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季節は巡り、春、夏、秋、冬。季節の数だけ景色がある。そして景色の数だけ、ギャルゲーもまた存在するのだ。ギャルゲーの主役と言えばなんと言っても多種多様なヒロイン達……。この連載は、ギャルゲーのヒロインを百人攻略するという妄念に取り憑かれた男の飽くなき挑戦の記録である。
さて、連載を開始するにあたって、楽しみにしてくれていた読者諸君にはまず謝らなければなるまい。予告から二ヶ月以上という時間が経過してしまったからである。まだ過ごしやすかった晩春の風情はどこへやら、季節はすっかり真夏である。今年の夏は甚だ暑く、冷房のついていない部屋で過ごす筆者にとっては、パソコンの電源を入れることすら覚悟が求められる行為となってしまった。もちろんこの二ヶ月間、私もただただ休んでいたわけではない。もちろん……ギャルゲーを攻略していたのだ。タイトルは予告した通り、PS向けソフト『エンジェルグラフィティ ~あなたへのプロフィール~』(アストロビジョン, ココナッツジャパンエンターテイメント/1996年)である。
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ゲームを最初にプレイしたのは6月の上旬。まずは何の情報も入れずにフラットに楽しもうと思い、検索などは一切せずプレイを開始した。結果から言うとそれがまずよくなかったのだが。
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オープニングムービーにはすっかり心を奪われた。オープニングムービーといっても主題歌が流れるようなものではなく、ちょっとしたアニメーションである。あらすじを軽く説明するとこうだ。余談だが、ゲーム本編とはほとんど関係がない。
かつて、「激情愛(取説の説明文ママ。おそらく性愛というようなニュアンス)」を重んじる天使のフレイアと「純愛」を重んじる天使のイヴは数千年に及ぶ戦いを繰り広げていた。二人の戦いはイヴの勝利に終わり、そしてその跡地に出来た「天使が丘学園」には美少女たちが通うようになったのであった……。
日本に天使っていたんだ。キリストの墓が日本にあるみたいなことだろうか……。設定はめちゃくちゃだが、とにかくスケールが大きいということは伝わってくる。私は期待をもって本編をプレイ開始したのだった。
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まずは、メインヒロインの「天野美鈴(あまのみすず)」を攻略することにした。ジャケ裏で犬をかわいがっている姿が印象的だったし、なんと特典のメモリーカードシールにも彼女が犬をかわいがっている姿が印刷されている。これをメモリーカードに貼っていた人も当時いたんだろうなあ。
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立ち絵は多少時代がかっているが、まあ可愛いというレベル。キャラクターデザインは「きまぐれ☆オレンジロード」のまつもと泉先生によるもの。私は彼女を個人的に「美鈴ちん」と呼ぶことに決め、逢瀬を重ねていった。ゆっくりと、ゆっくりと……。
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そう、ゆっくりと……と言うのも、このゲーム、進行がめちゃくちゃ遅いのである。そこそこ急いでプレイしても、ゲーム内で1ヶ月を進行するのに1時間程度かかる。「95年4月」からゲームが始まり「96年12月」が目標となるので、20ヶ月間……だいたい20時間はかかる計算だ。それも最短プレイを想定しているので、実際はもっと時間がかかるだろう。(おそらく、1キャラ攻略するのはそこそこ効率化しても30時間程度かかるように思われる)。
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プレイを開始して半年が経過したところで、異変に気付いた。あれだけデートに連れ出している美鈴の好感度が、微動だにしていないのである。このゲームは毎日予定を決めることができるシステムになっているため、理論的には隔日でヒロインとデートすることが可能なのだ(誘うのに1日、翌日デートで1日といった具合に)。なのにもかかわらずこの好感度上昇の渋さ……。直感的になにかあるぞと思い、その日はプレイを中断した。我ながらナイス判断、ファインプレーと言わざるを得ない。
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プレイを中断した数日後、恐る恐る本作についての情報を調べてみると……出るわ出るわ、あまりに恐ろしい情報の釣瓶打ち。詳細は私の口から語るにはばかられるので、興味のある読者は各自調べてみてほしい。この連載を開始する時に個人的に「絶対に使わないようにしよう」と決めていた、ある言葉のオンパレードである。そしてできれば、読者諸君にもそのような言葉は使わないでいただきたいと強く思っている。なぜなら、そんなこと言ってもしょうがないからである。
そして有益な情報も手にした。このゲームではデートに一度失敗すると信じられないほど劇的に好感度が下がってしまう、という情報だ。もし読者諸君の中に『ときめきメモリアル』シリーズを知っている人がいれば、こうイメージするのがわかりやすいだろう。「3択の選択肢で1回失敗すると“爆弾”が爆発したときと同じぐらいに好感度が下がる」と。そして私は、ゲーム開始半年時点で3回ほどデートに失敗していた。『ときメモ』において1回のプレイで3回も爆弾が爆発したら……まあクリアって、できないっスよね……?
