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台湾大ヒットアナログゲームが現地待望のビデオゲーム化!語られなかった歴史を届ける「台北大空襲」プロデューサーにインタビュー

2.5Dアクションアドベンチャーゲーム『台北大空襲』体験版が注目を集めています。制作の経緯や意図をプロデューサーにインタビューしました。

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台湾大ヒットアナログゲームが現地待望のビデオゲーム化!語られなかった歴史を届ける「台北大空襲」プロデューサーにインタビュー
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2.5Dアクションアドベンチャーゲーム『台北大空襲』が「Steam Nextフェス」に出展、6月14日から期間限定で配信された体験版が注目を集めています。そこで本稿では、そんな注目作のプロデューサー・張少濂氏のインタビューをお届けします。

本作は、台湾のアナログゲーム開発スタジオMizoroit Creative Company LTD(迷走工作坊)の代表作ボードゲーム『台北大空襲』を原作としてビデオゲーム化したもの。ボードゲーム『台北大空襲』は台湾で大ヒットしただけでなく、日本最大規模のアナログゲームイベント「ゲームマーケット」東京と大阪でも、午前中で500セットが完売するなど、日本でも大きな反響がありました。

「Mizoroit Creative Company LTD(Mizo Games)」スタッフ集合写真。一番左がプロデューサー・張少濂氏

アナログゲームからビデオゲーム化にあたっては、クラウドファンディングを実施。300万台湾ドル(約1300万円)の資金調達に成功し、アクションアドベンチャーへと姿を変えました。

『台北大空襲』のSteamストア:https://store.steampowered.com/app/1901950/_Raid_on_Taihoku/?l=japanese


本作の舞台となるのは第二次世界大戦末期、日本統治下の台北。1945年5月31日、アメリカ軍の空襲を受ける台北で、記憶を失って台北城をさまよう少女がいました。

彼女の名は林清子。台北州立台北第一高等女学校(現:台北市立第一女子高級中学女)の生徒です。プレイヤーは清子となって、台湾犬のクロと共に記憶を取り戻しながら、過酷な戦渦で生き残る方法を探していきます。戦闘機による爆撃から逃れるなかで、生き残った人々の悲しみや葛藤に遭遇する清子は、やがて選択がもたらす結果に直面することになります。

本作は、アニメ映画『火垂るの墓』と『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』の雰囲気と要素を融合。プレイヤーは高校生「清子(きよこ)」となり、台湾犬のクロとタッグを組んで行動します。探索ができる「安全エリア」と、ミッションをクリアする「危険エリア」の2パートを交互に行き来しながら、全20ステージをクリアすることを目的とします。各ステージをクリアした時点で、清子の選択が周りにどんな影響を与えたかが明らかになります。

「安全エリア」では、自由に探索し、NPCの物語を聞いたり、クロが与えたヒントから廃墟や残骸に隠された時代背景に関しての知識を込めたアイテムを集めたりしていきます。

「危険エリア」では、清子とクロが連携しながら、ステージの仕掛けや爆撃を避けたり、難民を助けたりします。しかし戦火の前にただの女学生ができることには限りがあります。人間が入れない大きさの道でアイテムを拾ったり、襲い掛かる敵を抑えたりと、あらゆるシーンで台湾犬クロの力が必要になります。ステージを進めていくことで、「危険エリア」での遊び方が増えて難易度も上がっていきます。

今回、Mizo Gamesの創設者兼最高経営責任者で、『台北大空襲』シリーズを含め20本以上のボードゲームの開発に携わった、本作のプロデューサー張少濂氏にビデオゲーム化の狙いと本作の魅力を訊きました。

教科書に載っていない「台北大空襲」を事実を伝えたい思いから生まれたゲーム

――改めて、ビデオゲーム化の経緯についてお聞かせいただけますか?

張少濂:『台北大空襲』は弊社のボードゲームから発生したビデオゲームで、台湾では大ヒットしました。また、東京と大阪の「ゲームマーケット」に参加した時も大好評でした。ありがたいことに、2019年にビデオゲーム化の是非をファンに問いかけたクラウドファンディングで、多くの支援をいただくことができたので、ボードゲームからビデオゲーム化することができたんです

そして、今年は台北大空襲(1945年の5月31日)から数えて77年です。本作には戦没者への追悼と平和への祈りが込められています。

――そもそも、なぜ「台北大空襲」をテーマにしたのでしょうか?

