「SNSに投稿しない人は、犯罪者予備軍だ」、なんてことがまかり通る社会が訪れたとしたらどうでしょう。ばかばかしい妄想だ、そんな世の中ありえない、と思う人が大多数でしょう。一方で、そんな社会でも問題なく生きていけるほど、SNSにどっぷりハマって過ごしている人もいるかもしれません。

5月27日にニンテンドースイッチとPS4、そしてPC(DMM GAME PLAYER / Steam)向けにリリースされる『LIBERATED(リベレイテッド)』は、そんな価値観が常識となった社会が舞台の物語。「1984」や「未来世紀ブラジル」といった小説や映画、TRPGの「パラノイア」などに代表されるような、よくあるディストピア世界のストーリーです。すでに何十年にも渡って擦られ続けてきたテーマですが、『LIBERATED』はそこに少し現代的な視点を持ち込んだ作品となっています。
現代人の我々がドキリとさせられるような社会の構造に、そこで生きていく多くの人々の思惑。そんなストーリーの持つ魅力と、「コミック」を読む感覚をベースにした本作独自のゲームシステムについて、本記事で深堀りしていきたいと思います。
現代社会の延長線上に描かれるディストピア
「LIBERATED」の舞台は近未来の某国。とある大規模なテロ事件を契機に、政府が監視体制を強化。安全の名のもとに、国民の個人情報は全て政府の管理下に置かれ、不穏分子は犯罪を犯す前に検挙される社会が形成されています。定期的に「善良市民講習会」なる企画が催され、人々は善良な市民としての生き方を叩き込まれます。


ここまでは従来の作品にも見られるような、よくある一般的なディストピア。本作ではそこに加えて、SNSの扱いに重きを置いていることが特徴となっています。政府は人々のSNSへの投稿を常に監視し、不審な動きが無いかをチェック。政府に反抗的な投稿は削除され、そのような活動を繰り返す人は当然逮捕されます。

加えて本記事の冒頭にも述べたように、「SNSに全く投稿しない人は、隠し事をしている犯罪者予備軍に違いない」という価値観が政府主導で世の中を席巻しています。反政府的な投稿を規制するだけでなく、そもそも投稿すらしない人々を「善良ではない側」に置こうとする考え。作中でも、「SNSへの投稿無し。写真もないし、彼女も、友達もいない。これが普通に見えるかね」という趣旨の言葉が、警察官の口から発せられます。

SNSを使わない人への偏見は常態化していることが見て取れます。
思わず2度見してしまうようなショッキングな発言。個人的にも寒気を催します。筆者は、休日に薄暗い部屋で独りしこしこゲームをしているときに最上の幸福を感じるタイプの人間。SNSへ私生活の写真を上げた事なんてありませんし、そもそもリアルの知り合いに見せることのできるアカウントなんて持ってません。
ここで、あなたの身の回りのSNS好きの友人や、インフルエンサーを思い浮かべてみてください。交友関係も広く、パーティや旅行の様子をネットに投稿する陽気な人物。対して、暗い部屋でぼそぼそ独り事をつぶやきながらゲームに興じ、SNS上を探してもほとんど私生活が見えてこない筆者のような人間。客観的に見て、どちらが犯罪者予備軍に見えるでしょうか。

『LIBERATED』の世界の価値観は、私たちの生きる現代社会の、ほんの目と鼻の先で待ち構えているのかもしれません。
本作ではこの世界を舞台に、複数の立場の視点でストーリーが展開します。「反乱者」と「政府側の警察」という対立する視点もちろん、「社会に潜む不穏分子を犯罪者に仕立て上げる組織」の視点も描かれます。

この組織を中心にしたストーリーは、ディストピアファンならば一見の価値あり。ここに登場するのは、ロボットのような無機質で感情の無い監視者ではありません。自分が善良だと信じて疑わない、幸せな家庭を持つ感情豊かな普通の人々。そんな人々が、あくまで普通のサラリーマンとして、「罪のない人を犯罪者に仕立て上げている」という業務を実直にこなしていくのです。

