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世界で全プラットフォーム累計1億本の販売数を達成している大人気サンドボックスゲーム『マインクラフト(Minecraft)』。日本国内においても子供から大人まで幅広く楽しまれている本作ですが、近年そのゲームとしての面白さのみならず、学習効果にも注目が集まっています。
本稿では、そんな『マインクラフト』の基本的な情報にはじまり、ゲームを取り巻く様々な環境、そして子どもたちがゲームを遊ぶ中でどのような学習効果が得られているかを解説していきます。
■『マインクラフト』とは?
『マインクラフト』はスウェーデンのストックホルムに本拠を置くMojang社が開発したゲーム。同社は2014年にWindowsで知られるMicrosoft社に買収され、最新技術を用いた活用法や学校教育用バージョンの『Minecraft: Education Edition』といった方面にも注力しています。スマートフォンを含む現行の主要プラットフォームのほぼ全てでリリースされており、日本ではPS Vita版が子供達の間で親しまれているようです。
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画像はPC版『マインクラフト』
ゲーム世界はボクセルと呼ばれるブロックで表現された木や土、岩などで構成されており、それらを壊して集めたり、逆に集めたブロックを配置して建物を作ったりするという内容の作品。例えるならデジタル世界の「積み木」あるいは「砂場」と言えるものでしょうか。アイテムを組み合わせた「クラフト」や、食事をしないと飢えてしまうというサバイバル的要素、ほぼ無限に生成されるブロックを利用した建造物の制作など、物質的な制約を受けてしまう「積み木」とは違い、デジタルゲームだからこそ出来る表現が魅力です。
デンマークやイギリスでは国家機関が自国の領土を再現したり、美術館を運営するTateが絵画の世界をテーマにしたワールドを制作するなど、『マインクラフト』を使ったユニークな試みが行われています。また、国内外の教育機関では「教材」として注目を集めており、実際に海外の学校では科目として採用している所もあります。国内においても少数ながらも特別授業などが実施されている状況です。
では実際に『マインクラフト』にどういった学習効果が期待されているのか、5つの項目に分けて紹介していきます。
1.サバイバル要素で問題解決能力を鍛える
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サバイバルモードは『マインクラフト』の基本的なゲームモードの1つ。プレイヤーの分身となるキャラクターが何も持たない状態で世界に投げ出され、そこから試行錯誤をしながら生活していくというもの。チュートリアルである程度の指針は提示されるものの、基本的には自分で考えて行動しなければならず、遭遇する諸問題に対して自分なりの解決策で対応していきます。
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資源を集めて夜になるまでに小さな家を建てることが出来た
例えば、夜にはモンスターが出現するため安全を確保することが必要になりますが、その解決方法は様々です。木を伐採して木材を入手し家を建てたり、山の斜面に横穴を掘って仮住まいにしたり、単純に地面に穴を掘ってその中で夜をやり過ごしたりと、今の自分の状況や考え方によって人それぞれのアプローチが出来ます。『マインクラフト』ではこうような出来事が次々と起こり、プレイヤーは「問題を解決」あるいは「目標を達成」するために試行錯誤を繰り返します。失敗した時には「次はこうしてみよう」と考えたり、上手く行ったときでも「こう工夫すればもっと良くなるんじゃないか」と試したり、問題や目標に向かってどのように対処するか、その考え方が身につくと言われています。
2.自由に積み上げるブロックでクリエイティブな感覚を刺激
本作では、ボクセルと呼ばれるブロックを積み上げることで様々なモノを表現することが出来ます。ボクセルを積み上げてモノを表現する「遊び」は世界中のユーザーに親しまれており、それらは作品として公開されることもあります。また、前述したように英国の芸術団体Taleが絵画をテーマにした世界を構築したり、歴史的建造物が再現されたりと、多彩な活用方法が考えられています。
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ファンタジー小説「指輪物語」のホビット庄を再現したファンメイドワールド
想像したものを実際に作り上げていく遊びは、ユーザーのクリエイティブな感性を大いに刺激し、発表する場があることは「ものづくり」の楽しさを覚えることが出来るでしょう。ブロックを使って「何か」を表現することは、如何にしてそれを実現していくかを考えるプロセスもあり、子供達にとって有益な体験を手軽に楽しめるのではないでしょうか。
3.ゲームの中で機械作り!テクノロジーの基礎を学ぶ