張少濂:台北大空襲は、100機以上のアメリカ軍の爆撃機が、当時の日本の植民地、つまりアメリカにとっての敵国の領土であった台湾・台北に爆弾を投下したもので、台湾史上最大規模の空襲と言われています。

ただし、様々な事情があって、台湾の教科書には台北大空襲のことは書かれていません。そのため、台湾ではほとんどの若者がこの歴史についてよく知りません。中には、台湾を襲ったのは日本だと思っている人も少なくないです。

だからこそ、その歴史をゲームの形で再現しようと思いました。プレイヤーたちに、ストーリーの奥深さとゲームの楽しさの両方を感じて頂きたいのです。

また、もう1つ、プライベートな理由もありまして、私の祖父は何回も空襲に遭ったことがある、第二次世界大戦の経験者です。戦争にまつわる状況は祖父から話を聞きました。祖父はもう亡くなってしまいましたが、ゲームづくりを通じて彼のことを思い返したいのです。

――ビデオゲーム版は、ジブリアニメ作品『火垂るの墓』(1988年)と、ゲーム『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』(2014年)を組み合わせたような作品だとお聞きしました。当初から、この2つの作品を意識してゲーム開発をしたのですか?

張少濂:まず、宮崎駿監督のジブリ作品は台湾でも人気であり、『火垂るの墓』は、台湾人の心中に、ものすごく印象に残る第2次世界大戦をテーマにした映画だと思っています。

私の知り合いの多くがこの作品を観たことがあります。幼児期から小学校の間に見た人も少なくなく、私も小学校1年生の時に初めて観ました。その時、ほんとにびっくりしたというか、ショックでしたね。今も記憶の中に深く刻まれている素晴らしい映画です。

そして『バリアント ハート ザ グレイト ウォー』の中で、最も印象的なのは犬と行動を共にすることですよね。ゲームの進行上でアクセントでもあるし、かけがえのないキャラクターでもあります。

台北大空襲でもアイデアの1つとなりました。

ボードゲーム版からビデオゲーム化しても本質は変わらない

――ボードゲーム版との大きな違いを教えてください。

張少濂:ボードゲーム版は、お互いに対戦するのではなく、プレイヤー全員で協力してゲームを進める形式で、各プレイヤーが演じるキャラクターは一つの家族となっています。

家族が誰一人欠けずに生き残ることを目的としており、勝つ時は全員が勝ちますし、負ける時は全員が負けます。そして家族の中でそれぞれが問題を抱えており、この問題をクリアすることも必要です。例えば、おじいちゃんは空襲で無くした祖先の位牌を探したいと思っています。もし見つけられなければ、気持ちが落ち込み、そのままだと悲しさのあまり亡くなってしまいます。

また、ボードゲーム版でも犬と猫が家族の一員として登場するのですが、こちらでは食べてしまうことができました。戦争当時とは現在と状況が違っており、そういった時代の残酷さを伝えたい狙いもありましたが、家族の一員である犬や猫を食べることを選んでしまうと、家族全員が落ち込んでしまい、やがては亡くなる人物が出てしまうかも知れません。

端的に言えば、ボードゲーム版は気持ちのパラメーターを下げないことが重要な協力型のゲームでした。

――ボードゲーム版では登場するキャラクターの気持ちを大事にしたわけですね。

張少濂:そうです。もちろん、ビデオゲーム化にあたっても人々の気持ちを重視しています。当時と現在の違いを通じて、戦争の悲惨さを伝えたいと思っています。

ボードゲーム版とから大きく変わったところとしては、本作は協力プレイではなく、ソロプレイであることでしょうか。また、いくつかのお笑いのエッセンスを盛り込みました。主人公の相棒的立場として、5~6年前の弊社のボードゲームで大人気だった、台湾犬のクロが登場し操作もできるのはその一環です。また、操作はできないのですが、ちょっとまるい茶色の猫も登場します。非常にモテる猫なのでいろんな彼女がいるんですよ。癒しキャラですね。

――本作は全部で20ステージはあります。ボードゲーム版とは違って、一貫した物語やエンディングがあるでしょうが、その中で伝えたいメッセージをお聞かせいただけますか?

張少濂:台北大空襲については、政治的な立場により解釈が異なっていることが多いですが、政治的な面でプレーヤーを導くことは全く考えていません。

あくまでも、戦乱の時代において人々が感じていた無力感や、苦しんでいた人々のこと、何よりも「戦争の悲惨さ、平和の尊さ」などを伝えたいと思っています。

――つまり、1番大事にしているのは、台北大空襲という時代背景とそれにまつわるストーリーなのでしょうか?

張少濂:ゲームは人間性みたいなものだと考えています。もし、ゲーム自体が面白くなければ遊んでもらえないので、どんな素晴らしいストーリーが用意されていても無駄ですよね。ストーリーの深さを感心させたい一方で、ゲームとしての魅力も感じさせたいと思っています。

また、いろいろな理由もあり、台湾の歴史は教科書に全てが書かれているわけではありません。そのために、台湾人が自信を失っている部分もあります。やっぱり、ゲームを通して自信を取り戻してほしかったり、台湾から見た事実を世界中に届けたりできればとは思っています。

当時の台湾の街並み、6人の人気小説家ともコラボしたストーリーに注目

――ゲームの構成が安全エリアでの探索、危険エリアではミッションクリア、2つのパートがありますが、ご紹介していただいてもいいですか?

