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スクウェア・エニックスの人気シミュレーション『フロントミッション』シリーズの新作『Front Mission: Borderscape』として、元々は開発されたであろうタイトル『鋼嵐 MECHARASHI』が2024年5月22日、台湾・香港・マカオの各地域でサービス開始を迎えました。
すでに中国本土ではサービスが始まり、たびたびインサイドでも本作については取り上げていました。日本国内で気になっているファンが多かったこともぼんやりと記憶しています。
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今回の配信により、先行リリースしている中国のいわゆる“大陸版”よりかは比較的プレイしやすくなりました。筆者としても日本未上陸の注目作に触れる機会に恵まれたため、これ機に繁体字版『鋼嵐 MECHARASHI』のプレイレポートをお届けしていくことにします。
なお、スクリーンショットのグラフィックが粗く見える場面が多々ありますが、スマートフォン端末を最低画質まで落としている事情がありますので、何卒ご容赦ください。
※本稿では、システム上の関係で簡体字・繁体字で表記すべき部分を異体字に置換している場合があります。
※世界観・固有名詞・ストーリーの解釈については翻訳ツールを併用しています。仮に日本向けに配信された場合に齟齬が生じる場合がありますので予めご了承ください。
◆仲間との出会いと別れを繰り返し、数々の陰謀に巻き込まれながらも謎を紐解いていくSFストーリー
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物語は人類が本編開始の50年前「米赫瑪島(ミハマ島)」で見つけた新たな元素「鋼嵐」を巡って巻き起こった戦争により、世界情勢が著しく不安定な状態に陥った場面から幕を開けていきます。
あるとき、傭兵稼業を営んでいた主人公・カイとその相棒・ディアナは、北陸連合軍第7機動隊からの救助要請を受け取ってレジスタンス組織との戦いに巻き込まれます。
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そんな戦いの最中に敵の増援によってピンチに陥った2人ですが、突如として目の前に現れた謎の白い機体に助けられます。その機体は北陸連合軍のエースパイロットであるローズ少佐が操る機体でした。
“ヴァルキリー”の異名を持つ彼女は、その卓越した戦闘力を行使して、レジスタンスの機体を次々に撃墜し撤退に追い込んでいきます。カイの呼び掛けに対してそっけなく応対するも「今すぐこの米赫瑪島から出た方が良い」と、意味深な忠告だけを残して去ってしまうのでした。
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やがてカイとディアナは北陸連合軍の正規軍人として入隊することになるのですが、新たな仲間たちとの出会いや別れを繰り返していき、やがて当の本人たちすらも全く予期してなかった方向へと物語が進んでいきます......。
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ネタバレを避けるため、物語導入部分だけの紹介になりますが、メインストーリー第1章だけでもかなり濃密なシナリオ展開に仕上がっていました。
正規軍が秘匿する巨大な陰謀、それぞれの人物たちが内面に秘める葛藤と容赦ない戦場の現実、そして後々になってその意味が理解できる意味慎重なキャラクター描写と台詞回しの数々。無骨なメカが戦うSFロボロマンと、安直に端的に言い切ってしまうのは勿体無いほど、第1章は続きが読みたくなるシナリオです。
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基本的にはシリアス一辺倒なストーリーテイストですが、一部のキャラクターが稀に織り交ぜるジョークだったり、切羽詰まった状況ゆえに手段を選ばなすぎる場面だったりと、展開が常に暗くなり過ぎないようなところも部分的に見受けられます(それでも重い展開が続きますが)。
また、メインストーリー第1章に関しては日本語フルボイスで吹き替えられていることから、より没入して物語を楽しめました。ただし、細部を見れば時系列が頻繁に飛ぶ物語構成のため、人によってはツッコミどころがあるのは否めないところでしょう。
それでも第1章の時点だけで物語的には大きく揺れ動き、それなりの謎を残しつつ一旦の落ち着きを見せていくので、キリが良く満足度が高いストーリー構成だったと思えます。
◆機体の部位破壊が戦闘の醍醐味!限りなく『フロントミッション』なシミュレーションバトル
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『フロントミッション』のバトルシステムといえば、グリッド状のフィールドマップでメカの行動を決定していくターン制のシミュレーションバトル。敵ユニットを攻撃射程圏内に捉え、装備している武器で戦闘に突入するとメカ同士の戦闘シーンが挿入され、胴体・右腕・左腕・脚部の各部位へダメージを与えていく......というのが主な流れです。
