この季節、納涼というと怪談やお化け屋敷など、あえて怖いものに挑戦するのが夏のトレンドとして定着しており、恐怖によって涼しくなるという説が信じられているようです。
これをゲームに変換すると“夏はホラゲー”ということになり、ゲームをしながら冷房も要らずとなれば、もはやゲーマースタイルのクールビズ。夏場や冬場の電気代が気になるゲーマーの不安定な生活事情を改善する転機になるかもしれません。
というわけで今回は、本当に恐怖で涼しくなれるのか検証すべく、エアコンをつけずにホラーゲームをプレイして実験を行います。
実験にあたっての準備
◆用意するもの
積んでいたホラゲータイトル1本
ホラゲーにとってネタバレは致命的なので、今回は去年あたりに特集用として購入し、ほぼ初見のまま積み置かれていた『サイレントヒル3(Silent Hill 3)』をプレイ。いまも定期的に起動しているPS2実機によるプレイ環境です。
実験室
筆者を俗世から隔離するために設けられた裏世界(サイレントヒル)。南向きの最上階という外的環境要因を直に受ける位置にあり、夏はひどく暑く、冬はひどく寒い極地に存在する牢獄です。8月の平均室温は30度、体感35度を超えています。雨季には湿度90%以上を記録することも珍しくありません。
扇風機
地方の伝統的な日本家屋にも置かれている電気扇風機。首振り機能、タイマー機能などが標準的な機能として備わっており、ゲーム機を直接空冷するのにも使えます。ただ、猛暑日は扇風機だけだと明らかに力不足なので、熱中症に気を付けましょう。実験においても最低限の装備です。
経口補水液
脱水症状の予防・緩和を目的として医学的に設計された飲料水。ほとんどが水で構成されている人体に対し、効率的かつ最大限の効果を発揮するよう塩分・水分などの物質を最適の配分で提供します。ただ、味は美味しくないです。
なお、この実験は安全策として扇風機をつけた状態で行っています。危険なので、夏休み中のよい子は絶対にマネをしないでください。
実験開始
ネコの子も寝静まった8月某日の深夜、ついに世紀の実験が始まります。6月の半ばから常に稼働していたエアコンの電源を切ると、あっという間に温度計の表示が28.6度、湿度は65%を記録。熱中症の原因となる高温多湿をすでに満たしている状態です。
余談ながら、この牢屋で過去に室温29度・湿度80%近い環境で就寝したところ、見事に熱中症を発症してバタンキュー。しかし、恐怖という精神的効果から納涼を生み出そうとする今回の実験には、これ以上ない最適の条件が揃ったといえるでしょう。
そして、ホラーゲームとして名高い『サイレントヒル』シリーズが恐怖という概念に対して真摯な完成度を誇っているのも、実験の精度を向上させるのに役立ちます。
スタートボタンを押す前から、デモ映像の時点で本作の異質かつ不気味な世界観が惜しみなく表現されており、常人の理解をはるかに超えた精神世界において、これから起こりうるであろう恐怖演出に戦慄せざるを得ませんでした。
得体の知れないものを映し続ける短いオープニングの後、本編がスタート。明らかに普通ではない遊園地に取り残された主人公を操作し、何故か血まみれで横たわるウサギの着ぐるみ、相変わらずワケの分からないナマモノが吊るされている道を進み、恐る恐る次の空間へ移動します。
すると、時代を感じる長いロードを終えた瞬間、突如として敵の大群が襲来。イヌっぽい小型クリーチャー、なんとも形容しがたい巨大な人型クリーチャーの姿が視界に入り込んだ瞬間、ホラーゲーム特有のジワーっと凍りつくような鈍い感覚が心臓から広がって、身体の内側を駆け抜けていきました。
その冷たい血が巡った数秒の間、ほんの一瞬ながら寒いと感じたのは事実です。システム的な余裕を消すために難易度もハードを選択しており、本作が持つ本来の恐怖に加え、大量の敵に襲われる焦りのパニックホラーも合わさって呼吸すら重く感じます。
