ戦争
- 紀元前221年 秦の始皇帝、中国統一
- 紀元前219年 第二次ポエニ戦争
- 紀元前202年 漢の劉邦、中国再統一
- 紀元前149年 第三次ポエニ戦争
- 紀元前49年 『アサシン クリード オリジンズ』開始年
- 紀元前27年 アウグストゥス、帝政開始
『Imperator: Rome』のゲームシステムは同社の歴史ストラテジーゲームを総合したものです。基本部分は近世を舞台にした『Europa Universalis IV』を受け継いでおり、そこに中世を舞台にした『Crusader Kings II』のキャラクター要素と、近代を舞台にした『Victoria II』の人口マネジメント要素が加えられています。
『Imperator: Rome』は日本語に正式対応していませんが、有志による日本語化が進められており、記事の執筆時点では部分的に日本語で遊ぶことが可能となっています。
第1章 鷲の旗の下に
物語は紀元前304年、大帝国を築き上げたアレクサンドロス大王が急死した約20年後から始まります。東方では大王の後継者たちが覇権争いを繰り広げているものの、その影響はイタリア半島にまで及んでいません。ローマは複数の部族を従え、地域大国としての地位を確立しつつあります。しかし、南には数ヶ月前まで戦争をしていた宿敵サムニウム人、北には同じく宿敵のエトルリア人という敵対勢力を抱えており、油断ならない状況です。
解説:アレクサンドロス大王
紀元前334年、マケドニアの王として東方遠征を開始。ギリシアからインドに至る大帝国を築き、ヘレニズム文化を生み出した。紀元前323年、熱病により32歳で死去。死後、後継者たちの内戦で帝国は分裂した。アレクサンダー大王、イスカンダルとも呼ばれる。
当時のローマの政治体制は、執政官を長とする共和政です。史実では、執政官は2人1組でその任期は1年ですが、現在の『Imperator: Rome』では執政官は1人、任期は5年となっています。その執政官が最初にした決断は、外交方針の大転換でした。南北に敵を抱えることの危険性を訴え、サムニウム人との和解と同盟を進めたのです。当然、元老院(ローマの最高決議機関)の意見は分かれ、同盟を強行した執政官に対する市民の不満は高まりました。
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南の脅威がなくなったローマは北の宿敵エトルリア人と開戦。ローマの重装歩兵を前に軽装のエトルリア軍は敗退を重ね、ローマ軍は都市を占領してはエトルリア人を奴隷にしていきました。この時代の奴隷は社会を支える重要な労働力であり、征服された土地の住民が奴隷にされることは珍しくありません。そのような史実を反映して、『Imperator: Rome』では戦争をすると自動的に奴隷が手に入ります。同様に略奪も自動的に行われます。
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わずか一度の戦争で宿敵エトルリア人は滅び、北の脅威は消えました。執政官は捕らえたエトルリア人の指導者を解放すると、市民の反対を押し切って征服した土地の総督に任命しました。『Imperator: Rome』には文化や宗教の概念があり、支配者と異なる文化や宗教を持つ住民は不幸になります。不幸な住民を放置すると、やがて国を揺るがす大反乱へとつながります。それを避ける一つの方法は、現地の人間を登用してその土地を治めさせることです。
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第2章 勝者の王国分割
一躍大国となったローマは、手のひらを返して南のサムニウム人との同盟を破棄しました。とは言え、即座に攻め込むわけにはいきません。同盟を破棄すると10年間は停戦期間となり、停戦を破って戦争を強行すれば国内が不安定になるからです。しばらく国力の強化に専念していると、ある日大事件が起こりました。南のウェスウィウス山が大噴火し、周辺の都市が灰に埋まってしまったのです。時の執政官は国庫から莫大な金を支出して復興に努めました。
解説:ウェスウィウス山
