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先日、大崎にあるセガ本社にて、「龍が如く 生キャバ嬢オーディション」の二次審査が行われました。
「極道」をモチーフとした同社の人気シリーズ『龍が如く』では、こうしたオーディションを度々立ち上げ、受賞者たちの見た目や個性を反映させたキャラクターを作中に登場させ、話題を集めてきました。
直近では、『龍が如く7 光と闇の行方』に合わせた助演女優オーディションを2019年に実施。また、今回のようなキャバクラ嬢役のオーディションは、『龍が如く6 命の詩。』の時以来なので、約6年ぶりの開催です。
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二次審査を通過したのは74名。今回はグループ形式で面接を受け、審査官からの質問などに受け答える姿を見せてくれました。取材向けに公開されたのは一部のグループだけでしたが、その範囲だけでも、応募者の幅広さを実感させられます。
単純に応募者の職業ひとつを取っても様々。まず、作中に登場するキャバ嬢役を射止めるべく、現役で活躍する“本職のキャバ嬢”が複数エントリーしています。ある意味、プロによる参戦と言えるでしょう。
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現役キャバ嬢の愛渚さんは、対面での会話に慣れているためか、グループのトップバッターながら堂々とした振る舞いを見せます。また、こちらもキャバ嬢の七星ひなのさんは、人見知りながらお酒を飲むと下ネタも飛び出すといった落差で、親近感を醸し出しました。
色気の面ではこちらも引けを取らないセクシー女優のうんぱいさんは、Tikitokのフォロワー数が420万人を超えるインフルエンサーの一面も持ちます。TikTokerながら口調は穏やかで柔らかく、そのギャップから生まれる魅力と、会場で披露したセクシーポーズで自身を強くアピールしました。
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またインフルエンサー枠なら、124万人の登録者数を擁するVTuberのksonさんも印象深い応募者のひとりです。アメリカ出身の彼女は、『龍が如く』に出会ったことで日本語を学び、しかもシリーズの主要キャラクター・桐生一馬の大ファン。もしオーディションに通過し、作中で“共演”する機会に恵まれれば、ファン冥利に尽きることでしょう。
この面接でも桐生の魅力に触れ、「許容範囲が広い」「(未知の分野でも)まず理解してみようという姿勢を見せてくれる」と、彼の懐の深さを熱弁。そんな桐生と話すことがもしできたら、との質問には「得意な英語で熱意をアピールし、(桐生に)引かれたい」と、ファンらしい節度とオチをセットにしたトークで印象付けました。
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香港生まれの元アイドル、今はアイドルプロデューサーを行う佐藤かれんさんは、「ふとももが好き」といった嗜好を告白。桐生との会話も、その“太もも愛”で盛り上がりたいと語りました。
また、黄藝林さんも元アイドルで、出身は中国。ゲームやアニメを通して日本語を学び、『JUDGE EYES:死神の遺言』でトロフィーをコンプリートした実績を持ちます。今回のオーディションも「トロコンを目指す気持ち」で挑んだと明かし、オーディションを通過したら「中国人のキャバ嬢キャラを作り上げたい」と熱意を顕わとしました
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このように個性的な面々が揃いましたが、こちらも負けていないのが津田翔太郎さん。女装でオーディションに挑んだ津田さんは、つまり男性ながら今回のキャバ嬢オーディションに参加。もちろん募集条件的に何ら問題はなく、ここまでの選考に残った応募者のひとりです。
津田さんは女装だけでなく、化粧品検定など複数の資格持ちという面もアピールし、審査官の関心を集めました。そして、もし作品への出演が決まったら、ゲームならではの「男性のキャバ嬢」という役に挑戦したいと熱意を語ります。この発言には審査官から、「もうちょっとしたら、(現実世界でも)あり得そう」と反応する声があがりました。
このほかにも、遊園地好きな主婦の梶ヶ谷麻也さん、ポジティブさをアピールした学生の千葉ハンナ英美理さん、自身の柔道経験を桐生と語りたい水上梨乃さんなど、取材範囲だけでも多くの応募者が面接を受け、その個性と意欲を全面に押し出しました。