張少濂:安全エリアでは、第二次世界大戦当時における台湾の重要な局面をテーマとして、ストーリーを展開しています。危険エリアでは、犬のクロと一緒に空襲を避けていかなくてはなりません。台湾犬のクロはこのゲームのもう1人の主人公として、清子に協力する大切な仲間です。クロの捜索能力を活かすことで、清子は危険を避けることができるでしょう。

危険エリアで出会う様々な障壁はプレイヤーたちに、新たな挑戦をもたらします。例えば、火事にあったり、浮浪者と出会ったり、激しくなっていく空襲は、プレーヤーに林清子とクロをいかに上手に、そして同時に操作できるかを試すでしょう。

――時の台湾の歴史や文化を、プレイすることで学ぶことができるとお聞きしたのですが、当時の台湾をゲームで再現する上で、どのような資料を参考にしましたか?

張少濂:まずは、台湾の「前衛出版社」という歴史関連の本を出版する出版社によって出版された、「米機襲來」と「空襲福爾摩沙」を参考にしています。

この2冊の本は、ボードゲーム版製作時からの重要な参考資料になっています。その本の中には当時たくさんのアメリカ軍による空襲に関わる写真など当時の資料が豊富に掲載されています。

そして、ボードゲーム版の時から歴史顧問を務めてくれている東京大学中央研究員・陳力航先生の著書の「零下六十八度」や、台湾の国家図書館と中央研究院台湾史研究所資料館と国立台湾歴史博物館などに収められている資料にも助けられました。

――安全エリアでいろんな情報を収集していくわけですが、探索で謎を解き明かさないとゲームはクリアできませんか?

張少濂:安全エリアでは収集がメインになっています。収集することによって、それにまつわるエピソードを知ることができます。100個以上の収集アイテム、サイドクエストがありますので、この時代の歴史背景や文化的面の情報を理解することができます。

どこまで収集するかはプレイヤー次第なので、全て収集しなければクリアできないといったことはありません。

ですが、収集することでいろんな情報を得ることができるので、ゲームクリアしてから振り返ると、登場する人物たちや歴史的背景の理解が深まり、「そういうことだったのか!?」と見方が変わる楽しみがあるでしょう。

探索パートでアイテムを収集して読めるストーリーには台湾の有名な小説家6人がコラボした作品「台北大空襲小説集」のキャラクターも登場します。

ゲーム本体だけでも楽しめますが、もし小説とゲームの両方を体験していればより楽しめるでしょう。

書名:《台北大空襲小説集》

小説家:

林立青(リンリーチン)

朱宥勳(ジューヨーシュン)

瀟湘神(シャオシャンシェン)

陳又津(チェンヨーチン)

鍾旻瑞(ジョンミンレイ)

張嘉真(チャンジャージェン)

台湾は現在、漢文化や南東原住民の諸文化を保とうと努力していますが、それでも失われてしまった1945年当時の台湾の建物は多くあります。日本の建物や神社にも戦争後に取り壊されてしまったものがあります。

今ではそれらが人々の記憶の中にしかないのは個人的にすごく残念だと思っています。ですので、ゲームでは当時の台湾の街並みをできるだけ忠実に再現しました。そこも見どころです。

――危険エリアの難易度はどれくらい難しくなっていくのでしょうか?

張少濂:体験版でプレイできるステージは空襲なのですが、実はここは難易度が高めのステージになっています。ゲームを普段遊ばないけど、台北大空襲の歴史に興味がある人にも楽しんでもらえるように、現在の体験版でいただいた意見をフィードバックして、正式版の前には難易度は調整するつもりでいます。

プレイヤーに、ゲームを難しく感じさせないように、何回か失敗しているうちにコツを掴んでクリアできるような方向性を目指しています。

――体験版では空襲でしたが、危険エリアにはほかにどんなステージが登場する予定ですか?

張少濂:他にも、火事や秘密警察を避けるステージもあります。登場人物の記憶の中が舞台になることもあります。私が好きな言葉に、小説家のヴィエット・タン・グエン氏の「全ての戦争は、一回だけでは終わらない。一回目は戦場、二回目は記憶の中」があります。この言葉も主人公・林清子の気持ちを表しています。戦争は実際に遠いものではなく、もっと身近なものであることを危険エリアでは体験してもらえると思っています。

――ありがとうございます。最後にプレイヤーに一言をお願いしたいです。

張少濂:台北大空襲は台湾人にとって、直視したくない大きな傷でした。だからこそ、ゲームという優しいやり方で、みんなの傷が癒やされるようにと願って本作を開発しました。その思いが伝わることを願っております。


《乃木章》

現場に足を運びたい 乃木章

フリーランスのライター・カメラマン。アニメ・ゲームを中心に、親和性のあるコスプレやロリータ・ファッションまで取材。主に中国市場を中心に取り上げています。

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