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ゲームデザイナー須田剛一とレトロゲームを探訪する連載企画「RETRO51」。2回目の舞台はグラスホッパー・マニファクチュアの新オフィスです。聞くところによれば、今年初めに移転した新オフィスには、2台のテーブル筐体とレアなアーケードゲームの基板が置かれているとのこと。
今回はそんなグラスホッパーの新オフィスにお邪魔して、須田氏が厳選したレトロゲームを遊び、語ってもらいました。前後編の一回目の気になるタイトルは1986年にナムコ(現バンダイナムコゲームス)が開発した『源平討魔伝』。ベルトスクロールアクションの傑作として名高く、前回のRETRO51でも須田氏の思い出の中で上がったタイトルです。
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プレイヤーは壇ノ浦の戦いで戦死した平景清となり、平家を滅ぼした源頼朝を倒すという純和風な世界観が特徴の本作。オフィスにお邪魔して早速、須田氏とともにプレイしましたが、当時のアーケードゲームとあって難易度は高め。ネットで攻略情報を集めながら、なんとか義経、弁慶、琵琶法師を撃破するものの、途中のステージで詰まってしまいました。
通常のサイドスクロールの「横モード」に加え、当時としては比類ない大きさのキャラクターが登場する「BIGモード」、突然視点がトップビューに切り替わる「平面モード」という三種類のステージが用意されるなど、ゲーム内容は現在でも斬新なもの。本作に並々ならぬ思い入れがある須田氏にその魅力と思い出について語ってもらいました。
ゲーム史に気高く佇む名作ベルトアクション
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――今日はグラスホッパーのオフィスで『源平討魔伝』と『アウトフォクシーズ』の2つを遊ばせていただきました。今回はまず『源平討魔伝』(以下、『源平』について扱いたいと思います。須田さんは何年ぶりにプレイしましたか?
SUDA51:
以前にバーチャルコンソールで買いましたので、数十年ぶりというわけではないですね。でも、アーケードのゲームなので、やはりスティックでプレイしてみると面白かったです。
RETRO51でレトロゲームを振り返るという意味では、『源平』はうってつけのタイトルです。ゲームに限った話ではありませんが、過去の作品はどんどん脳内で美化されて、実際に久しぶりに触れたときガッカリすることはありますよね。
ですが今回改めて『源平』をプレイしてみると、他に比類なき美しいゲームであることを再確認しました。高貴というか、気品があるというか。既存のゲームの文脈に従うのではなく、『源平』という作品にとって必要なルールづくりが設計されているように思えます。
例えば、ゲームオーバーに関しても、残機制やライフ制が当たり前であった当時に、一つの命をろうそくの形で示すというコンセプトはすごいですね。何発か攻撃を喰らっても大丈夫だけど、ろうそくを見ながらギリギリで戦っていく。アーケードとしては非常に挑戦的な内容であり、逆にいえばコンシューマに近いゲームと言えます。
――謎解き要素などを含めても、確かにアーケードゲームとしてはかなり型破りなところが多いですよね。
SUDA51:
謎解きがあったり、ステージの分岐があったり、何回もじっくり遊べます。今でいうリプレイアビリティ、リプレイ性というのが高い。結果、ビデオゲームの持つ奥深さが感じられます。設定が濃くて謎が多いという点では『ゼビウス』などもあります。いずれにしても、当時のナムコのアーケードゲームが持っていた気品は素晴らしいですね。演出や完成度を含めて、とにかく美しく、威風堂々した佇まいには圧倒されます。設定も素晴らしいですよね。源平の戦いをあのような世界観に落としこむ。
――このような和風の世界観のゲームは当時、多かったですか?
