発売前から「問題作」として度々話題になってきた『The Callisto Protocol』。本作が持つ強烈なグロテスク表現などはもちろんのこと、CEROレーティング下において発売できないとして、PSコンソール版のリリースが中止されました。PC版のリージョンロックやIARCレーティングだった国内Xboxコンソール版の発売中止、さらには国内Xboxコンソール版予約購入ユーザーへの強制払い戻しなど、不可解なほど徹底した日本地域ユーザーの締め出しは、ある意味で2022年の最後に大きな爪痕を残しました。
本稿では、12月2日にPC/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S向けに海外で発売された『The Callisto Protocol』のGame*Sparkレビューをお届けします。プレイにあたっては、PC版をXbox Series Sワイヤレスコントローラーを用いて使用しています。記事中で記載するボタン表記はXbox配列準拠となります。
なお、本レビューには直接的でないクライマックスの構成への言及や、シナリオ中盤のとあるキャラクターとの関係についてのネタバレが含まれるため、ご注意ください。
『The Callisto Protocol』について
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本作は、EAで『Dead Space』などを生み出したクリエイターが所属するStriking Distance Studiosが開発するサバイバルホラーアクションです。発売元は現在『PUBG: BATTLEGROUNDS』を運営しているKRAFTONが担当します。
貨物輸送船パイロットである主人公、ジェイコブ・リーは、本作のメインキャラとなるダニ・ナカムラが所属する組織「アウターウェイ」に船を襲撃され、木星の衛星「カリスト」に不時着します。不時着時に副操縦士のマックスが死んでしまったほか、刑務所長の命令によりカリストの刑務所「ブラックアイアンプリズン」に収監され、首にインプラントを埋め込まれてしまいます。
気絶したジェイコブが目を覚ますと、ブラックアイアンプリズンは半壊、死体は転がり、所々で炎が上がる地獄絵図に。ジェイコブは刑務所から脱出を目指し刑務所内を生き延びます。
『Dead Space』を連想することは避けられないタイトルですが、本レビューでは『Dead Space』との比較は避け、単体のサバイバルホラー作品として評価します。
近接・射撃どちらも活躍できる戦闘。しかし単調な部分が目立つし、ボス戦は美しくない
まずは、本作のゲームプレイの中核をなす戦闘についてです。戦闘の基本的な流れは、敵の攻撃をスティック左右で回避もしくはスティック下でブロックしながら、隙を見てRTで殴るというもの。回避の仕様はかなりゆるく、タイミングによる成否はありません。プレイヤーが初めに手にする武器はピッケルになっており、開始からしばらくは近接攻撃主体で戦闘が進行していきます。
敵の基本的な動作としては、プレイヤーに向かって突進し、近接攻撃を行ってきます。場合によっては2~4回ほど連続で攻撃してくることもあり、左右交互にスティックを倒さないと避けられません。他にも酸を吐いて遠距離攻撃をしてくる敵や、プレイヤーに近づいて爆発する敵などがプレイヤーを襲います。
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また、ゲーム中盤では敵の身体に触手が生えます。触手が生え始めてからしばらくすると敵が変異し、耐久力が高くなって攻撃回数も増加します。この場合は集中して早めに倒すか、弱点になる触手を射撃して大ダメージを与えることで対処可能。しかし射撃中に他の敵が突進してきたら避ける必要があり、それを回避しているうちに変異してしまうケースもあって、イマイチうまく噛み合っていない印象です。
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ある程度進行すると拳銃を入手でき、その後はショットガン、アサルトライフルなどいくつかの銃が手に入るようになります。銃を手にしたあとは「戦略的な照準」と呼ばれるメカニクスが登場します。これは近接攻撃を連続で当てると敵の体にレティクルが表示されるため、LT+RTを素早く押すことで頭や四肢を破損させ、追加ダメージを与えられるというものです。大きく有利に働くわけではありませんが、簡単に発動できる技のわりに見た目がカッコいいです。
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GRPという装置も登場します。これは『Dead Space』でいうところのキネシスにあたるもので、物や敵を掴んで引き寄せたり、吹き飛ばしたりできます。マップには時折針の生えた壁や高速で回る装置が登場します。GRPを使って敵を掴み、そこに投げ込む環境キルは面白いと感じました。
