ファッションに“答え”はない!
――試遊をして気になったところ(注:このインタビューはゲームの発売前に実施)をおうかがいします。本作はプレイヤーがクリエイトして発信できることもあり、無数のコーデアイテムが登場します。しかし、各アイテムには(架空の)ブランド名も、「ガーリー」、「カジュアル」などといったカテゴリー分けがありません。これはどのような意図によるものでしょうか。
滝田「ファッションに答えはない」からです。たとえば、カジュアルな服が着たいという人に「カジュアル」でアイテムをソートできればいち早く答えにたどりつけるでしょう。しかし、僕たちはこのゲームで皆さんに「答え探し」をしてほしいわけではないのです。表示される情報はあくまで“手がかり”のようなものです。
神山もし「本作がファッション(を主軸とした)ゲーム」として企画されていたなら、私は「いえ、答えがないのは困りますよ」と言っていたと思います。しかし、当初から「ファッションを通してコミュニケーションするゲーム」という軸が決まっていたので、私もシンソフィアさんの考えに賛同しました。
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――キャラクターミューズ(NPCにあたるミューズ)にルカット(コーデの提案)をしたらイマイチだったようで、あまりよい評価を得られないことがありました。しかし、「でも、俺なら着こなしちゃうけどね!」とも言ってくれて、なんだか救われたなぁと。本作の舞台となる仮想空間イヴは、とても優しい世界ですね。
滝田それも当初から意識しています。「世界観となる設定」と「オンラインモードの設計」の両面に言えることですが、イヴは大勢のプレイヤーが同じ空間にいるわけではないんです。プレイヤー個々人にイヴという空間があり、安全にフィルタリングされた他のプレイヤーたちが訪れている……という形になっています。
――ゲームとしての設計だけでなく、設定面でもそうなっているのですね。
滝田そして本作のオンラインモードには「怖いことやイヤなことがない、よい面が強調されたコミュニケーションを経験することで、現実におけるコミュニケーションの助けになれれば」という思いも込められています。
イヴの各エリアが「コクーン(繭)」という名称になった理由の一つでもありまです。「ここは、危険から守られた、安全にコミュニケーションを楽しめる場ですよ」と。
――「答えがないのだから、間違い(誤答)もない」ことを徹底しているのですね。「ルカット」は造語だと思いますが、どのような意味があるのでしょうか?
滝田吉田が考案した言葉で、語源は英語の「Look at」です。「このコーデを見て、見て!」というところでしょうか。
神山最終的には口にした時の語感を大切にしていますので、英語圏では「LookIt(ルキット)」という名称になっています。
アイテムクリエイトは気後れしない気軽さが魅力!
――アイテムクリエイトについて教えてください。本作は型紙を使用したマイブランドアイテムのカラーを任意で設定・作成できますが、カラーだけではなくデザインや模様のレベルからクリエイトできるようにすることは検討されましたか?
滝田もちろん検討しました。開発初期の段階における社内テストプレイでも、デザイナー陣などから「アイテムをもっと作り込めるようにしてほしい」という要望が挙がりました。
しかし、「あまり凝っていてもうまく作れないので、このくらいの方が気後れしなくていいな」という声も多く上がったんです。
――気後れしそうだという気持ちが分かる気がします。凝ったクリエイトを行えるゲームは器用な人やセンスがある人はとても楽しめると思いますが、プレイヤー全体を俯瞰して見ると「デザイナーと消費者」に別れてしまうような気もしていて。自分でも作ってみようという意欲が薄れてしまった経験があります。自分が「消費者」の側だから、そう感じたのかもしれませんが……。
滝田それは、よい視点だと思います。もちろん、ゲーム内にプレイヤーが高いクリエイティビティを発揮できる環境が用意されているのはよいことです。
しかし、本作は「誰でもトップインフルエンサーになれる!」が目的の一つですので、そのためにさまざまな工夫を凝らしています。一部の方たちだけがインフルエンサーになれるような設計は、目的に反してしまうのです。
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神山そういった誰もがポジティブなフィードバックを受けられるゲーム性を踏まえて弊社でも「今日も世界でほめられろ」というキャッチコピーを考案しましたが、シンソフィアさんでも吉田さんから「みんながほめられるゲームにせよ」というお達しもあったと聞いています。そこともつながるお話ですね。
また、自分の思い描く空間を演出できる「ショールーム」機能を活用してもらえれば、カラーの変更だけでもさまざまな“文脈”が表現できると思っています。
滝田だいぶ前にシンソフィアとマーベラスの皆さんで集まって同時にオンラインモードをテストプレイしたのですが、神山さんのミューズは紫一色でパンキッシュな雰囲気の女の子だし、ショールームも紫一色だしで、たしかに文脈が伝わりました(笑)。
神山(笑)。シンソフィアさんとのオンラインモードテストプレイの時は、初めてお会いする方たちに向けて言葉を使わずに「神山はこういう人間です」と伝えられたと思っています。だからこそ、アイテムクリエイトは手軽なものにした方が、ポジティブな側面が大きくなるのかなと。
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「誰もがインフルエンサーを目指せる」開発スタッフの工夫とは?
