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キアヌが演じる「ジョニー・シルヴァーハンド」は、本作中で主人公についでセリフの多いキャラクターであるとのこと。実は彼は、原作にあたるTRPG「サイバーパンク2.0.2.0」にも登場する、シリーズの重要人物なのです。そんな彼はいったいどのようなキャラクターなのでしょうか。原作の「2.0.2.0」をもとにしつつ、前回の「ロール」編に引き続き彼のことを掘り下げて見ましょう。
※本記事は、英語版「Cyberpunk2.0.2.0」のルールブックを参照しています。日本語版とは異なる表現もありますので、ご了承ください。
ロックバンド「Samurai」のフロントマン
「2.0.2.0」のルールブックによれば、「ジョニー・シルヴァーハンド」は、本作中の世界で最も有名なロックバンド「Samurai」のリーダーとのこと。ギターとボーカルを担当するフロントマンで、作詞・作曲も自分で行うシンガーソングライターでもあります。大衆は彼の過去の経歴を知らず、音楽を作る才能と、歌で人を魅了する力だけが広く知られています。
『2077』のPVでも表現されていましたが、彼は自分の腕をサイバーアームに改造しています。それ自体はこの世界では珍しくもなんともありませんが、実はその腕にレコーダー(録音装置)を内蔵しています。ミュージシャンである彼ならではの特徴でしょう。
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ゲームキャラクターとしてのステータスも設定されており、実際のTRPGプレイ時に登場させることも可能です。ちなみにキャラメイク時のステータスは2~10の間で推移しますが、彼のステータスはすべて7もしくは8という数値。全体的に平均より高めに設定されています。
また、人の心を引きつけ、意のままに操るスキルをいくつか持っています。体力や知恵で戦い抜くのではなく、歌とギターとパフォーマンスで人々を魅了し、心を動かしていくプレイングが推奨されるキャラクターのようです。
ルールブックで随所に登場し、プレイヤーをゲームの世界へ誘う
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シルヴァーハンドは、ルールブック内で非常に重要な立ち回りをしています。まず第一に、本の表紙。そこにはシルヴァーハンドの言葉が書かれています。「チップで力を…」というような、このゲームの雰囲気を感じ取ることのできる文章。さらには表紙だけでなく、随所に彼の言葉が引用されており、本作への没入度を高めてくれます。
また、ゲームのルール紹介のページにも登場。「シルヴァーハンドが鍵のかかった部屋に入ろうとしている」というシチュエーションで、どのようなステータスにどのようなスキルをかけ合わせてどのように判定するのか、という例が説明されています。NPCとしてだけではなく、チュートリアルキャラでもあるのです。
ルールブック後半には彼を主人公したショートストーリーも掲載。この物語「Never Fade Away」は、彼とその仲間たちのことを深く知ることができるようになっています。現在、日本語版ルールブックの入手は難しいところなのですが、もしも入手できたならこのストーリーを一通り読み込んでから『2077』をプレイすると良いかもしれません。
ここまでのことから、シルヴァーハンドは本作中で最も登場回数が多く、バックグラウンドも最も深く掘り下げられたキャラクターだとわかります。それだけに長年のプレイヤーの間で長く愛されてきた存在なのでしょう。
ファンにとって思い入れのあるシルヴァーハンドを、あのキアヌ・リーブスが演じる。E3の会場があそこまで沸き立ったこともまったく不思議ではありませんね。
彼の作る音楽と詩
先述したとおり、シルヴァーハンドは「Samurai」というバンドのメンバーです(バンド名が「サムライ」というのも、日本文化と親和性の高いサイバーパンク作品ならではですね)。その後はソロ活動も行っている様子。
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最初はあまりヒットしなかったようですが、徐々に人気を博し、「Cyberpunk 2.0.2.0」のロックンロールの世界で彼を知らないものはいないようです。そしてアルバム「A Cool Metal Fire」を発表したことで、ロック界の伝説的存在となったのです。
このアルバムの収録曲の紹介記事が「2.0.2.0.」のルールブックに掲載されています。非常に詳細に書かれており、実際にアルバムを聴き込んだのではないかと疑うほどです。オープニングのインストゥルメンタル曲「Dancing With My Axe」から「Chippin' in」に続き、そのままラストナンバー「Never Fade Away」まですべてが絶賛されており、必携のアルバムだと紹介されています。ちなみに、その中の1曲は現段階で実際に公開されています。2020年までにはこのアルバムの全ての楽曲が、現実のものになるかもしれません。
さらにシルヴァーハンドは歌詞の中で、様々な訴えや問いかけを行っています。特に「Chipping' in」は、体の機械改造を安易に行っている現代社会に問題提起を投げかける内容になっている様子。彼はリフメイカーでありパフォーマーであるだけでなく、社会派の詩人でもあるのです。
「ロッカーボーイ」 本作の肝となるロールについて
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ここまで、シルヴァーハンドのことをミュージシャンやパフォーマーと表現してきましたが、「サイバーパンク」においてこの言い回しは正確ではありません。作中では彼らのような人を「ロッカーボーイ」と呼びます。
この「ロッカーボーイ」は、ただの職業ではなく、ゲームをプレイする上で選択する「ロール」(いわゆるジョブやキャラクタークラスのこと)のひとつでもあります。本作を知る上で欠かせない要素ですので、ここで述べておきたいと思います。
「ロッカーボーイ」はその言葉の通り、ロック音楽を奏でる人を指します。「ロック小僧」とか「ロック野郎」というようなニュアンスでしょうか。ここで重要とされるのは「ロック音楽で生計を立てていること」ではなく、「ロックの精神を持っていること」です。
つまり、成功したミュージシャンでも商業主義に走って反骨精神を忘れた人は「ロッカーボーイ」ではありません。路上で貧乏暮らしをしていたり、反社会的行動をとっていても、パンクとロックの精神で音楽を人々に届けようとする者こそ「ロッカーボーイ」なのです。
「2.0.2.0」には全部で10個のロールがあります。そんな中、他の戦闘向きのものや、ハッキング能力の優れたものを差し置いてこの「ロッカーボーイ」はルールブック内で一番目に紹介されています。掲載順が優劣を決めるわけではないでしょうが、製作者の思い入れが反映されているに違いありません。
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サイバーパンクの世界は、あらゆるものがネットワークに繋がれており、あちこちで争いが耐えないディストピアです。そんな世界で生き抜くには、一見、戦いの技能やコンピュータの知識が必要なように見えます。しかしそうではなく、強い心と精神、そしてそれを届ける音楽にこそ力があるのだ、という作者からのメッセージが込められているように思います。
そういえば、サイバーパンク作品の原点でもある、1982年の映画「ブレードランナー」は人の心、アンドロイドの心とは何なのかを問いかける作品でもありました。ビジュアルやガジェットに興味関心が集まりがちな「サイバーパンク」というジャンルですが、「人の心」が根底のテーマとなっている作品も散見されます。
「ロッカーボーイ」であるシルヴァーハンドが本作の主要キャラであることは必然なのでしょう。彼の奏でる詩と音楽が、『2077』にてどのような意味を持ち、どのような物語を生むのか期待が膨らみます。そして実際にプレイする際には、サイバーパンクというジャンルの根底にある「人の心」というテーマを念頭に置いておくと、より楽しみが広がりそうです。