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ところにょり氏のビデオゲームは怖い。氏の代表作であるスマートフォンで『ひとりぼっち惑星』や『おわかれのほし』といった作品では、独特のアートスタイルをもとに情緒的な印象を生み出していましたが、一方でどことなく厭世的な雰囲気がありました。
そうした雰囲気を察知したことはどうも間違いではないようで、プレイヤーが腎臓病の犬の腎機能を調整して老人と最後の時を過ごす『renal summer』のリリースあたりから、氏の情緒的でありながら殺伐とした感覚が同居しているのを感じたものです。
そんな先入観を抱いたなかで、氏の最新作『違う冬のぼくら』を一見するとこれまでの作品よりも落ち着いた雰囲気があります。かわいらしいピクセルアートで、しかもふたりで協力して謎を解いて進むパズルアクションとのこと。
しかし事前のSteamストア解説には、ふたりプレイで協力するスタイルにも関わらず「相手の画面を見ることは禁じられています」と不穏な一文が書かれており、何かが普通じゃない展開が待ち受けているとおもわされるわけです。今回のBitSummit X-Roadsにて、そんな本作の試遊ができたため、その不穏さは本当だったかどうかをお伝えいたしましょう。
家出した少年たちの冒険
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ふたりのプレイヤーはそれぞれ家出をした少年となり、とある目的のために山の頂上へと向かっていきます。
ふたりが進む先には、時に崩れそうな橋を下から支えたり、高いところに移動するために箱を持ってきたりと、お互いが協力しないと先へ進めない困難が待ち受けていました。プレイヤーはどうやって先に進むかを考えていくのが主なゲームプレイとなっています。
謎解きのギミックは先に上げたように崩れそうな橋や、箱を使って高いところに移動できるようにしたり、シーソーを使って移動できる場所を探るなど、ふたりのプレイヤーで協力しながら進むかたちです。
かわいさの裏の怖さ……試遊の最後にトラウマを残す
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さて今回の試遊では、まだ開発途中で来場者のレスポンスや動作の安定性を見たいのもあるのか、ラップトップPCが横に二台並べられるかたちだったため、普通に相手プレイヤーの画面も見れてしまったわけですが、筆者としては安堵していました。ところにょり作品、どこで危険な瞬間があるかわかりませんからね。Bitsummit取材でまだまだ忙しいところでトラウマをもらいたくありませんでしたからね。
本作を最初に触った感じでは、かわいく描かれた家出少年どうしが頑張って協力してパズルを解いていくゲームの風景になるわけで、ほのぼのとした雰囲気があるように思えました。隣のプレイヤーのPCをちらっと覗いてもこっちの画面とまったく違う地獄の風景に変わっている仕掛けもなく、同じ穏やかな風景が映っていました。
しかし先へ進むとステージの高低差も大きくなり、高所からの移動も多くなってくると、冒頭に感じたような不穏さが牙を向き始めます。軽い気持ちで高いところから飛び降りて、謎解きに役立ちそうな箱を取ってこようとしたらグチャリと嫌な音を立てて即死。やりなおしとなります。
そう、本作はそこそこリアルめに設定されている部分もあり、キャラの身長でいえば約5人分の高さから落ちると死んでしまうようです。「デフォルメされた絵柄のゲームだし、高所から落ちても大丈夫であろう」は通用しない。某『スペランカー』なら笑えますが、『違う冬のぼくら』の場合は気持ちが重くなります。
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パズルを協力して解く気持ちよさの一方、どこかで心が落ち込むのを感じながら、ある程度先に進むともっと恐ろしいものが。鹿の腐乱死体を見つけてしまうのです。家出少年ふたりは絶句したまま、急に眠気が襲いかかり、そのまま倒れてしまいます。
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目を覚ますと、ふたりはまったく別の姿となり、まるで金属片を組み合わせた不気味な姿と化していました。周りの風景も穏やかな森から荒涼とした廃墟のようになっているではありませんか。試遊版はここで終了。冒頭での予想通り、ところにょり作品ならではの怖さを体験させられるかたちとなったのでした……。
情緒的な部分と退廃的な展開。ふたつの共存が本作を印象深くしています。『違う冬のぼくら』は2022年の発売を予定しております。