2023年4月12日、『Ghostwire: Tokyo』の無料大型アップデート「蜘蛛の糸(Spider's Thread)」が配信されました。
本作はTango Gameworksが開発し、2022年3月25日にベゼスダ・ソフトワークスから発売されたアクションアドベンチャーゲーム。謎の霧の発生とともに人が消え、超常現象や妖怪といった怪異のはびこる渋谷を舞台に、主人公である暁人と彼に霊体として乗り移ったKKのふたりが異能力を駆使して事件の真相を追うというストーリーで、広大な街を自由に歩き回れることが特徴の作品です。
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本作は渋谷を中心に東京らしさを詰め込んだ街の造形や、伝奇ロマン的な設定、バディムービーを思わせる主人公たちのやりとりが好評を博し、2022年には日本ゲーム大賞優秀賞を受賞しています。
先のPS5/PC(Steam//Epic Gamesストア)版の発売から1年あまり経ち、Xbox/PC(Microsoft Store)版のリリースおよびXbox/PC Game Passへの追加と同時にアップデートが配信されました。なお、それに先立つ2023年3月21日にはPlayStation Plus加入者向けのサービス「ゲームカタログ」にも本作が追加されています。
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本アップデートはタイトルにもなっているローグライト形式の新たなゲームモード「蜘蛛の糸(Spider's Thread)」をメインに、ゲーム本編に新しいサブミッションや霊技(スキル)の追加、新たなマレビト(敵)の登場、カットシーンやボイスの増加など細かい調整を含めて盛りだくさんな内容となっています。
本稿ではこのアップデートを中心に『Ghostwire: Tokyo』本編の魅力に触れつつ、既に本編をクリアしたプレイヤー、そしてこれから本作を遊ぶプレイヤーに向けたプレイレポートをお届けしていきます。
新エリア「中学校」で“学校の怪談”を体験
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まず、本編に追加された要素を挙げていきます。アップデートしてすぐにわかるのはマップ上に新エリア「中学校」が登場したことで、ここでは暁人たちを新たなミッションが待ち受けています。
中学校関連のミッションは二部構成で概ね1~2時間程度のボリュームとなっており、これまでプレイできた本編中のサブミッションのなかではやや長めの部類となります。このミッションは1990年代に小説や映画でブームとなった『学校の怪談』シリーズを思わせる内容となっており、ダンジョンと化した学校内を進み、怪異の真相を探っていきます。
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中学校のビジュアルは細かく作りこまれ、つい足を止めて廊下の掲示物や表彰状を眺めてしまうほど。そんなプレイヤーに対して怪異は容赦なく襲ってきます。ミッション中に起こるイベントはいずれもまさしく『学校の怪談』そのもので、中学校という舞台も含めて、人によっては恐怖以上にノスタルジーを感じてしまうかもしれません。
はたしてどんな怪異が暁人たちを待ち受けているのか……それはプレイしてみてのお楽しみ。ぜひ新エリアを訪れて実際に体験してみてほしいです。
写真からオーラを感じて浄化せよ「心霊写真」
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もう一方の「心霊写真」のミッションは、入手した心霊写真に写る街並みを手掛かりに撮影地を特定し、そこで霊を浄化するというものになっています。ミッション一回につき写真一枚、一か所ずつ浄化を行っていくという内容です。
撮影地に近寄るにつれて写真裏のシミが大きくなるので、それを目印に場所を特定していきます。写真は複数枚あるため、一気にプレイするというよりは長期的に進めていくことになるでしょう。
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筆者は本作をクリア済ですが、このミッションをプレイすることで『Ghostwire: Tokyo』の世界を再発見できました。「写真を見る」という作業は、これまで意識してこなかった地点を注視させ、景色に対してドラマを重ねる作用を持っていた一方、広いマップから撮影地を割り出すのはなかなか骨が折れる作業で、ミッションの達成だけを目的にするのはモチベーションを保ちづらいとも感じてしまいました。
