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2024年7月19日から3日間にわたって、「BitSummit Drift」が京都・みやこめっせにて開催されました。毎年恒例のイベントということで、多数出展されたゲームの数だけいろいろな出来事も起きているもので……この度出展されたアドベンチャーゲーム『シュレディンガーズ・コール』でも、「あまりの感動に試遊したプレイヤーが号泣」「試遊範囲のプレイ後、プレイヤーが放心状態になってしまう」といったエピソードが生まれていたそうです。
Game*Sparkは、死者との会話を通じて世界の真実と自身の記憶に迫る『シュレディンガーズ・コール』開発チームのAcrobatic Chirimenjako(アクロバティックチリメンジャコ)の3名に直撃取材を実施。集英社ゲームズのシニアプロデューサー・林氏も加わった濃厚なインタビューをお届けします。
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予想以上の反響が飛び出した『シュレディンガーズ・コール』試遊出展
――最初に、ゲームの紹介をお願いします。
Achabox氏『シュレディンガーズ・コール』は、月が落ちて滅亡してしまった世界の物語です。真っ暗な部屋で記憶を失った主人公・メアリが目覚めて、世界最後の話し相手として死にきれない魂の心残りを救っていくアドベンチャーゲームとなっています。
――「死者」をテーマとしたゲームはこれまでも話題になりましたが、『シュレディンガーズ・コール』はどのようなところから着想を得られていましたか。
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入交氏開発中には色々なゲームの名前が飛び交ってましたね。『ネクロバリスタ』もそのひとつではあるんですが、企画段階……スタート地点だと、特にはないです。強いて言えば、Achaboxさんが昔作っていた『ことだま日記』でしょうか。言葉を食べさせてキャラクターを変化させるシステムを用いていて、『シュレディンガーズ・コール』にも要素として取り入れました。
林氏そういう意味で言うと、既存のゲームをリスペクトしてゲームを作ったというよりは、すごく作りたいゲームのコンセプトっていうのがあったわけですね。「どう表現するか」を常に考え、試行錯誤しているチームです。
いろいろなゲームを参考にすることはあるけれど、特定のゲームやシステムをベースにしていることはなく、長年作られてきているアドベンチャーゲームの知見を学びながら、今回のコンセプトに合っている表現は何かということを、常に模索して作っている感じです。
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――死者と繋がるという具体的なキーアイテムとして「電話」を用いられていますが、これにはどのような意図があるのでしょうか。
Achabox氏私が『シュレディンガーズ・コール』を思いついたのはコロナ禍の頃で、私自身も家族が亡くなったりとか、結構不幸なことがいろいろあって、しんどい時期だったんですよね。コロナ禍の世界はすごく暗くて孤独も感じましたし、辛くて「誰かとお話がしたい」と強く思っていたんです。
思いついた当初はまだ世の中のいろいろなところで断絶が起きている時期で、そこでビジュアルが頭の中にバーンと出てきました。このアイデアはきっと良いゲームに出来るはずという強い確信がありました。友達や、顔も知らない人たちとDiscordで話すこともありましたしね。
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Achabox氏そうやって顔も知らない誰かと話していきながら、共感を覚えたり逆に共感してもらえて元気付けられたりして。「電話」というものに、本当に救われたんですよ。それで「この感覚をゲームにしたい」と思ったんです。
――自身の浮かんだビジュアルとテーマが、先行して繋がっていったということですね。
Achabox氏そうですね。「電話ができなかった」とか「話せなかったな」とか、辛い瞬間を過ごした誰かに届けたいと思っています。
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――今回「Bitsummit Drift」でプレイされた方で、号泣された方もいらっしゃったと聞きました。他に試遊されていた方の反応はいかがでしたか?
Ame氏プレイ後に「リリースを楽しみにしてます」だとか「すごく面白かった」と声をかけてくださる方が多かったです。最後のシーンで画面を見つめたまま完全に固まっていらっしゃる方もいて……「あれ、これって声をかけて良いのかなぁ?」と迷う方もいました。余韻にひたってくださっていたんだと思います。「めちゃくちゃ面白かったので、ディレクターさんにぜひ会いたいです」っておっしゃってくれた方もいましたね(笑)。
Achabox氏心に来ましたね(笑)。
デキる人たちだって応募段階でわかった
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――「Acrobatic Chirimenjako」というチームについてお聞かせください。どういった経緯で集まられたのでしょうか?
