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【特集】シナリオライターが遊ぶ『Braid』…届かないはずの星に手を伸ばしてしまう性

彼女の揺れるBraid(三つ編み)を追いかけて……

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【特集】シナリオライターが遊ぶ『Braid』…届かないはずの星に手を伸ばしてしまう性
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ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第6回は『Braid』を取り上げます。

※本編のネタバレが含まれていますのでご注意ください。

『Braid:アニバーサリーエディション』の発売により、久し振りにインディーゲーム・パズルマニアの方々が湧いており、良いタイミングなので、奇才ジョナサン・ブロウが作り上げた2008年発売のパズルゲーム『Braid』に挑戦したいと思います。

(焼けているようにも見える)夜の街を背景に、突き進むひとりの男、ティム。彼は恐ろしいモンスターにさらわれたプリンセスを助けるために、時間遡行という能力を駆使して冒険の旅に出かけます。

開始して間もなく、このゲームが『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのオマージュであることと、そんなゲーム的お約束に対するカウンター表現に満ちた作品であることがわかります。

まず、本作の最初のワールドは“2”。「ワールド1は?」と思って出入りしてしまいますよね。でもそれで正しいのです。このゲームはワールド2から始まります。

ステージ選択の扉の前にはロアが並んでおり、ここでストーリーを理解することができます。どうやらプリンセスが去っていったのは、ティムがおかした過ちに起因していることがわかります。

ワールドをクリアすると、またしても『スーパーマリオ』のオマージュでプリンセスがここにいないことを教わるので、次のワールドへと向かいます。そういった具合にゲームを進めていくと、いよいよプリンセスを救い出そうという場面に。

「はなさないぞ!!」と叫ぶ謎の男がプリンセスを捕らえていますが、次の瞬間、彼の腕から逃げたプリンセスが「助けて!」と叫んで駆け出します。

ティムはプリンセスを追いかけますが、いよいよ救出という段になって、ふたりの間に分厚い壁が……どうやらこのステージは時間が逆行していたらしく、元通りに時間を戻してみると、むしろティムこそプリンセスを追いかけ回しており、謎の男に向かって「助けて!」と頼んでいる構図になりました。

ここで筆者は感嘆の声を漏らしてしまいました。ただマリオのようなシンプルなストーリーを持つゲームへのカウンターとして、現実世界の上手くいかない恋愛観を持ち出し、ヒドい話に終わらせて笑いを取るパロディで終わっていたなら、ここまで評価されることはなかったでしょう。

そこで、時間遡行というパズル・ギミックを入れることで、何度やり直してでも自分の人生と彼女という夢を諦めきれない執念深さや愚かさ、そしてそれを冷徹に皮肉ったストーリーラインが見事にマッチしています。

その後のロアは少しわかりづらく、先人たちによる考察記事をいくつか読ませていただいたのですが、ティムをただ破れた恋をやり直そうとする男として見るのではなく、原爆を研究する科学者として読み取る向きがあると知り、たしかにOPの燃え盛る街の背景などいくつかの点でそう読み解くこともできるかもしれない……と感じました。

と、これでこのゲームが幕を閉じても問題はないのですが、そこは『The Witness』を作りしジョナサン・ブロウ……ストーリーとパズルによる素敵なゲーム体験はここまでで、各ワールドに隠された超絶高難易度の星探しが用意されています。

もはやバグと大差ないような、仕様の隅の隅をつきまくった問題をこなし、何が何でも手に入れたかったものに手が届いてしまったあとの寂寥感と来たら……ここに初めて辿り着いた当時のプレイヤーはきっと何とも言えない感情に包まれたと思います。

世界そのものをブッ壊してでもそこに可能性があるなら突き進むというのは、愛を求める男の姿とも、研究者の姿勢とも、あるいはゲーマーという生き物の性とも取れるような気がしました……。

覚えておきたいキーワード:時間旅行/タイムトラベル

過去をやり直し、現在や未来を作り替えようとするのは人類の悲願です。多くの作家やクリエイターが、タイムトラベルについて描いてきました。ヒンドゥー経の経典やアイルランド神話、日本や中国の昔話といった数多くの古典にも見つかりますし、新作のSFやミステリ小説にも新しいアイデアが盛り込まれているものです。

時空間という概念を直感的に表現できるからか、ゲームにも山ほどあり、本連載で紹介した『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』などは、多くのプレイヤーの思い出に刻まれていることでしょう。

ちなみに筆者がとても好きなタイムトラベルものは、ロバート・F・ヤングの小説です。彼は基本的にロマンティックな作風を好んでタイムトラベルSFを書いてきた人で、大体は主人公が頑張って時間旅行をすることで、引き裂かれてしまったふたりが再会し、ハッピーエンドとなります。ちょうど『Braid』の真逆ですね。


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《各務都心》

各務都心

マーダーミステリー『探偵シド・アップダイク』シリーズを制作しているシナリオライター。思い出の一本は『風のクロノア door to phantomile』。

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