とはいえ、そう感じるのは筆者が本作をクリア済みだからかもしれません。たとえば他の目的の道すがら撮影地を発見するくらいが、このミッションをプレイするのに丁度いい距離感なのだと思います。この点ではこれから本作を始めるプレイヤーにとっては特に問題にはならないでしょう。
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これらのミッションは新たなプラットフォームで新規プレイヤーがプレイするタイミングに重なるため、本編後半の内容やエンディングを直接示唆するものではありません。しかしミッション中に垣間見えるKKの言動やそれに対する暁人の反応は、本編のストーリー全体を通して浮かび上がったふたりの人物像を想起させ、彼らの関係性を補強する一篇として充分な内容となっています。
探索中の掛け合いも以前より増加しているためクリア済みの筆者としても「こんなセリフ言ってたっけ?」と思うことがしばしばあり、新鮮な気持ちでプレイできました。また、もともと本編に入っていたとしても違和感の無いエピソードなので、ゲームをクリアしていないプレイヤーにとっても安心してプレイできます。
意外な組み合わせ?「蜘蛛の糸」=『Ghostwire: Tokyo』×ローグライト
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さて、次に本アップデートのメインコンテンツである「蜘蛛の糸」について紹介します。こちらは『Ghostwire: Tokyo』のシステムにローグライト形式を採り入れた完全新規のゲームモードです。
怪異を追う途中、暁人とKKは地下世界へと引き込まれ、霊能力を持つ「祟り屋」と呼ばれる集団から協力を依頼される。祟り屋いわく「槌蜘蛛(つちぐも)」という強大な怪異が目覚めつつあり、それは東京に異変をもたらした張本人「般若」の仕業であるという。彼らの話を聞いた暁人たちは槌蜘蛛の復活を止めるべく、地下世界へ下っていく……というストーリー設定です。
タイトルこそ芥川龍之介の小説『蜘蛛の糸』をもとにしていますが、小説が蜘蛛の糸を伝って上を目指していくのに対して、ゲームでは下層へ降っていく設定となっています。
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「蜘蛛の糸」は本編の進行状況とは分離しており、専用のセーブデータを作成して全30階層で構成されるステージに挑戦します。ステージは本編に登場するエリアを区切ってダンジョン化したもので、各階ごとにランダムに設定された条件を達成すればステージクリアとなり下の階へ進めます。
ただし一度死亡すると一部を除いた所持アイテムを失い、再び1階からやり直しとなってしまいます。
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3階層ごとに発生するボス戦をを突破すると一旦スコア精算がなされ、妖怪・猫又が取り仕切る店「猫借亭」に到着します。ここはいわば休憩地点で、アイテムの売買や項目の達成率に応じて報酬を獲得できます。
猫借亭にはお金にまつわる金言を記した掛け軸がたくさん見受けられるのですが、それは本モードでのお金の重要性を象徴しています。「蜘蛛の糸」専用の通貨である「猫又小判」はアイテムの購入だけでなく「霊技」と呼ばれるスキル強化にも必要なリソースで、霊技は一度強化さえすれば死んでも失われないのでプレイヤーに有利な要素として働きます。
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猫又小判はステージに散らばっているものの、本モードはステージが区切られていることで敵から逃げづらく、アイテムや残弾入手の機会も限られているため、本編よりも探索のリスクが高くなっています。猫又小判はスコア精算時に所持しているアイテムや達成項目に応じて加算されるので、無理はせず必要な条件のみを満たして安全にクリアすることも可能です。
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こうしたリスクとリターンの取捨選択と、スコアに影響する任意の課題が絡み合うことで、自分がどこまで挑戦できるのかプレイヤー自身が見極めていく必要が出てきます。特に序盤は霊技の少なさから採れる行動が狭く、いかに接敵を控えて猫又小判を集められるかを念頭に置いたプレイとなるため、緊張感のあるプレイが楽しめます。