SUDA51:
それほどなかったように思います。同時期にコンシューマでは任天堂の『謎の村雨城』といった忍者を題材としたものは比較的に多かったと思います。しかしながら、このグラフィックスのレベルのものはほとんどないでしょう。
ゲームがただの遊びではなく、一つのアートフォームとして成立しうるというのは、当時のナムコが作り上げたように思えます。『ゼビウス』や『ドルアーガの塔』といった系譜からも分かるとおり、ナムコは絵作りが美しく、ゲームの奥深さを感じさせます。とはいえ、『源平』は結局まだクリアできていないのですが(笑)。
――ゲームとしての難易度はやっぱり高いですよね。それでもクリアしなくても損した感じにならないというか。
SUDA51:
そうですね。損した気分にはならないです。それはやはりサウンドやビジュアルといったアートとしての強度があるからです。もちろん、今遊んでみると不親切に感じたり、ルールも独特です。でもそれが決して問題という感じはしません。もっと親切で説明しやすいゲームもたくさんありますが、この不思議な魅力には現在の日本のゲームが忘れてきたものがあるのではないかと感じます。
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――ところで最初にプレイした人は急にキャラクターがでかくなったり、トップビューに変化したりするのは、どう思ったんですかね。
SUDA51:
当然、驚きますよね。今、このようなゲームデザインをすれば、破綻の一言で片付けられてします。でも、あの潔さというか、大胆さがいいですよね。ゲームの文法というのは、なんでもいいんだということは、あのゲームから学びました。
――作り手はあのような視点の切り替えは何を意図していたのでしょうか?
SUDA51:
やはり世界観からそういった見せ方をしたかったのではないかと。日本地図に従ってどんどん東に進んでいきますよね。その過程を様々な視点から切り取りたかったのではないかと思います。
――個人的にはトップビューからは平安京の雰囲気を感じますね。碁盤状のマップを移動する感じというか。他方、サイドスクロールはキャラクターに焦点を当てた絵巻物のような感じがしますね。そして、巨大なキャラはやっぱりかっこいい。
SUDA51:
かっこいですよね。当時、あんなの見たことないですから。格闘ゲーム並の大きさですよね。アクションゲームであの大きさのキャラは前代未聞ですね。特に弁慶の迫力はすごいですよね。初めて弁慶を見た時は、本当にションベンちびるかと思いましたよ。この圧迫感と美しさ。攻撃のパーティクルも美しい。
『源平』のクローンゲームが作りたかった!?
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――須田さんが初めて『源平』に触れたのはいつですか?
SUDA51:
18か19歳の頃だったと思います。前回のRETRO51でお話したとおり、東京に出てきて、水道橋にあったテクモのゲームセンターでアルバイトしていた頃ですね。そこに初めて入荷されたときのことは、忘れもしません。最初に『源平』を見た時は、冗談抜きに金縛りに会ったような感じがしましたよ(笑)。「何が起きているのか!」って。最初は誰も触れないんですよ。怖くて、いったい何物かわからなくて。
――普通に見た目が怖いですよね(笑)。
SUDA51:
怖いですよ。いきなり画面に婆さんが出てきて、「ヒッヒッヒッ」、「頼朝を倒せ」とか言い出すんですよ。これは怖い(笑)。
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――ちなみにクレジットを入れるのは、「お布施を払う」というような設定になっているそうです。お金を払うとプレイヤーキャラクターの平景清の魂が復活するというコンセプトのようです。
SUDA51:
あれはインカムではなくて、お布施なんですね(笑)。あと源平を扱うなら、冗談抜きにお祓いに行った方がいいですよ。これまでいろんな噂があるんですよ。なので記事が公開される前に、ちゃんとお祓いに行きましょう。
これは偶然ですが、大友克洋さんのプロジェクト『SHORT PEACE』で「月極蘭子のいちばん長い日」というゲームを片岡さんと一緒に作ることになったんです。僕は最初、『源平討魔伝』の完コピをやりたかったんですよ。月極蘭子の世界観の中にこの横スクロールのアクションゲームのルールを落とし込もうと思って、片岡さんにお願いしたんです。
――しかし、なんでまたその企画で『源平』を完コピしようと思ったのですか(笑)?
