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『リトルビッグプラネット』シリーズや『Tearaway』シリーズを手掛けてきた、英国の開発会社メディアモレキュールが、2015年のE3でアナウンスしたのが『Deams』でした。そこで披露されたPVをみてもピンと来なかった人は多いのではないでしょうか。筆者もその1人でした。カリフォルニア州アナハイムで開催された「PlayStation Experience 2017」にて行われた、『Deams』のメディア向けセッションを聴くと、実はとてつもないポテンシャルを秘めたゲームであることがわかりました。
『Deams』のPVを見た印象としては、『リトルビッグプラネット』の会社が作る、夢が題材の変わったビジュアルのゲームなんだなと思っていました。しかし、実際に開発者に話を聴くと、本作は単なるゲームではなく、ゲームの開発ツールにとどまらないクリエイティブツールとしての側面が強いことがわかりました。
「このゲームは全く新しいジャンルになる」と言っていた、テクニカル・ディレクターのアレックス・エバンス氏。本作には用意されたゲームが収録されてはいるものの、それらはすべて『Dreams』で作り出せる作品の「例」でしかありません。PVにあった熊の被り物をかぶった女の子のアクションゲーム、不思議なアートワークの黒人男性のクリック式アドベンチャーゲームも同様です。
『Deams』は、基本的にはゲームを1から作るためのツールです。3Dキャラクターやそのモーション、マップやオブジェクト、音声や音楽など、すべて『Dreams』の中に用意されているツールで作ることができます。3D前提の設計となっているので、2Dのゲームは作れませんが、3Dモデルやマップをうまく活用するなら、問題なく横スクロールのゲームも製作可能です。
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『Dreams』は、用意されたアセットを配置していってゲームを作るのではなく、3Dキャラクターのモデリング、音楽の作曲・編曲、声の収録やサウンドエフェクトなど、素材を1から作ることができます。セッションでは、クリエイティブ・ディレクターのマーク・ヒーリー氏がその製作工程を実演してくれました。ゲーム画面には、マウスポインタ的な役割を果たすキャラクターが表示され、それをコントローラーで操作します。DUALSHOCK 4のモーション操作やPS Moveにも対応しているので、より細かいポインティングも可能です。
最初に見せてくれたのは、ある程度形になったキャラクターやマップを配置していってゲームを作っていくというやりかた。キャラクターにはすでにアニメーションが指定されているものを使い、ウインドウに用意されているオブジェクトを配置していってマップを作成、最終的にアクションゲームとして構成していきました。NPCも簡単に配置でき、動きを指定することでプレイヤーキャラを攻撃する敵にも設定できます。
次に、音楽を挿入することになりますが、用意された音楽を設定するのではなく、ヒーリー氏は1から音楽を制作してくれました。ゲームの中にAdobeの音楽クリエイティブソフト「Adobe Audition」にも似た編集画面が映し出されます。クリエイティブ系ソフトを使ったことがあるユーザーであれば、すぐにどう使えばいいかわかるようなレイアウトのものです。その編集画面から曲を作るためのウインドウを表示させ、ギターやピアノなど数多くのジャンルの楽器を指定。表示されているウインドウの中をポインタでなぞるとまるでギターの弦をつま弾いているように音の音階が変わり、録音ボタンを押すことでリアルタイムの演奏を収録することができます。停止ボタンを押すと、その音の素材ができるので、編集画面に配置することで編曲ができます。
このサウンドの編集機能の中にはボイスオーバー機能も入っているので、マイクから声を取り込むことも可能。また、アフレコ音源として取り込み、それをキャラクターの声として設定もできます。ヒーリー氏いわく、シンセサイザー並みの機能が入っているとのことで、ボーカル曲も作成できるサウンドツールとしての可能性を見せつけてくれました。
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キャラクターについてですが、今回、実演してもらったものはその制作方法です。人物は、素体となる体のフレームが用意されており、任意でアニメーションを付けることができます。体の動きはコントローラーのモーション機能を使うことで細かなニュアンスもつけることができ、ゲーム中の歩いたりジャンプしたりする動きを付けることができます。コントローラーのモーション操作の動きをリアルタイムで反映させ収録することができるという、モーションキャプチャーの簡易版ともいえる機能が備わっています。
また、素体をベースに1からモデリングすることが可能で、3Dの中で直感的に彫刻・彩色をしていくという3Dモデリングソフト「Zbrush」に近い操作で制作できます。これもコントローラーやPS Moveのモーション操作をマウスやデジタイザペンに見立てるような形で行います。
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実際に実演で見ることができませんでしたが、ムービーを作ることも可能であるとのこと。そこまで聴くだけで、『Dreams』は、ゲームにとどまらず様々なジャンルの作品を作り出せることがわかると思います。
『Deams』は「ゲームを製作できるゲーム」という枠組みのものなので、アクション・RPG・アドベンチャーなど、あらゆるジャンルのゲームを創造し、友達や世界のコミュニティとシェアし合うという面を強く押し出しています。『リトルビックプラネット』のクリエイト機能を発展させるという形で開発が始まったのだろうというのは見て取れますが、多くのクリエイト機能を突き詰めることで、気づけば様々なメディアを生み出すことができる最強のクリエイティブツールになってしまっているようです。
当然、プロ用のソフトと比較するとできることは限られますが、クリエイティブの基礎を学ぶという面では十分な機能を備えており、将来的には学習用ツールとしても活用できるかもしれません。『Dreams』というゲームがリリースされればクリエイターにどのような影響を与え、どんなものが生み出されていくのか、今から楽しみでしかたありません。