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『Halo 3』から5年ぶりの新作となり、新三部作『リクレイマー・トリロジー』の序章となった『Halo 4』。開発会社もこれまでのBungieから、新たにマイクロソフトゲームスタジオ内に設立された343 Industriesへと移行し、世界各地から本作のために優れた開発者が集められました。
GDCで「Halo Reborn : A postmortem on the Creation of Halo 4」と題して講演したジョン・ホームズ氏もその一人です。『Halo Waypoint』『Halo Reach』でエグゼクティブ・ディレクターをつとめた後、Bungieから移籍。本作でクリエイティブディレクターを務めました。
もっとも人気フランチャイズの続編を作ることは、大きな挑戦だったとも語ります。以下、このシリーズを再生する上でどのような点に注意したのか。また本シリーズではナラティブ(ゲームプレイを通して得られる総合的なストーリー体験)をどのように捉えているのか、ポストモータムが行われました。
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『Halo』シリーズは映画・アニメ・コミックなど、アメリカのさまざまなエンタテインメントの中でも、メディアミックス戦略を明確に打ち出している点が大きな特徴です。正伝三作に加えて外伝タイトルやノベライズ、コミック、アクションフィギュア、最近では実写版ムービーなど、『Halo』ユニバースは大きく広がっています。
もっとも、こうしたいわゆる「世界観ビジネス」は意外なことに、『スター・ウォーズ』を除けば、アメリカではそれほど盛んではありません。メディアミックスでさまざまな可能性が広がる一方で、これまでの世界観やコアなファンに縛られて、新しい可能性を閉ざしたり、自由な作品作りを阻害してしまう可能性もあるからです。
ホームズ氏もシリーズ再生にあたり、はじめにコアメンバーで『Halo』シリーズの核となる要素が何か、改めて議論したと説明しました。その結果抽出されたのが▽ヒロイズム(不屈の闘志)▽ヒューマニズム(人類を救う)▽ワンダー(銀河に隠された様々な謎の解明)▽クリエイティブ(創造的なゲームプレイ)・・・の4点です。
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そのうえで『4』のキーワードとして▽マスターチーフの帰還▽何かを予兆させるような新しい世界▽総合的な戦闘の自由性▽自分だけのスパルタンを作り出せる▽Halo(プレイヤー)間の社会性ーーが設定されました。
続いて講演内容は「ストーリーの重要性」に移りました。「子供たちは『ごっこ遊び』を通して役になりきり、自分たちだけの物語を紡ぎ出していきます。一方『決められたストーリーの先を知りたい』という欲求は、プレイヤーのモチベーションを強く喚起させます」とホームズ氏は語ります。この矛盾する要素をゲームメカニクスで融合し、プレイヤーに提供することが『Halo』シリーズのナラティブだというわけです。
特に『Halo』シリーズでは「主人公=自分」という関係性を強調するため、主人公マスター・チーフのキャラクター性ができるだけ抑えられています。いわば「FF型」ではなく、「ドラクエ型」だというわけです。一方で『Halo』ユニバースの広がりによって、コアなファンはそれだけでは満足しないようになっています。
そこで『Halo 4』ではチーフの相棒で、AIキャラクターのコルタナに焦点が当てられました。本作ではコルタナの稼働年数が平均的なAIの年数を超え、不安定な状態になっている、という設定が加わっています。コルタナは時に情緒不安定になったり、錯乱状態に陥りながら、チーフをサポートしていくのです。チーフを守ることがコルタナの任務なら、コルタナを守ることもまたチーフの使命。これによりチーフとコルタナの関係性や、ヒューマニズムが強調され、ドラマ性を膨らませることが可能になりました。
