芸能人やスポーツ選手(プロのeスポーツ選手も……)の男女関係に端を発する醜聞は2022年も世間を大いに賑わせました。不倫や浮気といった痴情のもつれであれば、ある意味でそれは私人間の問題であり、当事者同士がケジメをつければそれは第三者がとやかく言うことではないという意見もあるでしょう。
ですが、圧倒的な立場の差――例えば仕事を発注側と受注側であったり、企業の人事と就活する学生であったり――を利用し、性的な関係を迫るようなハラスメントは、単なる私人間の諍いには止まらず、社会的な問題だといえます。現にマスコミでもその実態が報じられていますし、厚生労働省も具体的な調査や注意喚起に乗り出し、社会問題として顕在化してきています。さらに、一昨年には就活生が利用するOB訪問アプリを通じてレイプを重ねていた会社員が逮捕されるなど、刑事事件にも発展するケースもあり、その例は枚挙に暇がありません。ゲーマーであればアクティビジョン・ブリザードのセクハラ問題に関連した報道も記憶に新しいことでしょう。
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――こうした問題を抱えているのはゲーム業界も例外ではない。編集部にそうした匿名の通報が舞い込んだのは半年ほど前のことです。有名タイトルやゲーム会社の名前を使い、好き放題を繰り返すという問題は業界内でも散見されるという内容のものでした。本稿では、こうした問題への危機意識や、悪しき昔ながらの慣習の改善を望む方々に集まってもらい開催した匿名座談会の模様をお届けします。
なお、本稿においては参加者及び編集部の意向として、個人や企業を特定できない形にまとめることにしました。座談会参加者の所属なども編集部では把握しておりますが、今後の活動や所属する組織での立場の悪化なども十分に考えられることから、いずれも仮名とし、問題を起こす個人や企業名についても具体的な言及部分はカットし、推測できないような形にしています。情報の提供者であり、座談会の代表者からは「ゲーム業界で就活をダシに行われている活動が、メディアを通じて表に出ることによって、抑止力として業界が少しでも健全になって欲しい」ともコメントがあり、いたずらに醜聞としてスキャンダラスに特定個人や企業の問題を煽り立てるような方向にはまとめておりません。
また、座談会中にも言及されますが、こうした問題は業界の一部の人間が引き起こしているとはいえ、社内で公言して顰蹙をかっていたり、未成年と性的関係を持っていることを臆面もなくひけらかしたりと、今後業界内の問題ではすまない危険性も孕んでいるとのことです。多くのクリエイターが懸命に日夜ゲーム開発に取り組んでいる一方で、業界全体の評判を失墜させるような行為を重ねている人々がおり、それを問題に思い、憂う業界人もいる……ということをご理解いただければ幸いです。
就活生がパパ活の餌食に……その現状と教育現場の対応は?
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――まず今回議題にあげたいのが、ゲーム業界を目指す就活生や学生に対して、現職のゲーム業界人がコンタクトを取り、食事や遊びに誘うことです。食事や遊びはある程度は個人の自由かと思いますが、ひどいケースだと肉体関係を迫るという話が業界的にかなり問題になっていると思いますので、関係者の方にお話を伺いたいと思います。
A(美術大学教員):学校側でもセンシティブな内容になるので、表立って注意喚起ができないところが悩みどころではあります。ある意味、生徒側の自由の権利になってしまうので、「誘う側」にモラルをもってほしいとしか言いようがありません。
B(ゲーム会社人事):会社側でも注意喚起はしているのですが、実際に被害届などが出ない限りは、懲戒などのノルマが発生するわけではないので、結局それが続いてしまっている状態ですね。
企業側も公にしたくはないということで、あくまで注意喚起でとどめていて、具体的に懲戒や降格などには至らないため、なかなか被害が減らないという状況ではあります。
A(美術大学教員):学校側からすると企業側にもっと厳しく取り締まってほしいところではありますが…….。
C(大手スマホゲーム社員):たしかに会社でもなんとなく「そういうことには注意してください」みたいなことはうっすら情報として流れてきたりはするのですが、大々的に注意喚起や処罰をしないのは、企業側も「大ごとにしたくない」「責任をおいたくない」ということで、臭いものに蓋をしている状態だと思います。
――実際にどのような手口で誘うのでしょうか。
D(専門学校講師):私が生徒から聞いた話によると、直接来校して、あるいは就活イベントなどで声をかけるというケースも多いですが、昨今はとくに新型コロナウイルス感染症の影響もあり、SNSやネット上で接点を持つケースが多いようです。具体的にはTwitterやFacebookがきっかけで繋がることが多いと聞いています。
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あとは、就活イベントに限らず、クリエイターと直接交流ができるようなイベント等で、接点を持つといったケースもあるようですね。本来であればクリエイターから話を聞けるのは学生にとっても貴重な経験なのですが、昨今では前述のような被害にあう学生も少なくないことから、メーカーや学校が主催するもの、あるいは知名度の高い人材紹介企業などが主催するイベント以外には極力参加しないように呼びかけています。
A(美術大学教員):来校の際の声がけなどは教員側が注意喚起できるのですが、SNS上となるとどうしても防御することは難しいですね。
D(専門学校講師):やはり学生側としては、大手ゲーム企業の名前や有名なプロジェクト名を出されることで、すごい業界人と接点が持てると、舞い上がってしまうという側面もあるのでしょうね。
E(元ゲーム業界人):自分はコネがあるから自分と仲良くしていると大手に就職できるとか、業界の有名人を紹介できるとか、そんなことで誘うという話は聞きます。
F(大手スマホゲーム社員):こうした問題行動をする人は現役のクリエイターではなく、業界ゴロみたいな人なんですけどね。
C(大手スマホゲーム社員):私はゲーム会社に勤務していますが、全社的に厳しい注意や警告は聞いたことがありませんね。
F(大手スマホゲーム社員):表立ってしまうと大問題になってしまうので全社的に隠しているか、かばっているということもあるのかもしれません。
――そういうクリエイターと関わってしまった学生さんはどのような被害をうけているのでしょうか?
A(美術大学教員):一番ひどいケースは肉体関係を求めるというところですね。
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そこまでに至らなくても、セクハラまがい被害をうけているとか、精神的なダメージを受けて就活をそもそも断念してしまうという学生もいます。
D(専門学校講師):加害者側の目的としては、はっきり若い女性と性的関係を持ちたいから、そういう行動をするのでしょう。
G(大手コンソールゲーム社員):悪質なケースだと、未成年と関係を持ったなんていう話も耳にしますね。
こうした行い(パパ活)を自分で武勇伝みたいに語っちゃうような人もおり、何も反省していない、本人は悪いことをしているという自覚すらないケースもあります。周囲には、可愛い女の子を紹介できるよ、とか言っているみたいですし。
D(専門学校講師):極めて悪質だと思います。
G(大手コンソールゲーム社員):大阪の話ですが、SNSで知り合った就活生と会うために東京出張しているなんて話も聞きます。
C(大手スマホゲーム社員):女の子に女の子を紹介させているなんて話も聞きましたよ。
F(大手スマホゲーム社員):こういう問題を起こす人物は得てして、経歴を盛っていることも多いようです。テレビに出たことがあるとか、CEDEC登壇したことあるとか誘い文句にしているんでしょうかね。
C(大手スマホゲーム社員):学生さんなんかは騙されちゃうわけですね、有名ゲームに関わっていたというだけで。
G(大手コンソールゲーム社員):所属している会社はもちろん、これまで所属していた会社や、携わったプロジェクトにも悪い影響が出るので、大ごとになる前に自制していただきたいと強く願います。