シリーズを通して敵も味方もメカの各部位に個別で耐久値が設定されており、パーツの部位破壊が敵の行動を抑制するか、あるいはこちら側が逆にやられてしまうかもといった、プレイヤーの内面に差し迫るギャンブル的な運要素が醍醐味ではないでしょうか。
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『鋼嵐 MECHARASHI』はそうした『フロントミッション』のDNAを引き継ぎ、「こちらの攻撃が敵にどのような影響を与えられるのか」と、プレイヤーが心理的に部位破壊をお祈りしたくなるあの懐かしい感覚が確かに蘇ります。
また、筆者がゲームプレイで使用している端末がアレなため、ゲームが持つビジュアル部分の強みをあまり活かせていないのが悔しいところなのですが、戦闘シーンのビジュアルはカメラワークが相まって迫力を感じさせてくれました。
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ターン制のシミュレーションRPGとはいえ、『鋼嵐 MECHARASHI』も『フロントミッション』も、戦闘中に“部位破壊”が絡むことで「右腕に装備した武器が使えない」「脚を破壊されて全く移動できない」など、人型ロボットを題材にしたゲームに、ある種のリアリティーをもたらしています。
しかもそうした要素がゲームの戦略性にも有機的に結びついてることから、プレイヤー側の潜在的な脅威を増大させて駒運びを一層スリリングなものにしていると思うのです。この独自の緊張感は、どちらの作品においても共通するものです。
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『鋼嵐 MECHARASHI』はスマートフォン向けのタイトルなので、1つのステージを攻略するのにそこまで長い時間がかかりません。敵の数は多過ぎず少な過ぎずのちょうど良いバランス感です。
マップ内に燃料タンクなど、攻撃に使えるオブジェクトが登場するステージもあるので、そういったギミックを駆使すればさらにサクサク進められました。「オートモード」「2倍速」も備わっていることから、ザコ戦主体のステージならば楽にクリアできてしまいます。
バトルの基本システムが『フロントミッション』シリーズとほとんど同一なので、“限りなく『フロントミッション』”だなんて表現が、ピタリ当てはまるゲームと考えています。本来『Front Mission: Borderscape』として開発されていた事実を裏付けるにも、その名残りを随所に感じさせてくれました。
◆これはもう『フロントミッション』じゃダメなんですか
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パーツを組み替えるメカのカスタマイズ要素はもちろんあります。胴体・右腕・左腕・脚部・各武器を、それぞれメカの基礎タイプさえ一致していれば入れ替えることができます。こうしたメカ好きの心をくすぐる部分も『フロントミッション』が愛される魅力でしょう。
しかし、これまで幾度も『フロントミッション』の名前を出しおきながら本作は『フロントミッション』ではないのです......。ミリタリーとミステリーが絡むような読ませるシナリオ展開、部位破壊が戦いの要となるタクティカルなバトルなど、遊べば遊ぶほどに「『フロントミッション』じゃダメだったんですか」と、口に出さすにはいられません。
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一体『Front Mission: Borderscape』に何が起きてこのような形になったのか。そうした詳しい状況は未だ謎に包まれたままですが、これだけのクオリティの『フロントミッション』であれば、日本国内ではスマートフォンゲームであってもプレイしたかったユーザーがある程度いたのではないかと推測します。
ただ、スクウェア・エニックスは、運営するスマートフォンゲームサービスの継続期間に大きなばらつきがある事情もあり、仮に『Front Mission: Borderscape』として配信されていた場合、時期が悪ければファンたちは憂き目に遭っていた可能性も十分ありえる話でしょう。
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前身となる『Front Mission: Borderscape』のことを考えると、『鋼嵐 MECHARASHI』が日本上陸するかはちょっと微妙な感じがしているのですが、日本語音声対応だったり日本の人気シリーズがベースになっていたりと、それら諸々を考慮してもやはり日本版が欲しいと率直に思えたゲームでした。
『鋼嵐 MECHARASHI』繁体字版は、公式サイトからAPKをダウンロードすればAndroidですぐにプレイ可能です。PC版クライアントも用意されているので、気になる方は自己責任でプレイしてみることをオススメしておきます。