『マインクラフト』にはやや上級者的な要素として、レッドストーン回路と呼ばれる機械装置を作るためのシステムが用意されています。このレッドストーン回路では、スイッチを用いたON/OFF機能付きの照明といった簡単な装置からエレベーター的な昇降装置、果ては巨大ロボットといったものまで様々な装置を作ることが可能。現代的なテクノロジーの基礎を学ぶことが出来ます。
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簡単に作った照明装置。スイッチを入れると点灯する
このレッドストーン回路は『マインクラフト』の中でも特に学習効果に期待が寄せられている要素の1つ。遊びを通じてコンピューターサイエンスを学び、論理的思考を鍛える効果があると言われています。同じ結果を生む装置でも、設計者それぞれのアイデアが盛り込まれていることも多く、装置の仕組みを知り、発展させる応用力を養うといった効果も。『マインクラフト』を使った教育イベントでもテーマとして取り上げられることが多く、国内外の教育者からその可能性に大きな注目が寄せられています。
4.みんなで遊んで、協調性を豊かに
『マインクラフト』では1つの世界を多人数で共有して同時に遊ぶことが出来ます。1人では困難だった目標も友達や仲間と協力すれば効率的に達成できるため、チームワークを通じて協調性を培う場として教育現場で利用されています。例えばグループを組んで「大きな建造物を作る」という課題が出たとすれば、子供達はそれを達成するために「どういった建造物を作るのか」「役割分担をどうするか」といった話し合いを経て、実際に建築作業に移っていくことになります。そうしたやり取りの中で、リーダーシップを発揮する人、活発にアイデアを出す人、仲間の作業をフォローする人などの個性を発見することができると報告されています。通常の授業ではあまりパッとしなかった生徒が驚くべき輝きを見せることもあるそうです。
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1つの目標に対して協力して取り組むことはなかなか難しいこと。ゲームである『マインクラフト』では失敗をしても挽回することが容易で、「トライアルアンドエラー」を実践しやすい環境が整っています。失敗を恐れることなくアイデアを出し、仮に失敗したとしてもみんなで解決策を考えていける、そういった貴重な経験を得ることが出来ると考えられています。
5.世界の教育現場で使われつつある『マインクラフト』
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マイクロソフトは2016年初頭、学校教育の場で活用できる教育版『Minecraft: Education Edition』を発表しました。前身となったのは、教材として「ゲーム」の取り入れを目指し、3人の教師とプログラマーが設立したTeacherGaming社の『MinecraftEdu』です。その権利を買収したマイクロソフトが『Edu』のノウハウを活かして、『Minecraft: Education Edition』を開発。教師が教室で利用しやすいように改良が加えられ、30人がプレイできるマルチプレイ環境、説明や講義に集中させるためのキャラクターフリーズ機能、授業内容のポートフォリオ作成機能といった学習環境が新たに構築されています。
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以前のバージョンである『MinecraftEdu』は40カ国以上の教育機関、7000以上の教室で利用されており、活用する教師同士が情報交換をするコミュニティスペースも用意されています。これは、教師が世界で利用されている実践的な授業内容を参考にして、より良い学習プランを構築することが可能ということであり、学校教育の新たな可能性を感じます。最新版となる『Minecraft: Education Edition』でもそれは踏襲されています。『マインクラフト』を利用した授業では、上述した学習効果を狙った授業の他に、戦時中の防空壕を再現したワールドで歴史の授業をしたり、レッドストーン回路で計算装置を構築して数学の授業に利用したりと、実に多様な使われ方をしています。
『Minecraft: Education Edition』は2016年夏にリリース予定。「教材」として『マインクラフト』が利用されることが当たり前の時代が来るかもしれません。
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ゲームを学習に利用するという試みは『マインクラフト』だけに留まらず、色々な分野での活用が期待されています。「ゲームで遊んでいる子供が心配」と思っている保護者の皆さんも、視点を変えて子供と一緒に『マインクラフト』を遊んでみてはいかがでしょうか。新たな発見があるかもしれません。ただし、ゲームばかりしているのも何かと問題はあるもの。「遊び」ながらでも教育効果が期待されているとはいえ、しっかりと勉強することも忘れないようにしましょう。