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今回のオーディションを取材した際、最近耳にする機会が増えた「多様性」という言葉が筆者の脳裏をよぎります。出身に職業、そして性別にも垣根がない今回のオーディションには、枠の自由さゆえに様々な人たちが集まる形になりました。
このオーディションが、どこまで「多様性」を視野に入れているのか、正確なところは分かりません。むしろ、そうした視点は特に意識していない可能性もあります。
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オーディション取材の締めくくりに、龍が如くスタジオ代表および製作総指揮を務める横山昌義氏がいくつかの質問に答えましたが、その中でVTuberとのコラボレーションの可能性を問われたところ、「発信チャンネルとして使うことはないと思う」と発言。
VTuberは今非常に大きな注目を集めており、公式サイドからゲーム実況や広報活動などを直接依頼されることも少なくありません。ですが、作品として意味のある繋がりではなく、単なる話題性として流行のコンテンツと結びつける考えはないと横山氏は示唆しました。
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近年、「多様性」はひとつの力を持つワードとして、各方面で話題になっています。その影響は映画や小説、アニメなどにも及んでおり、ゲーム業界もまた無縁ではありません。例えば、キャラメイクのあるゲームだと、以前は体型の変更を「男性/女性」で選択するケースがほとんどでした。ですが最近は、性の多様化を踏まえて「タイプA/タイプB」といった別の言い回しに置き換え、性別に言及しない作品も増えています。
今は何かと注目を集めやすい「多様性」というワードを、例えば今回のオーディションに絡めれば、単純な知名度は上がったかもしれません。「性別の制限ナシ! 多様性に富んだ“キャバ嬢オーディション”」と押し出せば、より多くのメディアが取り上げた可能性があります。
しかし、そうした目先の話題性に飛びつくことなく、条件を広く取りながらもそれを「多様性」と持ち上げることはせず、これまでと同様に過剰な力を込めずに「キャバ嬢オーディション」が行われました。
言葉とは時におかしなもので、口にすればするほど本質からかけ離れてしまうこともあります。この「多様性」も同様で、多様な価値観や認識、世界を認めるはずのワードが、使い方次第である種の制限や強制を強いる結果に陥ることも少なくありません。「多様性」が縮小を招いてしまうのは、まったく望ましい話ではないでしょう。
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そんな世情を踏まえて今一度振り返ると、『龍が如く』の「キャバ嬢オーディション」は特に多様性を謳っていないのに、出身・職業・性別だけでも、幅広い方々が馳せ参じています。それは、特に強くは押し出さず、しかし募集要項の条件を相当広げていたことが一因でしょう。
多くは語らず、されど間口は広く。この姿勢とそこから導き出された結果が、まさしく「多様性」の実現だった──今回のオーディションを通じて、そんな印象を強く受けるに至りました。
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こうした考えを巡らせていると、ふとシリーズの中心的な人物・桐生一馬の姿が浮かび上がってきます。ksonさんも語っていましたが、桐生は口数が少なく、言葉で伝えるのはむしろ不器用なタイプです。また、仁義を重んじて情に厚く、揺るがぬ芯を持っている一方で、(プレイヤーの操作次第で)若者文化のアクティビティにも偏見なく挑戦します。
今回のオーディションに入賞すれば、『龍が如く7外伝 名を消した男』にキャバ嬢役として出演が決定。そしてグランプリに選ばれると、さらに『龍が如く8』への出演権も獲得します(役柄は未定)。桐生一馬と共演する人物を選ぶオーディションであれば、桐生のような姿勢で募集をかけるのは、なるほど道理が通っています。
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今や極道の世界でも桐生の在り方は古いものと扱われがちですが、その懐の深さこそが「多様性」の鍵なのかもしれません。そんな彼と共演できる人物が、今回取材した中から選ばれるのか否か。まずは、今年2月予定の最終審査に駒を進める合格者を見逃さないようにしましょう。