SUDA51:
好きだからです!だから、そのくらい思い入れがあるんです。またせっかくバンナムさんと組むのであれば、リメイクとかではなく、完全クローンゲームというのも作ってみたかったんですね。ところが片岡さんは若いので『源平』を知らなく、動画を見せました。そしたら「ドット絵は作れません」と言われて(笑)。結局、別のゲームになりました。まあただその過程で片岡さんが平家の末裔だということが分かったので、今度ぜひとも片岡さんも連れてお祓いにいきましょう。
「和風」という世界観の可能性
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SUDA51:
『源平』の開発チームはこのあと「源平プロ」と言う形でスタジオ化します。その後に手足が伸びるサラリーマンが主人公の『超絶倫人ベラボーマン』というこれまた異色なゲームを作りました。
――ベラボーマンはバカゲーのような雰囲気ですが、世界観には妙なこだわりを感じますよね。高度成長期の日本を舞台にしたり。
SUDA51:
そうですよね。都心からちょっと離れた新興都市みたいなところからスタートしたり、日本のサラリーマンを主人公にしたり。『源平』も含めて、純日本に対するこだわりを感じますね。
――須田さんもそういった日本の歴史や時代からインスピレーションを受けることはありますか?
SUDA51:
自分たちの原風景をゲームの中に落としこむのは、チャンスがあればやってみたいと思っています。
――ただ和風の世界観で若者に受けるネタというのは思った以上に少ないですよね。戦国時代や幕末などは別として。個人的には80年代にあった荒俣宏の『帝都物語』みたいな世界観はもっと再評価されてもいいのではないかと思っています。
SUDA51:
そうですね。荒俣先生の『帝都物語』などは当時も人気がありました。登場人物の加藤はスト2のベガのモデルですよね。そういった意味では、あの世界観は日本のポップカルチャーにも大きな影響を与えています。
――90年代頃までは、そういった80年代的な日本のオカルティックな世界観やキャラクターはゲームにけっこう影響を与えていたようにも感じます。
SUDA51:
そうですね、和風SFでいうと、映画『ゼイラム』などの雨宮慶太さんの作品群は好きでした。仮面ライダーとかになるとまた別の系譜に感じますが。
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――ビデオゲームでずっとその系譜にあるのは、現在は女神転生シリーズだけだと思います。
SUDA51:
そうですね!『真・女神転生』の吉祥寺感はすごかった。いわゆる日本のサブカルやポップカルチャーを扱ったビデオゲームは当時としてもかなり珍しいです。
――狭い意味の「和風」ではなく、そういった日本のカルチャーをうまくゲームに落としこむというのは、もっと可能性があると思いますね。源平プロもそういった方向性にあったのではないかと感じました。
SUDA51:
確かにそうですね。日本を舞台にしたというと、いわゆる時代劇みたいな世界観はありますよね。でも、そうではなく、もっと広い日本の世界観を切り取るということはしてみたいですね。やはり日本人というルーツを大事にしたい。これまでのエンターテインメント作品では扱われて来なかった戦争や事件なども、徹底的に調べて上げて、今の若い人たちに見せてみたいですね。
個人的に城が好きなので、城を題材にしたゲームをいつか作りたいと思っています。史実に忠実なな城を舞台にしたクライム・アクション。企画構想はずっと昔から温めていたので、あわよくばやりたいですよね。
――なるほど。そういった斬新な和風ゲームとしては『源平討魔伝』も今の若い読者の方々にも遊んでもらいたいですね。比較的に手を出しやすいタイトルですから。
SUDA51:
そうですね。ゲームセンターで触る機会は非常に少ないと思いますが、バーチャルコンソールでリリースされています。昔、日本のゲームセンターにこういった気高いゲームがあったことを知ってほしい。そして、ナムコが日本のビデオゲームのブランドを作り上げ、それが世界中にも影響を与えていたと思います。なので、ぜひともこれを機会に、若い人たちにもプレイしてぶったまげてほしいです。もちろん今、遊んでみると不親切な部分も多く、僕もまだクリアできていないわけなんですけどね(笑)。
――まあクリアせずとも、ビジュアルやサウンドから醸しだされる雰囲気だけでも感じてほしいですよね。
SUDA51:
ぜひとも感じてほしいです!
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さて、後編は対戦アクションゲーム『アウトフォクシーズ』についてお送りします。『源平討魔伝』と同じくナムコが1995年に開発した作品ですが、コンシューマ向けの移植が無いため、知る人ぞ知るカルトゲームです。超個性な7人の殺し屋がお互いに殺しあうという須田氏のゲームにもどこか共通した要素を持つ本作。実際に遊んでみた感想とともにその魅力に迫ります。
※追記:本記事の公開のため、須田氏及び編集執筆者と共に赤坂の日枝神社に参拝してきました。