『メタファー:リファンタジオ』の英語版では、ユークロニアがUKを想起させる連合王国であることから、UK各地や欧州圏の訛り・方言が採用されています。その中でも例外としてガリカと主人公はアメリカ英語の発音で、ユークロニアの中でも浮いた言葉遣いになっています。
英国内には約30種類の方言があるとされ、スコットランド訛りなど有名なものは様々な映像作品で聞いたことがあると思います。これらのアクセントは同郷意識にも結びつき、訛りが抜けてしまうと「都会の色に染まった」と思われるとか。今回は本作で確認できるものの中から、序盤から確認できるアクセントをご紹介します。
Listening/Pronunciation in UK
ヒュルケンベルグ 古風
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ヒュルケンベルグは名家育ちの騎士で、英語版では“It is”の省略形「’Tis」を常に使っています。これは現代では使われない、シェイクスピアのような時代劇などに残る近代英語です。日本語版でハイザメが使っているような古風な喋りをイメージできるでしょう。
キャゼリナ コックニー
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コックニーと言えばかの名作「マイ・フェア・レディ」でオードリー・ヘップバーンが演じるイライザの訛りです。ロンドンの下町、所謂ワーキングクラスの人達の話し方で、日本語のイメージだとべらんめえ調の雰囲気でしょうか。
「エイ」の音が「アイ」になる(Day/ダイ)、語頭の「H」を落とす(House/アウス)、語中の「T」を落とす(Water/ウォーア)、舌と歯の摩擦音である「TH」は「フ」「ヴ」に(Thank/ファンク)。また、独特の言葉遊び的な言い換えもあり、他の地域の人が猛虎弁のように真似る「Mockney」なるものも生まれているそうです。
グライアス スコットランド
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英語の方言の中でも特に聞きづらいと言われるスコットランド訛り。主人公達を「Lad」(若造、小童)と読んだり、田舎の頑固オヤジ的な印象でしょうか。「T」落としなど厄介なものに加えて、ラテン系かと思うほど長音の巻き舌「R」が強くなっています。割と明瞭な発音のストロールと対話する序盤のシーンだと、その強烈さがより分かると思います。
ストロール Received Pronunciation
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王家の種族であるクレマールは政治の要職に就くことが多いエリート集団で、英国の公的な場で使われる「容認発音(RP)」を使っているようです。最もわかりやすいのは、長音の後にある巻き舌の「R」が無くなり、ストレートに短めの伸ばしになる特徴です(Water/ウォータ)。
RPは高等教育を受けた証として身につける人は多いですが、私的な場面では出自に紐付くアクセントを使いますし、最初からRPで育ち普段からRPで話す人は、それこそ王族やごく一部の上流階級に限られます。そのため、近年ではイギリスの代表的なアクセントを大衆に寄った「エスチュアリー(河口域)英語」にする動きも出ています。
アメリカ英語は遠く離れた植民地で発展したため、イングランド本国では廃れた古い英語の形がアメリカで残っているケースが良くあります。「Hot」などRPで「オ」になる部分が「ア」に近づくなど、分岐した400年前当時の移民がどんな発声をしていたかを辿る手がかりにもなり、米英やオーストラリアの比較をすると、英語の歴史が見えてくるのが面白いですね。
RPの特徴である長音の「R」を落とす変化は分岐の後に起こっているので、英米では米の方が「古さ」を感じる英語なのです。そのため、主人公とガリカの英語をユークロニアの人々が聞いたら、「一昔前の時代の雰囲気があるけど、今の我々とは大分違う」と受け取られるでしょう。エルダ族が隠れ里に潜んで暮らしている状況を鑑みれば、アメリカ英語を当てたのは上手い選択だと思います。
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アクセントの聞き比べは“Bottle of Water”で検索すると様々な例が見つかります。種族の違いを訛りで表現する作品は他にも多くありますが、最初のグラン・トラドだけでも驚くほど多様なアクセントが混在しているのは珍しいです。リスニングの練習にも使えるので、UK文化に一歩近づきたいと思ったときは、是非音声切り替えを使ってみて下さい。
おまけ
UPDATE(2024/11/19 18:08): 画像掲載順を一部修正しました。コメントでのご報告、ありがとうございました。