ユービーアイソフトのアクションアドベンチャーシリーズ最新作『アサシン クリード シャドウズ』がいよいよ発売間近です。『アサシンクリード』シリーズは、紀元前から近代、もっと言えば現代まで幅広い時代を舞台にした作品です。
近年のRPG要素の強いシリーズ作品では伝説や神話を題材にしたコンテンツも多く、2018年にリリースされた『アサシン クリード オデッセイ』では、メデューサやミノタウロスなど神話の怪物とも戦えたことも大きな話題になりました。

『アサシン クリード シャドウズ』は、戦国時代後期の日本を舞台にしています。『オデッセイ』などの作品からRPGシステムを継承したという本作でも伝説を取り扱ったコンテンツが登場する可能性がありそうです。そこで、今回は出そうな“妖怪”を紹介してみたいと思います。
時代と共に変化する妖怪・もののけ
※本記事では【土蜘蛛】をはじめとした「まつろわぬ民」などへの細かな言及は行わず、あくまで「妖怪」としての存在についてクローズアップすることをご了承ください。また、資料に基づいた内容のため、最新の研究などと一部異なる可能性もあります。
日本で怪異・物の怪・妖怪・怪物などの存在の記述が初めて見られるのは、およそ西暦700年代前半に編纂された「古事記」「日本書紀」「出雲国風土記」と言われています。【土蜘蛛】や【八岐大蛇】などの有名な妖怪の名前は皆様も聞いたことがあると思います。

【土蜘蛛】は元々は権力に従わない存在としての意味が強いのですが、時代の変遷とともに妖怪としての姿も増えていきます。源頼光による【土蜘蛛】退治は、後の世に戯曲の題材として多く取り上げられています。平安時代は妖怪に関する物語や逸話が多く、鎌倉時代や室町時代、そして江戸時代には絵巻なども登場しました。
平安から室町時代には【牛鬼】【鵺】【土蜘蛛】【猫又】【玉藻前(妖狐)】【付喪神】など、現代でもお馴染みの妖怪・物の怪が登場します。室町時代からは「百鬼夜行絵巻」が描かれ、多くの妖怪が視覚化されていきます。しかし戦国時代では、地域伝承などはあるものの、大きな存在としての妖怪はあまり登場しません。

そんな妖怪は、比較的天下が平定されている江戸時代に再び多くの絵物語や戯曲などで取り上げられることになるようです。近世に於いて妖怪は恐れられる・畏れられるものである一方で、親しまれる、或いは文化の側面に在るものへとなっていったとされてます。
次項では【鬼】【河童】【天狗】など、誰もが想像するような「妖怪」の変遷を紹介していきます。
【鬼】という存在
前項で紹介した「出雲国風土記」では“目一つの鬼が農作業中の人を食べた”と記述があります。これは文献において、初めて害するものとしての【鬼】という単語が登場したと言われているもの。現在の島根県には、食われた男が発した言葉の「あよ、あよ」という言葉が転じたものとして「阿用」の地名が多く残されています。
【鬼】の概念は古代中国の影響を受けたものとされますが、中国では主に「魂」としての意味を強く持ちます。日本でも鬼を「隠(おぬ・この世ならざる見えないもの)」を語源とする説があります。病や災いをもたらすもの、人が恨みで変化するものなど、【鬼】は時代とともにさまざまな姿を見せています。

一方で【鬼】は怪物や妖怪としても扱われています。頭に角、口には牙が生えた姿を思い浮かべる人も多いでしょう。このようなイメージは後年に仏教の地獄絵から転用されたものとする説もあり、さまざまな絵や物語の中で退治される存在としての【鬼】も多く描かれてきました。
怪物・妖怪としての【鬼】としては「酒呑童子」「茨木童子」「大嶽丸(鬼神)」「温羅」などが有名です。彼らは多く退治されるものとして描かれ、時代とともに姿や在り様も変化してきました。『アサシン クリード シャドウズ』の舞台である戦国時代では【鬼】の物語はほとんどありません。

