2020年7月23日にリリースされ、Game*Sparkではプレイレポも掲載したホラーアクション『CARRION』。複数の触手を持つグロテスクなエイリアンを操り、研究者を捕食していくゴア度120%メトロイドヴァニア・スタイルの本作をレビューしていきたいと思います。なお今回のレビューでは、PC版を使用しています。
ドット絵ながらモンスターの動きが滑らかでグロテスク
古代ミミズの集合体のようなモンスターとなって人々を襲う本作の醍醐味は、いかにモンスターを操り、どうやって敵を攻めるかといった部分でしょう。プレイしてすぐに感じたのは、滑らかなアニメーションで無数の触手をビュンビュンと伸ばし、重いであろう胴体をかなりのスピードで動かせる爽快感と操作性の良さです。
移動させるだけでも楽しく感じられ、画面を縦横無尽に這いずり回る姿はまるで「もののけ姫」に出てくる「タタリ神」のよう。その場に止まっていてもウネウネとうごめく胴体は、ドット絵ながらグロテスクさもあり最高です。
モンスターを操ることがメインのためか、ストーリー性はあまりなく多くは語られません。ゲーム開始直後はなぜ研究所に捕らえられていたのか不明ですが、マップに点在する記録装置のような機械に潜り込むことで、研究者サイドの記録からモンスターの素性が少しずつ明らかになっていきます。
PC版の操作はゲームパッドとマウス・キーボードの両方に対応していますが、筆者はゲームパッドでのプレイをオススメします。ゲームパッドではモンスターの移動と触手の操作を分けておこなえるので、移動しながら向かっている先とは逆の方向に触手を伸ばせます。また、ゲームパッドが振動機能に対応していれば、捕食時の噛み砕く感覚を感じとることも……。
一方でマウスとキーボードの操作では、マウス側にモンスターの移動と触手の操作が割り当てられているため、向かっている先とは逆の方向に触手を伸ばすことはできません。マウスでプレイする利点としては、パッドよりも繊細に触手を操作できるので、頭を脊髄ごと引っこ抜くといったアクションを楽にこなせる点です。
ゲームの大まかな流れは、エリアを探索し新しい能力を獲得しながら、特定の場所で「バイオマス(セーブポイント)」を広げて新たなエリアを解放していくというものです。
最恐のボスがプレイヤー自身
アクションゲームは各エリアの最後に「ボスとの死闘」が待っているものですが、本作では主人公自身がラスボスのような存在のためかボス戦はありません。ヒーローが登場して悪に対抗する場面があっても良さそうですが、ボスと言えるほどの敵が登場しないため、激しい攻防戦の末に勝利するといった達成感を味わえないのは残念な点です。
最も恐れられる存在ですが、はじめのうちは集中攻撃や火炎攻撃を浴びると思いのほかアッサリと倒されてしまいます。序盤から登場する敵の中でも、電気シールドと防御スーツを身に着けた人間が最も厄介な存在。気づかれると電気シールドを発動させ、正面からの攻撃は弾かれ触手で掴むこともできないため、気づかれずに後ろから攻撃する必要があります。地形を利用しつつ「雄叫び」で敵の注意を引いて背後を取りやすくする、といった工夫をしなければなりません。
能力は体の大きさ毎に2種類あり、最初に獲得する能力はクモの巣を放って敵を捕らえて一時的に動けなくさせたり、手の届かない場所にあるスイッチを動かせる能力です。他にも光を屈折させて透明になったり、前方に刃を無数に作っての体当たりで木の壁を破壊するといったものが存在します。能力を獲得する過程で体力が増えより大きなモンスターに成長、最大3段階まで巨大化します。
身体の大きさによって使える能力が異なるため、「バイオマス」という液体の中で身体を分離させたり、結合させて使える能力を変化させながら各エリアを攻略するといったパズル的要素あります。体力が増えれば、隠れなくとも複数の敵を相手に無双することも簡単に。それではつまらないという時は、ダクトで身を潜ませながら1人づつ倒していくといったステルスプレイでさながら映画「エイリアン」のような遊びもできるので、いかにモンスターになりきれるかが本作をより楽しむポイントとなるでしょう。
敵・マップのバリエーションとゲームバランス
ゲーム全体のボリュームは、正直短いと言わざるを得ません。初プレイで迷ったとしても大体5時間程度でクリアできます。無駄に長くするよりはスカッとクールに終わらせたかったんだろうな思いますが、モンスターに様々な能力が備わり、これからどうなる?と思った矢先にエンディングを迎えてしまうのは大きなマイナスポイント。また、敵の種類は研究者、武装兵、ドローンとロボットの大体4つの分類で、バリエーションはあまり多くありません。
マップのバリエーションは、研究施設の他にも炭鉱のような環境や古代遺跡、緑が茂るエリアもあります。本作ではマップ機能が無いため、行動範囲が広くなってくると思いのほか迷ってしまうこともしばしば。モンスターだからマップ表示はできない!というこだわりでもあるのかとは思いますが、マップがあるとさらにクリア時間が短くなるから実装しなかったのではと、ネガティブな考えを巡らせてしまいました……。
そして、言及しなければならないのがゲームバランスです。本作に難易度選択はなく、後半になるほど集団で攻められることが多くなるので倒される確率は上がりますが、その点は問題ありません。問題はプレイヤーが倒されても直前で倒した敵は復活せず、死亡によるペナルティが発生しない点です。
敵を倒しては死亡を繰り返している内に、いつの間にか全ての敵を倒している状態になるので、難度の高いエリアをクリアする達成感を味わえない可能性があります。敵が復活しないという部分はリアルではありますが、ゲームバランスを崩す原因にも繋がっています。
総評
ここまで、ボリュームと敵のバリエーションが少ないといったマイナスばかりを話してきましたが、ネガティブな面ばかりではありません。本作は臨場感溢れる2Dグラフィックや滑らかなアニメーション、サウンド、インタラクティブに動くオブジェなど、ビジュアル面での完成度は高く、爽快なプレイが楽しめます。
そのため、ゲームのボリュームが本作の評価を大きく変えていることが残念です。また難易度選択やリプレイ性がないので、セールなどでの割引はともかく、定価での購入は不満の方が大きくなる可能性があります。Xbox Game Pass対応タイトルであるという点も、そうした不満に拍車をかけるかもしれません。
しかし襲う側になれるホラーゲームは少なく、狭い通路を進みながら影から忍び寄って襲い掛かるゲームプレイには新鮮味があります。また、人間を簡単に殺せるが囲まれると手も足も出ないゲームバランスは、どこから攻めるかという戦略性を生んでいるほか、「なぜホラー映画のモンスターたちはチビチビとしか襲ってこないのか?」という疑問に思いを馳せるきっかけも与えてくれます。不気味な怪物の恐ろしさと無力さの両方を味わえる『CARRION』は、モンスターになりきってのごっこ遊びに最適な一本と言えるでしょう。
良い点
・滑らかでゴア表現満載の2Dグラフィック
・モンスターを操って暴れ回る爽快感
・プレイヤー自身がモンスターになりきれるアクション性
悪い点
・全体的なボリューム、リプレイ性の不足
・敵が復活せず難易度選択もないことによるゲームバランスの悪さ
・マップ機能がないために探索が不便