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──ところで“幻想迷宮書店”は、メーカーという括りで宜しいのでしょうか?
酒井氏:いえ、今のところ企業という形ではありません。なので肩書きも、代表取締役ではなく、あくまで代表です。“幻想迷宮書店”に関わっているのは私一人ではないんですが、皆さんには副業としてお手伝い頂いており、支払いも給料という形ではありません。
──では形態としては、“ブランド”に近いのでしょうか。
酒井氏:そう言っていただくのが一番かと思います。打ち合わせやこういった場では、面倒なので「弊社」という言い方をしてしまいますが(笑)。
──打ち合わせは、その方が話も早いですよね(笑)。では、そんな“幻想迷宮書店”のこれまでに関してお聞かせください。まず、“幻想迷宮書店”を立ち上げたタイミングに関してですが、これは狙ったものなんでしょうか?
酒井氏:いえ、「今だから」という理由はまったくありません。自分が動いた最速の時期が今だっただけのことです。今ゲームブックが旬かと言えば、そんなことはありませんしね(笑)。
──はい、ブームが来ているとは言いがたい状況です。
酒井氏:ありがたいことに「ドルアーガの塔」三部作が注目を浴び、また話題にもしていただけましたが、仮に1年後にリリースしていたとしても、同じような注目や話題になっていたのだと思います。新規の読者さんが大きく入ってきたわけでもありませんしね。
──確かに、1年後であっても、また仮に1年前であっても、同様の反応があったように思います。そう考えると、ブームではない反面、年単位の経過があっても影響の少ないファンがゲームブックを今も支持しているのかもしれませんね。
酒井氏:魅力のあるジャンルであることは、今後も変わらないと思っています。
──では、その魅力あるゲームブックの電子書籍化に“幻想迷宮書店”が乗り出したわけですが、その利点や特徴などを教えていただけるでしょうか。
酒井氏:ちょっと前置きから入る形になりますが、日本の電子書籍はあまり普及していないように思います。出版業界も紙媒体を優先していますし。電子書籍が普及すると、困る人がいるんでしょうねきっと(笑)。
──私もそう思います(笑)。
酒井氏:そのため、電子書籍のメリットそのものがあまり拡散されていないんですよね。企業レベルでの告知が進んでいないので、消費者全般に対して伝わってなくて。でもゲームブックのみならず小説などの一般書籍でも、電子化のメリットは大きいんです。
まず、端末間同期が取れること。余裕がある時はタブレットで読み、電車などの混み合う場所ではスマートフォンで。家に帰った後はパソコンを立ち上げて大画面で、といった様々なスタイルで楽しめます。1冊買うだけで様々な端末で読めるのはもちろん、どこまで読んだかといった情報も共有可能ですからね。
またアカウントに紐付けされているので、紛失の心配もありません。読み終わったら消せば容量も節約できますし、また読みたくなったら再ダウンロード。また劣化しないのも、紙媒体と比べると利点のひとつですよね。
──電子書籍全般が持つメリットも当然持っているわけですね。では、ゲームブックの電子化ならではについてのメリットも教えてください。
酒井氏:まず大きな点は、ハイパーリンクの設置ですね。紙媒体のゲームブックだと、指定されたパラグラフのページを自分の指で開く必要がありましたが、電子版だと数字をタップするだけで該当するパラグラフにジャンプします。そのため、ペーシをめくる手間が省けます。
──読み手のミスで、間違ったパラグラフを読んでしまう事故も防げそうですね。
酒井氏:はい、そこもポイントだと思います。あと、本来あってはならないことですが、誤植が発生した時の修正が簡単なんです。紙だと、一度印刷された書籍を直接修正することはできませんからね。正誤表を発表するくらいが、関の山です。
──誤字程度ならまだしも、パラグラフの番号がミスっていたら、遊べなくなりますしね。電子版ならその修正も可能と。
酒井氏:実際に、「ドルアーガの塔」の一巻「悪魔に魅せられし者」に誤植があったんですが、三日で修正できました。(創土社時代に)ゲームブック20冊に関わった経験を振り返ると、この誤植修正をアップデートできるのは実に有り難いですね。誤植って、どうしても出てしまうんですよ。
──公式サイトに正誤表があっても、全ての購入者がそこをチェックするわけではありませんしね。メディアそのものがアップデートされるというのは、大きな利点だと思います。
酒井氏:そうなんですよね。電子書籍って、どこかインターネットとは別の感覚で触れている方も少なからずいて、「インターネットはそんなに好きじゃないけど、電子書籍は読む」という人もきっといると思うんですよ。
──専用端末が一定数の支持を集めているくらいですからね。
酒井氏:そういう方々にとって、自動的に上書き配信してくれる仕様は、非常に相性いいと思います。これはAmazon特有の形でもあるんですけどね。楽天とかだとそこまでやってくれないので。
──「アプリのインストール」には抵抗があっても、「電子書籍の購入」だと踏み出せる、という感じもありますよね。
酒井氏:あとは、Amazonだからという信頼感もあると思うんですよね。運営が潰れなさそうっていう(笑)。アプリだと、運営しているところが潰れたら終わりじゃないですか。
──ええ、確かに(笑)。
酒井氏:他には、細かい点ですが、書籍のゲームブックだと、該当パラグラフ以外の文章が目に入ることもあるじゃないですか。知りたくないのに先の展開が見えてしまったり。この悲劇は、電子版ならありません。
──挿絵もそうですよね。次のパラグラフの挿絵なのに、同じ見開きページなので見てしまうとか。
酒井氏:書籍版だと、「前ページのイラスト参照」というケースもありますよね(笑)。
──ありますあります(笑)。
酒井氏:電子版だと、イラストの挿入を行単位で指定できます。そこも電子版ならではですよね。
──ちょっと大げさな言い方になりますが、演出の強化も図れるということですね。見せたいタイミングにイラストを挿入できるわけですから。
酒井氏:はい、そうです。このように電子版には様々なメリットがあるので、それをより多くの方に伝えていきたいですね。
小説の電子化と同じメリットがあるだけでなく、ゲームブックの可能性も広がようだ。この驚きは、同時に喜びも伴うことだろう。同士がいるならば、早く知らせるといい。だが今は、インタビューの続きだ。どうやら、ゲームブックの黄金期と衰退を体験した酒井氏の言葉が待っているようだ。
・そこから、更なる進化の様子が窺える気がする。ここも押さえておこう。
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・知りたいのは、“幻想迷宮書店”のこれからだ。先に行こう。
→7へ進め
・インタビューが終わるのを待っていられるか! ここでもう終わりでいい!
→ 14へ進め
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