ただし、織田信長や豊臣秀吉が保護・奨励していたと言われる能の演目の中には、「般若」「小癋見」など【鬼】や死霊などを示す面を付けるものがあります。戯曲の中で【鬼】の存在は引き継がれていたようです。時代的には【鬼】は登場するのか不明ですが「般若の面」を付けたキャラクターが存在するかもしれませんね。
作中時にはまだ今の姿で描かれていない【河童】
続いて取り上げるのは【河童】です。【河童】といえば、川辺に住んで人や動物を引き込んだり、尻子玉を抜いて腑抜けにしたりと、恐ろしい行動の一方で相撲を取りたがったり、人間を助けたりと、さまざまな話が残されている妖怪です。
そんな【河童】ですが、ゲームの時代では今のような頭に皿・甲羅・クチバシといった絵が描かれていませんでした。そもそも「日本書紀」でのミズチ説、河伯説、安倍晴明などの使役した人形説など、複数の起源説があります。狐や狸、カワウソによる化生とされる説もあるようです。

今の【河童】のイメージや呼び名は、江戸時代の「和漢三才図会」に影響されたものと言われています(甲羅は描かれていなかったようです)。筆者は過去に『モンスターハンターライズ』に関連して【河童】についても記述しているので、そちらもご覧いただければと思います。
“江戸時代以前は【河童】の姿を明確に描く資料がほぼ存在しない”という点を踏まえて、もしゲーム内に登場するのであれば、やはり今のイメージに近いものになるでしょう。或いは「飼ってた馬が川に引き込まれた」のようなNPCの会話として登場すると面白いかもしれませんね。
信長に関わり合いも?【天狗】伝説
【天狗】はとても古い歴史を持つもので、その発祥は中国の「轟音を発する流星」であるとされ、この記述は「日本書紀」にも書かれています。中国などでは【天狗】は災厄の象徴でもあり、時代とともに日本でも物の怪として人を化かすもの(「源氏物語」)や、仏教の敵となるものとして描かれていきます。
【天狗】には、現代でイメージされる鼻の高い赤い顔のものだけでなく、頭部が鳥になっているいわゆる【烏天狗】も存在しています。【天狗】は、修験道や山岳信仰との関わりなど、さまざまな文化や風習のエッセンスが融合し、時代とともにその姿や人々との関わり方が変わってきたとされます。

山神としての側面も語られ、人々を害するものだけでなく護るものであったりすることも。源義経の幼少時・牛若丸に剣術や兵法を教えたのが鞍馬山の【天狗】という話もあり、人々の中で【天狗】は色々な姿で語られてきました。今のような鼻高の天狗のイメージ成立も、諸説あるようです。
ゲーム内の時代でいえば、織田信長による「天正伊賀の乱」で荒廃した土地を復興させたといわれる“小天狗清蔵”という人物がいます。清蔵は精力的に復興に取り組んだ修験者であり、その墓碑などが今も残されています。いわゆる妖怪としての【天狗】ではないものの、その異名は印象的です。

あの明智光秀が本能寺の変を起こす前に参拝したと言われる神社には、日本の大天狗の「太郎坊天狗」が祀られていたようです。こうした関わり合いから、ゲーム内に何らかの形で【天狗】が登場する可能性もありそうですね。
そのほかの妖怪たち
ここまで【鬼】【天狗】【河童】などを紹介してきましたが、やはり安土桃山時代における妖怪というのは、かなり記述が少ないようです。馬場あき子氏による著書「鬼の研究」の中では、“反体制・半秩序が鬼の特色であるなら、近世の封建主義が確立していく中で滅びゆくもの”と記述があります。
戦国時代で数多く巻き起こった合戦の中で、人々の畏れなどを記すタイミングがなかったことも予測されます。それは、江戸時代の平定の中で庶民の中に“妖怪ブーム”のようなものが起こったことでも、さまざまな要因や人々の生活の変化があったのではないでしょうか。
ただし、当時にも「妖怪」に関するエピソードが存在しています。
◆織田信長と白蛇
名古屋市にある「蛇池神社」には、織田信長が大蛇を退治するために“池の水ぜんぶ抜く大作戦”をしたと言われる池が存在しています。この池の付近に住む農民が、ある雨の日に池で巨大なヘビを見たという噂となり、織田信長自身が「蛇替え(ヘビ退治)」を行ったというのです。
その方法は、池の水をすべて掻き出して姿を見せた蛇を退治しようというもの。村人や家臣が水を抜こうとしている中で、信長は池に潜って探したり、すべての水を抜いて調査したのですが、結局大蛇は見つからなかったということです。

