■リンは現実を噛みしめ、冴子は……
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それから、モコとちょっとした会話を交わしていると、不意に部屋が大きく揺れ出します。どうやら、冴子が帰ってきたようです。サイズに差があるので、冴子が歩くだけでも小人にとっては地震級の揺れに感じるのでしょう。
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そして開かれる引き出しと、対比で巨人のように見える冴子。そして、驚きの一言を口にします。「1人だけ、今日もいただいちゃってもいいかしら?」と。
その言葉は、一見お願いしているようにも聞こえます。ですが、返答を待つこともなく、冴子は右手を引き出しに伸ばし……その巨大な指で、モコを摘まみ上げました。
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右手はそのまま彼女の口元に運ばれ、再び開いた手の中には、モコの姿はありません。どこにも見当たりません。少なくとも、見える範囲には。
果たして何が起きたのかは、想像するまでもないでしょう。しかし、プレイヤーの分身である小人の立場で考えると、想像したくもない、という方がより正解に近いはず。しかし、そんなささやかな自己防衛すら、冴子は許してくれません。
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「おいしい」「おなかの中で、元気に動いてて……」
もはや、何が起きたのかは明白でした。目をつぶったとしても、残酷な現実が言葉として襲い掛かってきます。
■圧倒的な立場の差を思い知らされて始まる、新たな世界
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おそらくリンも、そしてプレイヤーである筆者も呆然としていると、冴子はなぜかリンの仕事ぶりを褒めました。どうやら、小人にピーナッツを食べさせると、冴子がその小人を食べた時、より美味しくなる模様です。
察するに、モコにピーナッツをあげた「仕事」は、冴子に食べさせるための下ごしらえであり、犠牲者を決める行為だったのでしょう。そう考えれば、チオの重みのある発言や、全力で回避したタキの反応も、納得できます。
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ちなみに、“冴子の食事”になる道を避けられたタキは、しかし「仕事」の内容を伝えなかった報いとして、冴子の右手の中で“小さく小さく”なりました。指の隙間から漏れる赤い色と、それを拭ったティッシュが、惨劇の事実を鮮明に浮かび上がらせます。
ここまで何一つ言えずにいるリンに向かって、「これからよろしくね」と語りかける冴子。そして「私の世界へようこそ」と告げました。
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この理不尽で抗いようのない世界こそ、『SAEKO: Giantess Dating Sim』に他なりません。