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日本は世界でも突出した少子高齢化を迎えています。
だからこそ、この記事で解説する『Escape from the Nursing Home』は日本において特別な意味を帯びるのかもしれません。 これは『メタルギア』シリーズの老人版……と書けばいいでしょうか。しかし老化したソリッド・スネークが主人公というわけでは全くなく、さらに銃とも戦争とも無関係です。
要は「誰にも見つからずに目的地へ行け!」という内容のゲームです。どういうこっちゃ!?
介護施設から脱出!
筆者は過去に「高齢者が転倒しても怪我をしないようにたわむフローリング材」を開発した企業を取材したことがあります。その企業のCEO曰く、我々がぼんやり考えている以上に高齢者の転倒事故は非常に多いとのこと。若者であれば何の問題もない角度の階段も、体力の衰えた高齢者にとっては文字通り致命的な要素になってしまいます。
『Escape from the Nursing Home』は、まさにそんな高齢者が主人公です。
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高齢者介護施設の中で毎日穏やかかつのんびりと過ごしていますが、それは言い換えれば退屈な毎日です。たまには外に出て飲み歩きたいぞ! スタジアムでサッカー観戦したいぞ! 女の子をナンパしたいぞ! というわけで、主人公は介護施設の職員の目を盗んで施設から脱走することを誓います。
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ここからのゲーム性は、まさに『メタルギア』に近い内容。その辺をうろつく職員に見つからないよう、上手いこと俊敏に立ち回って脱出します。爺さんアンタいったい何やってんだ!?
なお、職員に見つかったら強制的に自室へ連れ戻されます。ええい、どかんか青二才!
シフトキーで「歩行」
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キーボードによる操作は、一般的なFPS/TPSのそれと大きく変わりません。WASDで移動、シフトキーで歩行。
……ん、歩行? シフトキーはダッシュじゃないの?
そう思ったアナタ、それは高齢者の身体的な辛さを考慮していない証拠です。このゲームの場合はダッシュ=常人ペースの歩行で、普段はいかにも転倒しそうなヨボヨボ歩きしかできません。全力疾走なんて不可能ですよ!
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そして、この常人ペースの歩行もそう長く続けられるものではなく、調子に乗ると最悪心の臓を患ってしまいます。関節炎や視力の低下といった持病があるのも『Escape from the Nursing Home』の大きな特徴です。
さらに喉の渇きや空腹、便意にも気を払う必要があります。とにかく、主人公は自分ひとりでは隣の部屋へ移動するのもおぼつかない状態です。今は亡き志村けんさんがよく演じていた今にも倒れそうな老人、アレを想像していただければ概ね間違いはありません。
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……てか、それなら無理に外出しようとせずに部屋で落ち着いてたほうがいいんじゃねぇか爺さん!?
とあるプロレスラーの最期
かつて、アメリカンプロレスにバディ・ロジャースというプロレスラーがいました。
このロジャースは極めて独善的な性格で、地方興行の方法も他のレスラーやプロモーターの利益を一切考慮しないものでした。故に同業者からは徹底的に嫌われ、ついにはカール・ゴッチとビル・ミラーに控室で制裁されるという事件も。
しかし、やはりプロレスラーはプロレスラーです。晩年のロジャースはフロリダで隠居生活を送っていましたが、70近い歳の頃にサンドウィッチ店で20代の暴漢とストリートファイトし、見事ボコしています。この時点でロジャースは、心臓と股関節に持病を抱えていたそうです。
ところが、この3年後にロジャースは亡くなります。スーパーマーケットでクリームチーズを踏んで転倒したのが原因とのこと。
ストリートファイトを繰り広げた元プロレスラーが、転倒という実に呆気ない事故で簡単に亡くなってしまう。それが「加齢」というものです。
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『Escape from the Nursing Home』の舞台は、別に複雑なダンジョンというわけでもレーザートラップが仕掛けられている軍事基地というわけでもありません。ごく普通の高齢者介護施設です。そんな施設からなぜ容易に出られないかというと、それは爺さん即ち主人公の身体的問題が自由な移動を阻害しているから。
先ほどまで脱出する気満々だったのが、やっぱり身体にガタが出て職員に頼らざるを得ない事態になる展開も頻繁にあります。なんだか切ない……。
要介護高齢者介護シム
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『Escape from the Nursing Home』のもうひとつの特徴は、単に「施設からの脱出」だけでなく他の要介護者との交流ができるという点です。
つまり、プレイヤーがその気なら無理に脱出せず、普通に施設の中で生活することも可能。総括すれば、『Escape from the Nursing Home』は「ストレスゲームの要素もある要介護高齢者シム」というところでしょうか。
そんな『Escape from the Nursing Home』は、Steamにて早期アクセス配信中です。