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筆者はこれまでローグライト系のゲームをほとんどプレイしたことがなく、正直なところ『Ghostwire :Tokyo』とローグライトの組み合わせに懐疑的な見方を持っていました。しかし実際にプレイしてみると思っていた以上に両者の相性は良好で、ミスをしてもリトライしたくなる内容となっていました。
倒されても少しづつ強くなり、課題の達成率が蓄積されることで成長が加速していく。こうしたリトライを促すシステム設計はローグライクやローグライトというジャンルが持つ特質ですが、本アップデートで追加された霊技やアイテムがゲームのプレイ感覚を変えていることも、この組み合わせの成立に大きく寄与しています。
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たとえば「空中即浄」は距離のある高所から敵を即浄(ステルスキル)することが可能になる霊技です。即浄は以前からあった要素ですが、この霊技の追加によってステルス状態を保つ緊張感と、一撃で敵を倒せる爽快感がより強く結びつくようになり、積極的に即浄を狙いに行くモチベーションを高めています。
また「ドッジ」という霊技を解放すれば、左右や後方へ瞬間移動することが可能になり、敵の攻撃を避けるだけでなく、自分の攻撃後のスキを減らすことができます。これにより戦闘スピードが加速し、アップデート以前より敵との攻防にメリハリが生まれました。
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東京の街並みが詰め込まれた本作は、建物が林立する狭小な道幅の地形となっており、広さ以上に高低差を特徴としたマップデザインとなっています。「蜘蛛の糸」では、本編のマップを区切っているため広さが無くなり、狭い空間に敵が待ち構えています。加えて、建物の上へ登るルートを開拓するのも時間が掛かります。
そんな時は「昇旋風札」という新アイテムの出番です。このアイテムを用いれば、上昇気流に乗って容易く高所へ到達できるので、遠距離からの空中即浄を狙ったり、ゴール地点までのショートカットを図ることも容易くなります。
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また、新たに登場した3体のマレビト「黒土女」「不見鏡」「血套法師」はいずれも強敵揃いで、黒土女は地中に潜る能力、不見鏡は透明になる能力、血套法師は素早い空中移動能力をそれぞれ持っています。こうした脅威に対抗するうえでも新たな霊技は有効な手立てとなっています。むしろ、マレビトの追加ありきでこうした霊技が追加されたと思えるほどで、あるとないとでは大幅に攻略難度が変わります。
すばしっこく空中を舞いながら突進してくる血套法師に筆者は苦戦しましたが、この敵に対抗するうえでドッジは必須ともいえる霊技でした。また、連続して攻撃を浴びせる霊技「チャージラッシュ」を用いるのも有効な攻撃方法となるでしょう。
ここで紹介した霊技やアイテムはアップデートのほんの一部。新要素の追加により以前より幅広く、好みのスタイルに応じたプレイが可能になりました。
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「蜘蛛の糸」は一年間の集大成、この街はまだ眠らない
『Ghostwire: Tokyo』はリリースから現在に至るまでの一年間、エモートや衣装の配信といった細かなアップデートがコンスタントに施されてきましたが、今回の大型アップデートによってさらなる充実化が図られました。
本編はシステムや演出をしっかり補強しつつ、メインストーリーのバランスを崩さない程度にアップデートが行われ、かたや「蜘蛛の糸」は本編と切り離されているため気持ちを新たにプレイできました。筆者もその内容に満足していますが、それと同時にまだまだ期待できるポテンシャルがあるゲームだとも感じました。
本作に登場する東京の街並みはこの一作で終わらせるには惜しく、まだまだ味わい尽くせるのではないか、とワガママにも思ってしまうのです。もしかしたらそれは続編という形で発表されるのかもしれませんが、いずれにせよ筆者はまたこの街を訪れたいと思っています。
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『Ghostwire: Tokyo』と無料アップデート「蜘蛛の糸」はPC(Steam/Epic Gamesストア/Microsoft Store)/PS5/Xbox Series X|S向けに販売中。人の消えた東京は、もうクリアしてしまったプレイヤーの再訪も新たなプレイヤーの来訪も、手ぐすね引いて待っています。
¥10,978
(価格・在庫状況は記事公開時点のものです)