武器や装備は、フォージと呼ばれるショップで作成・強化ができます。マップ上には通貨となる「カリストクレジット」や換金できるアイテムが落ちています。ただ、潤沢にお金が手に入るわけでは無いため、強化するものは慎重に選ぶ必要があります。また、弾薬や回復アイテムを作成することもできます。
また、弾薬や回復アイテム、カリストクレジットはマップに落ちているもののほかにも、敵を倒したあと死体を踏みつけ攻撃することでも入手可能。「敵を倒したら踏みつけ」というのが基本的な進め方となります。
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武器による殴打は鈍い振動も相まって、射撃メインのアクションゲームとはひと味違う快感は確かに受け取れます。また、GRPを使った環境キルは非常に楽しいものに仕上がっていますし、「戦略的な照準」も大きな効果は得られないものの、カッコよく敵を倒せます。
しかし、基本的なメカニクスはどれも特段優れたものはなく、フォージで行える強化も装弾数やダメージの増加など地味な物ばかりです。銃の射撃については、基本的な部分は抑えられていますが、それ以上の目新しさがないためあまり面白くありません。途中でブレイクスルーを起こしてくれるような劇的な強化などもないため、全体的に地味で単調な印象を受けます。
そんな戦闘である上に、敵との戦い方にバリエーションが少ないこともこの地味さに拍車をかけています。通常時に戦う雑魚敵は5種類ほどですが、どれも基本的な戦い方は上述のような地味な戦い方になりがち。射撃で対処する場面もありますが、ゲーム中多くの戦闘は近接が主体になるでしょう。また、ステルスパート以外で戦闘を避けることが難しく、先に進みたいのに沢山の敵を倒さなければいけないというもどかしさを感じる場面も多々ありました。
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また、QTEが発生する敵は非常に退屈です。マップを歩いていると、ろくろ首のような敵やヒルのような敵に襲われますが、対処法はYボタンを連打するのみ。回避することは基本的に不可能です。アイテムボックスを開いたらヒルが出てくるといった唐突なトラップも多く、場面によっては何度も連続で対処させられる場面もあるので、イライラが募ります。
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回避についても単純で、面白みに欠けます。タイミングにかかわらず左右に倒すだけでいいというのはあまりにもシンプル過ぎますし、ミス時は「横に倒したつもりが判定が下になっていた」というような些細な操作ミスに起因するものがほとんどで納得感がありません。その上、少量のダメージを被るブロックを使う機会がほとんどないところも、良い作りではありません。
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ゲーム中盤以降は、ボス戦が挿入されます。基本的には近接攻撃を避けつつ後退しながらひたすら銃を当て、ダウンしたら殴るという流れになります。本作で最も銃を使うのは、ボス戦になるでしょう。しかしこのボス戦はすこぶる出来が悪く、ゲームの印象を著しく下げるものとなっています。
まず問題なのは、プレイヤーの体力にかかわらず攻撃に当たれば一撃死であること。少しの操作ミスも許されないため、武器のリロード中などに襲われて対応できずにやり直しというパターンも多いのです。
ゲーム後半では、雑魚敵も同時に襲ってきます。ボスから距離を取っている最中に雑魚敵が突進してきて、対処していたら背後からボスに殴られて死亡……ということを何度も繰り返すことになったのは最悪の体験でした。特に最終ボスではプレイヤーに近づいて爆発する雑魚が何匹も襲ってきて、理不尽なバランスになっています。
武器切り替え操作の難しさも、ボス戦の障害のひとつとなっています。十字キー左で拳銃と両手持ち銃の切り替え、十字キー右で簡易的な武器リストを出して選択できるのですが、切り替え中でも時間は止まりません。また、武器リストを選んだあとAで持ち替えを確定しなければならず、思ったように変更できないこともしばしば。そのため、ある程度ダメージを与えていたのに切り替え時にやられて水の泡になるということも起きます。
また、リトライの仕様が前時代的で不親切な仕様であることも指摘すべきでしょう。本作は定期的にチェックポイントが敷かれており、死亡した場合はそこからやり直すことになります。サバイバルホラーというジャンルの性質もあり、筆者の感覚ではある程度やり直しが発生するのは許容できます。しかし、フォージで購入や強化を行ったものまでリセットされ、そこまでやり直しになります。
昔の作品ではよく見られた仕様ですが、2022年に発売されるゲームとしてはどうしても旧時代的に感じてしまいます。一撃死も存在する作品なので、ここはもっと工夫が必要だったのではないでしょうか。
凄まじく美麗なグラフィックは魅力的なグロテスク表現を彩る