イタリア南部の火山。現在はヴェスヴィオ山と呼ばれる。西暦79年に起きた大噴火が有名で、3日間続いた噴火により山麓の都市ポンペイが完全に灰の中に埋没した。1748年に発掘が始まり、古代ローマの都市生活を現代に伝える貴重な資料となった。遺跡はユネスコの世界遺産に登録されている。
停戦期間が終了すると同時に、ローマ軍はサムニウム領に侵攻しました。サムニウム人は北イタリアの諸部族と手を結んで激しく抵抗しましたが、もはやローマ軍の敵ではありません。ローマはサムニウム人の土地を奪って領土に組み込むと、サムニウム人に加担した部族を服従させました。数多くのサムニウム人が奴隷としてローマ市に連れ去られたのは言うまでもありません。
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ローマは大国から一目置かれる存在となりました。長年の外交努力の末、海を挟んで東に位置する大国マケドニアと同盟を結ぶことに成功します。同じ頃、カルタゴの侵略を受けた小国が、ローマに助けを求めました。カルタゴは西地中海の覇権を握る超大国。ローマは決断を迫られました。主戦論者と非戦論者が対立する中、執政官が下した結論はカルタゴとの平和共存でした。
解説:カルタゴ
北アフリカに存在した都市国家。現在のチュニジア北部に位置する。フェニキア人により建設され、立地条件に恵まれて西地中海の交易を支配した。三次にわたるローマとのポエニ戦争に敗れて滅亡したが、のちに再建され繁栄した。遺跡はユネスコの世界遺産に登録されている。
海を挟んだギリシアのとある王国で内戦が勃発。同盟国マケドニアと共に介入したローマ軍は、王国を征服すると国王と反乱の首謀者を捕らえ、それぞれに元の王国を半分ずつ与えて治めさせました。まさに勝者の優越感。こんなロールプレイができるのも『Imperator: Rome』ならではです。ローマはイタリア半島の小国を次々に征服し、その国力はカルタゴと肩を並べるまでになりました。
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第3章 カルタゴは燃えているか?
ローマはシチリア島を支配するシュラクサイを攻めました。戦争は当初ローマの優勢で進んでいましたが、シュラクサイ軍は態勢を立て直すと総力を挙げて反撃に転じます。時を同じくして、ローマ本国では不満を募らせた将軍が自分に忠誠を誓う兵士を集めて挙兵。ローマは史上最大の危機に陥ります。ローマ軍とシュラクサイ軍の決戦は歴史に残る激戦となり、軍神マルスの加護を受けたローマ軍が僅差で勝利を手にしました。『Imperator: Rome』では文字通り神々の力を借りることができ、その効果は神によって異なります。
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シュラクサイを滅ぼし、反乱を鎮圧したローマは危機を脱します。一方、危機が迫っている国がもう一つありました。カルタゴです。異民族を多数抱えるカルタゴは今まさに内戦に突入しようとしていました。執政官は「カルタゴ滅ぶべし」と唱えると、カルタゴ国内の反乱勢力の支援を決定します。元老院は猛反対しますが、民衆派の執政官は市民に直接訴えかけたのです。『Imperator: Rome』には政治上の派閥という概念があり、その中には民衆派も存在します。ただし、民衆派にはデメリットしかありません。
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ついにカルタゴで内戦が勃発しました。ローマ軍はガレー船の大艦隊で攻め寄せると、兵士を上陸させてカルタゴ市を包囲。カルタゴ軍は都市の奪還を試みますが、各地の反乱に兵を割かなければならず、まとまった戦力を投入することができません。初めて目にするカルタゴ軍の戦象を前に、これまで無敵を誇ったローマの重装歩兵も苦戦を強いられます。約1年にわたる攻防戦ののち、ついにカルタゴ市は陥落しました。