――先ほど話題に上がった「誰でもトップインフルエンサーになれる工夫」について、もう少し教えてください。
神山ひとつ例を挙げるなら、本作における「いいね」は現実のSNSとは違って非対称であるということでしょうか。
――非対称、というのはどういうことでしょうか?
滝田実際はこんなに単純ではないのは分かっていますが、インフルエンサーの本質は「自分がいいと思ったものを他の人にも広める」人たちであると解釈しています。
その解釈に基づき、本作は僕が神山さんのミューズやルカットを「いいね」するだけで、そのアイテムを無条件ですべて獲得できます。これによって、神山さんがトップインフルエンサーへと一歩近づいたことになりますね。
――そこまでは理解できます。
滝田そして、僕が獲得した神山さんのアイテムには一切の制限がありません。たとえば記者さんが僕に「いいね」をすれば2次コピーされますし、そこからも3次コピー、4次コピー…とアイテムが複製されていきます。
この時、記者さんが僕に向けてした「いいね」は、僕だけでなく神山さんにもカウントされます。「いいねが非対称である」というのは、こういうことです。1人の人が一度だけした「いいね」が、3にも4にもなるんです。
――なるほど!
滝田だから、神山さんから見た僕は「コピーでアイテムを取っていった人」ではなく「自分のアイテムをさらに広めてくれた人」になり、その瞬間に僕も晴れてインフルエンサーの仲間入りとなるわけです。「自分がよいと思ったものを広めている」わけですからね。そういう意味では、プレイヤーミューズたちは「歩くセレクトショップ」とも言えるでしょう。
また、現実のSNSではインフルエンサーの方がいいねを集めるのはある意味お金のためとも言えますし、お金が直接絡んでおらずとも、「いいねをされたからいいねを返す“いいね返し”」や、それを逆手に取って「いいねをしてもらいたいからいいねをする」という風潮なども見られます。
もちろん、それが今の時代だというだけで、悪いと言いたいわけではありません。僕自身も色んなSNSを楽しんでいます「いいね返し」をすることはありますからね。でも、このゲームの中では「純粋によいと思ったからいいねをする」以上外の意味を持たせなくてもよいだろうと考えました。
「そのアイテムがほしい」ということは、よいアイテム、よいコーデだと思ったということでしょうしね。
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ファッションを介した交流が、その人だけの“ストーリー”となる!
――ソロプレイモードはいわゆるストーリーがありませんが、「オンラインモードによる他プレイヤーとの交流」が本作の核だからという認識でよいでしょうか? MMORPGのようなオンラインゲームでは、他とのプレイヤーと出会いや交流で得た体験・経験が“その人だけのストーリー”を形作る一面がありますが、本作のプレイ感はそれに近いと感じました。
滝田そうとらえていただいても構いません。メインテーマは「人と人とのコミュニケーション」であり、ソロプレイモードはそのヒントや助けになるものである……という位置付けです。
それと、オンラインモードに関連するお話として、本当に気兼ねなく、気軽に遊べるように作りましたということをお伝えしておきたいです。他のプレイヤーと交流するといっても、チャットはもちろん、メッセージやスタンプの類も一切ありません。非同期ですので、他のプレイヤーに合わせて、リアルタイムでゲームをプレイする必要もありません。オンラインモードのプレイにはニンテンドーアカウントが必要ですが、弊社の独自サーバーで運用されていますのでNintendo Switch Onlineへの加入は不要です。
神山非同期であるがゆえの強みもあります。他のプレイヤーが自分に向けてした「いいね」はオンラインモードをプレイしていない時はプールされるようになっており、ログイン時に一斉に通知されます。
毎日ではなく2日おき、3日おきというペースで遊ぶ方もいると思いますが、そういうスタイルでもログインした瞬間にたくさんの通知が届くわけです。どんな頻度、どのくらいのプレイ時間で遊んでいる人も同じように「インフルエンサー気分を味わう体験」ができるのはすごくうまい設計だと思います。
滝田プレイ期間が空いてしまっても、腰を上げづらくなってしまうことが起きづらいのではないでしょうか。1日30分のプレイでカジュアルに遊び続けられるゲームを目指しましたので、ちょこちょこと遊び続けてもらえたら嬉しいです!
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