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パブリッシャーBeep Japanと4Divinityは、Mundfish開発のアクションRPG『Atomic Heart(アトミックハート)』のPS4/PS5版において、CEROレーティング「Z」を取得したことを発表しました。また、あわせて日本後ボイスの実装も発表され、全プラットフォーム向けに4月13日より提供されることが明らかになっています。
『Atomic Heart』CERO「Z」取得!イベント単位での削除・変更はなし―日本語吹替は4月13日実装予定2022年12月時点での製品情報ではCEROレーティングが「未定」とされていたこともあり、過激な表現が変更される可能性や、国内展開の動向に注目するゲーマーも少なくはなかったでしょう。2022年10月の国内版『The Callisto Protocol』発売中止の報せも記憶に新しく、「もしかしたら……」と心配が頭を過っていたとしても不自然ではありません。
Game*Spark編集部は、『Atomic Heart』日本国内版の発売元Beep Japanの協力のもとで、開発元Mundfishに独占インタビューを実施。ゲームディレクターを担当するRobert Bagratuni氏に向け、CEROレーティングの取得とゲームの表現変更にまつわる質問を投げかけました。
――CEROレーティングを取得するに当たって、『Atomic Heart』作中にどのような変更を施しましたか。
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Robert Bagratuni氏(以下、Robert)まずは本作の世界観について説明させてください。ゲームの舞台となるのはある科学都市で、住人や職員がロボットによって残忍な攻撃を受けた直後です。人間を助けるための平和的なロボットが、故意に引き起こされた誤作動によって人を襲い始めたのです。さらに不測の事態として、研究所の植物が外の環境にさらされ突然変異を起こします。この恐ろしい出来事により、多くの人々の死や変異が発生してしまいます。
今回、日本のコンソール版での主な変更点は、まさにこれらのキャラクター……つまり死者や変異してしまった住人に関わるものでした。しかしこれらは、ゲーム全体の雰囲気やストーリーに影響を与えるような大きな変更点とは言えません。彼らは依然として、同じ行動論理を持つ、同じ敵として描かれています。
ゲームの設定において、脱走した植物たちは死者に憑依し突然変異を引き起こします。グローバル版ではこれらのミュータントはより人間に近い状態で現れ、血や内臓がまだ見えるようになっています。日本版では変異がさらに進んだものとして登場しており、依然として人型ではありますが、内臓は植物の根、血液は植物の樹液のようで、どちらかというと「攻撃的な植物」のような見た目になっています。
ですから、変更はあくまで最小限なものに抑えられたと思っています。ゲームの仕組みや体験を犠牲にすることなく、他の国のプレイヤーと同様の体験を日本のみなさんに提供できることを嬉しく思っています。
――PC/PS4/PS5/Xbox Series X|S/Xbox Oneとそれぞれのプラットフォームで、どのような変更点が加えられているのでしょうか。
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Robertコンソール間では、すべてが同じ変更内容となっています。グローバル版との最も顕著な違いは、前述したような“死体やミュータントの外見と血の色”でしょう。それ以外では、CEROの要求を満たすために一部環境の細かい調整を行いましたが、おそらく気づくことさえ難しいのではないかと思います。
――レーティング取得に当たり、CEROからはどのような提案・要望を受けましたか。
Robertほとんどが、過度な暴力や性描写のあるシーンに関する提案でした。『Atomic Heart』の本質はロボットとの戦いや真実を求める戦いであり、暴力やセックスに重点を置いたストーリーゲームではありません。いずれにせよ、レーティングのための準備には多大な労力を要しましたが、それがゲームの印象に影響を与えないことを望んでいます。
――表現変更において、特に配慮した点についてがあればお聞かせください。
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Robert最大のチャレンジは、日本のプレイヤーが海外のプレイヤーと同じ体験をできるように、既存のゲームメカニクスを維持することでした。前述した重要なメカニクスのひとつに「死亡した住人の体に変異した植物が侵入する」というものがあります。そして本作では、死体を切断することで突然変異を防ぐことができます。つまり「人間の死体をバラバラにするシーン」が存在するため、それが残酷すぎると受け取られる可能性がありました。 そこでキャラクターモデルを変更し、植物が侵入する前に部分的に変異を行わせることで、この問題を解決することができました。
――他の地域と比べて、「日本でのゲーム販売」のどこが厳しいと感じましたか。
Robert日本のパブリッシングパートナーであるBeep社と密に連携してきたため、販売プロセスにおいて特に大きな難しさは感じていません。彼らのおかげで、問題が発生してもすぐに解決することができて非常に助かっています。
海外の開発者が直面する主な問題は、言葉の壁だと思います。従わなければならないガイドラインをすべて自分で見つけるのは、本当に大変なことです。また、日本は非常に重要かつ特殊な市場であり、多くの素晴らしいゲームや画期的なジャンルの本拠地です。数多くの素晴らしいゲームと競争し、日本のプレイヤーの注目を集めるのは非常にチャレンジングなことだと感じます。
――「日本でレーティングを取得するためにゲーム内容を変更すること」について、デベロッパーとしての率直な意見をお聞かせください。
Robert正直、それは「問題」ではないと思っています。というのも、どの国にもそれぞれのルールや規制がありますし、私たちはそれを尊重し、遵守する義務があるからです。結局のところ、私たちはプレイヤーのためにゲームを作っているのですから、各国のプレイヤーにとって利用しやすく、受け入れやすいものにしなければならないと考えています。
――ゲームデベロッパーとして、どのような意識で「グロテスク」「過激」とされる表現を取り入れていますか。
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Robertもちろんすべてのゲーム、すべてのストーリーにグロテスクさや過激さが必要なわけではありません。しかしゲーム開発者は芸術家であり作家であり、物語の語り手です。時には、「悪いもの」や「危険なもの」の表現なくして「善」や「正義」を示すことが難しい場合もあるのです。
――『Atomic Heart』開発中において、“過激過ぎるかもしれない”と感じたシーン/アクションはありましたか。ネタバレでない範囲で構いませんので、お聞かせください。
Robertはい、確かにそのようなシーンがあります。とても感情的で、緊張感があり、激しく、ある種暴力的でもあります。特筆すべきは、このシーンが日本版では変更されていないことです。残念ながらこれ以上詳しくは説明できないのですが……物語上、とても重要なシーンであることは確かです。
このシーンについてはみなさんがプレイした後に、また話し合いましょう!