◆信長を驚かせた植物
現在の妙国寺にある天然記念物の植物・ソテツにも織田信長が関わったエピソードがあります。このソテツを気に入った信長が安土城へと無理矢理運ばせて移植した際に、毎夜「堺に帰りたい」と泣いたというのです。
その事に怒った信長が切り倒しを命じたものの、なんと切った場所から血が吹き出したのです。血を流し悶絶するソテツの姿を恐れた信長は、元の妙国寺へと戻したといいます。天然記念物になっている植物に、こういったオカルトなエピソードがあるのもユニークですね。

◆家康が食べそこねた(?)妖怪
『アサシン クリード シャドウズ』の舞台から少し時代は進みますが、1609年に徳川家康の居城に謎の妖怪が現れたといいます。駿府城の中庭に、肉の塊のような小人のような存在が突然現れたというのです。家臣たちは家康の命令で、この謎の肉塊を追い返したと言います。
薬学に詳しい人物によると、その肉塊は中国の【封】という妖怪で、食べれば力がつくものだったとか。ちなみに、1609年には「四角い月」が空に現れ、騒ぎになったとも言われています。
◆10メートルの巨大生物!
岡山県・真庭市には、安土桃山時代に巨大なオオサンショウウオを退治したという伝説が残されています。淵に住む巨大オオサンショウウオが人や動物に被害を起こしていたので、勇敢な三井彦四郎という若者と仲間たちが退治したというのです。
彦四郎はわざと飲まれて、腹の中から小刀で斬り裂いたといいます。退治されたオオサンショウウオは、なんと全長10メートルもあったとか。三井家にはその後“毎夜泣き叫ぶもの”が訪ね、やがてみんな死んでしまったようです。祟りを恐れた地元では「はんざき大明神」として祀り、毎年8月8日に祭りが行われています。

この他にも各地には多くの伝承・逸話・伝説が残されています。『アサシン クリード シャドウズ』でもし登場したならば、あらためて紹介できればいいな、と思います。
妖怪や物の怪は、その次代の文化や風習、信仰などによる影響が大きいものです。平安や鎌倉時代に多く語られた化生退治は、戦国時代ではあまり語られず、やがて江戸時代で再び一つのブームとして復活したようです。
そんな戦国時代が舞台の『アサシン クリード シャドウズ』では、果たしてどのような伝説が登場するのでしょうか。『アサシン クリード オデッセイ』のように戦えるかはわかりませんが、さまざまな伝承や話として登場してくれるくらいでも嬉しいですね!
なお、今回参考資料とした馬場あき子氏の著書「鬼の研究」は、その発祥や変化、そしてさまざまな資料を元にした【鬼】の姿が書かれています。読み物として非常に面白く興味深い一冊なので、よければ是非ともご一読ください!
<参考文献>
●「鬼の研究」筑摩書房 馬場あき子・著
●「日本妖怪学大全」小学館 小松和彦・編
●「アラマタヒロシの日本全国妖怪マップ」秀和システム 荒俣宏/應矢泰紀・著
●「もののけの日本史」中公新書 小山聡子・著
●「鬼と日本人」角川ソフィア文庫 小松和彦・著
●「鬼と異形の民俗学ー漂泊する異類異形の正体」ウェッジ 飯倉義之・監修
●「日本人の妖怪観の変遷に関する研究 : 近世後期の「妖怪娯楽」を中心に」(論文) 香川雅信・著
※コメントを投稿する際は「利用規約」を必ずご確認ください