Achabox氏私は第3回くらいのBitSummitがきっかけでした。その頃はフリーランスで映像とかインディーアーティストのミュージックビデオなどを作っていたのですが、イベントで「私、ゲーム好きで~」って周りに言い過ぎた結果……。
林氏巻き込まれたんだよね?(笑)
Achabox氏そうです。巻き込まれて……(笑)。インディーゲームシーンについて、そのときはあまり知らなかったんですけど、クリエイターさんのインタビューをたくさん撮りながら「めっちゃかっこいい」と憧れる気持ちが湧いて。「みんな、こんなクールなゲームを作ってるんだ」と衝撃を受け、映像制作からゲーム制作に移りました。
林氏Achaboxさんは元々『ことだま日記』っていうゲームを作られていて、room6にも一時期所属されてました。今回は集英社ゲームズと共にやることになって、ゲーム開発者としても独立することにして、この「Acrobatic Chirimenjako」というスタジオを立ち上げられたんです。最初に出会ったのは入交星士さんですよね。
Achabox氏星士さんは、実は企画を出す前から繋がってたんです。たまたま家がすごく近所で、仲が良かったので。星士さんのSNSを見ていたんですけど、映画やシナリオの話だったりとかを延々書いてるんですよ。こんなに物語を書くことが好きなら、声をかけようと。
あともうひとり、『ことだま日記』で一緒に制作していたエンジニアの方もいたんですが、別の案件が忙しくなって抜けてしまって。
林氏その後、エンジニアにameさんが入ってくれて、Acrobatic Chirimenjakoはこの3人の形になりました。他にもroom6に協力していただいたりとか、ちょこちょこいろんな人に手伝ってもらっているんですけど、コアメンバーはこの3人ですね。
Ameさん加入のときも、集英社ゲームクリエイターズcampを通して探してました。そういう意味では、集英社もお手伝いしながらゲーム開発環境を整えていった感じですね。
――そういう経緯でメンバーが増えたんですね。バンドとか、音楽ユニットみたいな話だ……。
林氏バンドっぽいですよね。「私ちょっと他のバンドやりたいんだけど」って言い出した人が出てきたり、「じゃあ俺も今なら手が空いてるから」なんて言って……もう一個新しいバンド、開発チームができちゃったりして。
Achabox氏しかも2人は全然ゲーム開発したことがないところに、私に呼び止められてしまってますからね。
林氏入交さんはもともと舞台のディレクションとか、シナリオを書いて音をつけたりとか、舞台関係の仕事をずっとやってこられて。そういえば、ameさんはゲームとは関係のないプログラミングの仕事をされてたんですか?
Ame氏プログラミングはちょっとやってたくらいです。
Achabox氏ameさんはとある企業の事業部長をやっていて、本当は次期社長だったんですよ。しかもチームに最初に入ってくれてるという。
Ame氏そうですね。もう、背水の陣なんです(笑)。
林氏そういう風に、「ゲーム業界出身」という人たちではなかったりするんですけど、ゲームへの愛情は凄まじいですし、表現することが大好きなチームなんです。だからこそ、ゲームを研究しながら表現を模索するというところに関して、すごく時間をかけて集中して取り組んでます。
――ゲームとはかなり脱線する話なのですが、入交さんは音楽制作にAbleton Liveを使ってらっしゃるのでしょうか。SNSでスクリーンショットを公開されていましたよね。
入交氏はい。私はもともと舞台演出を中心にしていたんですけど、そこでPAの方がAbleton Liveで環境を組んでたんですよ。ちなみに小学生のときはMML(Music Macro Language)をやっていて、そこから「モテたい!」と思ってバンドを始めてみるも上達しなかったりもして……。そしてまた打ち込みに戻り、Ableton Liveを使うようになりました。
――Ableton LiveというDAW(音楽制作用ソフトウェア)は、DJやライブパフォーマンス寄りのアーティストがよく使用していますよね。「作曲用」として使う人ももちろんいらっしゃいますが、少し珍しいように感じました。
入交氏特に実験的な音楽を制作されている方には、機能面で愛されてますよね。プログラミングに近いところもありますし。あと、宣伝がクールじゃないですか。自分は前職でアートディレクターだったので、いわゆる宣伝用のビジュアルとか考えたときに、AbeltonやApple、Googleのおしゃれなプロダクトを参考にしていました。そんな感じで、集英社ゲームクリエイターズcampにAchaboxさんのインタビュー動画を作って送ったんですよ。