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戦闘について様々な粗を指摘しましたが、グラフィックは凄まじい完成度に仕上がっています。マップやキャラクターモデルのディテールの緻密さはもちろん、テクスチャやライティングなども非常に高品質です。
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ジェイコブの顔のザラザラとした質感や流れる汗の照り、髭の質感などは感動的なほどに美しいです。筆者が特に感動したのはジェイコブに光が当たっている時の眼の反射で、実写と見紛うほどでした。
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そして、その美麗なグラフィックは本作最大の魅力であるグロテスク表現を際立てます。頭部や四肢の欠損はもちろん、頭の前半分が抉られ中身が見えたり、強く殴られて顔がへこんだり、腕をもがれて苦痛に歪んだりとバリエーションは豊かです。
特に強烈だったのは、ヒルのような敵が口の中に入って、体内で爆発する死亡モーション。一度飲み込んだあとに一拍置いて絶叫し目が潰れるというもので、他のものとは一線を画す表現となっています。
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ただし、ホラーとしてはあまり怖いとは言えません。ホラーらしい演出はほとんどがジャンプスケア(びっくり系)で構成されており、何度も連続するためあまり驚きがありません。一部、緊張感の高い絶体絶命のピンチに陥ったり、死体が吊り下げられた細い隙間を通ったりとドキドキするようなシーンは存在したため、そちらの方面をメインに構成してほしかったというのが心情です。
ストーリーは予定調和的だが、メインキャラクターは魅力的
本作のストーリーは正直に言って先が予想しやすく、退屈です。悪役の動機やキャラクターの生死などストーリーの大筋は「お約束」というような展開が多く、プレイのモチベーションにはなりません。主人公のピンチを描くシーンも「突然出てきた敵に襲われて暗転」「突然床が崩れて仲間と離れ離れに」というような唐突な展開が何度も繰り返されるので、途中で飽きてしまいます。クライマックスも続編への布石なのか、イマイチぼかされたような、ふわっとした形で終わりを迎えます。
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しかし、アウターウェイを率いるダニ・ナカムラというキャラクターはベタながら魅力的に描かれています。序盤ではジェイコブと敵対していましたが、ストーリー中盤ではやむを得ず一時休戦し、主人公と協力関係を築きます。その後お互いを助け合いながら徐々に仲が深まり、真相に向かって近づいていく姿は筆者には魅力的に映りました。
美しいグラフィックの上で浮いてしまうローカライズの粗。翻訳の質自体は良好
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最後に、ローカライズについてです。本作は日本で正規に購入できないにもかかわらず、日本語字幕・吹き替えに対応しています。日本語字幕の翻訳の質自体に大きな問題はありませんし、吹き替えのクオリティも良好です。
しかし、表示テキスト自体には不満点があります。字幕テキストだけでなくゲーム内オブジェクトに書かれた文字も日本語ローカライズされているのですが、本作で使用される日本語フォントは安っぽく、美しくリッチなグラフィックの上で浮いてしまっています。また、文字が途切れているシーンもありました。
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その他、時々韓国語字幕になったり、音声が英語になったりと細かい粗も目立ちました。ゲームプレイに大きな支障を与える問題点ではないですが、没入感は削がれます。
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『The Callisto Protocol』は、近接戦闘の爽快感や環境キルの楽しさは確保されているものの、全体的には平凡かつ単調で、粗も目立ちます。一撃死の多いボス戦は理不尽な体験を味わうことも多く、様々な場面でイライラさせられる出来になってしまっています。
とはいえ、本作最大の魅力であるグロテスク表現は極めて美麗なグラフィックによって鮮やかに彩られています。グラフィックの質も、グロテスク表現のレベルも、他の作品とは一線を画すような作品に仕上がっていることは間違いありません。決して目をつぶることが出来ない粗が多い作品ですが、本作最大の魅力を引き出せているという点では大きく評価に値するでしょう。
・凄まじく美しいグラフィック
・鮮やかで魅力的なグロテスク表現
・環境キルの楽しさ
・ダニ・ナカムラという魅力的なキャラ
悪い点
・単調で、うまく機能していないところが目立つ戦闘
・すこぶる出来の悪いボス戦
・ストーリーが予定調和的で退屈
・旧時代的でイライラするリトライの仕様
・浮いた安っぽいフォントなど、ローカライズの粗