自分たちの仕事に疑問を抱かない。
善良に見える人が、正義感で他者を陥れていく。昨今問題になっている、インターネットでの誹謗中傷問題にも通じるような気がしてきます。
『LIBERATED』の社会は我々の今の暮らしとは似ても似つかない恐ろしい環境。しかしそこで描かれる数々のエッセンスは、全て現在の社会が抱えている問題と地続きになっており、今の自分たちの生き方を改めて見直すきっかけを与えてくれます。
コミック体験とゲーム体験のシームレスな融合
本作のゲーム的な特徴は、前編がコミックの紙面上で展開されるということ。コミックを読み進めるようにしてストーリーを追っていき、その紙面のマス目の中でアクションパートをプレイするという構造になっています。

ここでいうコミックとはいわゆる「アメリカン・コミック」のこと。本作のストーリーの重厚さから言えば「グラフィック・ノベル」の呼称の方が適当かもしれません。アメコミと言えば、日本の「漫画」よりも大判で、本一冊の厚さは薄め(もちろん分厚い長編もあります)。全編通してカラー印刷されているものが一般的で、直線的なコマ割りがなされており、絵も写実的である、というイメージです。

「アベンジャーズ」などの映画の人気もあってか、近年はアメコミ作品の日本へのローカライズがかなり進んでいるようですね。マーベルやDCのヒーローもののコミックを集めているという人も、相当数いるのではないでしょうか。
グラフィックノベルの魅力の一つは、表紙を中心とした本全体のルックのカッコよさ。もちろん作品によって出来はピンキリですが、日本の漫画とは異なるタイプのスタイリッシュさがあります。
本作『LIBERATED』は章立てのストーリーを読み進めていくのですが、各章を選択する際には並べられたコミックの表紙を見て選ぶという作りになっています。

この表紙がとにかくめちゃくちゃカッコいい。男女が銃を手に背中合わせになっているバディ物のようなイラストもクールですし、意味深な絵の表紙もかなり良い雰囲気。個人的なイチオシは画像左から二番目の表紙。このハードボイルドな感じの男性のシルエットがたまりません。

表紙のデザインが非常に良いため、眺めているだけでも楽しめます。これは本作の思わぬ高評価ポイントでした。筆者も高校生の頃、グラフィックノベルの初体験として「V・フォー・ヴェンデッタ」の原作日本語訳を購入。割高でしたが思い切って買えたことが嬉しくて、日がな一日表紙を眺めたり、何度も何度も繰り返し読み返したものです。(奇しくも本作『LIBERATED』と「V・フォー・ヴェンデッタ」は非常に似たテーマを取り扱っています。)
そんなコミックをコレクションするような楽しみも味わえるのが、本作の魅力の一つです。
表紙の説明に文字数を裂きすぎてしましたが、ゲームパートも没入度は十分です。コミックを読み進めると時々選択肢が現れ、そのチョイスによって展開が変化。実際に漫画を読んでるスタイルで楽しめるノベルゲーム、ということができるでしょう。

コミックを読み進める過程で、そのままシームレスにアクションパートへ移行。紙面上の横長のマスの中でアクションゲームが展開します。ベースは横スクロールのシューティングアクション。『ロックマン』や『メトロイド』風といえばわかりやすいでしょうが、ジャンプや回避などのアクション要素は控え目。操作はシンプルですが、敵を撃つための狙いが割とシビアで、エイムの正確性が物を言うゲーム性となっています。

「読者」を選ぶとエイムアシストが付くなど、難易度が低下します。
アクションパートの途中にはパズルゲームも。アクションゲームのおまけと侮るなかれ、意外と頭を使います。ノベルゲームとシューティングアクションの間に入って、程よいアクセントとなっています。

すでにここまでの画像をみていただいてわかる通り、全編通してモノトーン。この色使いも、物語のダークな雰囲気作りに一役買っています。

表現されます。これがまた良い緊張感を生むんです。
『LIBERATED』を言い表すならば、「グラフィックノベル」の体裁をしたアクションゲームということになります。
ストーリーパートからゲームパートへの移行がスムーズであるため、物語の世界に入り込んだままアクションを楽しむことができるのが最大の魅力。コミックを読むという半ば受動的な娯楽と、キャラクターを操作するアクションゲームという能動的な娯楽が絶妙に融合したことで、能動的にコミック体験ができる作品になっていると言えるでしょう。
『LIBERATED』は2021年5月27日に、ニンテンドースイッチとPS4、PC(DMM GAME PLAYER / Steam)向けに発売予定です。(Xbox One版は6月中の発売予定です。)
※使用画像は発売前のものとなるため、実際のシーンとは異なる可能性があります。予めご了承ください。