またホームズ氏はナラティブピラミッドというモデルを提示しました。ピラミッドの頂点に存在するのはミッション対象で、個々のステージでクリアすべき課題となります。次の階層がメインストーリーで、人類を救うといった主要なストーリーが提示されます。三番目の階層がセカンドストーリーで、チーフとコルタナの関係性。四番目階層がサポートストラクチャーで、海兵隊員の声援など、ナラティブを構成するさまざまな要素がこれにあたります。そして最も最下層にあたるのがより深いストーリーで、小説やコミックといっ
た様々なメディアが相当します。
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このモデルからもわかるように、『Halo 4』のナラティブで一番重要視されているのは、ゲームプレイを通して個々のユーザーが紡ぎ出すさまざまな体験です(ホームズ氏はこれを『自己解凍型ストーリー』と呼びました)。個々のナラティブ要素は、これを阻害しないように、その周辺に慎重に配置されています。
これは「どんなに世界観やキャラクター、ストーリーが優れていても、ゲームがつまらなければ意味がない」とも言い替えられるでしょう。そのためユーザーに新しい戦闘体験を提供する主要な手段である武器や、新しい敵キャラクターであるフォアランナーのデザインについて、何度も修正が繰り返されました。武器は陣営間だけでなく、キャンペーンモードとマルチプレイモードの両方でもバランスがとれている必要があります。フォアランナーも、開発中にどんどん修正が繰り返されました。「ゲームメカニクス、機能、ビジュアルデザイン間の摩擦を解消することが重要」だとホームズ氏は語ります。
その上でキャンペーンモードだけでなく、▽隠しエピソード的な「Haloターミナル」▽チュートリアルも兼ねたマルチプレイモード「Halo インフィニティ マルチプレイヤー」▽協力プレイに焦点を当て、別の視点から『Halo 4』の背景世界を理解できる「スパルタンオペレーションミッションズ」▽トーマス・ラスキーの成長物語を通して世界を深く理解できる実写版Halo「Forward Unto Dawn」、といったコンテンツを配置し、これらをすべて体験することで、より深く『Halo 4』世界に浸れる仕掛けがなされました。
特に「Halo インフィニティ マルチプレイヤー」は、キャンペーンモードとマルチプレイヤーモードで分かれがちな両方のファンを癒合させるための取り組みだったとホームズ氏は語ります。また「スパルタンオペレーションミッションンズ」は協力プレイに焦点を当てることで、キャンペーンモードでは得られない、ユーザーの予想を上回るような体験を提示するための試みであると語られました。
最後にホームズ氏は▽自己解凍型のナラティブ体験▽初期段階での明確なゴール設定▽世界観や過去のシリーズなどの枠組みをうまく利用する▽慣れ親しんだ要素と、新しい要素の融合▽作り手だけで完璧だと思っても意味がない(ユーザーに体験してもらってナンボのナラティブ)という4項目で講演をまとめました。中でもナラティブを明確に「ゲームメカニクスによって提供されるユーザー体験」と定義し、ストーリーもバトルもシングルプレイもマルチプレイもすべてが等価の存在としている点がポイントでしょう。
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講演終了後に気になった点を二点質問してみました。まず『Haloユニバース』を誰が統括しているのかという点。これにはBungieで『Halo』シリーズの開発を主導し、343 Industriesにも移籍したフランク・オコナー氏の名前が上げられました。つまりパブリッシャー側ではなく、インハウスではあっても、ディベロッパー側がメディアミックス体験を統括していることを意味します。日本で言うなら編集プロダクションのプロデューサーが、原作の漫画からアニメ、テレビ、映画など、すべての展開をコントロールしている形だと言えるでしょう。
もう一点として、ここ数年でアメリカのゲームにおけるナラティブの概念が急速に成熟し、ゲームのクオリティが向上したように感じられる点です。何かターニングポイントがあったのかと質問すると、「正直言っていろんな要素が絡んでいると思う」と前置きした上で、ナラティブに影響を与えたゲームとして『バイオショック』と『風ノ旅ビト』が示されました。また個人的に好きなゲームとして『ICO』が上げられ、さまざまなインスピレーションを受けたと回答されました。