ただ、それでも涼しくなったのは皮膚の下、身体の内側だけに止まり、表面はムンムンとした部屋の熱気に曝されて弱火で煮え込まれているような感覚。この圧倒的な恐怖をもってしても心が及ぼせるのは内面だけで、ヒリヒリと焼けるような外側、肌寒い内側の両方の感触があるせいで余計に身体の不快感が増す結果となりました。
室温30度のサイレントヒル
本作の雰囲気を実戦形式で叩き込む遊園地ステージが終わると、それは主人公の夢オチということが明かされ、そのころには室温も29.2度まで上昇していました。
PS2のような旧世代の家庭用ゲーム機は排熱が少ないですが、逆に最新のPlayStation 5などはミドルスペックPCと同等の高性能と引き換えに、とてつもない熱を発します。実際、温度計が5度前後は上がるので、最新のゲームを快適にプレイするためには何よりエアコンが必須でしょう。
ただ、そうでなくとも29度という数字は熱中症を引き起こす可能性が高く、人間の日常生活に支障をきたします。
いまのところ、どれだけ迫りくる恐怖を感じてもホラーゲームからもたらされる悪寒は瞬間的で持続性が低く、心臓を中心とした身体の芯の部分だけが涼しくなるだけで、これでは納涼と呼ぶには程遠い現状です。
扇風機で皮膚の表面を冷やして涼しく感じることもできますが、風を直接浴びると涼しいを通りこして寒くなり、ゲームプレイの集中力を奪うことにもなりかねません。
そんな中、ホラーゲームの主要素に数えられる本格的な謎解きの場面に遭遇。5冊のシェイクスピアの著作に紐づけられた暗号を解読するというものですが、これが想像以上に難しく思わぬ足止めを喰らいます。
ここまで全身にまとわりつくような暑さと格闘しつつも集中力を保てたのは、常に探索という目的があったからです。謎解きによって同じ場所に留まることを強いられた途端、ひたすら湿度63%の熱気だけを感じるようになり、しまいには額に汗が流れます。
はっとして温度計を見れば、もはや大台の30度手前の29.7度。ほぼ自力(検索はした)でシェイクスピアの謎を解いて初めてのボスに辿り着き、どうにかコツを掴んで倒したときには、ついに室温が30度を超えてしまいました。
ちょうどボスも倒して区切りも良い(怖すぎて続けるのを躊躇う)ということで、さすがの筆者もこれ以上は危険と判断して実験は終了。自分の唇を舐めると塩味がするぐらいに汗をかき、ホラーで涼むどころか、サウナの中でゲームをしていたような感覚です。
それでも、本作の恐怖演出にまんまと引っかけられたときには、物理的に心臓が止まるかと思うほど驚かされて胸の奥が本当に凍りつくようでした。きちんとエアコンをつけて、人間が生活するのにふさわしい環境を確立した上でプレイする場合は、適温より体感温度が下がるという意味でホラーゲームによる納涼を堪能できるでしょう。
実験から導き出された結論
今回の実験の結論としては、ホラゲーのみで猛暑を乗り越えることは不可能です。
というのも、今年は災害級と呼ばれるほどの猛暑が続いており、小手先の精神論のような方法では気を紛らわすことさえできません。今夏はエアコンを適切に使用し、無理にガマンして熱中症などにならないよう涼しい環境でのゲームプレイを心掛けましょう。
また、今回プレイした『サイレントヒル3』は数あるホラーゲームの中でもずば抜けた恐怖が魅力の作品であり、ひとつのゲームとして、夏の風物詩として色褪せない面白さが詰まった名作中の名作。本格的なアクションとしての性格も強く、サバイバルホラー、戦うホラーが好きな方には特にオススメです。
くどいようですが、今回の実験はゲーム科学のさらなる発展を願い、熱中症を経験した筆者が安全に配慮して行ったものです。大変に危険なので絶対にマネしないでください。