――前項でお答えいただいたシーン/アクションは、『Atomic Heart』を表現するにあたってどれほど重要なものと考えられていますか。同様に、ネタバレにならない範囲でお聞かせください。
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Robert『Atomic Heart』は物語主導の作品であり、ただ走って銃を撃つだけのゲームではありません。登場人物の人間関係や世界観、それぞれの動機などを理解することが重要なのです。だからこそ、ゲーム内のすべてのシーンが非常に重要で、それによってプレイヤーは世界観やストーリーに没入し、キャラクターを理解し、探求することができるのです。ゲームの中で描かれている状況はまさに極限状態ですから、登場人物の行動もそれにふさわしいものになります。
――日本でのCEROレーティング取得が完了した際の率直なご感想をお聞かせください。
Robert本当に嬉しかったです。まず、私たちのプロジェクトを日本のプレイヤーの皆さんと共有できることに興奮しました。発表以来、日本のプレイヤーの方々はこのゲームにとても興味を持たれていたので、プレイしていただける機会を得られたことは大きな喜びでした。
もちろん、テクニカルアーティスト達も大喜びでした。彼らはレーティング取得の際に、主な仕事を担っていた人たちですからね :)
――日本では、2022年10月末に『The Callisto Protocol』の発売中止が発表されていました。この件について、同じゲームデベロッパーとしてどのような印象を抱きましたか。
Robert開発者として、ゲームデザインの自由度とオリジナルコンセプトを犠牲にすることなく、日本のような地域でレーティング取得の調整を行うことのバランスを取るのは、本当に難しいことであると思います。特に、主要なゲームメカニクスについては、ゲームへの変更点の実装が非常に困難であったり、根本的な見直しが必要であったりと、簡単なことではないことを身をもって体験していますから。
日本のユーザーの皆さんにゲームを体験していただくことは私たちにとって非常に重要なことでしたので、この問題を解決できたことを嬉しく思います。
――日本以外の地域で表現変更を迫られるケースはあるのでしょうか。ある場合、日本を含めどこの地域での販売に懸念を抱かれますか。
Robertどの地域にも、よく考えてみるとちょっと不思議に思うようなルールがあります。例えば、ある国ではゲーム中に落書きをすることが禁止されていたり、ある国では骸骨や血を表示することが禁止されていたりします。私たちがこういった表現変更ルールについて調べていた際に、開発チームの中のひとりが「なぜ虫やクモがゲーム内で禁止されないのか、少なくとも警告が義務付けられないのか理解できない」と言っていました。実は彼はとても怖がりで、虫やクモが血よりもずっと怖いそうです(笑)。まあ確かに、言われてみればそうかもしれません。ゲームの内容に関する警告があることは、レーティングを取得する上で最も重要なポイントのひとつだと思いますね。
――『Atomic Heart』の発売を待ち望む日本のゲーマーに向けて、同作品の見所、楽しんでいただきたいところを教えてください。
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Robert複雑なストーリー、非日常的なディストピアの世界、そして絡み合う戦闘システムとパズルが開発の柱となっており、これらをプレイヤーの皆さんに存分に楽しんでいただけたら幸いです。
――表現変更が施された『Atomic Heart』をプレイ予定の日本国内のユーザーに向けて、メッセージをいただけるでしょうか。
Robertまず、『Atomic Heart』に興味を持っていただき、ありがとうございます!日本のプレイヤーのような洗練された方々が、私たちのゲームを遊びたいと言ってくださるのは、本当に光栄なことです。
このゲームはファンタジーの世界であり、人々に驚きと感動を与えるために開発されたものであることを忘れないでください。私たちチームのデビュー作となる本作を、楽しんでいただけることを願っています!
『Atomic Heart』は、PC(Steam)/Xbox Series X/S/Xbox Oneを対象に2月21日、PS5/PS4を対象に4月13日より発売予定です。また、PSコンソールでは通常版に加えてプレミアムステッカー、アートブック、スチールブック、限定版ボックス、DLCを収録する限定版も発売されます。
¥7,918
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