林氏Acrobatic Chirimenjakoの映像は、すごくプロっぽかったんですよ。本当にいろいろな層の方から企画書や映像が送られてきた中で、彼らはグローバルへの意識を感じるようなものを作ってきた。そこがプロデューサー達の中でも目に留まって、チームとしての力強さが伝わってきたんですよ。
特に入交さんを見ていて面白いなと思うのは、多才なところ。文章を書きながらコードを書いて演出もつけて、それに音もつけているわけです。普通はディレクターや担当者が分業していくところを、ひとりで出来てしまう。もちろんひとりでやっていくにも限界はあるんだけど、3人とも細かなところまで行き着ける多才さはすごいですよね。
Achabox氏もうちょっとシナリオを分かりやすくしなきゃダメだ! と思ったときは、星士さんが書いたものを更に修正して書き上げたりしてますね。
林氏分担してやれることとか、自分たちでやれる幅も広げていってやっているので、そういう意味ではすごく面白い作り方だなと。バンドで言ったら「ベースだけ弾けます」というわけでなく、「ピアノもできてギターもできるし、今はベースを担当している」なんていうオールラウンダーな人たちの集まり、みたいな。
Achabox氏やっぱりバンドに例えるんですね(笑)。みんなが同じアプリケーションを使って、シナリオを読んでちょっと変えてみたり。今回のビルドだと、星士さんがバーンと作ったものをベースに、私がちょっとずつ選択肢を見直して手をいれる……みたいなことは、たしかにありましたね。
――衝突する感じではなく融合している感じですかね?
林氏衝突もないことはないんですが、3人とも全員「持論」はある。多数決を取れるほど人数もいないので、3人の意見が割れると「どこから手をつければいいやら……」と困ることもあります。
Achabox氏学校の先生みたいですね!
林氏全然先生じゃないですよ。俺が何か言っても、3人とも聞いてなかったことだってあるし(笑)。とにかく「模索しながら作ること」ができるのも小規模開発の面白いところです。大手で作ろうと思っても作れないと思うんですよね。
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――体験版のリリース予定や、製品版の発売時期についてお聞かせください。
林氏2025年にリリースしたいとは思っているものの、焦らずに完成をしていきたいなと思っています。発売時期はまだ未定です。
体験版も、完成が見えてきてから検討しようと考えています。今はイベントに出展して、お客さまにコメントをいただいたりしながら、開発の方向性をチームと相談しながら定めていく感じですね。
――最後に、『シュレディンガーズ・コール』を楽しみに待っているGame*Spark読者に向けてメッセージをお願いします。
入交氏先ほどお話ししたように、本作をプレイできる機会はまだ限られているので、想像することしかできないかもしれません。まずは公開されている情報をチェックして、期待しながら想像を膨らませてもらえるとありがたいです。そして、そういった方々に早くプレイして楽しんでもらえるよう頑張っていきたいと思っています。
Ame氏本作の開発にあたっては、既存のアドベンチャーゲームの形式を自分たちなりに再解釈して、取り入れています。例えば「選択肢からひとつを選ぶ」ということ一つとっても、ユーザーさんに作業でなく、体験として感じてもらいたいと思っています。そのために、リアリティを増した方がいいのか、リスクを作った方がいいのか、後戻りできない選択にした方がいいのか、そのそれぞれがユーザーさんにどう受け止められるのか、いつも考えています。一つ一つが、どうすれば新鮮で、楽しんでもらえる表現になるのか、日々模索して作っているので、楽しみに待っていてほしいです。
Achabox氏先ほども話したように「電話で、誰かに話を聞いて欲しかった」と感じることは誰しもあると思います。今まさにそう感じている方もいるかもしれませんし、過去にそんなことがあったけど、誰とも電話できなくて辛かったと感じる方もいるかもしれません。本作はそうした体験に向けたテーマを貫いているので、そこに興味を持っていただけた方たちに届けられたらなと強く思っています。
――本日はありがとうございました!
試遊出展でも様々な反響を得たという『シュレディンガーズ・コール』。実際に触れられる機会も限られてはいますが、Game*SparkではBitSummit Driftでの試遊記事も掲載しているので、興味を持たれた方はぜひチェックしてみてください。