デートに成功したところで上昇する好感度は微々たるものらしく、サイトによっては「1週間に2~3日はデートしたほうがいい」とまで書かれていた。1週間に3日って、ほぼ隔日みたいなものなのでは……?っていうかランダムでデートを断られる要素もあり、セーブしたデータをロードすると何故か1日分行動が飛ばされる仕様もあって、隔日でデートし続けるのはよほどの強運がないと不可能なんですが……?いったいどうすれば……?
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攻略情報を揃え、万全の体制でプレイを再開。みっちりデートを詰め、間違えた選択肢を選ばず、こまめにセーブをしながら、ゲームをプレイしていった。デートのバリエーションも極めて少ないが、天野美鈴こと美鈴ちんという女性のことはなんとなく分かってきた。
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彼女には「娘を溺愛している父親がいる」ということ以外に強いキャラクターが存在しないのだ。見た目からはタカビー系というか、お高くとまってるんでしょう?という感じがするけれど、デートでの反応は素直そのもの。ポップスが好きで、「児童公園でブランコに乗るだけ」というような現実ではちょっと考えられないデートでも喜んでくれる性格美人だ。
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キャンプ場にデートに行くたびに自生しているキノコを食おうとするなどちょっとした奇行に走ることもあるが、基本的には見た目の派手さと裏腹にきわめて普通の子である。ほんと、普通なのである。
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他のヒロイン達はかなり個性的なので、美鈴ちんの普通さは逆に目立っているとも言える。バンドをやってる幼馴染(しかもなんとドラムボーカル)、めちゃくちゃボーイフレンドがたくさんいる遊んでる風の子、謎のハーフ(画像参照)、体操オリンピック候補生、というヒロイン陣のなかで「ちょっとファザコン入ってる転校生」という設定は、普通としか言いようがないだろう。
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見た目に反して意外と普通、というのは、なかなかどうしてチャーミングで、私はどんどん彼女に惹かれていった。そして、何度かやり直しプレイすること数十時間後、ようやくゲームは2年目に突入した。ちなみにその時点でも好感度は微動だにしていなかった。
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しかし2年目の4月ごろから、いくらデートに誘っても、ロードしてやり直しても、美鈴はまったくデートに来てくれなくなってしまったのだ。おそらく好感度が足らず、何らかのイベントを取り逃したせいで、彼女にまつわる攻略路が閉ざされてしまったと思われる。12月ごろのセーブデータから何度かやり直したりもしたが、まったく同じことになってしまう。クリア不可状態に陥ってしまったのである。
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そしてまた十数時間、幾度か再試行したのち、ここに苦渋の決断を下すことにした……。『エンジェルグラフィティ』は飛ばす、と。このままでは生活もできないし占いもいつになってもできない。こうして私は『エンジェルグラフィティ』天野美鈴の攻略をギブアップすることに決めた。
しかし、今回は貴重な教訓も得られた。「プレイする前にそのゲームについて調べてみる」ということだ。古のギャルゲーを攻略していく企画上、このような攻略困難ソフトに出会うことは想定しておくべきだった。「ギャルゲーなんだからどんなに難しくても藤崎詩織程度、セーブ&ロード駆使すりゃいけるやろ」というのは、甘い考えであったのだ。そして今回購入した数本のゲームを調べてみると、「攻略本がないと攻略するのは難しい」「攻略サイトが存在しない」というようなものも見つかってしまった。
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美鈴ちんのシナリオをすべて体感することが出来なかったことは心残りだ。インターネット上に残る太古の攻略サイトによると、彼女がデートしてくれなくなる4月から、本来ならばシナリオイベントが起こるそうなのだ。好感度が足りないのか、他の原因があるのかは判断できないが、彼女のルートに入れなかったために攻略が不可能になってしまったようだった。これは本当に悔やまれる。
しかしギャルゲー百人百景はくじけない。いけそうなやつからやっていくべきという貴重な知見を得た今、ようやく第一回に向けて進み出したのだ。そしてその前に禊として、この失敗の記録を、親愛なる読者諸君に読んでいただきたかったのである。ということで、今回は「第零回」なのだ。私はこの夏の猛暑の記憶と共に、『エンジェルグラフィティ』のことも、生涯忘れることはないだろう……。
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