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内戦の炎はカルタゴの支配地域全体に飛び火し、戦争は泥沼の長期戦に突入しました。ローマ軍もカルタゴ軍もしだいに消耗し、戦争の継続が困難になっていきます。さらに、守りの手薄なギリシアを蛮族が襲撃するに至り、ローマはカルタゴとの和平に合意。かくしてポエニ戦争は終わりを告げました。カルタゴ市はローマ軍によって徹底的に破壊され、周りの土地には作物が育たぬよう塩がまかれたとも伝えられます。今回のプレイでは実際に塩をまくイベントは確認できませんでしたが、徹底的に破壊することは可能でした。
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『Imperator: Rome』プレイフィール
続いて、物語の中で取り上げることのできなかった雑感をまとめます。
それぞれのスクリーンショット(クリックで拡大可能)をご覧いただくとわかる通り、『Imperator: Rome』は従来の作品よりユーザーインターフェイスが大きく、文字が読みやすくなっています。その反面、マップがウィンドウに隠れる場面もありました。なお、インターフェイスの縮尺は好みに合わせて調整することが可能です。
ゲームシステムは従来の作品よりシンプルでわかりやすくなっており、Paradox作品をプレイしたことのない方が最初にプレイするのに向いています。一方、従来の作品をプレイしてきた方には若干物足りなく感じられるかもしれません。
発売直後ということもあり、不具合が散見されます。強制終了が頻発するようなことはありませんが、比較的大きな不具合も確認されています。
多くのParadox作品は、バージョンアップやダウンロードコンテンツ(DLC)を通じて、システムが大きく改善・修正されてきました。上で述べたプレイフィールは今後変化する可能性があります。
『Imperator: Rome』注目国ピックアップ
『Imperator: Rome』は好きな国を選んでプレイできるのが魅力です。思い入れのある国でプレイしていただくのが一番ですが、これだけ多いと選ぶのも一苦労でしょう。そこで、筆者が独断と偏見でピックアップした国をご紹介します。
ローマ(Rome) 難易度:★☆☆
本作の主役。開始時の状況は物語の中で取り上げた通りです。様々な面で優遇されている上、最初は周囲に強力な敵がいないので、序盤に失敗しなければ領土拡大を阻むものはありません。初心者にお勧めです。カルタゴ(Carthage) 難易度:★★☆
ローマの宿敵。史実では三度にわたるローマとの戦争に敗れて滅亡しました。開始時のカルタゴは繁栄の絶頂期にあり、広大な領土と多くの属国を抱えています。周囲に敵らしい敵はなく、その繁栄は揺るぎないものに見えます。しかし、本当の敵は国の外側ではなく内側にいることに気をつけてください。巨大な国を治められなければ、物語と同じ結末が待っています。イタリアの新興国には要注意です。
エジプト(Egypt) 難易度:★★☆
『アサシン クリード オリジンズ』の舞台となった国です。『アサシン クリード オリジンズ』で描かれるのはプトレマイオス朝エジプトの末期(紀元前49年~)ですが、『Imperator: Rome』開始時のエジプトはその建国期にあたります。開始時にエジプトを支配しているプトレマイオス1世こそプトレマイオス朝の創始者であり、アレクサンドロス大王の後継者として他の後継者と熾烈な戦争の真っ最中です。スパルタ(Sparta) 難易度:★★★
『アサシン クリード オデッセイ』の舞台となった国です。『アサシン クリード オデッセイ』で描かれるのはペロポネソス戦争中のギリシア(紀元前430年~)ですが、『Imperator: Rome』はその約130年後にあたります。130年の間にギリシアの都市国家群は力を失い、北のマケドニア王国がギリシアの覇権を握りました。スパルタはあくまで反マケドニアの姿勢を貫き、アレクサンドロス大王の時代でさえ反乱を起こしています。■筆者紹介:FUN
現在、海外の歴史ストラテジーゲーム『Imperator: Rome』『Europa Universalis IV』を日本語で遊べるようにするためのMod制作チームに参加しています。個人としてもModを制作し、Steamワークショップを通じて公開しています。