「神羅(シンラ)テクノロジー」という名称からもわかるとおり、同社はスクウェア・エニックス・ホールディングスの100%子会社で、代表は同社前社長の和田洋一氏です。和田氏は会見で「『FF7』では神羅は悪の帝国だったが、我々の神羅はレジスタンス。賛同していただける方々と共に歩んでいきたい」と切り出しました。
PlayStation Nowのオープンβが北米でスタートし、国内でもGクラウドがサービスを展開中と、「クラウドゲーム」が次第に身近な存在になりつつあります。しかし同社の掲げるクラウドサービスは、それとは技術的に大きく異なるものだと和田氏は語ります。会見内容をもとに簡単に同社の特徴を整理してみましょう。
いわゆるクラウドゲームは、サーバ側でゲームを実行し、レンダリングされた映像を一枚ずつインターネット回線を経由してストリーミングで配信して、クライアント側でインタラクティブに操作して楽しむサービスのことです。しかし和田氏は、これはゲーム機をサーバに持っていっただけで、ゲーム機1台の処理能力は超えられないと指摘します。
これに対してシンラでは、サーバ側が分散処理を行い、ゲーム機1台分の性能を遙かに凌駕するコンピューティングパワーを使用できる点に特徴があります。物理演算やAIなど、処理負荷の高そうな部分には各システム専用のサーバも追加します。「水道の蛇口をひねるように、需要に応じて自在にコンピューティングパワーを利用する」というのはクラウド業者の謳い文句ですが、まさにデータセンター上のCPUやGPUをフル活用し、分散処理した結果をレンダリングして、ストリーミングで配信するのです。
これはスタンドアロンだけでなく、オンラインゲームでも重要です。サーバ側で処理が完結するため、クライアント側で行った演算結果をサーバ上で同期する必要がなくなるからです。処理性能の向上とともに、チート対策としても期待できます。
「街の戦闘シーンで一区画を壊したとします。従来のゲームでは少しその場から離れて戻ってみると、壊した街並みはなぜかきれいに元通りになっています。シンラのクラウド技術では世界をダイナミックに変えるだけでなく、その状態をサーバ上にキープできます。開発者はゲームの世界を生きているように見せるために、さまざまなトリックを工夫してきました。も嘘の必要はありません。ゲームは初めて本当の意味での歴史を持ったのです」(会場で上映されたビデオより)
つまり「理論的には」データセンター上のコンピューティングパワーをすべて活用したゲームを遊べるようになるわけです。なお詳しい技術仕様については今後、ウェブや開発者向けセミナーなどで、明らかにしていくとしています。
このことは開発者とユーザーの双方にとって、福音となります。まず開発者側からすれば、従来の「ゲーム機」「PC」といった端末の技術的制約に捕らわれることなく、アイディア(と技術&費用的制約)次第で、望むままのコンピューティングパワーを用いたゲームが作れることになります。NPC一人ひとりに異なる演算処理を割り当て、人間らしくふるまうオープンワールドのゲームなども、夢ではなくなるかもしれません。前述の通り、MMOタイプのゲーム開発にも適したプラットフォームになりそうです。
一方でユーザー側では、ゲーム機やPCを買い換えることなく、常に最先端のゲームをプレイできるようになります。和田氏は「サーバ側と端末側で処理を分散するといったことは行わず、一気にすべてサーバ側で処理する予定」だと語りました。スマホやタブレットからゲーム機、PC、そしてスマートテレビなど、あらゆるデバイス向けにゲームを配信していくことも(クラウドゲームなので当然ですが)可能になります。
スケジュール的には来年早期にオープンβをおこない、『ファイナルファンタジー7』『ヒットマン』『トゥームレイダー』『デウスエクス』の配信に加えて、次世代エンジンを使った技術デモ『Agni's Philosophy』もリアルタイムで操作できるとしました。また「オンラインゲームを支える技術」などの著書で知られるプログラマーの中嶋謙互氏が制作したインディゲーム『スペーススイーパー』も配信される予定。その後、2016年に正式サービスインが予定されています。
もっとも、同社ではスクエニのIPだけに頼ることなく、さまざまな企業に参入をうながし、家庭用ゲーム機を中心とした業界のエコシステムを変えていきたいとのことです。また、その際には「シンラ上だからできる、まったく新しいゲームを作って欲しい」と呼びかけました(一方でスクエニは従来通りさまざまなプラットフォームにコンテンツの供給を続けていくこと、また任天堂・SCE・MSと「きわめて良好何関係にある」ことも強調しました)。
また会見では明言されませんでしたが、中嶋氏のタイトルがオープンβに入っていることから、大手ゲーム会社だけでなく、インディゲーム開発者にも門戸が開かれるようです。和田氏はクラウドゲームが主流になるのは2016年ごろで、それまでにデベロッパーと共に技術的仕様も含めて創り上げていきたい、そのために今このタイミングで発表したと語り「踏み台という意味で、我々のプラットフォームを活用して欲しい」と呼びかけました。
同社は、本社を米国ニューヨーク州におき、カナダのモントリオールで研究開発を進めつつ、東京にも支社を置くとのことです。またデータセンターや回線などを自社ですべて投資するのではなく、さまざまな企業を繋ぐハブとなって、クラウドゲームとそれに付随するコミュニティサービスを運用していきたいと語りました。
なお、会見冒頭で和田氏はカジュアルゲームとAAAゲームに業界が二極化し、ゲームの中間層がやせてきている現状に対して、ゲーム業界の生態系を変えるという根本的なところから改革を進めたいと語りました。カジュアルゲームだけではガッツリしたゲームが楽しめない。一方でAAAゲームはますます先鋭化し、技術的なブレイクスルーも出にくくなっている。そこで同社のクラウドゲーム技術を使って、一気に莫大なコンピューティングパワーを要求するゲームが開発・配信できる世界をもたらし、新たなエコシステムを作り上げたいというわけです。
まだ技術面を含めて未知の要素が大きいだけに、何とも言えないところですが、非常に夢のある話であることは確か。ひとまずオープンβの情報に期待しましょう。
【TGS 2014】スクエニ元社長の和田氏が代表の「神羅テクノロジー」が設立、クラウドゲームは新時代へ
《小野憲史》特集
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